『フハハハさァ吐け!吐かンかァッ!』
第二人格は勝ち誇りながら馬場に近づく。
「待て!近づくな!」
『断る。』
「話を聞け!これを見ろ。」
馬場は焦りながらも笑みを浮かべて携帯端末で動画を見せる。誰もが諦める場面だが、暗部で生きている馬場は知っている。諦めてたやつはそこで人生終了であると。
『あァ?...オマエ!』
画面には一人乗りらしい昆虫のようなロボットと一人の少女が映っていた。
「そうだ妹達の一人だ。君たちと戦う前に念のため呼んでいたロボットだが運良く見つけたようだね。さて、また人質ができたが、どうする?」
馬場は形勢逆転を確信して焦りが消える。
『この野郎...。』
第二人格は足を止めた。それを見て馬場は端末に話しかける。
「やあ、初めまして妹達。怪我したくなければおとなしくしていてくれよ。」
画面の中の少女はロボットを睨んでいる。
「あの、御坂様ならどうにかできるのではないですか?」
泡浮は不思議そうな表情で第二人格に質問する。
『いや、こいつは』
第二人格が妹達のことをどう説明しようかと考えていると、湾内が画面を指差した。
「ほら、このロボット壊されてしまわれましたよ?」
『ん?』
「なにーっ!?」
第二人格と馬場は画面を覗き込む。確かにロボットはボコボコにされていた。
「.....。」
『.....御坂だな。すげェビリビリしてるし。』
さらに、御坂はこちらを向いた。
「見ているわよね。誰だか知らないけど今後これと似たロボットが私の友達の近くにいたら、」
御坂はすでに運動機能を停止させたロボットに手を向けてコインを親指で弾いた。
「潰すわ。」
コインがロボットを破壊した轟音と共に、通信が途切れた。
「....。」
『吐け。』
「はい。」
「下ろしてくれ。もう君たちに手を出さない!頼む。」
馬場は裸で公園の木に縛って吊るされている。その下にはトラックを持ち上げる泡浮と水を操る湾内もいる。その近くで第二人格は電話を掛けていた。
「食蜂は関係ない?」
電話の相手は天井だ。病院の院長に説明し終わった天井は車に乗って公園に向かっている。第二人格たちは公園の入り口で待機している。
『いや、関係はしている可能性が高い。だけど別に動いている連中がいンな。暗部のメンバーって組織は知ってる?』
「知らんな。」
『まァ、そいつらメンバーが妹達を拐おうとしてやがる。しかも統括理事長の命令らしいぜェ。』
「なら、10032号を拐ったのは統括理事長!?」
『いやァ、それがよくわからねェ。メンバーの一人が御坂にナノデバイスを射ち込もうとして10032号に射ったらしい。』
「バカなのかそいつは。それで、10032号はどこだ?」
『それがわからン。』
「そうか...。ひとまず婚后が無事で良かった。佐天さんが自転車のかごに婚后を載せて来た時には驚いたが。」
『かごに...。じゃ、じゃあ婚后に射たれたナノデバイスと同じものを奪ったからこれを解析できるか?』
「たぶん無理だ。」
『え。』
「化学とか生物学系が専門なんだ。機械も並の技術者程度には扱えるが統括理事長の指示を受ける暗部組織のナノデバイスは無理だ。」
『えェ...。』
「安心しろ院長ならできるから。絶対。」
『院長って医者だよなァ?何者だよ。』
「さあな。御坂にはわたしが連絡しておく。ん、着いたぞ。」
天井の車が第二人格の前に停まる。
『よし、そンじゃ乗ってくれ。』
(あァ?どォして天井がここにいやがンだ?)
《やっと起きたか。痛いから交代なァ。》
(チッ、痛ェな。)
「失礼しますわ。」
「お願いしますわ。」
「どこかへ行く前に下ろしてくれ!」
湾内とトラックを置いた泡浮が車に乗る。
「初めまして、天井亜雄です。」
爽やかなスマイルを浮かべながら天井は歓迎した。
一方通行も続いて乗り込もうとする。
「おい!ずるいぞ一方通行なぜお前だけ女の子の隣なんだ!」
「うるせェ。早く行け。」
「一方通行!?」
馬場が叫び、急に怯え始めた。
「ま、まさか実験に使用される妹達に手を出した僕たちを始末しようと?」
「ハッ、次はねェ。」
一方通行はトラックを蹴り飛ばした。トラックは不自然な潰れかたをしながら、爆薬を使ったように弾けてしまった。
「」
「じゃァな小便小僧。」
馬場の下に水溜まりができた。
「あれ、わたくしはなぜ寝ていたのですか?」
しばらくして婚后は目を覚ました。
「婚后さん!」
「どこか痛いところはございませんか?」
湾内と泡浮がベッドに手をついて身をのり出す。
「天井さんもどうしてここに?妹さんは?」
「御坂に連絡したら、君が起きるまで待機するように言われてね。」
「皆さん。天井さんも。申し訳ありませんでしたわ!何の役にも立てず。信頼してくれた御坂さんにも会わせる顔がありませんわ...。」
「そんなことありませんわ!」
「そうですわ!」
「あなたにも謝らなくてはいけませんわ。」
婚后は一方通行の方を向いた。
「わたくしのせいで酷い怪我を、本当に申し訳ありませんわ!」
「...大した怪我じゃねェ。」
「ですが...。」
《ほら、励ませェ!》
(チッ。)
「確かにオマエらは俺からすれば三下だ。だがなァ、馬場から情報を聞き出せたのはお前が馬場と接触したからだろォが。オマエは役に立った。」
「そうだとしても妹さんがっ、御坂さんとの約束はまだっ!」
婚后はベッドから起き上がろうとする。
「無理はしないでください!」
佐天が立ち上がろうとする婚后の前に立つ。
「オマエは寝てろ。体調不良の三下が何人いようが変わらねェ。人質にされると厄介だ。」
「っ!」
婚后は自分の太股をつねって涙を堪えている。
《じゃねェだろォが!さっき役に立ったって言ったよなァ?なら言うことがあンだろ。この場で裸躍りしてやろうか?あれだ、強くなりるにはどうすればイイ?》
(チッ。)
そう言いながら一方通行は妹達との実験を思い出した。
「弱いままが嫌ってンなら努力しろ。能力以外もな。俺もそうしてンだ。じゃァな。」
「努力.....。わかりましたわ。必ず今以上に強くなってご覧にいれますわ。」
「ハッ、勝手にしろ。『早く良くなれよォ!』」
「それじゃあ、お大事にな。」