もう一人の一方通行   作:yamada1600

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実験の内容を変えてしまえ

(ごめんなァ。まさか足がこんなに遅いなンて。)

 

(さりげなくバカにしてやがンな?)

 

一方通行が能力を使って逃げたので、すぐに風紀委員から逃げられた。と、思っているのか。なんとあの風紀委員の一人が空間移動の能力者だったのだ。人格を交代した直後に捕まってしまった。そして、ここは風紀委員の支部だ。

 

「逃げないでおとなしくしていただければ手荒な真似もしませんでしたのに。」

 

ツインテールの白井があきれた顔で首を振る。風紀委員としても余計な仕事を増やされたわけで、書類に何か記入している。

 

「いやァ、すンませン。ちょっと怖くなっちゃってェ。」

 

(おい、その軽い口を閉じろ。)

 

(なンで?)

 

(チッ。わかってンだろ。俺がその口調で話してンのが気に食わねェ。)

 

(お前のキャラなんてこいつらには関係ねェだろ。お前に必要なのは社交性だぞ。まず表情だ目を開いて少し微笑ンどく。)

 

「では、この書類に住所、電話番号、名前、学生なら学校の名前も書いてください。」

 

花飾りを頭に着けた中学生女子、初春が書類を持ってきた。ここの支部にはもう一人女の先輩がいるらしい。

 

「さっきはありがとうございました。」

 

助けた長い髪の女子中学生、佐天だ。

 

「いえいえ、大したことはしてませンよ。」

 

(戦ったのは俺だしな。)

 

(嫉妬かァ?)

 

一方通行は黙った。

 

「それで、どうやってあれだけの距離を移動したのよ。足も遅いのに。」

 

御坂はずっとその事を考えていたらしい。探偵のようだが、風紀委員ではなくここの風紀委員と被害者の友人らしい。

 

(ひでェよこの娘。)

 

(......。)

 

「タクシーを待たせていたのでそれに乗っただけですよ?」

 

「あ、そういうこと。」

 

納得してくれたみたいだ。タクシー会社に連絡して調べられれば、ばれる嘘だがそこまではしないだろう。

 

「佐藤さん、書類は全て終わりました。後日警備員から呼び出されたときはそれに従ってください。」

 

もう一人の一方通行は今後佐藤で通すつもりのようだ。

 

(名前と住所はばれなかったみてェだな。)

 

(ああ、名前は佐藤太郎、住所は実際にある学生寮にしといたし、高校もその寮で矛盾はねェからなァ。すぐにはばれまいよ。)

 

「じゃァ、帰りますンで。」

 

「はい、気を付けてお帰りくださいですの。それでは初春、そこに書かれた学校に連絡を。」

 

学校は嘘を書いてあるので電話を一本されればばれる。

 

「はい。わかりました。」

 

(げェっ!)

 

(慌てンな!落ち着いてここを出たらすぐに代われ。飛んで逃げる。)

 

(あと、鬘買おう。)

 

このあと風紀委員たちは騙されたと気がつき白井が探し回るが黒髪に変装した一方通行を見つけられなかった。

 

食材を買ったあと、一方通行は部屋の片付けや運動をさせられへとへとになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、研究所。

 

 

「第二人格はまだかね。」

 

「第二人格?」

 

「新しくできる予定の人格だ。名称がないと不便でな。」

 

まさか、第三、四人格も作る気があるのだろうか。

 

「まだだ。もう面倒だ。平行してやっても実験に問題はねェだろ。もう移れ。」

 

無能力者の人格ができても意味がない。消されかねないと思った第二人格は一方通行を前回同様に脅し、研究者には秘密にしておくことにした。一方通行もこれ以上鬱陶しい奴が増えるのは嫌なので交渉はすぐに終わった。

 

「そうか、では、次だがこれは重要な実験でな。こちらの天井博士が担当する。」

 

「天井亜雄だ。早速実験の説明に移るが、この資料をみてくれ。」

 

そこに書かれていたことを要約するとこうだ。

 

128回超能力者第三位を殺せば絶対能力者になれるが、実際にはそんなことはできない。丁度第三位の軍用クローンの失敗作があるからそれで代用する。しかし、クローンはオリジナルの足元にも及ばない。そのため、戦闘の回数も増やさねばならず20000回クローンを殺す。

 

つまり20000回第三位のクローンを殺してレベルアップしようという実験だ。

 

「これで、本当に絶対能力者になれンのか?」

 

「そうだ。樹形図の設計者の出したシミュレーション結果だから間違いない。」

 

天井は自信に満ちた表情だ。よほど樹形図の設計者をしんらいしているようだ。

 

(やンのか、これ?)

 

(当たり前だ。絶対能力者になンのが俺の目的だ。)

 

(本当に?)

 

(しつけェな。)

 

(.....質問あるから代われ。)

 

一方通行はこの実験に参加する気満々だが、第二人格は気が乗らない。中学生を20000回殺せなんて言われてむしろ引いている。

 

「あのォ、質問があるンですがね。俺の反射を突破できない限り、超能力者も無能力者も俺には同じ雑魚なわけですよ。その、クローン、妹逹でしたか。つまり、俺の敵としてはオリジナルと妹逹にそこまで差がないわけです。128回と20000回の差について聞きたいンですけど。」

 

「樹形図の設計者の予測に誤りはない。なにも気にせずに我々の言う通りにしてくれ。」

 

この前の研究者と同じで詳しいことは説明されていないようだ。

 

(ダメだこいつ。)

 

(樹形図の設計者が出した予測ならほぼ間違いねェ。とりあえず試せばいいだろ。)

 

(そンなに絶対能力者になりてェのかよ....。)

 

しかし、主導権はあくまで佐藤にある。

 

「あの、天井さン。この実験は絶対欠陥ありますよ。」

 

「どこだ。」

 

「さっき言ったところですよ。この方法じゃァ無理ですねェ。」

 

「しかし、樹」

 

ここの人たちは樹形図の設計者が大好きみたいだ。

 

(樹形図の設計者が間違ってるって言っても聞かねェなこいつ。)

 

実験のおかしな点や矛盾点を指摘しても無駄だ。論点を変えてしまうことにした。

 

「いえ、天井さン。樹形図の設計者に入力したデータがそもそも間違っていれば、樹形図の設計者も間違った予測をしちまう。おそらくあなたは上の誰かの責任を押し付けられそうになっているのです。」

 

「なに!?言われてみるとこの実験は妙な点が。それに、これほど重要な実験をなぜ私に」

 

(おっ、食いついた。)

 

(なンのつもりだァ?)

 

(お前のために実験を効率よくしてやろうとしてンだよ。)

 

嘘だ。実験そのものを消してしまうとクローン逹が殺される可能性がある。最悪でも、妹逹に大怪我をさせない程度の実験に変更させることで保護するつもりだ。

 

「あなたが責任を取らされないようにする方法は1つ。実験を成功させることでェす。これは今のプランのままでは不可能。少し改良しましょう。」

 

「し、しかし、下手なことをすればそれこそ上にわたしは。」

 

天井はあと一押しではあるが、命令に従わずに咎められることの方も恐れている。この実験は明らかに暗部だ。公開されることはないだろう。そういう実験では下手をすると殺される。

 

「あなたが今まで積み上げてきたものを思い出すのです。」

 

「積み上げてきたもの?」

 

「勉強で忙しかった学生時代、研究者になったあなたはそのころの夢を叶えたのかァ?」

 

「いや、一度失敗して借金を背負った。そのあとは上の連中の言いなりになるだけだ。」

 

天井は虚ろな目で天井を見上げながら昔話を続ける。

 

(おい、なんかヤベェぞ。)

 

(こんなのマインドコントロールってほどの技術じゃねェンだけどなァ。)

 

まだ足りない。そこで第二人格は天井に顔を近づける。

 

「なにもしなけりゃ死ぬのに動かないのかァ?少なくとも研究者としては一生日陰でしか暮らせねェぞ!?ここで一発上の連中を驚かせてやろうぜ!誰かに命令される。権限はないのに責任だけ押しつけられて手柄は奪われる。そんな平所員C人生で満足か!?いつか大発見をしたかったんじゃねェのかよ!札束に飛び込みたかったンじゃねェのかよ!女に囲まれたいンじゃねェのかよ!これじゃァ一生無理だろォ!いいぜェ、てつだってやるよ!オマエが生き方を変えるってンなら、ここから先は栄光まで一方通行だァァァァ!」

 

(オマエ、良いこと言ってねェからな。)

 

「!そうだった....。わたしには家族はない。失うものはない。しかし、野望はある!一方通行、わたしに任せろ。絶対に成功して見せる!おーい、芳川。」

 

天井は部屋を出て行った。研究仲間のもとへこの決意を告げに行くのだろう。まともな研究者なら反対するだろうが、二人の一方通行はなんとなく了承しそうな気がしていた。

 

「一件落着だぜェ。」

 

第二人格は椅子に座ってコーヒーを飲む。

 

(あいつは一生平社員Cだなァ......。)

 

(そういうことは言っちゃいけませン。)

 

(.....オマエ、さりげなく俺の実験壊しやがったな。何が目的だ?)

 

(普通気づくよなァ。今、言っても聞かねェだろォよ.....。大丈夫だ。後悔はさせねェ。)

 

 


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