to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫   作:(´神`)

2 / 29
プロローグ (2)

気を失っていたZ-BLUEの皆が一斉に意識を取り戻したのは、ほぼ同時だった。

 

 

「……はっ!? …状況は?」

 

 

マクロス・クォーターのブリッジで、誰よりも逸早く目覚めた男であるジェフリー・ワイルダー大佐が、ズレ落ちそうな頭の帽子を片手で支えつつも、周囲の人間に状況報告を促す。

 

ブリッジから見えるのは星々の煌く宇宙と、太陽。そして、地球らしき惑星も微かに見える事から、地球圏から幾らか離れた所に位置しているだろう。しかし、『何処の』地球かは分からない。

 

 

「GPS、位置情報ロストしています! 周囲の天体座標から割り出します!」

 

 

クォーター艦内のシステムや情報を管理するミーナ・ローシャンは、ジェフリーの指示に目を覚ますと同時に、目にも留まらぬタイピングで目の前のコンソールを操り始める。

 

 

「現在地を特定! 地球圏内です! …ですが、翠の地球、ELSの花、プラント、コロニーその他全て見当たりません! また、確認出来た地球は、蒼の地球とは違う様です!」

 

「帰ってきた訳じゃ…なさそうね……」

 

 

報告を聞いた操舵手のボビー・マルゴは、目の前のモニターを確認しながら独りごちた。

 

 

「各機の状況を把握しました! ネェル・アーガマ、ラー・カイラム、トゥアハー・デ・ダナンは健在です! しかし、残りの艦隊の位置情報は不明のままです!」

 

 

オブザーバーのキャサリン・グラス――通称キャシーからの報告に、ジェフリーは少しだけ低く唸ると、直ぐに指示を飛ばし始めた。

 

 

「各機を収容し、他の艦と連絡を繋げ! 逸れた艦隊にフォールド通信を飛ばす事も忘れるな!」

 

 

現状況に対してのジェフリーの予測は、元の世界が同じとは決して言えない、Z-BLUEの艦隊が存在している以上、恐らく超時空修復は完全に終えては居ないのだろうという事。

 

そして、半世紀近く生きてきた自身の古い記憶の中にある、嘗ての古い文献で見た、『宇宙進出し始めた頃の地球』を想起したせいだろう。モニターに映る地球に、言い様の無い感覚――真新しさの様な、懐かしさの様な淡い感覚を微かに抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約二時間後、周囲の宇宙空間に存在していた全ての機動兵器を収容し、各パイロット達の状況確認が取れた艦長達は、ジェフリーの指示により、それぞれの艦のブリッジにて、銀河の何処に居ても時間差無く通信が可能な、フォールド通信を繋げての艦長会議を行っていた。

 

通常の会議ならば、可能な限り集まるのだが、周辺宙域の状況が分からない現在は警戒態勢を敷いている為、それぞれの艦から艦長達が離れられないのが現状だった。

 

 

「そちらも無事なようで何よりだ。だが、まさか銀河中心部とは…」

 

「…ええ、そして、私達が揃っているという事は、恐らく…」

 

 

ジェフリーの無事を喜ぶ声に応えるのは、ソレスタル・ビーイング所属のプトレマイオス2改の艦長を務める戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガだった。

 

モニターの前で腕を組みながら難しい顔をするスメラギのシートの横には、嘗ての黒の騎士団のリーダーであるゼロも仮面を取った姿で会議に参加している。

 

 

「…つまり……超時空修復は成し遂げられていない…と?」

 

 

ネェル・アーガマ艦長――オットー・ミタスが続きの言葉を紡いでいた。

 

時獄戦役の時と比べれば、遥かに精神がタフになり、立派な艦長になりつつあるオットーだが、こうも不測の事態に陥れば、座っているシートの横で待機している副長のレイアムに、時折不安そうに視線を送っては、不安感を払拭するように軍帽を脱いで髪を片手で整え直す仕草をしていた。

 

 

「その考察はまたの機会としよう。まずは、各機と各艦の状況確認を」

 

 

ラー・カイラムのブリッジで同席しているシャア・アズナブル大佐が、話を進めようと切り出す。シャアの言葉を受けて、ジェフリーが一度咳払いをしてから説明を開始する。

 

 

「こちらは既に、全機収容を終えている。パイロット達は皆無事だったが、機体の破損率が尋常では無い」

 

「こちらも同じく既に収容を終えている。かなり数は減ったが、バスター軍団もツインテール級、ビーコン級共に生き残り、ダイグレンの一角で仲間の生産を始めている。ELSは本体との意識共有は不可能だが、独立個体として刹那との意識共有を行っているという報告がある」

 

 

銀河中心部の艦隊の中でも一際巨大な戦艦である、超銀河ダイグレンのブリッジで、頭部だけで存在している生体コンピュータと化しているロージェノムの説明を受ける。

 

ロージェノムのいつもの無機質な説明を聴き終え、各員が納得した所で、ソーラリアン艦長のトライア・スコートが口を開く。

 

 

「現状に於いては、ヒビキが話してくれたよ。どうやらこの世界は多元世界に限りなく近く、その影響下で此方にもバアルみたいなのが居るんだと。で、それに苦戦している地球を見過ごせなかったから、アドヴェントの力で私達ごとこっちの世界に飛んで来ちまったみたいだね」

 

 

狐の仮面――通称「おコンさん」を手で遊ばせながら、呆れ半分にトライアが現状を告げる。

 

その事実を聞かされていないメンバーは、驚愕の表情を見せるも、直ぐに無鉄砲な子供を見る呆れ半分の優しい目を浮かべ、その様子を互いに見る事で、語らずとも皆の意向を誰もが理解していた。

 

 

「……ふぅ、Z-BLUE解散…とは、しばらくいかないでしょうな」

 

「そうだな…ロージェノム、超銀河ダイグレンは此方に跳ぶ事は出来るか?」

 

 

オットーの溜息混じりではあるが、嬉しさも混じった呟きにブライトは賛同する。

 

 

「先の戦闘により、一時的に螺旋界認識転移システムが使用不可能になった。今跳べば、何処に辿り着くかは分からない。大至急で修理をしているが、後5日は必要とする」

 

 

淡々とロージェノムから返された内容にブライト含め、地球圏付近の艦隊の艦長達は少しだけ残念な表情を浮かべる。

 

超銀河ダイグレンは、月と同じサイズという尋常ならざる規模の戦艦である事から、戦闘は愚か武器、機体に始まり、食料関係の生産及び備蓄、娯楽施設など、何でもござれの超弩級万能戦艦であり、銀河中心部まで殴りこみに行くにも欠かせなかったZ-BLUEの要中の要の艦だからだ。

 

故に、強力な支援を3日も受けれない事に少々苦い顔をするが、その空気をシャアが払拭する様に話を続ける。

 

 

「では、我々は24時間の休息を得た後、最低限の戦力を残して、先遣隊と残存隊に分かれて行動する。編成は機体の修理状況と相談してからになるが、残存隊は機体の修復に。先遣隊は状況確認と、接触を務める事になるだろう。最初の接触としては…日本が妥当か」

 

 

シャアが日本と特定したのは、多元世界に於いて日本が特殊な場所であったからだろう。蒼の地球には日本列島は2つ存在していたし、スーパーロボットを中心とした部隊の大半の機動兵器。そしてそのパイロット達の殆どが日本で生まれ、日本に関係しているからだ。

 

長い間会議を静観し、トゥアハー・デ・ダナンのブリッジにて後ろ手に手を組み、姿勢を常に正している副長のマデューカスが重たい口を開く。

 

 

「時間的猶予が不明な今、それが適切かと。そこで、トゥアハー・デ・ダナン、マクロス・クォーターを地球付近に残し、ラー・カイラム、ネェル・アーガマに可能な限り物資と機動兵器を載せて先遣隊としては」

 

「そうですね、現在、地球の状況はわかりませんが、海の星であるならば、このトゥアハー・デ・ダナンは切り札になり得るやも知れません。事態の如何によってはダナンを派遣出来る様、今は備えておきます」

 

 

艦長のテレサ・テスタロッサの意見に異を唱えるものなどおらず、話が纏まったと見てジェフリーがモニター越しに皆の顔を見ながら声を張る。

 

 

「では、その予定で行こう。また、24時間後に再び会議を開き、その場で最終調整を行うとしよう。以上だ!」

 

 

皆が力強く肯定し、会議は締めくくられる事となった。

 

 

 

 

 




申し訳ありません、プロローグは3つになりそうです。

日本に到着してから、一章が始まる予定です。

頑張って書きますので、しばしお待ちを…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。