天井と布束は固まっていた。
「あれ、10032号ですよね。because 他の子達があれだけ表情豊かなのに、一人だけ落ち着いています...。」
布束が顔をひきつらせながら、小声で天井に確認する。
「」
天井はうなずいたが、何も言えない。
《あァらら、やばくねェか?》
「何やってやがンだ...。」
一方通行は額に手を当ててため息を吐いた。
「大丈夫よ。オリジナルの方も、気づいて隠れるくらいの頭はあるでしょ。」
芳川は微笑みながら双眼鏡を覗く。
グラウンドに並ぶ選手たちはバルーンを着けたヘルメットを着用している。
簡単にルールを説明すると、敵のバルーンを玉入れ用の球で多く割った方の勝ち、だ。
おもしろそうな競技ではあるが、大覇星祭においてはそうでもない。なぜなら、明らかに能力の種類、強度の差が勝敗に直接関係するからだ。例えば念動力と無能力者が戦えば、念動力がほぼ勝つ。
その上、常盤台中学は全員強能力者。相手の学校はエリート校ではないようだから、多くが無能力者。まともに戦えば勝負にもならないだろう。
対する常盤台中学生は余裕の笑みを浮かべている。観客の中には相手校を応援している者も多いが、本気で勝てると思っていないだろう。
しかし、妙なことに相手校の選手たちは真剣な表情で常盤台中学生たちを見ていた。その表情には恐怖もある。それでも彼らに諦めはない。あくまでも、勝つ気だ。
パァッン
競技開始のピストルが鳴った。すると、相手校は全員蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「諦めていないはずではありませんの!?」
黒髪ロングの扇子を持っている常盤台中学生がなにか叫ぶ。
「違和感があります。ここは数人で固まりつつ、おいおい聴けよ、とミサカはやれやれだぜ。」
10032号が慎重になるよう注意するが、全員の常盤台中学生は相手校を即座に追いかけて行ってしまった。
相手校の一人、坂井は常盤台の女子中学生、切斑に追われていた。周りに他の選手がいない。走っているうちにはぐれてしまったのだろう。
「おとなしく待ちなさい!」
「はっ、なめんな!」
坂井は急に立ち止まった。そして、持っていた球が中に浮き、切斑のバルーンへ直進する。
しかし、バルーンの直前で止まってしまった。
「あなたは念動使いのようですね。もしかすると、この競技でしたら強度が上の相手にも勝てたかもしれませんわ。」
嗜虐的な笑みと共に、切斑の周りに十個ほどの球が浮かぶ。
「ですが、残念。わたくしも念動使いですのよ。」
「なんだと.....!」
坂井は思わず後ずさりしてしまう。
「アナタよりも格上の、ね。」
「うあああああああ!」
全ての球が坂井のバルーンに襲いかかる。