ハリー・ポッターと、永遠(とわ)の叡智と奇跡の少女   作:風鈴

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賢者の石
組分け


 ロウェナはホグワーツ特急に乗っていた。

 ホグワーツ創設時にはこのような列車は無く、姿眩ましでの送迎だったのだが、時代も変わったものだ。——いつの時代だかの魔法大臣が、マグルの列車を無断で永久に拝借したことには目を瞑るとして。

 ロウェナはティアラ——今はネックレスだが——の力を借りて、考え事の整理を始めた。念のため、一年生の予習は全てしたのだが、まだ記憶の整理が出来ていないのだ。

 その時、コンパートメントの扉がノックされる。

「どなたかしら?」

 ロウェナが声を掛けると、扉の向こうから栗毛の少女が顔を出した。

「他のコンパートメントが一杯で……。相席良いかしら?」

「構わないわ」

「ありがとう。私はハーマイオニー・グレンジャーよ」

「私はロウェナ・レイブンクロー」

 ロウェナが名乗ると、ハーマイオニーは怪訝そうな顔をする。

「ロウェナ・レイブンクロー……?ホグワーツの創設者の一人ってこと?いえ、彼女は若い頃病死している筈だわ。子孫なの?」

「ええ、そうよ。グレンジャーには是非ともレイブンクローに入って欲しいわ」

「どうして?」

「貴女が聡明だというのは、一目でわかるもの」

 前世は自ら組分けしていたためか、ロウェナには人を見分ける眼がある。ロウェナが想像するに、彼女が入るのはレイブンクローかグリフィンドール。叡智か勇気だ。

「褒められているのよね?あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 他愛のない話を続けているうちにホグズミード駅に着いた。

 ロウェナはグレンジャーと共に列車を降り、森番ハグリッドに続いて道を歩く。

 湖をボートで渡り、マクゴナガル教授にホール脇の小部屋に案内された。

 ロウェナはグレンジャーの陰に隠れてゴーストに見つからないようにした。ゴーストの中には、前世ロウェナの娘、ヘレナがいる可能性がある。また、前世ロウェナと知り合いで、ヘレナを殺した血みどろ男爵も。

 しばらくし、マクゴナガル教授が戻って来て新入生を大広間に案内した。

 アボットから組分けが始まり、先程知り合ったグレンジャーがグリフィンドールに組分けされ、『生き残った男の子』ハリー・ポッターもグリフィンドール。そして、ロウェナの番が来た。

「レイブンクロー・ロウェナ」

 まさかの創設者と同じ名前に、大広間はどよめく。ロウェナは、椅子に置かれた組分け帽子を見つめた。帽子は恭しくお辞儀をする。

「ロウェナ・レイブンクローよ、貴女は私の生みの親。私に貴女の寮を決める権限はございません」

「知っている」

 ロウェナは、その鈴のような声で答えた。囁き声に大広間中が耳を傾ける。かの校長、ダンブルドアでさえ驚いた顔をし、息を飲んで見ている。

「私は前世でお前を創った。此処を創った。その上で、生まれ変わりであり子孫である私が聞く。私の寮は?」

「レイブンクロー寮です」

 ロウェナは満足そうに頷くと、レイブンクロー寮のテーブルに向かって歩き出した。その姿を此処に居る全ての人々が凝視していた。誰もが羨む美貌、血筋、賢さ、そして魂を持っていると思われる少女が、威厳でも無く、権威でも無く、もっと誇り高い何かを醸し出している。レイブンクロー寮の者なら揃って言うだろう。「それは叡智だ」と。人が生きる上で一番重要視するもの、『賢さ』の象徴が、今組分けされた。

 一番最初に、ダンブルドア校長が我に返った。一人の少女の組分けに拍手を送る。大広間では次々に我に返る者が増え、次第に拍手喝采となった。

 

 校長の挨拶が終わり、宴会が始まった。ロウェナは、ヘルガ達と一緒だった頃とは全く違う料理に戸惑ったが、同級生に薦められるままに色々な料理を口にした。

 ローストビーフをロウェナの皿に乗せながらパドマ・パチルが話し掛ける。

「ロウェナ……って呼んでいい?ロウェナはもう魔法が使えるの?」

「使えるわよ。あまり使わないけど。私にはただ本を読んでいる方が性に合ってるわ」

「そうなの。私なんて、姉のパーバティと一緒にお父さんの書斎でこっそり本を読み漁ったりした事しかないわ」

「それもいいと思うわよ。知識を求めることに罪は無い。禁書の棚を作る方がおかしいわ」

 パチルは呆れたように笑った。創設者は少しばかり変人だったのかもしれない。

 ダンブルドア校長の諸注意——「四階の右側の廊下に入ってはいけない」など——を聞き流し、パチルと共にレイブンクロー寮へ向かう。ロウェナは自らノッカーの問いに答え、寮へ入った。

 久しぶりのホグワーツ。使命さえ無ければ楽しめただろう。


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