to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫   作:(´神`)

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申し訳ありません。

超難産です。帝王切開レベルです。

キャラが崩壊してる気がしてますが、してるかどうかすら判別出来ない程に私自身が錯乱しはじめてます。

普通の話作ろうとしたら、気づいたら三流ヒューマンドラマ見たくなってました。


流し読みレベルでお願いします(´;ω;`)



第一章 (1)

1998年。

 

現在、帝国は存亡の危機に陥っている。

 

事の始まりは、春に朝鮮半島撤退支援作戦――通称、光州作戦に参加した事である。

 

だが、この作戦に参加した事が悪いとは誰も言わないだろう。国連軍と大東亜連合軍が合同で行ったこの作戦は、朝鮮半島が重慶ハイブから溢れ出たBETAの猛攻を受け、それに対する救出作戦が目的だ。

 

これに参加しなければ、周辺諸国は日本を冷たい目で見る事は避けられないし、朝鮮半島を前線としてBETAを一匹でも多く減らさねば、朝鮮半島の先である日本までBETAの魔の手は及び、明日は我が身と誰もが容易に想像出来たからだ。

 

しかし、光州作戦時に日本帝国のとある中将の独断により、国連軍司令部が陥落。指揮系統が混乱した結果、国連軍は大損害を被っている。その問題は今となっては決着が付いているが、これに国連軍――掻い摘んで言えばアメリカからの猛反発を受けており、それだけが理由という訳では無いのだが、その煽りは在日米軍の減少に繋がっている。

 

そして、7月初頭。遂に、重慶ハイブから東進してきた大規模のBETAが北九州に上陸してしまったのだ。一月半にも及ぶ奮闘虚しく、見る見る内に戦線は東へ東へと追いやられ、帝都であった京都も陥落。挙句の果てには、佐渡ヶ島にハイブが建設され始める始末だ。

 

これに事態を重く見たアメリカがG弾投下を提案するも、帝国が再三拒否していた。そして先日、日米安保条約が一方的に破棄され、在日米軍の全面撤退が行われた。

 

この理不尽で苦しい状況に、帝国民の誰もが日本の行く末を案じていた。

 

 

 

 

 

《1998年8月24日 相模》

 

 

「第一次防衛ラインにて、光線級の増援を確認! 再び砲撃支援要請です!」

 

「再装填中だ! 後2分、どうにか持ちこたえさせろ!」

 

 

横須賀基地所属の第1戦隊は相模湾にて、西から止めど無く溢れるように進んでくるBETA群に制圧射撃を浴びせる任務に従事していた。

 

BETAの狙いは不明だが、このままでは厚木基地、横須賀基地、そして白陵基地まで飲み込まれる事が予想されるこの戦線は特に重要なものであり、この3つの基地の総力をもってしてBETAを食い止めるのが最優先事項となっている。

 

 

「第二航空支援大隊、全機シグナルロスト! このままでは、第一次防衛ラインが持ちません!!」

 

「ぬぅっ…!」

 

 

第1戦隊所属の戦艦『紀伊』の艦長、徳田は悪化していく状況に悔しさのあまり、自身がつい先程まで使用していた無線機をギリギリと音が鳴る程に強く握りしめていた。

 

西から遥々やってきた圧倒的な制圧力を誇る3万以上のBETA群の前に、お世辞にも戦況は良いとは言えず、現に限定的ではあるが、この場を指揮する立場にある第一戦隊には戦況の不利を伝える報告しか上がってきていない。

 

 

「仕方無い! 第一次防衛ラインに居る全隊を厚木基地まで下がらせろ! 第一次戦隊及び第二次戦隊は、対レーザー弾を用意しろ!」

 

 

徳田はベストな方法とは思っていないが、これを今出来るベターな手段と考え、矢継ぎ早に指示を飛ばす。まだ艦長になって比較的日数が浅い徳田は、ここで前線の部隊を全て消耗させてしまうより、艦隊で基地までの撤退を支援して、一機でも多く消耗させないようにする事を主軸に捉えていた。

 

だが、事態は一度に複数起こるモノであると思い知る。

 

 

「か、艦長!! 我が艦隊の西からBETAの反応を確認しました! 恐らく、相模湾海底を移動していると思われます!」

 

「何っ!? 何処に向かっている!?」

 

「…待ってください! ――っ!? 出ました! 相模湾海底のBETA群の目標は、横須賀基地です!!」

 

 

悲鳴とも言えるオペレーターの叫びに、徳田は戦慄する。これまでのBETAの動きは、相模湾沿いに陸地を移動していた。しかし、新たに出現したBETA群は二手に別れて伊豆半島から相模湾を直接潜って逗子を通過し、横須賀まで一直線に移動しようとしている事になる。

 

海上の艦隊は海中のBETAに襲われる事は無いのだが、このままでは横須賀基地が直接討たれ、海底から地上に這い上がって逗子に到達した光線級から、艦隊に直接光線が飛んでくる可能性も大いにある。そうなれば艦隊支援どころでは無くなってしまい、第一次防衛ラインに居る衛士達の生存も絶望的になるだろう。

 

 

「第八戦術機甲隊を海中に降ろさせろ! 何としてでもBETAの逗子到達を遅らせるんだ!」

 

「了解です、第八戦術機甲隊、出撃お願いします」

 

「了解した。可能な限り時間を稼ぐ!」

 

 

徳田の命令を受けて直ぐ様、複数の潜水母艦と水陸両用戦術機『海神』が西に戦線を展開し始める。

 

 

「対レーザー弾の用意、まだか!」

 

「出来ています!」

 

「よし、全隊! 目標、小田原! 打ち方はじめっ!!」

 

 

徳田の声がブリッジに響いたその直後、艦隊の全砲塔が火を吹いた。そして、次の瞬間には、薄っすらと見える地平線の彼方から伸びる、大量のレーザーによって迎撃されていく。

 

 

「あるだけ撃ちまくれ! 全部使って良い!」

 

 

対レーザー弾の役割は、撃ち落とされる事に尽きる。撃ち落とされた弾から重金属雲を発生させ、BETAのレーザーの威力を損なわせるのが狙いだからだ。

 

BETAの攻撃手段の中で一番恐ろしいレーザーさえ減衰させれたならば、地上部隊の撤退も少しは楽になると見ての行動だった。

 

 

「撃ち終えた艦から通常砲弾に切り替えて、砲撃を続けさせろ!」

 

 

どの軍もどの兵士も死力を尽くしているが、押し返すならまだしも、圧倒的な数の暴力に戦線を長時間維持する事すらままならず、このままでは全ての防衛ラインが押し切られるのが目に見えている。

 

何の解決策も対応策も思い浮かばない徳田は、ブリッジの中で皆に気付かれない様、軍帽を深く被って目を覆い、唇から血が滲むほど強く噛み締めながら、己を襲う無力感と必死に戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月24日 帝国軍白陵基地》

 

 

「報告します。先程、厚木及び横須賀基地の衛士及び戦術機が補給の為、白陵基地に収容されました」

 

「司令。たった5時間で第二次防衛ラインにまで攻めこまれているのは、想定外の事態です」

 

「……どういう意味かね?」

 

 

帝国軍白陵基地の司令室にて、若い副司令が中年の司令に淡々と告げる。態々、言われずとも理解している事を言われ、司令の癪に触ったのだろう。あからさまな侮蔑の目で副司令を睨んでみせるが、副司令は表情一つ変えようとしない。

 

司令はこの状況を変える一手を出せず、静観に継ぐ静観の末、五時間近く司令部で事の顛末を見守るだけであったのだ。それに耐えかねた副司令は良い加減、司令からの指示を待っている事を遠回しに告げるという意味合いでの発破だった。

 

 

「報告では、BETAは厚木基地と横須賀基地に分かれて襲撃しています。まるで、此方の戦力がそこに分けて温存されていると知っているかの様に」

 

「…貴様…さっきから、何が言いたい…!」

 

 

副司令のハッキリとしない言葉に司令は声色を強くして、副司令に視線を飛ばす。

 

それに反発してより強い声を挙げたのは、この五時間の間、どんな不利を知らせる報告が入ろうとも、通信相手に一切不安を与えさせぬよう、堂々として表情を変えずに耐え続けていた副司令であった。

 

 

「このまま指を咥えて見ているだけでは、ここも落とされます! 戦力が各個撃破されている以上、残存部隊を一つに纏めて戦線を絞るのが一番効果的です!」

 

「馬鹿な! リスク分散という物を知らんのかね!?」

 

 

副司令の発言は、常識的と言える物では無い。

 

一つに戦線を纏めれば、士気を高めやすいし状況把握も楽ではあるが、そこを落とされれば後が無いのだ。この三基地の後ろには、殿下が避難されている仙台があり、万が一にも破られてしまう事などあっては、殿下の下までBETAを素通りさせてしまう事になる。

 

だが、副司令の意見はもっと視野を広げて見た場合、日本が生き残る可能性は増えると言える。今現在、国連軍の被害は甚大だが、帝国軍は奥の手である斯衛軍を出して居ない。

 

基地司令としての尊厳も栄誉も全て失うが、それを対価に練馬基地にて待機している斯衛軍との共同戦線を張れば、一つの戦線が強大な壁となり、日本の未来と国民の命が助かる可能性は上がるのだ。

 

問題はただ1つ。この司令が下手な指揮をしまいと、五時間近く事態を黙って見続けていた『ただの案山子』であり、その癖名誉という飴に敏感で、この戦の戦功を分けてもらおうとハイエナ根性で安全な基地から態々出向してきた人物だったという事だ。

 

 

「馬鹿は貴方だ! 何やってるんです! こんな所で! 見れば誰だって、ここも大したBETAを減らせずに落ちるだけって分かるでしょう! 幾ら貴方でも、撤退命令くらい出せる筈だ!」

 

「そんな事、私に出来る筈が無い!! そんな事をしてみろ! オメオメ逃げ帰った臆病者になってしまうでは無いか!」

 

 

自分勝手な司令の台詞に、耐えに耐えかねた副司令は気づけば、顔を真っ赤にして激怒していた。

 

 

「ふざけるなっ!!」

 

「司令!! 第二次防衛ライン、突破されました! BETA群、約4万がニ十分後にはこの基地に到達すると思われます!」

 

「何だとおっ!! …がっ…!」

 

 

副司令はオペレーターの方に意識を向けていた司令に飛び掛かり、副司令の拳が司令の左頬に突き刺さる。

 

思いの他勢いが強かったのだろう。殴り倒された司令は地面に頭を打ち付けたのか、起き上がる事は無かった。その光景に固まるオペーレーター達に、副司令は顔の表情をいつも通りに戻して、司令の代わりにオペレーター達に指示を飛ばす。

 

 

「…今から私が司令だ。全軍、撤退用意しろ。斯衛軍が練馬基地に待機していた筈だ。そこまでどうにか下がらせろ。当然、君達もだ」

 

 

その発言にまたもや固まるオペレーター達に、少しだけ声を低くして『早くしろ』と促し、司令の座っていた席に座り、背もたれに体重を預けて深く息を吐く。

 

 

「…し、司令。通達、完了しました」

 

 

先ほどのやり取りから怯えるように報告してきたオペレーターに、副司令は出来る限りの笑顔を作って労う。

 

 

「ご苦労だった。早く君達も退避してくれ」

 

「えっ…司令は、どうなさるので…?」

 

 

そう聞かれて、自嘲気味に笑いながら、倒れている『元』司令を一瞥する。

 

 

「こうなった以上、私はもう何処にも戻れないよ。軍法会議に掛けられるより、ここで戦士のままで居るつもりだ」

 

「…健闘を祈ります…!」

 

 

副司令がこうなる事を、司令とやり取りしている最中には既に覚悟していたのだろう。戦時中に恐怖に耐えかねて錯乱する者も中には居ると聞くが、この副司令はそうでは無い。そう感じたオペレーター達は、揃って涙を堪えながらも、綺麗に揃った敬礼を見せる。その美しいとも言える敬礼に、副司令も敬礼を返した。

 

 

「1つ、頼まれてくれないか? 彼を…連れていってやってくれ。頼む」

 

 

そう言って副司令は軍帽を態々外し、完璧な角度でオペレーター達に頭を下げる。通常、基地の副司令が、一介のオペレーターに頭を下げる事は無いのだが、今は非常時である。オペレーター達は了承の言葉を告げ、『元』司令を複数人で担いで司令室から去って行った。

 

 

「短かったな…この基地での勤務も…」

 

 

司令の席に腰を掛け治す事無く、司令室の天井を仰ぎ見て思わず感傷に浸る。元々、彼はこんなつもりでは無かった。ここで死ぬつもりも、そもそもこの作戦で負けるつもりも毛頭無かったのだ。

 

司令室から見える強化ガラスから、何の気無しに青空を見上げる。BETAに襲われている最中とは思えない、雲1つ無い澄んでいて心が晴れやかになる様な、見事な快晴だった。

 

なんでこうなったんだろう。そう今更考えるが、答えは出ない。自分は最良の選択をしたと思っている。自分の為ではなく、この国の為に。そして――

 

 

「……桐花……」

 

 

軍服の胸ポケットから出した、センスが少し古い懐中時計型の銀のロケットには、この作戦が終われば、結婚すると誓い合った彼女が笑っていた。彼女は移ったばかりの首都東京の先にある、仙台の第二帝都に勤務している。このままBETAを素通りさせれば、彼女まで危険に晒す事になる。死ぬのが怖く無いと言えば嘘になるが、自身を対価とする事で彼女や帝国が生き延びる事が出来るのなら、怖いとは思わない。

 

しかし、もう会えない事だけは寂しいと思い、思わず目から零れ出た涙をゴシゴシと裾で強く拭い、気分転換に再び空を見上る。

 

BETAと撤退し始めた部隊が同時に白陵基地に到着するまで、あと二十分程だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この様な所に居ても大丈夫なのですか?」

 

「ええ。万が一の際には、斯衛軍に出向いてもらうつもりです。それに、今の帝国に絶対安全と言える場所など無いでしょう。所で香月博士、オルタネイティヴ計画の程は如何ですか?」

 

「計画については、まずまずとしか…反応炉を手に入れなければ、今のところ何とも言えませんので」

 

「そうですか…」

 

 

時間は少し遡り、帝国軍管轄下の仙台第二帝都にて、香月夕呼はつい先日に政威大将軍となられた煌武院悠陽殿下に捕まっていた。

 

悠陽にはBETA襲来時に白陵基地から、逸早くオルタネイティヴ計画の資料や機材を運び出す為の手配と助力を直々にして貰った恩があるため、夕呼は悠陽の誘いを断れなかったのだ。

 

夕呼からすれば、大した話で無いのなら研究の続きが残っているから早く解放して欲しいのだが、相手はまだ14の少女と言っても良い存在であり、同時に政威大将軍という肩書も含めて、夕呼の自由を阻んでいた。

 

悠陽はただ夕呼と『おしゃべり』がしたかったのでは無い。夕呼は世界的にも有名な物理学者でもあり、因果律量子論という独自の理論を展開して学会を大いに騒がせ、加えて日本を代表するオルタネイティヴ4の主軸の人だ。だが、問題は夕呼が国連軍所属という肩書の所為で、元々国内では異端者の様な扱いを受けていた彼女の評価は、この帝国軍基地内で良いとは言えない。

 

夕呼は帝国に取っての重要な人材であるため、万が一を考えて夕呼をこの仙台に避難させた事に、その好意を受け止めはするが、正直な所、内心複雑だった。夕呼の身体的肉体的なリスクは減らせても、精神的な負荷を増やしてしまっていたのだから。

 

だが、それに気付かない悠陽では無かったからこそ、自身が側に居て夕呼を守ろうと側に居続けていたのだ。まだ政威大将軍になって日も浅いが、それくらいは出来るだろうと思っての事だった。

 

この司令室ではオペレーターはともかく、それを体現するかの様に副司令から冷たい視線を浴びせられている。司令は『たまたま』帝国軍人には珍しくそういった事に無関心な人であり、『偶然』司令室に居た技術廠第壱開発局の副部長である、巌谷榮二中佐も夕呼に理解がある人物だったのが救いだろう。

 

 

「司令、我が国に接近してくる機影があります! 数、2。距離150キロ。どうやら大気圏外から突入してきた模様…速いです! 時速600キロを超えています!」

 

 

オペレーターの叫びを聞いて、その場に居た全員が事態を理解出来ずに居た。司令は直ぐ様正気に戻って、オペレーターに声を掛ける。

 

 

「何処の所属だ?」

 

「分かりません。識別信号の該当、ありません!」

 

「時速600ですって…?映像は無いの?」

 

「出せます!」

 

 

思わず口を挟んだ夕呼の発言に、副司令は露骨に顔を顰めるが、その直後にモニターに映ったモノを見て、誰もが声を出せなかった。

 

 

「なんと…!」

 

(何、アレ…!?)

 

「何だこれは…!」

 

「…っ! 分かりません…」

 

 

悠陽、司令、巖谷の順に口を開くが、夕呼はどうにか驚愕を隠せていた。司令室の中で見た物は、誰もが『なんだこれ』と口に出していたが、言う者によってその重みは全く違う。

 

少しでも軍事を、言うなれば帝国軍の軍事技術を深く理解している者からすれば、巨大な戦艦がバーニアを吹かさずに空を飛ぶなど、どう言い換えても『超技術』としか言えないのだ。従って、この中で一番驚いているのは開発局所属の巖谷と天才物理学者と謳われている程の頭脳を持つ夕呼という事になる。

 

巌谷は司令の問いに応える様に口を開いていたが、内心での驚きは夕呼の方が大きかった。内心で押しとどめて置く事が出来たのは、一重に普段から政治的な絡み合いも行っているからこそ、表情を素直に顔を出さない様に務める事が出来ただけに過ぎない。

 

皆が一瞬にして固まっていると、ふと悠陽が口を開いた。

 

 

「通信出来ますか?」

 

「……っ! は、はい! ただ今、繋ぎます!」

 

 

殿下からの命令に一瞬で緊張したオペレーターを余所目に、司令は殿下を気にかける。

 

 

「殿下、宜しいので?」

 

 

まさかとは思うが、この戦闘中で戦力を減らしている帝国に、火事場泥棒――とは意味が違うが、何処かの組織がBETAとのドサクサに紛れ、殿下に害を与えに来たとも考えられるのだ。

 

通信に、いの一番に殿下が出てしまっては、殿下が此処に居ると知らしめている事になる。帝国の柱である殿下の居所を、みすみす部外者に晒すような真似は極力避けておきたい。

 

 

「よい。『かの船』が敵だとして、司令は『かの船』を沈める事が可能ですか?」

 

「それは……」

 

 

悠陽の鋭い質問に答えれずに口を噤んでしまう。あれだけの技術があるのだ。『かの船』がこの基地を1つ落とす程度は容易だと、誰にでも想像出来る。

 

 

「通信、繋ぎます!」

 

「聞こえますか? 応答して下さい。此方は帝国軍、仙台第二帝都です」

 

『こちらはZ-BLUE所属、ラー・カイラム。聞こえております』

 

「此方は――」

 

「仙台第二帝都です。私は日本帝国政威大将軍、煌武院悠陽です。貴方がたは何処の所属なのですか?」

 

「殿下! いけません!」

 

 

司令の言葉を遮った悠陽に副司令が声を上げるも、悠陽は副司令に微笑みを返しただけだった。

 

 

『Z-BLUE先遣隊、ラー・カイラム。私は艦長のブライト・ノア大佐です。援軍に来ました』

 

 

モニターに映ったブライトの顔とその発言に、大半の人間は訝しげな顔をする。

 

この反応は、帝国の人間ならば当然だ。どの国家からもこのタイミングで参戦するという通達は、未だに何処からも届いて居ないのだから。

 

 

「……私は香月夕呼と申します。Z-BLUEとは何でしょうか? 聞いたことなどありませんが…」

 

 

恐る恐る夕呼が尋ねる。因果量子論を提唱した夕呼ならではで理解している事がある。このモニターの向こうの相手は、『この世界』の存在では無いのだと。

 

この世界の存在では無いからこそ、どんな言動が何を引き起こすのか、全く想像がつかない。だからこそ、ありきたりで地雷を踏み抜きそうな言葉を選びながらも、最小の労力で情報を引き出す事を試みている。

 

 

『我々は貴国の敵ではありません。こちらは日本で――『日本』であっていますか? そちらの国で、バアル――えぇっと、未確認生命体との戦闘が行われている事を観測したので、参戦しに来た次第です』

 

 

ブライトと名乗る男のあやふやな発言を、一番に理解出来たのは夕呼だった。いや、その場の夕呼以外の人間全てがブライトの発言内容を理解出来ずに居た。それも当然だ。皆、援軍がどうという言葉の一部一部の事では無く、この相手の存在――言い換えれば、本質を理解しきれていない。そして、変わりに抱くのは違和感である。

 

何故なら、前提知識として誰もが知っている筈の『日本』の名前を自信が無さそうに口にし、『BETA』という名称を使用しなかったのだから。

 

それは、この世界の常識的な部分。つまり、知識を形成する上での基礎となる世界――ルーツと言い換えても良い部分が違うに他ならないからこそ、意思疎通を困難にさせているだけである。相手が『日本』の名前を出しただけ、比較的近い世界なのだろうと夕呼は少しだけ安心していた。

 

この場において、朧げにも違和感の正体を感じる事が出来ているのは、歳の割に鋭い悠陽と司令、そして巌谷と言った所である。

 

 

「…詳しい話は、後で聞かせて頂けますか?」

 

『それでは、参戦の許可が頂けるのでしょうか』

 

 

悠陽の思い切ったとも取れる発言に、その場に居た全員が驚愕する。皆が『殿下』と様々な意味合いを込めて名を呼ぶが、少しだけ息を吐いて目を静かに瞑る悠陽は、決意したようにも皆からの責め苦を耐えるようにも夕呼には見えていた。

 

 

「衛士達を…彼らを、よろしくお願いします」

 

 

ブライトの目を見て力強く願う様な悠陽の返答に、誰もが目を丸くして何も言えずに居た。

 

 

『了解しました。では、お手数をお掛けしますが敵性勢力の情報を頂けますでしょうか?』

 

「…分かりました」

 

 

ブライトの言葉に返事を返したのは夕呼だった。夕呼はオペレーターにBETAの数、種類と戦闘開始からのBETAの情報全てを渡すように指示する。

 

 

『感謝します。では、通信終了します』

 

 

ブライトは見事な敬礼をして、それに夕呼、司令、巌谷だけが敬礼を返した。悠陽はまだしも、納得のしていない副司令は明らかに苛々を募らせている。

 

 

「殿下! 何故得体の知れない者を、よりによってこの様な時に招き入れるのです!?」

 

 

副司令の怒りを悠陽は当然だと受け止めながらも、強い意志の目を向けて副司令を見つめ返す。

 

 

「そなたの怒りも分かります。が、この援軍を受け入れなければ、全ての防衛ラインを突破され、東京も瞬く間に京都の様になるでしょう。それとも、『親切な援軍』を追い返した方が、帝国の為になると思いますか?」

 

 

悠陽の有無を言わさぬ物言いに、副司令は思わず怯んでしまう。だが、『相手はまだ14の少女なのだ』と自分を奮い立たせて反撃しようと口を開いた。

 

 

「しかし――」

 

「やめたまえ、副司令。殿下がお決めになった事なのだ」

 

 

事態を静観していた司令からの静止に悔しさを露わにした後、殿下に謝罪の言を述べて司令室を飛び出していった。夕呼は副司令の飛び出していった方を見ていると、ふと裾が引っ張られる感覚がして、そちらに向き直る。

 

 

「香月博士。後の彼らとの会談の際、良ければそなたにも同席して頂きたいのです。頼めますか?」

 

 

耳打ちするような小さな声で悠陽から話された言葉は、夕呼にとって恐ろしくも魅力的な提案に、迷わず了承の意を告げる。その返答に満足したように悠陽が笑った後、悠陽は巌谷にも同じように耳打ちする。

 

普段から硬い表情ばかりしている巌谷の顔が、誕生日プレゼントを貰う直前の子供の様な顔になって、悠陽に『本当ですか!? 嘘ではありませんね!?』と何度も興奮しながら強く確認していた事に、夕呼は流石に驚愕を隠せなかった。

 

夕呼からの視線を感じて、舞い上がっていた事を再確認した巌谷は恥ずかしそうに耳まで赤くしながら、素早く敬礼して司令室をそそくさと早足気味に退室していった。

 

 

 

 

 




一般兵達の名前は、ストーリーに絡んだりしない限り適当な名前です。

誰がどうとか覚える必要はありませんので、よろしくお願いします。

この作品の悠陽殿下は14歳にして年不相応な所が出ますが、不安定な年頃なのだと解釈していただけると、私の全てが誤魔化せます。ただ、所々人の心の機敏を読んだり先読みするのは優秀な所為です。

巌谷オジサンはぶっちゃけ、原作よりテンション高いです。硬派ですが、直ぐにテンション上がります。

次回、Z-BLUEの戦闘が始まります。

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