to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫   作:(´神`)

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小説のあらすじ欄に活動報告の更新のお知らせを載せる事にしました。

小説が投稿されずとも、相談や報告等が多少生じるかと思うので、気になれば覗いて気軽にコメント書いてくださると幸いです。



第一章 (2)

《1998年8月24日 11時19分》

 

「各員、資料に目は通したな?」

 

 

日本帝国から参戦許可とBETAの情報を受け取ったZ-BLUEは、交戦中である帝国軍白陵基地に真っ直ぐ向かっていた。

 

ネェル・アーガマとラー・カイラムに分かれて搭乗しているパイロット達は、それぞれの艦のモニターに映されたバアル――BETAの資料に、こぞって目を通している。

 

資料に記載されているインベーダーや宇宙怪獣顔負けのゲテモノ生物とこれから戦うのだ。未知の存在と戦う以上、相手の情報を知らないまま相対するという選択肢は、Z-BLUEには存在しない。

 

 

「優先順位としては光線級、重光線級を見つけ次第片付ける事ぐらいで、BETAのそれぞれの脅威度としては宇宙怪獣やインベーダー達と比べれば低い」

 

「問題は数か」

 

 

ブライトの説明に付け足すように、そして確認する様にアムロがブライトの顔を見る。

 

 

「そうだ。先程確認されたBETAは現時点でも7万を超えている。当然、これ以上BETAの数が増える可能性もあるだろう。恐らく、何度も補給しながら戦い続ける必要がある筈だ。各員、戦艦から離れすぎるなよ。それと本隊がここに居ない以上、あまり無茶をしすぎるな」

 

 

ブライトの忠告に、皆が力強い目で了解の合図を見せる。

 

Z-BLUEは大規模戦闘というのに慣れている、極めて特殊な部隊だ。一度の戦闘で7万以上の軍勢と戦った事は沢山という程でも無いが、インベーダー、ELS、宇宙怪獣、ムガン、バジュラと思いつくだけでも幾つかは出てくる。

 

無論、これらと戦ったのはZ-BLUE単独では無い時もある。だが、その殆どをZ-BLUEのみで撃破しているのだ。今更、たった7万の敵に臆するパイロットは一人も居ない。

 

だが、その殆どが本隊と共にというのが大きい。この先遣隊にスーパーロボットはたった一機を除いて派遣されていないのが現状である。

 

強靭でありながら単騎で凄まじい火力を誇る一騎当千のスーパーロボットは、地球で使用するには憚られる装備なども幾つか存在するが、それでも大多数を相手取って尚、Z-BLUEの部隊全体の損傷率が格段に低い原因は、スーパーロボットに頼るところが大きいからだ。

 

スーパーロボットが少ないから勝てないという訳では無いが、自身の懸念が現実の物とならぬよう、ブライトは何処からとも無く微かに湧き上がった不安を胸の奥にそっとしまう。

 

 

「後はいつも通りだ。BETAを殲滅しつつ前進して追い返すぞ。ただし、戦地にはまだ日本の機動兵器が戦闘中だ。気をつけろよ! では、タッグを確認する。」

 

 

ブライトの言葉にブリーフィングに集まっているパイロット達も、モニターの中から話を聞いているネェル・アーガマのパイロット達も姿勢を伸ばして耳を傾ける。

 

 

「アムロ・νガンダム、シャア・サザビー。クェス、ギュネイはヤクト・ドーガだ。ファンネル持ちは、ファンネルの消耗を抑えろよ」

 

 

ファンネルを操るパイロット達が声には出さずとも肯定の意志を示す。

 

 

「カミーユ・Zガンダム、フォウ・バイアラン・カスタムだ。ノイン、ヒルデもトーラスで出てくれ。カトル・サンドロック改、トロワ・サーペントだ。ラー・カイラムの直衛はカツ、ハサウェイ。お前たちのリゼルとジェガンが頼りだ。ネェル・アーガマはコンロイのジェガンとナイジェルのジェスタに掛かっている。特にコンロイのメガ・バズーカ・ランチャーは重要だ。何がなんでも破壊されるな!」

 

「分かりました!」

 

 

コンロイの力強い返事にブライトも満足そうに頷く。コンロイは裏方仕事や地味な仕事が多い分、戦局において派手に活躍することは滅多と無い。それがこうも頼りにされれば、少なくとも彼の気力が30くらいは上昇するだろう。

 

 

「白陵基地と呼ばれる基地で、日本軍を支援しつつ戦闘を行う。そこで、ファのメタスには日本軍の機動兵器のデータを取りつつ、エネルギーパックの補給や修理の手伝いをして貰いたい。それに伴い、基地はエマ・ガンダムMk-Ⅱ、マリーダ・クシャトリア、ハマーン・キュベレイを中心にして援護してくれ。呼ばれなかった者は、いつも通りだ。タッグの相手は居ないから油断するな!」

 

「「「了解!」」」

 

 

パイロット達は話が終わるや否や、ブリーフィングルームから一目散に消えていった。

 

 

「メラン、白陵基地との連絡は取れたか?」

 

「いえ、駄目です。一向に繋がりません」

 

 

ブリッジに戻ったブライトが副艦長であるメランに声を掛けるも、メランは申し訳無さそうな表情をしながらもキッパリと答えてのける。

 

 

「ふむ…基地での戦火が確認出来るのに、司令室は無人か…? 妙だな」

 

 

ブライトが訝しむも、今は答えは出ない。白陵基地にかなり近づいている事で、ブライトは気を引き締め直して艦長の席に座った。

 

ラー・カイラムとネェル・アーガマが白陵基地目前まで接近すると、白陵基地には数百体のBETAが一目散に侵攻しており、後続のBETAも一秒毎に数を増しながら地平線の向こうから押し寄せる様に湧き出る光景をモニターに捉える。

 

 

「まずは後続のBETAを一掃する! オットー艦長、ラー・カイラムのメガ粒子砲とネェル・アーガマのハイパー・メガ粒子砲で同時に攻撃するので、ラー・カイラムと並んでくれ!」

 

「了解した! タイミングはそちらに任せる!」

 

 

オットーの言葉と同時にラー・カイラムとネェル・アーガマが並走とエネルギー充填を始める。

 

BETAも白陵基地の後方から迫る二隻の戦艦を発見したのだろう、複数の光線級から放たれる光線が直撃する。主砲の発射体制にある以上、中断して避ける訳にはいかない。

 

衝撃で艦が揺れるも、それに怯まず即座にブライトが叫ぶ。

 

 

「基地には当てるなよ! メガ粒子砲、一斉射撃! 撃て!」

 

「ハイ・メガ粒子砲、発射だ!」

 

 

ブライトに合わせてオットーも叫び、次の瞬間には白陵基地を挟んだ向こう側までが緑のハイパー・メガ粒子砲により、大地が一気に禿げ上がるように削り取られ、左右の残ったBETAをラー・カイラムのメガ粒子砲が蹴散らす様に消し飛ばした。

 

進撃する圧倒的な数のBETAの群れが、たったの一瞬でその九割が無に還った瞬間だった。少なく見積もってもこの数秒で7000以上を仕留めただろう。

 

 

「よし、各機を出撃させろ! まずは基地内の兵士達を救出するんだ!」

 

 

ブライトの言葉と共に、ラー・カイラムとネェル・アーガマから次々に機体が飛び出していった。

 

今ここに、多元世界最強の戦闘集団『Z-BLUE』が正式に参戦した瞬間だった。

 

 

 

 

 

白陵基地の正門前では、帝国軍の本土防衛軍の生き残りが文字通り死力を尽くして奮闘していた。補給を受けている味方の下までBETAを辿り着かせない様、補給が済んだ者から正門に集まって必死に基地内を防衛していた。

 

白陵基地に撤退してきた時には既に基地の中に人は残っていない様で、司令室ですら撤退命令が出た後は応答が無かったが、それでも基地の中の残された補給物資を使用しながら交代で基地に襲来するBETAを倒していた。

 

だが、己等が戦線から離脱してきた道を通ってBETAが追いかけてきた事により、断続的に迎撃を強いられて早十分。

 

最初は数体だけだったBETAが20、30、50、と見る見る内にその数を増やしてきたのだ。三度目の増援を倒したと思った次の瞬間、レーダーは押し寄せる旅団規模のBETA群の反応を感知していた。

 

 

「このままでは不味いぞ! そっちの補給はまだなのか!?」

 

 

数時間前の戦闘で要撃級に右手を拉げるように折られた撃震を駆る本土防衛軍の中隊長が、正門前まで来た要撃級に最後の120㎜滑腔砲を浴びせて撃退し、交代で補給と援護をしてきた同じ生き残りの国連軍の衛士達に尋ねる。

 

 

「駄目だ! もう少し掛かる!」

 

 

今現在、白陵基地には本土防衛軍のセスタス中隊5人と、国連軍のペガサス隊が4人残っているのみだ。先程の戦闘で消費した弾を再補充しているペガサス隊は、補給を中断しなければ新たにやってくるであろう何千ものBETAに飲み込まれる事は確定していた。たった9人の内、4人もやられれば次は自分達の番だ。決して人事では無い。

 

まがりなりにも、厚木基地の第二次防衛ラインから、数十キロもの間。ここまで即興でカバーし合いながらも生き延びてきたのだ。今更見捨てられる程、セスタス隊の隊長――白神は無情では無い。

 

思考を巡らせている最中にもBETAがどんどん近づいてくるのが見えている、その時。

 

 

「隊長! 北東から二機の巨大戦艦を確認しました! 援軍だそうです!」

 

 

部下のセスタス3に言われると同時に後方を振り返ったのと、どちらが速かっただろうか。

 

 

「うっ…!!」

 

 

極太の緑のビームが視界一杯に広がり、思わず手で光を遮りながら顔を背けて痛む目から光を庇う。

 

数瞬経ってようやく視界が回復し、感覚的には基地に到達している筈のBETAの襲来を感じない事に疑問を抱いた白神は、理解不能な極光の所為で回らない頭を必死に振ってレーダーを見やると、そこには先程まで確かに存在していたBETAの反応が無くなっていた。

 

 

「なんだ……これは……」

 

 

自身らを屠らんとしていた忌々しいBETA達が、レーダーからも視界からも忽然と消えていたのだった。目の前で起こった事が余りにも信じられず、絞り出した声は僅かに震えていた。

 

気づけば、巨大な白い戦艦が静かに浮きながら白陵基地を守護するかの様に、西と南西の空中で停止している。次々に起こる怪奇現象に理解が追いつかない頭を何度も振って冷静に戻ろうとするも、先ほどの光が奔る光景を思い出しては自分の頭がおかしくなったのかと混乱する。

 

 

「そこのパイロット達、大丈夫ですか? こちらはZ-BLUEのファ・ユイリィです。補給と救助の手助けに来ました!」

 

 

声のする方に機体のカメラを向ければ、全高が18メートルある撃震よりもニ回りは大きいだろう、黄色い戦術機が目の前に空中から降下してきた。恐らく援軍である謎の巨大戦艦から出てきたのだろう事は、働かない頭でも辛うじて理解は出来ている。

 

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 

失礼な話だが、今の白神には相手の女性の話をマトモに聞けなかった。いや、聞くどころでは無かったのだ。

 

何故なら、黄色い戦術機越しに見える離れた向こう側で、青い盾を持った白い戦術機が『宙を跳んで飛来する光線を紙一重に避けながら』BETA群をレーザーで長距離射撃して吹き飛ばしている凄まじい光景がチラチラと目に入って仕方なかったのだ。

 

宙に浮かぶ白い巨大戦艦も、目の前の黄色い戦術機も、遥か前方で戦ってる白やら緑やら色も形も粒ぞろいの戦術機達など見たことも聞いたことも無く、帝国の戦術機では無いのは明白だ。

 

そもそも戦い方からして、お世辞にもBETAに慣れているとは言えない。光線級の前で飛び上がる等常識外れもいい所だ。光線級の光線は正確無比の超長距離射撃だ。遮蔽物の無い空中に逃げるのは、どんな精鋭機であっても回避出来る訳では無い以上、只の死にたがりとしか思えない。

 

しかし、技量や機体の性能でBETAを制圧しているのは見て分かる。現に、幾つかの機体は光線を紙一重で避けている。それを可能とする腕とインターフェイスを持つ戦術機など、アメリカの実験機でも不可能だろうと考えた所で、思考を辞めた。

 

一介の衛士がアレコレ考えても仕方ないというのもあったし、そもそも考える余裕が無い。

 

これが夢幻でないとようやく実感した以上、多いとは言えない援軍の部隊が大枚するBETAを一切寄せ付けないというこの現実が、待ちに待った人類の反撃の第一歩を見たのだという興奮が、数多もの同胞を無情にも貪り食らったBETAに神の鉄槌が落ちたとすら思える感動が、白神を襲っていたのだ。ファと名乗った女性に、涙ぐみながらも自分の部隊の補給と修理を頼む事にした。

 

 

 

 

 

「気持ち悪いやつっ! このっ! このっ!」

 

 

白陵基地の南西に位置を一端固定したラー・カイラムから飛び出し、地面に降りた先で待ち受けていた要撃級を真っ先に屠ったのはクェスだった。

 

ヤクト・ドーガに群がる様に近寄る要撃級6体に、クェスは嫌悪感を剥き出しにしながら片っ端からビームガトリングガンを浴びせる。

 

13歳の少女が相手にするには、生理的に受け付けづらい見た目をしているBETAには当然の反応だ。

 

 

「クェス! 前に出過ぎるな! クソっ…!」

 

 

クェスとタッグを組み、お守りを任されているのはギュネイだった。

 

優れたニュータイプであるクェスがこの程度でやられる事は無いが、ギュネイはクェスを好いている所為もあり嫌悪感から叫んでいるのを、焦っている様に見えては必死にフォローに入ろうとビームアサルトライフルを近くの小型種に浴びせる。

 

 

「大丈夫か、クェス! 俺と呼吸を合わせろ!」

 

「大丈夫よ、ギュネイ。でも、こいつらとっっても気持ち悪いんだもの! 早くやっつけちゃわないと!」

 

 

ギュネイの心配は何処へやら、クェスは存外に焦った風も無く答え、戦意を高い状態で維持していた。

 

予想と反した反応にギュネイが少しばかり硬直しているのも構わず、後続のBETAの方にシールドを向けて四連装メガ粒子砲を発射する。

 

 

「ギュネイ、あんた大丈夫? 体調悪いの?」

 

「い、いや…大丈夫だ。フォローに回る!」

 

 

クェスの方を見ながら動かなかったギュネイに心配そうに声が掛かるも、ギュネイは気を持ち直して直ぐに戦列に加わった。

 

 

(何やってるんだ、俺は…! 大佐よりもやれるって実力を見せつける良い機会じゃないか! 俺がしっかりフォローしてやらないと…!)

 

 

見当違いの過剰な心配を見せてしまったのを恥ずかしく思っていたギュネイは、クェスにそれを悟られていない事を察知して、ホッと息を吐いてからフットペダルを踏み込み、ファンネルを展開しながらクェスを追いかけた。

 

 

 

 

 

所変わって、ラー・カイラムから飛び出したとある一機が、相模湾上空にて下の海に浮かんでいるボロボロの戦艦を見下ろす様に浮かびながら、力強く腕を組んでいた。

 

 

「そこの戦艦! 誰か乗っているかい?」

 

 

通信をしても、返答は帰ってこない。誰も乗っていないと分かっていながらも、敢えて確認した事に、思わず微笑を溢していた。緊張を解きほぐす様に少しだけ息を吐いて、心の中で呟く。

 

(皆と一緒に戦うんだ、力を貸してくれ…)

 

 

「行くぞ、ヴァンセット! エキゾチックマニューバ!」

 

 

先遣隊唯一のスーパーロボット、ヴァンセットに乗るニコラは思いっ切り叫んで自らの超能力である遠隔離操作を発動する。

 

ヴァンセットが白い翼を目一杯広げ、翼に隠された左右五対の目の様に見えるアンプリファを展開する。ニコラスのトップレス能力を増幅させるアンプリファごと翼を揺らすようにすると、周囲の風がヴァンセットを中心に渦巻き始め、周囲に星形のフレクシン発光が発生し始めていた。

 

瞬く間に頭頂部から額周辺に始まり、機体の周りに迸るフレクシン発光が次第に強くなると共に、アンプリファがカメラのシャッターの様にカシャカシャと動き出し、それに合わせてボロボロの戦艦が軋むとも唸るとも取れる音を発しながら動き始めた。

 

 

「今度のは小さいけど、怪獣退治はお手のものだ!」

 

 

生き生きとした笑顔を浮かべながら自分に言い聞かせるように言い放ち、白陵基地に向かうBETA群に水陸両用の手足の生えた怪獣に変化させた戦艦を突撃させ始めた。

 

 

 

 

 

ネェル・アーガマ付近では、母艦と背後に控える白陵基地に近付かせぬようにナイジェルとコンロイが、味方部隊の攻撃をすり抜けてきた小型種を中心に一掃していた。

 

余りにも数の多いBETAのその殆どはファンネル持ちの機体やエース機により、レーザー属種と要塞級を完全にシャットアウトされており、数の減った突撃級や要撃級と小型種全般を相手するだけで済んでいる。

 

といってもその数はかなり多いのだが、約一名BETAの数に気力を左右されない(本日限定)男が居た。

 

 

「今ならば、何体だってやれる! うおぉ!」

 

 

雄叫びを挙げながら左手にビームライフルを切り詰めたハンドガンと、右手に持ったダガー・ナイフで、瞬時に目の前のBETAに優先度を付けながら次々に撫で斬りにし、撃ちぬいて無力化していた。

 

 

「コ、コンロイ…エネルギーを使いすぎるなよ…?」

 

「ああ、大丈夫だ! 頭の中でずっとFIRE BOMBER達の『TRY AGAIN』が掛かっているんだ! 今の俺になら、何だって出来る気がするぞ!」

 

 

ナイジェルは、見たことの無い程のハイテンションで応えるコンロイを見ると更に心配になるが、コンロイは自身に近寄るBETAの中で脅威度を瞬時に感じて対処しており、コンロイが乗っているとは思えない――それこそ、カミーユやマリーダ程のパイロットが乗っていると錯覚しそうになる程の三次元機動と予測を瞬時に行う怪物と化していた。

 

現に、戦闘が開始してからコンロイのジェガンは、推進剤とハンドガンの弾しか消費していない。最小限の動きと最小限の弾で突撃級や要撃級を始末し、戦車級の飛び掛かりに合わせてバーニアを吹かしては、すれ違う様に躱しながらダガー・ナイフで一閃していた。

 

嫉妬を覚える事すら出来ないコンロイの勇姿は、ナイジェルにとって文字通り『輝いている』様に見えた。

 

 

「コンロイ、西からお客さんだ! 浴びせてやれ!」

 

「待ってたぜ!」

 

 

オットーの通信に爛々とした目をしながら応えるコンロイはネェル・アーガマの上に固定していたメガ・バズーカ・ランチャーの下に全速力で向かい、狙いを定める。ジェガンの頭部バイザーをずらして装着し、口角を釣り上げながら角度を微調整してメガ・バズーカ・ランチャーの引き金を引く。

 

メガ・バズーカ・ランチャーの銃口から放たれた水色の粒子の軌跡は、地平線の向こうから湧き出るように出現したBETAを入れ食い状態で蒸発させていく。

 

長い照射を終えて、現れたばかりだったBETAが何事も無かったかの様に消えたのに満足したコンロイは、ヒューッ! と短く口笛を鳴らして得意気にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白陵基地内で、ファの補給を受け始めたセスタス隊は少しだけ息抜きをしていた。

 

戦地ですることでは無いが、圧倒的な戦力で守られていると五時間の戦闘で溜まった疲労が出てくるものだ。息抜きと言っても、撃震のコクピットから降りて少しだけ体をほぐしていただけだが。

 

しかし、幾ら強力な者に守られてると言っても、気を抜けば危険だ。戦場ではいつ何が起こるか分からない。それを体現する様に、正門から離れた基地内の壁の一部が、轟音と共に破壊された。

 

白神が音の方を急いで振り返れば、少し離れた所には壁を突き破った突撃級が此方の方を正面にして向き直っていた。

 

 

「なっ!」

 

 

白神は叫んで、突撃級の進行方向と垂直に避けようと体勢を変えるが、恐怖で足が硬直して動かない。今更コクピットに乗る時間など無いが、迷っている時間はもっと無い。走り始めた突撃級に視界を固定して、動くことが出来ずに死を覚悟した白神は気付かなかった。

 

スローモーションとなった世界で、基地の外壁を跳躍して跳び越え、今まさに白神達を屠らんとする突撃級の上に現れた白い歪な機動兵器に。

 

 

「はああぁっ!!」

 

 

突撃級の『前の地面』にハンマーが振り下ろされ、直後に大きな爆発が発生する。

 

 

「うわっ! …ひぃっ!!」

 

 

そして次の瞬間には煙の出ている場所から、ひっくり返りながら吹き飛んだ突撃級が白神の目の前に落ちてきた。

 

突撃級の何処にも傷は見当たらないが、白神の目の前でひっくり返った巨体がジタバタと三対の足を藻掻くように動かしていた。

 

 

「引っ繰り返れば、ただのデカイ虫だな!」

 

 

煙から出てきた、カエルに似た頭部と白いタマゴ型の胴体が特徴的な小さい機動兵器が、手に持っている先端から煙の出たハンマーを地面に放り捨て、背部の腰にマウントされていた57mm散弾砲ボクサーを取り出し、手でスライドさせて空の薬莢を外しながら歩いてくる。

 

 

「そこのパイロット、ここは危ないぞ。下がっていろ」

 

 

タマゴ型の戦術機に乗る衛士に忠告された白神は、現に腰を抜かして地面にへたり込んでおり、急いで立ち上がって撃震に乗り込んだ。

 

乗り込んだ際、丁度タマゴ型の戦術機が57mm散弾砲ボクサーで柔らかい突撃級の腹部を一撃で撃ちぬいていた。冷静になってよく見れば、さっきの爆発跡で急激に凹んだ部分に、一部だけ三角錐の抉れた跡があった。

 

 

「(…この人…只者じゃない…!)」

 

 

白神がそれが何なのかを理解出来た時には、心の中で呟かずには居られなかった。

 

その爆発跡は、突撃級の目の前の地面を穿って転倒させる事を狙って造られた穴なのだと理解したのだ。突撃級は巨体かつ、安定した重心を持っている所為で転倒することは不可能に近いのだが、それを爆風と傾斜の付いた深い穴、そして速度の付いた突撃級の勢いによって成し得たのだと。

 

それを裏付けるかの様に、注視してみれば爆発跡が地面と直角ではなく、少し角度を付けている様に見える。

 

推測であるが、突如現れた8メートル程のタマゴ型の戦術機では、他の戦術機と違って真正面から火力でBETAを倒せないのかも知れない。だが、それを咄嗟の『戦術』で可能にする恐るべき技量を持った衛士である事は、白神にだって理解出来た。恐らく、あれが『エース』で斯衛軍かそれ以上の技量を持っているだろう事も。

 

恐るべきタマゴ型戦術機を見ていると、その背後の奥にある突撃級が作り出した壁の穴から、一匹の戦車級が侵入してきた。

 

 

「オイ、後ろだ!」

 

 

白神は思わず指を指して叫ぶ。8メートル程度の機体では、戦車級に一噛みされただけで中の衛士諸共お陀仏だろう。だが、白神の叫びが聞こえていないかの様に、タマゴ型の戦術機は動かなかった。もう一度叫ぼうとした時――

 

 

「ふももももーっ!」

 

 

基地の建物から窓ガラスを割って『何か』が飛び出し、一度だけ銃声が鳴り響く。起こるであろう悲劇を想像して瞑った目をゆっくり開けた。

 

 

「…えっ…? え?」

 

 

崩れ落ちた戦車級の上で、倒した獲物を誇る様に死骸の上で佇んでいたのは――

 

 

「ふもっふ!」

 

 

――戦場には非常に不釣合いで場違いだが、なんとも言えない程可愛らしい着ぐるみだった。

 

 

「基地内の様子はどうだ?」

 

「ふももふ、ふも!」

 

 

タマゴ型の戦術機の衛士が『謎の着ぐるみ』に話しかけるも、『謎の着ぐるみ』はふもふもとしか言わない。生きていて今まで、これほどシュールな状況を見てきた事の無かった白神には、頭を整理する事が出来なかった。

 

 

「…後で詳しい状況を聞かせてくれ」

 

 

それだけ伝えると、タマゴ型の戦術機は基地の壁を飛び越えて再び外に。『謎の着ぐるみ』はふもふもと喋った後、突撃級の作った壁の穴から外に出て行ってしまった。

 

タマゴ型の衛士の反応からすると、着ぐるみの言っている言葉が分かったのかどうかは判断出来ない。

 

 

「隊長ーっ!」

 

 

ふと、背後から自分を呼ぶ部下の声に気付き、何も無かったかの様に顔をなんとか取り繕って、部下の方に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月24日 13時53分》

 

Z-BLUEから僅か数分で全機の補給を受けた本土防衛軍のセスタス隊と国連軍のペガサス隊が、Z-BLUEの指示により白陵基地を離脱してから早二時間が経過した。

 

 

「ラー・カイラム、ネェル・アーガマ共に未だ軽微損傷です」

 

「そうか、分かった」

 

 

メランからの報告に相槌を返すブライトは、戦闘時間を一時間を超えた所である不安に駆られていたのだった。

 

そんな事は無いのだと。気のせいだと思いたいのだが、ブライトには尽きぬ疑問が生じていた。

 

 

「7時方向に重光線級の出現を確認! 速やかに対処してくれ!」

 

 

メランの指示に即座に最前線に居るマリーダとハマーンが、複数の重光線級を素早く始末する。

 

(まただ…また…)

 

ブライトは自身の疑問に確信を覚えるが、それを口には出さなかった。何故なら、それを言った所で、何がどう不安なのかは伝えれなかったのだ。しかし、戦闘時間が伸びるに連れてブライトの疑問は着実に確信に変わり、悪寒すら覚える始末だ。

 

不安を隠しながら艦長として指示を飛ばしていたが突如、補給と修理を受けたばかりのアムロとシャアから、ラー・カイラムのブリッジに絶叫と言っても過言では無い通信が入る。

 

 

「避けろブライト!!」

 

「っ!! 急速前進だ! 急げ!」

 

 

全力で叫ぶような警告を聞き、全身に電流が走った様な感覚がブライトを襲いながらも、最速で指示を飛ばす。そして次の瞬間、地面には轟音が響き、円形で正面は直径150メートルを超すだろう巨大な円柱状のBETAが、少し離れた所からラー・カイラムの方を向いて地中から突如現れたのだった。

 

 

「シャア!」

 

「分かっている! ファンネル!」

 

「させるかぁーっ!!」

 

「間に合って!」

 

 

アムロが飛ばしていたファンネルを回収しながら、シャアと近くにいたカミーユ・フォウと共に巨大なBETAに全速力で近づく。

 

しかし、ラー・カイラムが急速発進し始めた時に巨大BETAの口が開いた。

 

そしてそこには、円形の口の中にビッシリと詰め込まれていた光線級と重光線級がラー・カイラムの方を見ていた。次の瞬間、巨大BETAの口の中が光り輝く。

 

ラー・カイラムのブリッジ諸共やられると思い、ブライトが咄嗟に目を瞑った時――

 

 

「やらせない! ぐわああぁぁっ!!」

 

 

バスターメガテックPKにより、2つの怪獣戦艦とヴァンセット自身を射線上のブリッジの前に割り込んだニコラが、ラー・カイラムの盾となっていた。

 

 

「うおおおおぉっ!!」

 

「落ちろ!」

 

「消えろーっ!」

 

「当たって!」

 

 

四人の一斉攻撃により、巨大BETAのレーザー攻撃の照射は数秒にして収まった。

 

 

「被害状況はどうなっている!?」

 

「破損率41%! メインエンジン出力低下! 飛べません!」

 

 

咄嗟のニコラの判断により、多少は減衰されていたものの、僅か数秒にしてBETAの放った驚天動地の一撃により、ラー・カイラムはかなりのダメージを負っていた。それだけでは無い。ニコラの怪獣戦艦は中腹部が大きく円形に溶解されており、ヴァンセットも大破とは言わないにしても、かなりの大ダメージを負っている。

 

体勢を崩していたブライトが忌々しく巨大BETAを見れば、νガンダムの戦艦の主砲クラスの威力を誇る最大出力ビームライフル、サザビーの腹部から発射される高威力のメガ粒子砲、Zのハイパー・メガ・ランチャー、バイアラン・カスタムのメガ粒子砲により、自身が放ったレーザーよりも更に高火力なビームを万遍無く浴びた巨大BETAは、その入口から内部に至るまでドロドロに溶解されていた。

 

先程からブライトの疑念にあったのは、この一時間近く、『光線級の出現が確認されなかった』事と、『重光線級の出現頻度が少しずつ減っていった』事だ。

 

それを報告するべきかと思っていた矢先の出来事に、ブライトは後悔して思わず頭を抱えながらも、艦長としての責務を果たし、これ以上状況の悪化を招くまいと、すかさず指示を飛ばす。

 

 

「各機、ラー・カイラムのエンジンが復帰するまで援護しろ!」

 

「「「了解!」」」

 

「ニコラ! 聞こえるかニコラ! ……くそっ! ファ、ヴァンセットをラー・カイラムまで急いで運んでくれ!」

 

「分かりました!」

 

 

今、Z-BLUEは危機に瀕していると言っても過言では無い。当然の話だが、戦艦がやられる訳にはいかないが、周囲には七万近く倒しても未だ確認出来ているだけで、五千以上のBETAが周囲に存在しているのだ。そして、ラー・カイラムを庇って、この場唯一のスーパーロボットが戦線離脱してしまった。

 

正直な話が、こんな所で動けなくなっている場合では無い。だが、今戦場にはZ-BLUEしか存在せず、この場の全てのBETAをたった一部隊だけで受け止めているのが現状だ。意志をもたないと言われているBETAの今回の行動がZ-BLUEの出鼻を挫く事だと言うなら、それは大成功だと言えるだろう。

 

 

「ブライト司令! ご無事ですか!?」

 

「ああ、乗組員は問題無いだろう」

 

 

焦った様に通信を寄越してきたオットーに、ブライトは無事を伝える。

 

 

「オットー艦長。先程のBETAの動きからして、情報通りにBETAは『戦術や戦略を使用しない』と思うか?」

 

 

ブライトから投げかけられた疑問にオットーは唸って考える。思考する間も、BETAが密集している地域を見付ければ即座に対応している所から、時獄戦役時とは比べ物にならない程頼りになる艦長に成長したと言える。

 

 

「うぅむ…BETAとの戦闘経験が無い以上なんとも言えんが、我々に対抗策を取る必要が向こうにあったのか、それとも今まで戦術というものを取る必要が無かっただけなのか…」

 

 

そう溢したオットーの横で、副艦長のレイアムに「…後者に於いては、この世界の軍隊に失礼では?」と返されてはオットーが不意打ちを食らい、大いに咽ている。しかし、その答えを聞いてブライトはある程度得心がいった。

 

 

「この事は今後も十分に留意しておこう。今度はどんな突飛な作戦で急襲されるか分からない。あの大型BETAの事もある」

 

「…そ、そうですな!」

 

 

それだけ言い終えると、ブライトは主砲であるメガ粒子砲の発射準備を急がせはじめた。

 

 

 

 

 

「ええい、ちょこまかと小賢しいヤツめ! 消えろ!」

 

 

一向に数を減らさないどころか、数を増やし始めたハマーンは苛立ちを募らせながら叫んだ。

 

ラー・カイラムが航行不能になってそろそろ二十分経とうかという所だが、BETAがラー・カイラムに止めど無く襲来している為、以前よりも周囲のBETAの密度は増加し、光線級も入り乱れて凄まじい戦場になり果てている。

 

 

「マリーダ、あのデカブツを撃て! 周囲の俗物は私に任せろ!」

 

「分かりました!」

 

 

ハマーンの援護を受けながらマリーダはクシャトリヤの操縦桿を前に倒して、要塞級に接近する。要塞級は鉤爪状の衝角を飛ばすが、衝角の進行方向に合わせて緑色のビームサーベルを構えるだけで、魚に包丁を入れて開くかの如く、素早く無力化してみせる。

 

 

「消え去れっ!」

 

 

マリーダが衝角を無力化した要塞級の顔を、『四枚羽』と言われるほど特徴的な4基の大型バインダーに搭載されたサブアームで固定し、メガ粒子砲をゼロ距離で接射した。

 

当然それに要塞級が耐えられる筈も無く、胴体そのものが溶解されて消し飛び、残された無残な脚部が倒れて周囲の小型種を巻き添えにしていた。

 

 

「くっ…! ファンネルが!」

 

 

一方ハマーンは、ビーム・サーベルを突撃級に突き立て終えた際、突撃級の背後に隠れていた光線級に最後のファンネルを撃ち落とされてしまった。

 

 

「閣下、ここは私が! 一端お下がり下さい」

 

 

ハマーンとタッグを組んでいたマリーダがビームガンとマシンキャノンで光線級を含めた周囲の小型種をなぞるように撃ちぬいて殲滅する。

 

 

「フ……マリーダ、後退しながら蹴散らすぞ!」

 

「はい!」

 

 

ハマーンは増え続けるBETAの圧力に、少々冷静で無かったと内心反省し、微笑を溢して後退を始める。

 

 

 

 

 

ハマーンが後退した直後、ラー・カイラムの動力が復帰し、ようやく空中に浮かび上がる。

 

それまでの『一匹も通してはいけない』という精神的負担から、少しだけ開放されたZ-BLUE先遣隊だが、事はそうもうまくいかなかった。

 

 

「皆、よくやってくれた!」

 

「ブライト艦長、格納庫からの通信です」

 

 

メランの報告に、喜んでいたブライトが表情を引き締め直す。

 

 

「こっちに回してくれ。…チェーンか。どうした?」

 

「ブライト艦長、不味いです。このままでは弾薬が底を尽きます! 今はまだ少しだけ余裕がありますが、このままでは50%を切るのも時間の問題です!」

 

 

戦闘部隊にとっては非常に致命的で、耳を塞ぎたい報告のトップを争うであろう悲報に、ブライトは思わず天を仰ぎ見ていた。

 

この世界の地球に降りてくる際、一番の不安の種だった弾薬や武器の底が見え始めるという事態に、この時この場面で直面させられたのだ。

 

最後に各艦に補給してから、御使いとフェイク・スフィア。そしてアドヴェントとの大激闘を繰り広げ、そこでかなりの装備や弾を始めとした物資を消費したのだ。そこから補給無しでこの地球に来て、大軍勢を相手にしているのだ。仕方が無いとも言える。

 

弾が無ければ、全然戦えないという訳ではないが、近接戦のみでBETAの大群を相手取るのは、流石のZ-BLUEでも非常に苦しいのは必然だ。不利になれば精神的なストレスが生まれ、もっと戦況が不利になるだろう。

 

三時間程度の戦闘とはいえ、既に8万という大群を無に返したというのに、BETAの数は底を見せるどころか、一時間前と何も変わっていない様にすら見える。多元世界で一番諦めの悪いZ-BLUEでも、これ以上同じ状況が続けば、士気に関わっても不思議ではない。

 

ブライトは悩む。現在、白陵基地を中心に、南西、西、北西の三方向からの波状攻撃を受けており、それをかれこれ二時間耐え続けているのだ。これ以上ここに居続けるべきか、そうでないか。しかし、悠長に悩んでいられる時間は無い。

 

ブライトの下した結論は――

 

 

「くっ、やむを得まい…一度、後退するぞ! 本隊は戦線を下げて再構築する…!」

 

 

ブライトの命令に、パイロット達は悔しさを滲ませながら了承の意を唱え、レーザー属種を即座に始末しながらも周囲のBETAを排除しつつ、転進するラー・カイラムとネェル・アーガマに飛び乗る様に収容されていった。

 

戦略的にはそうとは未だ決して言え無いが、実質この戦局に於いて――そして、この世界での初めての戦闘は、Z-BLUEの敗北と言える結果になった。

 

 

 

 

 




負けました。Z-BLUEでも大丈夫じゃなかったです。

因みに、初期プロットにもこの敗北は記載されております。

冒頭でブライトは日本軍と発言していますが、この世界では「帝国軍」と呼ばれている事をしっかり認識していませんので、誤字ではありません。

それと、今回から少しずつ他作品ネタを散りばめてます。他作品ネタは活動報告や感想欄にでも募集しております。

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