to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫   作:(´神`)

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お久しぶりです。

投稿出来なかったこの数日間、色々と資料を集めていました。

個々の機体の特性、武装、動力、規格、装甲の種類。

Z-BLUEの人員の数を数えれば約220人以上が出演するのでしょう。そこにマブラヴ世界のキャラも含め、必要とされたオリキャラを交え…(白目)

投稿出来ない時も、先のプロットを考え、小ネタを考え、各キャラクター同士の呼び名を纏め、各キャラクターの特徴について勉強しています。

これからも、末永くよろしくおねがいします。

※BETAのハイヴ建築関係の設定がある程度確立出来ましたので、それに伴って少々記述を変更しています。御了承下さい。


第一章 幕間(1)

《1998年8月25日 20時22分 仙台港》

 

仙台第二帝都城での会談から八時間経った夜、オットーとブライトは銀河中心部付近に居る本隊、そして地球圏の外れで待機している残存艦隊と、フォールド通信にて会議を行っていた。

 

会談から八時間以上も経って通信を行っているのには、幾つかの理由がある。

 

一つ目は、先遣隊の残り物資の推移を知る為に幾らか時間が掛かった事。

 

二つ目は、夕呼からブライト宛てに連絡が断続的に入っていた事。

 

三つ目は、ラー・カイラムに搭載されていたフォールド通信装置が、超大型BETAの攻撃でラー・カイラムが損傷した際に、不調を来していたらしく、その修理にかなりの時間が掛かった事だ。

 

 

「申し訳ありません、こちらの不手際で連絡がかなり遅れてしまいました」

 

「そちらが無事ならば、問題は無いだろう。で、どうだった? 地球の方は」

 

 

モニター越しに頭を下げるブライトに、如何にも気にしていないと言わんばかりにフォローするのはジェフリーだ。

 

各代表が集まる艦長会議はジェフリーの威厳溢れる貫禄により、大体の進行はジェフリーが執り行うのがいつもの流れとなっている。

 

ジェフリーの言葉で頭を挙げたブライトが、再び口を開く。

 

 

「これを見てくれ」

 

「ふむ…」

 

 

ブライトの言葉と同時にラー・カイラムの副長を務めるメランが、手元のコンソールを操作して各艦に情報を送る。

 

 

「この世界で確認されている敵性勢力は『BETA』のみだそうだ。だが、その数は宇宙怪獣やインベーダーに並ぶほどだろう。既に地球の一部は圧倒的な物量で、BETAの支配下に置かれている地域も少なくないらしい」

 

「人類の状況は不利という訳か…」

 

 

ジェフリーは渡されたデータに目を通しながら、重たく息を吐く。

 

数々の侵略者の地球制圧行動に始まり、エタニティ・フラット、人類殲滅システムと、Z-BLUEの知る地球は何度滅亡の危機を迎えているのだろうか。

 

宇宙の危機も数度経験しているZ-BLUEに、今更驚愕の色は無い。

 

だが、平行世界の地球までもがこうも危機に陥っているのを見ると、少々滅入りそうになってくる。

 

全並行世界の地球が、それぞれ滅びの運命を持ち合わせているのだろうかと疑いたくなるものだ。そこに住んでいる人類にとっては、堪ったものではない。『人類に逃げ場無し』とは、正しくこう言うのかもしれない。

 

 

「それとだが、これも見て欲しい」

 

 

ブライトの付け足された言葉と共に送られてきた追加データ。その中には、一種のBETAと記載事項が幾つか書かれていた。

 

 

「ブライト大佐、これは?」

 

 

聖天使学園の理事長を務める少女らしき女性――クレアが首を僅かに傾げながら尋ねる。

 

10代前半の見た目からは想像出来ない冷静さを持ち合わせるクレアは、傍から見ればこの場には相応しく無いが、トゥアハー・デ・ダナン艦長のテッサを始め、そういう存在はZ-BLUE内ではあまり珍しくない。

 

いや、見慣れていて違和感を大して感じない、という表現の方が正確だろうか。

 

そのクレアの手前のコンソールには巨大なミミズ型のBETAの写真と、BETAが戦術的行動を取ったと思われる情報が載っていた。

 

クレアの問いに、ブライトは間を置かずに説明を加える。

 

 

「我々が昨日の戦闘で遭遇した新種らしきBETAと、帝国からは与えられていないBETAの新たな情報だ」

 

「意図的に隠された情報という線は?」

 

 

ブライトの言に、ゼロが間髪入れずに反応する。

 

冷徹さを持ち合わせる策士のゼロは、生い立ち等から『嘘』を唾棄する性質にある。

 

帝国がZ-BLUEに嘘を着く可能性があるならば、ゼロは自身が交渉役として前に出るつもりだ。

 

あらゆる状況を瞬時に推察しながらしたからだろうか。質問時の声色が低くなっていたのは、帝国を警戒している証だろう。

 

 

「いや、エマ中尉が帝国軍の兵士と通信した際、この種のBETAの存在そのものを認知していない様な印象を受けてたらしい」

 

「なるほど…この件は既に帝国に伝えていますか?」

 

 

ゼロは仮面の奥で納得した表情を見せながらも、質問を続ける。

 

 

「まだ報告はしていないが、戦場には帝国の兵士も居たんだ。既に情報は帝国にも知れているだろう」

 

「成る程…では、この件を帝国には伝えるのは先延ばしにして頂きたい。情報を聞き出すカードとしては優秀ですので」

 

 

ゼロは万が一、帝国からどうしても情報を得なければならない際のカードとして、この件を伏せて置く事を勧める。

 

戦場での虚偽報告は死に直結し、拭い用の無い不信感を与える物だ。

 

例え、手元のデータに記載されている超大型BETA種の存在其の物を知らなかったとしても、Z-BLUEがデータを受け取ったその日に二度も超大型BETA種にあえば、その存在を意図的に隠していたと取られても仕方無いだろう。

 

そういう意味では、1つの交渉時のカードとしては充分な効力を発揮すると言える。

 

帝国の援軍であるZ-BLUE先遣隊は、超大型BETA種の奇策により一時的とは言え、旗艦が航行不能になる程の被害を受けたのだ。これが通常のBETAに拠る被害であればまだしも、『意図的に隠されていたかもしれないBETAに拠って』被害を受けた事が大きい。

 

事の審議はどうあれ、知らぬ存ぜぬで通すのは苦しいだろう。

 

策士では無く、一軍師としての思考であれば、Z-BLUEが超大型BETA種をBETAに出撃させたという発想もあるが。

 

 

「…分かった、ゼロの言う通りにしよう。それとだが、月や火星を始め、太陽系以外にもBETAが数多く居ると見られている。本隊やジェフリー大佐の方も油断は出来ないだろう」

 

「それについては問題ない。此方は一度火星方面からの飛来物があったが、クォーターの対艦重ビーム砲で撃退に成功している」

 

 

ジェフリーの返答にブライトとオットーは驚くが、宇宙空間のBETAに拠る攻撃も大した障害では無いと見て良いのだろうと、話を直ぐに続ける。

 

 

「話が変わるが、今回の戦闘で予想以上に物資を消耗している。戦闘でダメージを受けた機体は殆ど居ないが、BETAの数が多すぎて武器や弾の消費が激しい。次に同じ規模の戦闘をすれば、間違いなく戦闘中に物資が切れるだろう」

 

「僅か一日で、それほどまでに消耗するのは厳しいですね」

 

 

ブライトの発言に、テッサも苦しげな声を出してしまう。

 

物資不足だけは仕方が無いのだ。本隊とも合流出来ない。現地でも物資が補給出来ないとなると、戦う事が難しくなる。

 

元々、聖アドヴェント戦で全艦を二分していたのがそもそもの始まりだった。

 

装甲が比較的厚く、戦闘に非常に向いている超銀河ダイグレンを筆頭に、ソーラリアン、ドラゴンズハイヴ、真ゲッタードラゴンとスーパーロボットの殆ど。そして、やや中衛に位置していたプトレマイオス2改にユニコーン等の主力級MSを派遣していたのだ。

 

最後に、真徒の残存部隊やネオ・リアクター掃討に全力を注いでいた後衛に、現在の先遣隊とその残存艦隊が配置されていたのである。

 

従って、一部例外を除けば比較的2軍級の戦力が集まっているのが現先遣隊とその残存艦隊なのだ。

 

 

「では、万が一に備えてこのトゥアハー・デ・ダナンを地球に向ける準備をしておきましょう。物資の補給は厳しくとも、戦力を増強させれば一艦あたりの物資消耗率は軽減出来ますので」

 

「そうか…では、テスタロッサ大佐にはそれでお願いしよう」

 

「了解しました」

 

 

テッサの提案にブライトとオットーは少しだけホッとした表情を見せる。物資が無ければ戦えないのが常だ。一部、物資を必要としない者も本隊には存在するが、それは例外中の例外としておこう。

 

戦場が激化すれば、物資を予想以上に消耗する事はままある事だ。だが、聖アドヴェント戦からの連戦では流石に補給も恋しくなる。

 

 

「此方の報告は以上だ。それで、そちらの状況はどうなっている?」

 

 

ブライトの問いに、今まで黙って見ていたトライアが口を開く。

 

 

「それについては私が説明するよ。スフィア搭載機は結構なダメージを貰ってるから、戦線復帰にはまだ厳しいね。特にジェニオンに至っては、パイロットが無事なのが不思議なくらいさね」

 

 

呆れた様に言いのけるトライアとは対照的に、ブライト達の表情は明るくない。

 

スフィア搭載機は次元力を直接抽出する事により、無尽蔵にエネルギーを引き出す事や、物理法則を無視した機体の再生。果てには、次元力を用いた事象制御で機体がもつ機能を拡張する事や、様々な特異な力を使用可能という、トンデモ機体達だ。

 

単機で戦場をひっくり返すポテンシャルを充分に持ち合わせている事から、戦力としてはかなり大きい部類である。

 

そんなスフィア搭載機の復帰が難しいという現状では、少々気落ちするのは否めないだろう。

 

 

「そうか……」

 

「なに落胆してるんだい、大佐」

 

 

ブライトが声量を落としながらも話の続きを促そうとすると、トライアの意地悪そうな声色でハッと顔を挙げ、モニター越しにトライアの瞳を見る。

 

トライアの瞳は喜色を孕んでいた。まるで、エイプリルフールに誰かに嘘を付くのが成功した子供の様に。

 

 

「事象制御は、何もあの4機だけの専売特許って訳じゃ無いだろう? もっと言えば事象制御だけなら、ソーラリアンの方が上手に決まってるんだよ」

 

 

その一言で他の者達にも喜色が浮かぶ。

 

 

「トライア博士。事象制御には次元力が、そしてその為にはエスターが必要だ。彼女は我々の世界の地球から次元力を引き出していたと記憶しているが、それはこの世界でも可能なのか?」

 

 

ゼロは咄嗟に湧いた疑問を、情報を整理しながらトライアにぶつけた。

 

確かにソーラリアンは事象制御を主目的に建造された艦だ。実際には艦では無く、オリジン・ロー制御システムと分類されている事から、戦闘と事象制御のどちらを主目的として建造されたのかも一目瞭然だろう。

 

事象制御に不可欠なのはZクリスタルとソーラリアンの事象制御システム、そして地球から次元力を抽出していたエスター・エルハスの存在が不可欠なのだ。

 

だが、問題はエスターの抽出する次元力の本来の持ち主である、多元世界の地球が無い事にあった。

 

 

「おやおや、ゼロともあろう者が鈍いねぇ。カオス・コスモスでも『地球の次元力』を使用してソーラリアンは事象制御して居たんだよ? 次元力や霊子が無い世界なんて存在しないからね。異世界だろうと、抽出するなんてのは朝飯前なんだよ」

 

「成る程、失礼した。ソーラリアンの力を見くびっていた様だ」

 

 

ゼロはその説明を受けて、即座に理解の意と謝罪を述べた。次元力は、通常では理解出来ない事も容易に起こせるのだ。

 

『次元力に理屈を求めるのはやめよう』と心に誓ったゼロだった。

 

 

「話を続けるよ。比較的に被害が少なかったのは一部のMS達が目立つね。スーパーロボット達と打って変わって回避に重きを置いてるってのが功を奏した結果なんだろうけど。FAユニコーンとバンシィ・ノルンはもう少し掛かるけど、デスティニー、インパルス、レジェンド、ストライクフリーダム、∞ジャスティスの5機は後数日で復帰出来るよ」

 

 

この5機の復帰はありがたいだろう。MSの中ではνガンダムやサザビー等とは違う系統の技術で生み出されたガンダムであり、同じく破格の性能を誇っているからだ。

 

MSはスーパーロボットよりも防御に劣るイメージが強いが、この5機の性能を見れば、そんな事は無いと言える。

 

この5機はVPS装甲――ヴァリアブルフェイズシフト装甲を採用しており、装甲に通電させることで特殊素材が相転移して硬化し、殆どの攻撃を無力化するPS装甲の電力消費を抑えた装甲を使用しているのだ。これで、物理攻撃を電力が続く限り無効化出来るというトンデモ仕様だ。

 

そして、インパルス以外の4機は核エンジンで電力消費を補っている。

 

加えて、インパルスは対ビームコーティングが施された盾を、それ以外の4機はビーム兵器に対して、ほぼ無敵の防御能力があり、陽電子砲を防ぎ切る能力を持っている陽電子リフレクターを採用したビームシールドを装備しているのだ。

 

実質的に、ビームを使用した近接武器以外では大したダメージを与えられないという事になる。これが堅牢で無くて何なのか。

 

 

「AT達も随分と軽傷だったよ。あれだけの戦いにチャチな装甲で挑んだにしては、異常に軽傷だね。250億分の1の男とその仲間達には、流石の私も震えたよ」

 

「さ、流石だな…」

 

 

半ば笑いながら説明するが、目だけが笑っていない事から、震えたのは本当の事だと推測出来る。

 

それもそうだろう、ATは装甲が僅か14ミリ程度しか無いのだ。通常の鋼を材質に使用すると仮定した場合、歩兵のアサルトライフルの掃射で中の人間が穴凹のチーズになる事は免れれない程と言えば分かるだろうか。

 

当然、通常の鋼という事は無いが、それでも装甲が薄い事に変わりは無い。

 

その状態でゼル・ビレニウムや至高神Zを相手取り、生き残るどころか軽傷で帰ってくるのは文字通り怪物と言える。異能生存体の名は伊達では無い。

 

これにはブライト達も、思わず口角を引きつらせていた。

 

 

「オーガス、オーガスⅡ、2機のスペースガンマール、スペースヨーコWタンク、ノノ、ラケージ・ユンボロ、カオス・カペルも同じく軽傷。FIRE BOMBERの機体やVF-22S シュツルムボーゲルIIも一緒。KMF達も中衛だったからかどうにか軽傷で済んでるね。KMFは数日掛からない内に復帰出来るから期待してな」

 

「ああ、期待させてもらおう」

 

 

ゼロが機嫌良く応える。

 

KMFは他の機動兵器と比べれば小柄だが、その性能は決して低くない。

 

使い方次第では、戦況を1手で変える事すら可能な機体達なのだ。非常に喜ばしい事と言える。

 

 

「グレンラガンは…勝手にシモンが螺旋力で直しちまったから、私から言う事は何も無いね。大破寸前だった筈の∀ガンダムも、一晩で勝手にある程度治ってたしね」

 

 

これに関しては、誰も何も言わない。

 

∀ガンダムに搭載されているナノマシンは時間経過と共にエネルギーと装甲を自動で修復してくれる自己再生能力があるのだ。グレンラガンは螺旋力でどうにでもなる。

 

理解しては居ても、メンテナンス要らずの機体には、誰もが恐れ入る物だ。

 

 

「中破してる機体も少なくないよ。CB所属のガンダム達も修理の目処は付いたけど、もう少し時間が掛かるね。ガンダムDXとGファルコン、ガンバスター、ダイ・ガード、チェインバー、パールネイルと2機のバルゴラはまだマシ。シャトルとエヴァンゲリオンの4機は、復帰はまだ先と思っておいてくれなきゃ困るよ」

 

「思った程、大破はしていないのだな」

 

 

ジェフリーの呟きに、頷く者は少なくなかった。

 

全平行世界とその宇宙の行く末を決める戦いを経験した割には、それほど大破した機体は少ない様に思う。

 

Z-BLUEの戦力が、それだけ高い事の裏付けにもなる話だ。

 

 

「後は大体、大破に近い状態だね。それでも、エレメントの学生共やDチーム、その他を総動員して修理。最低でも応急処置に当たってるから、使えなくなった機体なんてのは一機も無いね。そっちはどうだい?」

 

「此方の状況は私が報告しよう」

 

 

トライアの言葉に続いて、今度はジェフリーが口を開く。

 

 

「此方はデスサイズヘル、アルトロン、ヘビーアームズ改は比較的損傷が少なかったと言える状況だ。キャトフヴァンディス、VF-25GメサイアF・TP、2機のM9も軽微損傷だ」

 

 

デスサイズヘル、アルトロン、ヘビーアームズ改が軽微で済むのは、ある意味当然でもあった。

 

元々後衛を担当していたこの3機はガンダニュウム合金を採用しているという共通点がある。

 

ガンダニュウム合金は、端的に言えば『電気的に中性』という特徴がある。

 

これにより、破壊係数は存在するもののビームなどの熱エネルギー兵器や、物理的な衝撃に対する耐性はチタニュウム合金を使用した機体とは比較にならないほど高いのが特徴的だ。

 

ビーム発生時に必要となる各装置の性能や耐久性が向上する為、一般のビーム兵器に比べて桁違いの出力を誇り、水中でもほとんどエネルギーが減衰することは無いという圧倒的な性能を有する。

 

精製には宇宙の無重力環境を必要とし、精製コスト自体も非常に高いのが欠点だが、それは通常の軍や組織に於いての話だ。Z-BLUEにとって、その程度のコストは負担にならない。

 

 

「中衛に近かったウイングゼロとトールギスⅢは中破程度で済んでいるが、撃墜数との兼ね合いで見れば良い方なのだろうな。他のバルキリーも大体が中破圏内。VF-27γルシファーF・SPが無傷と言っても良いレベルだったのと比べ、YF-29デュランダルF・SPが見事に大破寸前だったのは、乗り手の性質上仕方無いだろう」

 

 

アルトの乗るバルキリーが大破寸前だったのは、積極的にネオ・リアクターを攻撃していた事が大きいだろう。

 

最も、アルトのお陰で他の機体がネオ・リアクターの隙を付き、比較的迅速に倒せた事に繋がっていたのだが。

 

 

「残りは大体が中破程度だ。あまり被害が少ないと言えるだろうな」

 

「では、我々も追加で状況を説明しよう」

 

 

ジェフリーの説明が終わった頃合いを見計らって、F.S.が部下である田中司令に視線を寄越した。

 

田中司令はいつもの様に表面上だけの苦笑いを浮かべ、頬を指で掻きながら口を開く。

 

 

「…説明させて頂きます。我々はこの数日、號君と共に資源の調達を主目的として動いていました。万が一の為、周囲の小さな衛星を幾つか切り崩し、丸々資源として超銀河ダイグレン内部に確保しました。超銀河ダイグレン艦内の食物生産プラントも順調ですね。後数十年は自給自足でもやっていけますよ」

 

 

田中司令の説明が進むに連れて、本隊側の常人では想像もつかない行動の数々が暴露されていく。

 

その全てが、『超銀河ダイグレンだから』で説明が付くからこそ、皆何も言わないのだが。

 

 

「それとですが、バスター軍団のビーゴン級達の力をお借りしまして、バスターコレダーの要領で電力をかなりの量、蓄電させて頂きました。あ、当然出力は低めにしてましたよ? ですが、そのお陰で良い事も起きてますね」

 

「…良い事とは?」

 

 

オットーが恐る恐る田中司令に、疑問をぶつける。

 

田中司令はニコリと笑って、軽快に口を開いた。

 

 

「ええ、大規模な余剰電力を使用して、ソーラリアンの事象制御である事を試して貰ったんですよ」

 

「…そのある事、とは?」

 

 

オットーの心臓の鼓動は早くなり、額から汗が吹き出す。

 

トライアまで口角を釣り上げたと思えば、おコンさんで顔を隠してしまったのを見れば、なんとなくでも予想は付くが、それでも激しくなった動悸は収まらない。

 

 

「AGさんにお願いをして、ソーラリアンの事象制御でスーパーロボット達の特殊鋼を生成して貰えましたよ。お陰でかなりの電力と鉱石を使用するんですが、ま…作り出せない鉱石は無いというのが実験結果ですな」

 

 

スーパーロボットに限らず、Z-BLUEに所属する多くの機体は特殊な金属を使用されている事が殆どだ。

 

ガバール星でしか取れないガバールニウム、富士近辺でしか採掘出来ないサクラダイト、ジャパニウム鉱石等、数えだせばキリが無い。

 

それがある程度の鉱石と電力等のエネルギーを消費すれば作り出せるというのだから、驚きを禁じ得ないだろう。ソーラリアン様々である。

 

これで事実上、Z-BLUEが手に入れれない物資は存在しなくなったという事だ。逆に言えば、ここまで出来ない様では、全宇宙の破滅を回避させる事は出来ないという事なのか。

 

質問したオットーを始め、本隊側でも知っている者は少なかったのだろう。誰が漏らしたかは分からない驚きの声が、モニター越しに伝わっていた。

 

 

「こちらからの報告は以上ですよ」

 

 

田中司令があっけらかんと言いのけ、それに続いてそれぞれが平気な様相を取り繕う。

 

 

「で、では、取り敢えず、本日の報告は以上としよう。繰り返すが、トゥアハー・デ・ダナンには――」

 

「皆、朗報よ!」

 

 

ジェフリーがなんとか締めくくろうとしている最中に、リーロンが割り込む様に通信に参加したのだ。

 

上官の言葉を遮るのは軍としては咎められる物だが、Z-BLUEではそれを気にする者は殆ど居ない。

 

 

「どうした、リーロン」

 

「螺旋界認識転移システムが復旧したのよ! ロージェノムとシモンが頑張ってくれたおかげよ!」

 

 

この会議の中で一、二を争う程の朗報に、ブライトとオットーは如実に喜びを表す。

 

本隊との合流が可能になれば、物資の心配も何も要らないのだ。

 

これで心置きなくBETAとの戦いに尽力する事が出来る。

 

螺旋界認識転移システムの復旧に5日掛かるというロージェノムの見込みは、シモンの螺旋力を生み出す努力に魅入られたロージェノムが、気合を持ってして作業に取り掛かった結果だ。

 

 

「では全艦。準備を終え次第、即刻超銀河ダイグレンに収容せよ。一刻も早く、マクロス・クォーターと合流するとしよう」

 

 

F.S.の言葉にそれぞれが頷き、会議は駆け足で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月25日 22時47分 仙台第二帝都城、臨時執務室》

 

Z-BLUEとの会談を終えてからこの10時間近く、夕呼はオルタネイティヴ4に不可欠となる機器の開発を続けていた。

 

日本がBETAの侵攻に遭おうとも、オルタネイティヴ4の研究は止められないのだ。オルタネイティヴ5とその推進派を牽制し、反対派を取り込む為にも時間は惜しい。

 

基礎理論を構築し、仮定と検証を繰り返した上で改良を重ね、必要な材料が揃うその日まで最大効率で研究を続けるのが夕呼自身、求められている事であると認識している。

 

しかし、夕呼の仕事は更に増えた。正確には、これからもっと増えるだろう。

 

想定外の異邦人、Z-BLUEの手によって。

 

 

(今はまだマシね。表向きには殿下がZ-BLUEと対応すると言ってくれているから、頭の堅い年寄り共の相手や、各国の面倒な奴らは相手取ってくれる筈。でも、問題は此方ね)

 

 

手元を動かしながらも、夕呼は高速で思考を巡らせる。

 

夕呼は先ず、Z-BLUEを理解する必要がある。これは早ければ早い程良い。

 

Z-BLUEを理解することで、今後の行動の選択肢が広がり、Z-BLUEへの対応方法やZ-BLUEとこの世界の価値観の相違まで見抜く事が可能になる。相手を正確に把握して帝国との間を上手く取り持つのが、今の夕呼に課せられたもう1つの仕事だ。

 

 

(昼のミスの所為で、ある程度お互いの目的を腹を割って話せたのは功名と見て良いわね。こういう時、仲良くなるには…)

 

 

手元の作業を中断し、机の上に置かれたコンピュータの横に乱雑に詰まれた資料を探り、一枚の紙を取り出して目線を落とす。

 

 

(…先ずはコレね)

 

 

夕呼が持つ紙には、安保理から送られてきた甲22号ハイヴ攻略作戦――後に『明星作戦』と呼ばれる大規模反攻作戦の決定を知らせる書類だった。

 

これは夕呼が午前中の内に申請しておいた案であり、Z-BLUEと帝国との共同作戦にて関係を深めると同時に、出来立ての横浜ハイヴを叩き潰す作戦だ。

 

明け方に多摩川での警戒態勢が解けたのも、横浜でBETAがハイヴを形成しようと活動し出した事により、BETAの進軍が中断された事に起因する。

 

ハイヴは時間が経過する程に規模を増すのだ。早い段階で叩くのが、労力もリスクも少なくて済む。

 

当然、この作戦は帝国軍だけでは行えない。

 

本土のBETAによる大規模侵攻により、日本は壊滅数歩手前なのだ。帝国軍の全戦力を投下すれば、どうにか現段階の横浜ハイヴは落とせるかも知れないが、佐渡ヶ島ハイヴを落とすのに数年掛かるどころか、自国の最低限の防衛すら危うくなるのは自明の理だ。

 

他国に防衛を任せる訳にも行かず、自国だけでも立ち行かない。そんな時、救世主の如く現れたZ-BLUEには感謝しかない。

 

この作戦が成功すれば、『BETAから本土を取り返せる』『初のハイヴ攻略を成し遂げ、人類の士気を高める事が出来る』『Z-BLUEとの関係が深まる』と一度で三回美味しい作戦だ。

 

帝国の戦力が整う頃には、ハイヴは規模を拡大させて手に負えなくなるだろう。正しく、機を見るに敏と言える。

 

 

(腰が重いで有名な上が、こんなにも直ぐ決断出したんだもの。Z-BLUE効果は凄いわね、ホント)

 

 

上層部に呆れを示しながらも、苦笑を漏らしてしまう。

 

客観的にも主観的にもかなり状況が悪い筈の今の現状でここまでポジティブになれるのは、紛れも無くZ-BLUEのお陰だ。

 

喜んで良いのか、悲観的にも見るべきなのか。何とも言えない複雑な表情を浮かべていた夕呼の下に一本の通信が入る。

 

 

「香月博士。ブライト大佐からの通信が来ております」

 

「――っ、直ぐ繋いで頂戴!」

 

 

オルタネイティヴ4の専任で、夕呼の秘書を務めるピアティフ中尉からの連絡に、夕呼の動悸が急に激しくなる。

 

会談はつい十時間前にしたばかりだ。幾つかのやり取りは以降もあったが、事の重要性は低めだった筈だ。この数時間で、何か事態が急に変化したのだろうか。

 

脳裏には悪い推測ばかりが過る。この2日間で、帝国の流れは良い方向に流れだした様に思う。楽観的と断じられればそれまでだが、つい数時間前のZ-BLUEとの会談では、決して悪くない関係を築けたとさえ思っているのだ。

 

良い事続きだからこそ、嫌な予感が頭に浮上してくるのだ。『禍福は糾える縄の如し』であり、良い事続きならば、そろそろ悪い事象が始まってもおかしくない。頭を振って嫌な予感を無理矢理振り払い、震えを抑えこんで受話器に手を掛けた。

 

 

「香月博士、夜分遅くに申し訳ありません」

 

「え、ええ。問題ありません。それより、どうかなさいましたか? 何か、問題でも…」

 

 

夕呼の声は僅かに震えが混じる。

 

全意識を受話器の奥に集中させ、何があっても受け止めようと覚悟を決めていた。

 

 

「実は、我々はこの世界に転移してきた際に本隊と逸れてしまっていたのですが、本隊と残存艦隊がかなり早い段階で合流出来たので、その報告をしにきました」

 

「…それはおめでとうございます」

 

 

それを聞いて、不吉な何かでは無いという可能性が少しだけ上昇し、内心ホッと安心する。

 

しかし、サラッととんでもない事を言われた事に気づく。

 

 

(…残存艦隊…? 今、残存艦隊って言ったわよね!?)

 

 

Z-BLUEは、夕呼がよく知る『先遣隊』、推定では先遣隊と少なくとも同等かそれ以上の力を誇るであろう『残存艦隊』。そして『本隊』があると言ったのだ。つまり、先遣隊はZ-BLUEの中でも控え目な戦力で来た事になる。

 

『先遣隊』が存在する以上、『本隊』が居る事はある程度想定していたが、『残存艦隊』までもが存在し、全部隊を3つに分けていたとは想像出来なかったのだ。

 

Z-BLUEの戦力は確かに未知数と考えていた。だが、あれだけの戦果を誇る部隊が、最大でも全戦力の3分の1程度の戦力であり、剰え帝国に物資の補給を要請しなかった事になる。

 

余りに規格外。予想を軽く超え、予想を的中させる事さえ許さない組織、Z-BLUE。

 

既に夕呼は驚きでまともな返答が出来る状態では無かったが、乱雑な思考は収まってくれない。何故ならば、それだけの為に態々連絡を寄越すというのは不可解な話だったからだ。

 

夕呼はまだ何かあると信じて、直ぐに気を引き締め直す。

 

 

「ありがとうございます。ですが、本隊の艦の規模が大きいので、地球からでも観測出来てしまうのです。なので、そちら側で問題になる前に、先に香月博士に紹介しておくべきだと判断しました」

 

「…………へ?」

 

 

間抜けな声を出してしまったのは仕方無いだろう。

 

この男は今、なんと言っただろうか? 本隊と逸れていたのも理解出来る。合流できたというのは聞かされた。地球から観測出来る――確かに、そう言っていた。

 

その言葉を鵜呑みにすると、得られる結果は2パターンだ。地球とかなり近い場所にまでやってきてしまったのか、単純に恐ろしく大きいのか。

 

困惑に震える体はもう収まらない、抑えられないでいる。

 

 

「…香月博士? 大丈夫ですか?」

 

「――っ!? 申し訳ありません! 直ぐに掛け直しますわ!」

 

 

謝罪しながら受話器を一度切断し、内線モードに切り替わった受話器を再び取る。

 

 

「ピアティフ、今直ぐ天体を調べて頂戴! 昨日までは無かった、見覚えのない『何か』がある筈よ!」

 

「っ、少々お待ち下さい!」

 

 

夕呼の焦燥混じりの声に、連絡を受けたピアティフも素早くコンソールを動かす。

 

ピアティフからの応答が無い空白の数秒間に、至極イライラが募る。自分でも落ち着きを失っているのは自覚しているが、それどころでは無い。

 

内心で早く、早く、と呟き続ける夕呼の耳に、待ち望んだ声が聞こえる。

 

 

「香月博士、天体の画像と情報を送信します!」

 

「良くやったわ!」

 

 

それだけを言って乱暴に受話器を起き、送られてきたコンピュータのデータを素早く確認する。

 

 

「……なによ…これ…!?」

 

 

送られてきた一枚目の夜空の画像データには、白く輝く月よりも少し離れた位置に、明らかに見たことのない物体が存在した。

 

細長いのだ。天体として普遍的な球及び楕円状では無い。

 

画像を拡大した次の画像データを見れば、確かに人工物らしき形をしていると確認出来る。

 

 

「…ピアティフ、Z-BLUEとの通信回線を至急繋げなさい」

 

「お待ち下さい」

 

 

再び受話器を手にし、回線がZ-BLUEに通じるまでの間、夕呼は左手を腹部に添えながら天井を仰ぎ見ていた。

 

 

(…なるほどね…一報入れてくれて正解だったわよ、ノア大佐…こんなの…有り得ないじゃない…普通…)

 

 

微かな笑い声を漏らしながら部屋の中で一人、天井をボーッと見つめる様は精神が壊れたかの様だった。

 

 

「Z-BLUE先遣隊の、ブライト・ノア大佐です」

 

「香月です。先程は忠告ありがとうございました」

 

 

夕呼は淡々と事務的な返事を返す。いや、正確にはそれが出来得る精一杯の反応だったのかもしれない。

 

 

「1つお聞きしたいのですが、宜しいですか?」

 

「…ええ、答えられる範囲であれば、ですが」

 

 

ブライトの了承を得た途端、夕呼は理不尽な怒りを滲ませながら質問する。

 

 

「Z-BLUEの本隊と仰って居られた『あの艦』は何なのでしょうか?」

 

 

酷く大雑把な質問ではあったが、ブライトは直ぐに状況を察した。

 

 

「はい。あの艦は元々、我々の世界の月でした。従って全長は3000km程であり、Z-BLUEの中でも特別巨大な艦となっております」

 

 

正確には2つあった月の内の1つだが、ややこしくなるのでこの説明は省いている。

 

多元世界は成り立ちからして非常に複雑なのだ。当事者達の間でも複雑だったのに、別世界の人間からすれば余りにややこしいだろう事はブライトも理解している。

 

ここで、ブライトはすかさずフォローに走る。

 

 

「香月博士、あの艦は超銀河ダイグレンと呼ばれており、我々Z-BLUEの中でも極めて特殊な存在です。初めて見た時はその大きさに私も驚きましたから、失礼だと理解しながらも言わせて頂きますが、香月博士の反応は至って普通であり、なんら間違った物では無いと思われます」

 

「…そうですか…お気遣い、ありがとうございます」

 

 

明らかに気力を喪失している夕呼の声に、ブライトは本隊から補給される食料品と嗜好品を一部、夕呼と悠陽に贈ろうかな等と考えていた。

 

そんな事はいざしらない夕呼は夕呼で、別の事を考えていた。

 

本隊と合流出来たという事は、補給線が配備された様な物なのだろう。であれば、甲22号ハイヴ攻略作戦時のZ-BLUE側の戦力が強化されるのでは無いかと考えていた。皮算用をする訳では無いが、それだけの期待すら抱いてしまうのは、仕方無いだろう。

 

ここで夕呼は幾つかの、恐ろしい事実に気付いている。

 

先日のZ-BLUEの戦果は、『補給手段の無い状態』で叩きだされた物だという事だ。

 

夕呼は会談でブライトの言っていた、『帝国に補給を要請しない』の意味を先程漸く、正確に理解出来たのだ。言い換えれば、『補給を受ける必要が無い』と言われていたのだろう。

 

Z-BLUEの本隊である超銀河ダイグレンで物資を全て作り出せる、若しくは何年何十年分の物資が貯蓄されているであろう事は想像に難くない。

 

会談の時の話も含めて見える物は、『戦闘後に此方の世界に転移し、本隊と合流出来ていない状態で数十万のBETAと連戦し、勝利した』という常軌を逸した事実。

 

また、ここで『Z-BLUEに地球を支配する気は無い』という確信も得ている。

 

突然だが、国土は国力に非常に関係する。

 

日本の国土は約37万平方kmと言われている。今現在はBETAに半分近くの国土を支配されているが、本来はそれくらいの広さだ。現在の地球で何処よりも力を持つ国であるアメリカは937万平方kmである。

 

アメリカと日本がBETAの存在を無視して戦争すれば、長期間の戦闘に縺れ込む等色々な状況を考えても、最終的にはアメリカに敗れると予測出来てしまう。

 

ここで、体裁として1つの国と名乗る予定のZ-BLUEを考えてみたいが、1つ修正する必要がある。国として使用できる範囲は面積では無く、空間の体積だ。

 

よって、各国を地上と地下含めて上下合わせて2キロメートルをふんだんに活用出来るとしよう。

 

日本は74万立方km、アメリカは1874万立法kmである。対して、元『月』だった超銀河ダイグレンを所有するZ-BLUEの使用可能な国土の体積の範囲は、月の体積と同等の約366億立方kmとなる。

 

比べるまでもなく広大であり、それに比例して国力も尋常では無くなる。技術、国土共に想像すら難しい域に居るZ-BLUEが帝国に協力を申し出る理由は紛れも無く、善意からだと嫌でも理解出来る。

 

強い者が弱い者に媚びる必要は無い。支配ならいつでも出来るのだ。

 

もし、BETAを倒すだけが至上命題であり、他の国や世界がどうなっても構わないというスタンスであったとするなら、帝国やアメリカを支配してZ-BLUEの戦力としてBETA戦に使い潰せば良い。

 

だが、Z-BLUEは帝国の主張を第一に考え、最大限の『支援』に留まろうとする方向性が見える。それは夕呼の霞を利用したリーディング事件に帝国の背景を察して理解を示し、頭を下げた事からも分かる。

 

 

「…ノア大佐。BETAの前線基地であるハイヴが横浜に建設されつつある事は既知かと思います。帝国は現在、ハイヴ拡大前に死力を振り絞って横浜ハイヴの攻略作戦を発動させる予定です。そこで、Z-BLUEにも援軍を要請したいのですが如何でしょう」

 

 

自身のZ-BLUEに対する考えを裏付けしてくれる様な発言をしてくれると信じ、夕呼はこのタイミングで甲22号ハイヴ攻略作戦の話を切り出す。

 

 

「お任せ下さい。我々も可能な限り援軍を出撃させる予定ですので、ご安心下さい」

 

(っ! やっぱり…!)

 

 

ブライトは司令という立場だがあくまで先遣隊の司令であり、Z-BLUEのトップでは無い筈なのだ。

 

そのブライトが軍事作戦という大きな話を持ち帰らず、即答してみせるという事はZ-BLUE内で既に意見が一致しているに他ならない。

 

ここまで露骨なZ-BLUEに最早怯える必要は無いのだと、夕呼は心の底から理解した。

 

 

「ありがとうございます。Z-BLUEの本隊の話が此方で問題になった場合、きちんと此方で話を付けておきますので、ご安心下さい。それとですが、BETAのハイヴのデータを送信しておきます。参考程度にして頂けると幸いです」

 

「それは心強いです。では、また後日に」

 

「はい、失礼します」

 

 

震えがちな声で通信を終わらせる。

 

感動か、喜びか、自身の体に走る震えに付ける名前を夕呼は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月25日 22時50分 ソーラリアン、格納庫》

 

ブライトと夕呼の通信が終わった直後、超銀河ダイグレンに残存艦隊であるマクロス・クォーターとトゥアハー・デ・ダナンを収容し終えていた。

 

一部の者達は艦に補給物資を積んだりと相変わらず忙しくしているが、哨戒員以外は基本的に自由に過ごしている。

 

3日ぶりに合流したZ-BLUEのメンバーは、各々仲の良い者達でそれぞれ集まって話をしていた。

 

 

「甲児、ヒビキ、そっちは大丈夫だったか?」

 

「俺達の機体は頑強なんだぜ? ちょっとやそっとじゃグラつかねぇよ!」

 

「うっ…」

 

「ヒビキは最後に、機体に無理させてたからな」

 

「ネオ・リアクター三体を一度に相手取って、大破させた男には負けるけどな」

 

「活躍したと言え!」

 

 

心配と挑発を綯い交ぜにしながらも騒いでいるのは、ボランティア部所属の代表格である三人だ。

 

仲睦まじいボランティア部メンバーの中でも、かなり堅い友情で結ばれているメンバーで知られている。

 

本来なら宗介もここに含まれるのだが、今は先遣隊に派遣されているので仕方無く三人になっていた。

 

 

「いつも楽しそうだな、あの三人は」

 

「そうだね。でも、こういう時にも明るくなれるって、凄い事だよね」

 

 

そんな三人を見つめながら言葉を交わすのは、連携を取らせれば右に出る者は数少ないタッグであり、親友同士のキラとアスランだった。

 

若干18歳にして片や一佐――所謂大佐で、片や身内人事とは言え准将というトンデモな2人であり、技量に於いてはアムロやシャアに手が届きそうな程の凄腕だ。

 

過去の経験上、歳の割に従軍歴が長い所為だろうか。18歳にしては歳不相応の落ち着きを持っているキラとアスランはZ-BLUEに於いて騒ぎに関わる事は少なく、騒ぎを傍観している方が多いと言っても良いタイプだ。

 

 

「アスランはBETAの情報、ちゃんと確認した?」

 

 

キラがアスランに向けて、BETAの情報が表示された小型端末をチラリと見せる。

 

 

「当然だ。今度の敵は数が取り柄だが、個々の力は今までのバアルと比べるまでもないらしいな」

 

「でも、油断は出来ないよね」

 

 

アスランの油断とも取れる発言に、やんわりと忠告を挟む。

 

 

「俺達には守るべき物がある。油断はしないさ」

 

「そうだね、僕達に出来る事を1つずつしていかないとね」

 

 

アスランの高い士気を見て、キラは微笑を浮かべながらも決意の硬さをお互いに再認識させる。

 

『言葉で真意を示し、力で行動を示す』事。

 

何度も迷い、道を間違えては進むべき方向を見失って彷徨う事が少なくなかった2人がZEUTH、ZEXIS、そしてZ-BLUEと共に戦ってきて学んだ事の内の1つだ。

 

幼い頃から親友でありながら、時に敵対する事が少なくなかった故に数々の衝突を繰り返していた。

 

そんな2人がもう迷わず、互いを信じ続ける為の対策として生み出した物こそ、言葉で互いの意志を確認するという単純でありながらも、今まで難しかった方法だ。

 

この2人の信頼の厚さから生まれる絶妙なコンビネーションの前に、敵若しくは演習相手が数多く破れてきた事を考えれば、キラとアスランは最適なコミュニケーション方法を実践していると言えるのだろう。

 

 

「シン、ルナマリア。シミュレーターにBETAの本拠地のデータが反映されたらしい。俺達で挑んでみないか?」

 

 

別の場所ではシン、レイ、ルナマリアが集まっていた。

 

普段自ら話しかける事の少ないレイからの提案に、シンとルナマリアは驚きを見せる。

 

 

「どうしたんだよ。レイから何か誘ってくるのって、結構珍しいな」

 

「何かあったの?」

 

 

心配そうにする2人の反応に、失敬だと言わんばかりに眉を潜めるレイだったが、直ぐに訳を口にしてみせると、シンとルナマリアの表情が変わった。

 

 

「俺達三人の連携で、どれだけの戦果を叩き出せるのか知りたい」

 

 

真面目な表情で話を持ち掛けるレイに、シンとルナマリアが目を見合わせ、一度頷いてからレイに向き直る。

 

2人の目は輝いていた。

 

 

「良いわね、ソレ。Z-BLUE内じゃ私達の実力は測りにくいものね」

 

「ああ。俺達三人で今度の敵にどこまで通用するのか、試してみるのは悪く無いかもな」

 

 

シンとルナマリアの肯定に頬を緩ませて笑みを浮かべるが、直ぐに表情を引き締め直すしたレイを先頭にして、シミュレーターの置いてある場所に早足で向かって行った。

 

Z-BLUEでは、ガンダムよりも強力な機体はごまんと居る。

 

加えて、兵器としての能力は上から下まで幅がある事に加え、大勢で出撃するからこそ、個々の実力の高さを確認出来る場が少ないのだ。

 

常識外れな特機の中に混じって戦っていると、技量を含めた実力が良く分からなくなってくる事が多々ある。

 

故に、レイの疑念は当然の物であり、それに闘志を燃やすシンとルナマリアもまたおかしな話では無かった。

 

 

「リディ少尉、今の聞きましたか? 俺達も挑んでみましょうよ」

 

「それは構わないが…2人でやるのか?」

 

「やってみないと分からないですけどね。行きましょうよ」

 

「ああ…」

 

 

レイ達に触発されたバナージもまた、リディを連れてハイヴ内の観測データ――ヴォールクデータに挑もうとしていた。

 

それから数日後、ヴォールクデータのタイムアタックを競い合うという、この世界の衛士達からすれば狂気地味た訓練がZ-BLUE内で一般化されていたという。

 

 

 

 

 




Z-BLUEの復旧作業が早過ぎると感じる方がいらっしゃるかと思われますが、私は妥当だと思っております。

カオス・コスモスや惑星エス・テランでの連戦に継ぐ連戦とかを考えれば、こんな感じで良いのかなと…

マブラヴ世界やBETAには何も考慮していないのが、丸見えですね(笑)

これぐらいじゃないと、全並行世界を巻き込んだ大崩壊なんか止められない(白目)

何か不明な点、若しくは違和感を感じれば、直ぐに報告下さい。

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