「どォしたァ?柄にもなく真剣な顔しやがって。」
天井は研究所にまだ残ってコーヒーを飲んでいた一方通行を自分の部屋に呼んだ。
(これ、あれだろォ!いやァ、まさかモテねェからってオマエに向くとはなァ。いくら女みてェだからって。)
(チッ、俺にそンな気はねェ。......まァ、妹達に手を出さねェだけまともなンじゃねェか。)
「妹達のことだ。」
「は?」
(は?)
天井を見る一方通行の目がゲロを見るような目に変わる。
(こいつ、ロリコンかよ......。いや、中学生はギリギリでセーフかァ?)
「な、何だ?実は先程、木原数多が来て実験を中止し、妹達を差し出すように要求してきた。」
(おいおい、村の娘をさらう山賊みてェなやつだなァ。)
「......それで、オマエはどォ答えた?」
「要求に従うと」
一方通行は席を立ち、天井の胸ぐらを掴み上げる。
「......ッ!」
何も言わないが表情で怒っているとはっきりとわかる。一方通行も本気で絶対能力者を目指し、実験にも全力で協力してきた。あっさりと、はい
、そうですか、とは言えない。
「お、落ち着け、言っただけだ。あの場で断れば木原数多の犬に殺されていた!この実験を続ける方法を話し合おうと思ってお前を呼んだんだ!」
「ハッ、木原クンをぶち殺しちまえばイイだけだ。」
一方通行は部屋を出て行こうとする。天井が慌ててそれを止める。
「待て待て!木原数多の私的な要求ではなく学園都市の上層部とも組んでいるようだ。下手に動くと木原数多暗殺が成功しても実験を続けられなくなる。それに、今すぐにとは言われていない。ただ、相手は木原だ。いつ我々が殺されるかもわからない。気を付けてくれ。」
木原数多暗殺は天井も賛成のようだ。問題は敵の全容が見えないことだ。天井が元の実験を変更したときも邪魔をされなかったことから、実験を始める前から途中で終わらせる気だったのかもしれない。
「と、いうわけで今日から泊まりだ。」
「あァ?」
「お前は超能力者だから良いが、私にはただ優秀な頭脳があるだけだ。寝込みを襲われたらどうする!?」
「そのまま死ンでみたらどォだァ?」
「私が死んだら実験は無くなるぞ。殺されるとわかっていて実験を引き継ぐものなどいないだろうな。」
一方通行からすれば天井なんて変な研究者という認識でしかないが、実験が無くなるのは困る。
「チッ、わかった。泊まってやる。」
(おおー、初めて友達の家に泊まるじゃねェか。良かったな一方通行。)
(本当に黙ってろ!)
「せっかくだから布束と芳川や他の研究者とも一緒の部屋で寝よう。」
(それが目的かァッ!ってオマエいつの間に交代しやがった!)
「確か芳川サンの部屋は大きかったぜェ!」
「私は芳川と交渉してくる。お前は布束を誘ってくれ。妹達も呼ぼう!」
「イイねェ、イイねェ!」
(待ちやがれ!馬鹿共!)
天井と第二人はダッシュで部屋を出て行った。
「I see.確かに集まって寝た方が安全ね。」
「で、ございましょォ?」
開口一番に「今日は一緒に寝ようぜェ!」と言い、飛び蹴りされた第二人格は正座させられていた。
「ミサカ達もそれで構いません。と、ミサカは理由のわからない不安を抱きつつも承諾します。」
髪を切り終わった妹達は第二人格を囲むように立っているので、スカートの中が見えそうだ。
「一方通行、どうだ?」
頬を赤く腫らした天井がドアを開ける。
「いいってよォ。」
二人は無言で互いの手のひらを叩く。
「Bad.一方通行までどうしたのかしら。なら寝る準備を、」
「どうせなら宴会もしよう。今までは誘われても断ってきた(誘われたのは若い頃に数回で、それらを断っていたら呼ばれなくなった)が、たまには良いだろう。」
布束が十分に寝られる時間はまだ来ない。
「あら、珍しいわね。お金渡すからビールでも買ってきて。つまみもね。」
芳川が財布を出し、天井に五千円札を渡す。
「じゃ、俺はヤシの実サイダーで、」
(オマエは?)
(コーヒーだ。ブラックな。)
「それと、ブラックコーヒーも。あとは適当に寿司も買ってください。」
第二人格も天井に一万円渡す。
「By the way,妹達の分は誰が出すの?」
この質問に天井、第二人格、芳川は固まった。二万人分の食費を出せる者などここにはいない。
「ミサカ達はいつも通りの食事で構いません。と、ミサカは妹達の総意を伝えます。」
「宴会というものを行えるだけで満足です。と、ミサカは付け加えます。」
「わかった。まあ、チョコレートくらいなら二万人分でも数十万円くらいだからなんとかなりそうだ。それでは私は買い物をしてくるから準備をしておいてくれ。」
「なら、晴れているし、外でやりましょう。二万人が集まれる部屋なんてないわ。」
こうして、一方通行、天井、妹達にとって初めての宴会が行われることになった。