to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫   作:(´神`)

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こんばんは。

前話で登場しました唯依の武御雷改修Ver。それをイメージしたプラモを製作して下さった方が居ましたので、前話の後書きにて紹介させて頂きます。

戦闘描写諸々のイメージの参考になれば幸いですm(_ _)m

今回は一部を次話に分割した為、短いですが…宜しくお願いします。


第ニ章 幕間(2)

《1998年9月7日 11時30分 ドラゴンズハイヴ サロン》

 

 

ドラゴンズハイヴ内に存在するサロン。談話室を意とするその場所では現在、比較的穏やかな雰囲気で各々が作戦会議までの時間を過ごしていた。

 

基本的にこの世界の人類が行う作戦会議とZ-BLUEのソレでは、空気の張り詰め方がまるで違う。

 

BETAに対するあまりの損耗率の高さ、凄惨さ、彼我戦力差の数字が示す精神的圧力。

 

それらがブリーフィングルームを覆い、衛士達の心身に重く伸し掛かる。新兵が悲壮感を漂わせている事など日常的と言っても良い。

 

衛士達が執り行うブリーフィングと比べれば、Z-BLUEのブリーフィングの雰囲気のなんと穏やかな事だろうか。高官達が見やれば緊張感が足りないと罵りかねないが、それは違うだろう。Z-BLUEはBETAを相手に据えた現状、深刻になる事は無いだろう。だが至って真剣である。その違いが両者にとって大きいと言わざるを得ない。

 

しかし作戦会議前たるこの場に限っては、静かとも穏やかとも少し違う。どこか和やかな空気がサロンを包んでいた。

 

 

「おや? 皆さん、心做しかにこやかですね。何か良い事でもありました?」

 

 

ブリーフィングを行いにサロンへ入ってきた田中は、そこで喜色の表情を浮かべる者たちに声を掛ける。

 

多少静かに待っていても可笑しくない作戦会議前。しかしながらその場の雰囲気がいつもより明るい事に、田中は目を僅かばかり見開いていた。

 

サロンのチェアに凭れる様にして寛いでいたギミーは振り返り、歯を見せながら満面の笑みを浮かべる。その隣に座っていたダリー、ツィーネ達も喜色のご様子だ。

 

 

「ヘヘヘ! 田中さん、知らねーんだ。今日のランチにブタモグラのステーキが出たんだぜっ!」

 

「ほう、ステーキですか! それは楽しみですね!」

 

 

用意したでも作ったでも無い筈のギミーは年相応なリアクションで、誇らし気に鼻の下を指で擦り得意げに鼻を鳴らしてみせる。少々大袈裟ではあるがオーバーリアクションで田中が驚いてみせた事も相俟って、ギミーの笑みは深まるばかりだ。

 

 

「カオス・コスモスでの戦闘が始まってからゆっくりと食事する時間なんて、なんだかんだ取れなかったものね」

 

「昼食が付くってだけでも有り難え。しかもステーキと来た。こりゃあバンバン働かねえと、申し訳なくてやってられないぜ」

 

 

ギミーを上回る充足感を露わにしつつ、目を瞑ってステーキの余韻に浸るクロウ。そんな彼に田中は悪戯な目付きで好奇の視線を注ぐ。

 

クロウとしては『借金』という宿命により、昼食が砂糖水だったりそれすら無い事が度々あった事を考慮すれば、ステーキでここまで喜んでいる事は特別おかしい話ではないのだが。

 

 

「なるほど…それではクロウさん。あなた、普段は手を抜いちゃっていたという事ですね?」

 

「なっ!? 誤解だっ! 言葉の綾だ!」

 

「トライア博士に知られたら大変ですね」

 

「……勘弁してくれ」

 

 

田中の冗談に酷く狼狽えるクロウを面白がってダリーが追撃すれば、『トライア』の四文字で忽ち頭を抱えて唸り始める。

 

クロウからすれば、新たに借金してまで機体も任務も用意してくれたトライアには頭が上がらない。これで冗談でも『手を抜いている』などと噂が本人の耳に入ったらどうなるのか、クロウは想像する事すら本能的に拒否している有様だ。

 

そんな高額債務者を見て笑う三人に微笑みを向けた後、田中は一つ咳払いをして注目を集める。

 

 

「――オホン。さてさて皆さん、そろそろブリーフィングに入ろうと思うのですが――」

 

「すみません、遅れました!」

 

「ごめんなさい、遅れたわ」

 

「…おっと、良い所に来ましたね」

 

 

田中の声を遮って現れたのは、今回の作戦に参加するメンバーであるロランとヨーコの両名である。

 

駆け足でサロンに来たのだろう、二人は軽く息を整えながら空いている席を見つけ、素早く腰を下ろした。

 

 

「遅かったな、お前達」

 

 

ロランとヨーコが時間に遅れる印象は無い故にこの様な状況は珍しく、クロウが代表して理由を問うてみる。

 

組み合わせが珍しいというのも、その場の者達が気になる理由として一つあっただろうが。

 

 

「対BETA戦でのアタシの機体の基本戦術をロランと洗い直していたのよ。ちょっと熱が入りすぎちゃったみたい」

 

「ヨーコさんの機体が戦局にとって重要だと思っての事だったんです。すみません」

 

 

特別関係に何かを疑う者など居ないのだが、その至極真っ当な理由を聞かされ思わず感心を見せるメンバー。

 

それを見て、ツィーネは人知れず口角を上げながらクロウを見てクツクツと笑いだした。

 

 

「ステーキや昼食一つで、任務に対する姿勢が変わると噂の『現金』な誰かさんとは大違いね」

 

「現金が無くて困ってるのに、現金なクロウさん…」

 

「うるさいよお前等!」

 

 

先程の話題をぶり返して弄るツィーネに、現金な性質と現金というクロウにとって関わりの深い物を掛けた野次だと理解し、ゴチる様にすげぇと小声で零すギミー。

 

対する本人は耳が痛くて敵わんとばかりに、無理矢理話題を消化させるのに必死だ。

 

 

「これである程度集まった事ですし、早速説明を始めさせて頂きましょう」

 

 

そう言いながら手元の機械を操作すれば、壁のスクリーンに画像が瞬時に映し出される。

 

そこに映されているものこそ、今回の作戦の舞台――火星である。

 

言わずと知れた太陽系第四惑星。地球型惑星の一つであり、その環境は比較的地球と近く、多元世界に於いても火星はテラフォーミングにより膨大な人類の居住区の一つとして人類を支えていた惑星だ。

 

 

「今回は火星の調査を行います。火星にもBETAが居ると帝国からの情報提供があり、それは此方でも確認しています」

 

「うげっ…!」

 

「ひっ…!」

 

 

田中の説明と同時に画像が切り替わり、赤い大地を無数に跋扈する群体――BETAの画像が映し出され、ギミーとダリーはすかさず悲鳴を上げる。

 

嘗てあしゅら男爵のビジュアルをトラウマとし、醜悪なコーウェンとスティンガーの相貌に悲鳴を上げていた双子は、BETAの冒涜的な外見は見るに堪えないのだろう。

 

ギミーやダリー以上に耐性があろうとも、その悍ましい外見を見やり、他の者も眉根をひそめている。

 

 

「BETAの基地であるハイヴですが、地球とは随分と規模が違う様で、先遣隊の報告にあった大きさをどれもこれも超えておりますね。それに比例して、保有している各ハイヴのBETA数も上がると推測されています」

 

「げぇっ、こんなのが大量かよ…」

 

 

気色悪い敵が大量に居ると耳にし、ギミーはあからさまにげっそりと落ち込む。通常、この様な場面で叱責する筈のダリーも、口に出さないだけで同じ気持ちだと顔にありありと書かれていた。

 

この双子のゲテモノ耐性の低さは子供故に仕方ない部分も多い。それを理解している他のメンバーは誰一人として咎める事は無かった。

 

その時、クロウがスッと静かに手を挙げる。それを確認した田中はどうぞと微笑み一つで要件を素早く促す。

 

 

「田中さん。BETAが多いって言ったよな。で、見たところ火星全土がBETAの領域だ。だったら、どうやって降下するんだ?」

 

 

真剣な表情のクロウに、田中はふむと一つ溢す。

 

クロウの疑問は最もだろう。地球で最も猛威を奮っているBETA――それは間違いなく光線級と言える。

 

火星全土がBETAの管轄下だと言うならば、全土に光線級が存在する事になる。クロウは、その中をどうやって降下するのかと問うているのだ。威力はこれまでZ-BLUEの対峙してきた者達と比べれば大したことは無いが、その超長距離狙撃を無数に受けながら降下する事は、小さいリスクと断じるには浅慮極まりない。

 

高性能な対空砲が完全配備された敵の基地周辺に直接降下したい兵士など、一人とて居ないだろう。

 

 

「良い質問ですねクロウさん。光線属種は地球でのBETA大戦初期にはまだ居なかったそうです。地球の航空戦力に対抗する為、後から出現したとの情報があります。ですので、火星では光線属種が居ない可能性も大いにあります。また、今回は光線属腫を含めた火星に於けるBETAの戦闘力などを調査する為に来ていますので、彼我戦力差が絶望的だと判断した場合は、降下を断念しそのまま撤退する可能性もあります」

 

「OK、なるほどな」

 

 

田中の返答を聞き、他の面々は多少安心した表情を見せるもクロウはそうではない。

 

寧ろ、彼の表情は質問前と険しさが変わっておらず、新たな懸念が脳内を占めていた。

 

 

(まずい…降下出来ずにこの任務を終えれば、戦闘データを売って一銭でも多く稼ぐ事が出来なくなる…! 頼むぜBETA…!!)

 

 

内容が実に個人的な内容なのが、流石クロウと開き直って褒めるべきか貶すべきか。

 

そんな事は皆露知らず、田中は説明を再開させる。

 

 

「ですので、火星近海にて耐熱処理を施したダミーなどを複数投下。BETA側の反応を観測し、降下可能な様でしたら降下に移ります」

 

 

説明に皆が頷く。それを確認した田中は、今度はダリーが手を動かしたのを見逃さなかった。

 

目敏く気付き、いつもの様に柔和な表情で内容を促す。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「降下してBETAとの戦闘になった場合、どこまでが最終目標ですか?」

 

「それに関しては詳細部分を設定していません。ハイヴを落したとしても、放置していればまた再建されるでしょう。ですので、最優先事項としては個々の種の戦闘データ収集。また、地球で活動しているBETAとの種に差異が無いかの調査ですね。その他色々と予定していますが…頃合いを見て撤退する予定です」

 

 

比較的詳細な回答をもらったダリーは礼儀正しくありがとうございますと返し、それに微笑みで応える。柔和な雰囲気でブリーフィングを執り行えるのは、田中の持つ雰囲気がやはり大きい。

 

ダリーから視線を滑らせた田中は、ジョーク混じりに意味有りげな物言いでにこやかに忠告を放つ。

 

 

「可能ならハイヴを破壊しても良いですが、くれぐれも無茶は『厳禁』ですよ? ね、クロウさん」

 

「…やめてくれ、その言い方は俺に効く…」

 

 

高額債務者にクリティカルダメージを与える言葉が再び降り注ぐ。

 

リ・ブラスタに無茶させすぎた結果、相棒の修理費と代用機の改造費で新たに借金を背負ってる事も合わせるとぐうの音も出ないのだ。お手上げだと言わんばかりに、クロウはがっくりと項垂れる。

 

それを皮切りに再びサロンに笑いが響く。それに満足したのか、田中は時計を確認して全員に対し口を開けた。

 

 

「さてさて、もうすぐ作戦第一段階の時間です。皆さん、格納庫で待機をお願いします」

 

 

サロンでのブリーフィングがお開きになったとほぼ同時刻、ドラゴンズハイヴは火星近海へと到着した。

 

 

 

 

 

「ではF.S.、早速始めましょうか」

 

「そうしよう。ダミーを投下せよ!」

 

 

火星近海に到着して数分。F.S.の指示により、火星に向けてダミーが射出される。

 

その様子は格納庫の各機体にも映像配信されており、コクピット内で各パイロット達も確認していた。

 

ゆっくりと火星の重力に導かれて落ちる複数のダミー。大気圏で燃え尽きる事を防ぐ為、耐熱処理は施しているものの、耐久性は決して高いとは言えない。

 

誰もが降下する目標を見守っていた時、瞬間的にダミーの姿が消失する。

 

 

「全ダミー反応の消滅を確認」

 

 

搭載されていたマーカーの反応が消えた事を受け、WILLが報告を挙げる。当然、これは着陸した衝撃で機械が故障したなどという事は無い。

 

第一、経過時間から鑑みてダミーが地表に到達するには、まだ早すぎる筈なのだから。

 

 

「ふむ…」

 

「ほぼ同時に全てのダミーが消滅。光線級が跋扈していると見て良さそうですね」

 

「分析した所、光線が発射された場所はそれぞれが別の場所と判明。概ね光線級の防衛網は全域で機能していると見て良いだろう」

 

 

予想していたとは言え、これほどまでに丁寧な防衛網を敷かれていては愚直に降下出来る筈も無く。

 

田中がチラリと横目で上司を見やれば、この結果を受けてもF.S.の表情は不変のままである。

 

先も述べたが、この対応は想定済みなのだ。故に、プランBというモノも存在する。

 

 

「では、次はアレを落としましょうか」

 

「Cコンテナを投下せよ!」

 

 

直ぐに次の指令が下され、格納庫からコンテナが3つ続けて落とされる。

 

宇宙空間を漂い、それでも着実に目標へと吸い込まれていくコンテナ。時間を掛けて大気圏へと突入するコンテナの表面が赤く輝くも、燃え尽きる様子は無い。

 

が、大気圏を超えてからの一連の流れは、各々の体感で言えば一瞬だった。

 

突如として赤い大地から極細の光る針がコンテナに群がる。それを確認した直後、コンテナが破壊され破砕してしまったのだ。

 

コクピットで映像を見ていた者が光線の集中照射に思わず息を飲み、モニターの中で消え行くコンテナに僅かな落胆を見せた数瞬。

 

コンテナ投下地点に近しい赤い大地が、突如として灰黒色に覆われた。

 

 

「着弾を確認」

 

「効果はどちらも良好そうですね」

 

「各機、離れるな。ドラゴンズハイヴ、降下せよ!」

 

 

F.S.の一際強い言葉を皮切りに、ドラゴンズハイヴは素早く火星に突入する。

 

先のCコンテナと呼ばれる物、それはF.S.とゼロによって考案された対BETA兵器の内の一つ。

 

大気圏での熱及び光線照射を考慮した耐熱処理を施し、コンテナの中にはCを頭文字に取るキャニスター弾が大量に内蔵されている。キャニスター弾自体、発射直後に周囲に大量の散弾をばら撒く物だが、その性質上効果範囲は広い。だが、それは飽く迄対人戦で使用した場合の話であり、BETAに有効とは言えない物だ。

 

しかしながら幸運にも、敵は正確な照準技術によりキャニスター弾を光線によって空中で分解させてくれる技を持つ。これを利用し、上から落とす事で効果範囲を莫大に広げたのだ。加えて、人が人に使用する際には山なりに発射するそれを、超高高度から放つ事によって余りある位置エネルギーまで加えている。耐熱性能が高すぎても低すぎても効果は成さなかったが、それこそ集中させた光線の威力はラー・カイラムのデータである程度収集済みだ。概ね予測通りの結果と言えるだろう。

 

さらに付け足すならば、ドラゴンズハイヴが降下する際に光線による極度の集中砲火で受ける被害を防ぐ為、重金属粒子弾も混ぜているのだ。この世界の対光線級対策を取り入れた物だ。それ以外を用意する時間も人員も取れなかったのが大きいのだが、これも充分な効果を発揮する。

 

大気圏の中を急速降下していようとも、ドラゴンズハイヴは燃え尽きない。それには、コンテナにも採用されていた耐熱処理――嘗てZEUTHに所属していた元地球連合軍所属、現オーブ第2宇宙艦隊に配属されている艦、アークエンジェルに採用されていた融除ジェルの存在が大きいと言えるだろう。

 

生産コストが比較的安価なそのジェルは、コンテナでの検証結果に於いて大気圏突破程度には申し分無く、多数の光線照射の集中砲火にも数秒程度ならば耐えるだろうデータが弾き出された。

 

この結果は後に、世界への対BETA装備として考案されるかどうかにも繋がっている事を考えれば上々の結果だと言えよう。

 

また、このジェルは艦外で共に降下している機体にも試験的に採用されている。万が一の光線照射の際、脱出が可能なギミー、ダリー、ヨーコの機体だ。正確には、全長1キロを超える程度のドラゴンズハイヴに、スペースガンマールやスペースヨーコWタンクというその三倍のサイズの機体が格納出来ないからなのだが。

 

 

「うおっ…!」

 

「ゼウス神、上手くバランスを取ってくれ」

 

「むっ、分かっているとも!」

 

 

そして唯一、サロン内でのブリーフィングに参加出来なかったゼウス神は、ドラゴンズハイヴをサーフボードの様に――正確には腰が若干引け気味でしゃがみこむ状態であり、多少不格好ではあるが上に乗りながら共に降下していた。

 

熱圏・中間圏を抜け成層圏に入った所で、F.S.の指示が飛ぶ。

 

 

「ヨーコ、降下地点を薙ぎ払え! 降下後、各機は散開。戦闘行動に移れ!」

 

「分かったわ! いっけええぇぇぇぇっ!!」

 

 

降下中のスペースヨーコWタンクが構えを取った直後、展開された各部装甲やその隙間から大量のミサイルが顔を覗かせ、その全てが一様に発射される。一発一発が巨大なミサイルは重金属粒子雲を突き破り、拡散しながら地表へと殺到する。

 

全高が3キロという馬鹿げた機体サイズから繰り出されるミサイルは、やはり馬鹿げた大きさだ。直径だけで数十メートルを悠に超えるミサイルは、現在地球に於ける大陸間弾道ミサイルより幾らか大きい物であり、それをマイクロミサイルかの如く一斉発射させているといえばわかりやすいだろうか。

 

凄まじい爆音と振動を響かせればその威力から重金属粒子雲が爆風で粗方吹き飛んでしまうも、それ以上にBETAが吹き飛んでいれば大した問題では無い。

 

各機が着地体制に入った時には既に凹凸の激しい赤い地表だけが見えており、荒れ果てた大地にはBETAの残骸すら残っていない状態だった。

 

 

「さっさとキモチワリーのを蹴散らすぜ!」

 

「同感! 行くわよギミー!」

 

 

最初に着地を果たしたギミーとダリーは、ガンマールグレイブを片手に最寄りのハイヴへと急速に吶喊を始める。BETAへの嫌悪感からか、突撃するギミーを叱責するどころか、ダリーすらも積極的な姿勢を見せている。

 

地下で生き残っていたBETA共が比較的無事な門を通して直近のハイヴから続々と溢れる様にして這い出るも、出入り口目掛けてダリーがグレイブからビームを発射する。キロ単位の機体が放つビームは戦艦並みの威力と射程・効果範囲を持っており、溶接するかの如く門を破壊して出入り口を倒壊させ、地下のBETAを問答無用で生き埋めにするという効果的な戦闘を行っていた。

 

 

「ギミー、ダリー。そのハイヴでG元素を収集する事にした。破壊は避けてくれ」

 

「ちぇっ…了解!」

 

「了解です! まだまだ壊せるハイヴは一杯あるわ!」

 

 

吹き飛んだモニュメント跡から覗く主縦抗。そこにガンマールグレイブを突き刺し、大広間の反応炉に直接ビームを浴びせて破壊しようとしていた両名に、F.S.からの制止が掛かる。

 

Z-BLUEにとっては、G元素に特筆するほどの有用性を見いだせては居ないが、それでも接収可能な物を態々破壊してしまうのは勿体無いだろう。

 

最高効率でハイヴの機能を粉砕しようと意気込んでいた双子は渋々辞めるが、まだまだ獲物はあるんだと再び意気込み、別ハイヴからの増援を蹴散らしながらも突撃していく。

 

常識外れの巨体に、当然BETAは焦るように殺到する。これが20メートル単位の戦術機ならば苦戦を強いられただろう。しかし、BETAたちが現在足止めしようと躍起になっているのはその100倍以上の大きさを誇るマシンだ。要塞級ですら接触した衝撃で千切れ飛び、突撃級の代名詞である突撃はそもそも当たらず、当たった所で踏み潰されるか、質量差で自身にダメージが入るのみ。

 

唯一希望の光線こそ融除ジェルと圧倒的な装甲で無効化されてしまい、小さな要塞級や要撃級よりも悪い意味で目立ってしまう光線属腫は、グレイブのビームで周囲諸共塵芥に帰されるのがオチと化している。

 

 

「どけどけぇ! 大人しくやられろってんだ!」

 

 

装甲・火力だけでは無く推力までも圧倒的なスペースガンマールは、直ぐ様別のハイヴ付近へ到達。門を見つけ次第グレイブで破壊し、ビームで崩してBETAの移動経路を断ち始める。

 

要塞級までもを小型種扱い出来てしまうスペースガンマールにとって、多少の被弾は被弾とは言わない。立ち止まっている場合のみ要塞級の衝角が放つ強酸性溶解液は比較的有効だが、破損するほどに溶解させるまでには圧倒的な硬度を誇る材質と質量をどれだけ溶かし、その為にどれだけの時間が掛かるのか。

 

足元の虫を振り払う様な素振りだけで要塞級も吹き飛んで死滅してしまう現状、有効打とはお世辞にも言える筈もなく。

 

 

「粗方塞いだぜ! やっちまえ、ダリー!」

 

「任せて! こんなものっ!」

 

 

ハイヴを象徴する歪な塔を彷彿とさせる地表構造物。その根本に思いっきりグレイブを差し込むと、先端を引っ掛ける様にしてグレイブを跳ねさせ、抉り出された地表構造物が宙を舞った。

 

まるで職人が棒を用いて筍を掘るかの様に地表構造物を引っこ抜き、勢い余って宙に浮いたソレを飛び上がって追撃の唐竹割りを見舞う。文字通り崩壊した地表構造物の残骸は、周囲のBETAを下敷きにしながら無残にも呆気なく粉砕されてしまった。

 

 

「このっ、このっ、このぉっ!!」

 

「良いぞ、ダリー! やっちまえ!」

 

 

双子の蹂躙劇はまだ終わらない。主縦坑の側で仁王立ちした直後、眼下の坑目掛けてグレイブの先端を突き刺し、最奥の大広間目掛けてビームを垂直に乱射し始める始末だ。

 

門を粗方破壊されたハイヴ内の出入り口は、幾つか見過ごされた離れた位置の門。そして、主縦坑の2つとなる。その大きなメインとなる通路を、戦艦の主砲顔負けの極大ビームで何度も撃ち抜かれ、敗走する事すら叶わずハイヴ内のBETAがこの数秒で壊滅するというBETA陣営からすれば絶望的な被害を叩き出していた。

 

一仕事が終わったと言わんばかりに、次のハイヴへ向けて悪魔の様な双子が再び動き出す。この戦いで一番多くBETAに壊滅的なダメージを与えたのは、この双子だったのは言うまでもない。

 

 

「どこから来たって、撃ち抜く!」

 

 

意気込むヨーコもまた、その戦果は計り知れない。

 

火星全域がBETAの管轄下に置かれている現状、その全土にハイヴが大量に点在しているのだ。

 

それは言い換えれば、全周囲からBETAの増援が来るという事。幾らZ-BLUEと云えども、周囲360°囲まれたまま長時間戦闘に耐えうるだけの戦力は用意出来て居ない。

 

戦場を安定させるべく、大部分から占める増援を食い止めているのがヨーコの任務である。

 

常識外れのミサイルは地平の向こうから現れるBETA目掛けて爆発し、入れ食いでもするかの様に飲み込んでは無に返していく。

 

それでも、懸念すべきは自身のミサイルを撃ち落とされる事。巨大なミサイルは、爆風に入るだけでも少なくないダメージが入ってしまうものだ。それを撃ち落とされ、剰え自身の装甲内で誘爆しようものなら目も当てられない。

 

そんな現在、ミサイル迎撃を阻害する為の連携を組んでいるパートナーこそ、作戦前にヨーコの相談相手であったロランが努めていた。

 

 

「月光蝶でも、こう使えば!」

 

 

∀の背部からナノマシンが噴出し、文字通り蝶の翅を彷彿とさせるシステムが発動する。

 

月光蝶は効果範囲内のロランが敵として認識する全てに浄化作用を発揮する恐ろしい兵器だ。当然、ナノマシンに晒されたBETAは副次的に発生したハリケーンに巻き込まれ、巻き上げる流砂の粒として無に返されていく。

 

それだけでは無く、月光蝶の散布するナノマシンの元となっている残されの海のナノマシン――ヒカリムシ。その電磁波を吸収するシステムにより、∀はBETAから次元力ごとエネルギーを吸収しているという、地球の科学者が見れば失神モノのシステムだ。

 

ナノマシンが付着して分解する速度は基本的に一定である。つまり、小さい質量のものほど分解が速いという事を意味する。ここで指す小さい、とは光線級の事に他ならない。また、地上で使用した際に発生する副次効果のハリケーン。これがBETAの進撃速度を純粋に遅らせているのも月光蝶の効果の一つである。

 

数少ない上に目立つ重光線級を胸部マルチパーパスサイロのビームドライブユニットで見つけ次第一掃している現状、∀とスペースヨーコWタンクの鉄壁の布陣が崩れる事は無い。

 

 

「アシストは頼んだぞ、二人共!」

 

 

降下地点直近のハイヴ内に突入した者達が現状、一番の苦戦を強いられていると言えるだろう。

 

最初の爆撃で地上のBETAが全滅し、門から這い出た数だけ双子に消されたとは云え、それでもハイヴ内に残ったBETAの数はお世辞にも少ないとは言えるわけも無く。そこに、G元素回収の為の地上部隊を護衛するというのは楽な仕事では無い。

 

 

「行くぞ!! うおおおおおっ!!」

 

 

主縦坑内に先陣を切って飛び込んだのはゼウス神だ。雄々しい咆哮を上げ、槍を壁に突き刺しながら主縦坑の壁沿いに勢いを殺しつつ降下していく様は勇敢そのものだろう。

 

流石にそれでも5キロ近い高さの主縦坑を直接降下するのは非常に危険だが、そこはAGから借り受けたアサルトブースターを装備している。離脱にも使えるその推力を活かし、ブースターを蒸かして強すぎる落下エネルギーを上手く相殺しながら、ものの数十秒で大広間に単独で乗り込んだ。

 

 

「ちょっと! 降下するのが早すぎよ!」

 

 

ゼウス神を叱責しながら次いで降下してきたのはツィーネである。

 

主縦坑を降下しながらも、横坑から湧き出るBETA群にシャドウ・レイを浴びせていく。効率的に浴びせる為、アクロバティックな軌道を描きながら主縦坑を飛ぶ様に降下するのは見事と言うべきだろう。

 

彼女の乗機であるカオス・カペルは多元戦争時にAGが開発した機体なだけはあり、そのポテンシャルは非常に高い。魔術的な要素が垣間見える武装はどれも強力であり、単体・軍勢を問わず戦局に応じて継戦出来る事からも、ソーラリアンの直衛としても高い評価を受けている。

 

その評価に違わない性能は、等しくBETAを翻弄していた。

 

 

「思考しないのは楽で良いね…私にとっても…!」

 

 

アンニュイな物言いは口角が上がると共に語気が僅かに強まり、突如としてカオス・カペルの四枚の黒い羽に緑の紋様が浮かび上がる。

 

構えを取った両腕には、見る者を魅了する様に妖しく揺れる紅の炎。カオス・カペルが両腕を真下に振り下ろせば同時に紅が放たれ、大広間の中心に着火。着弾点を中心に紫の瘴気を放つ魔術陣が現れた瞬間、大広間で跋扈する全てのBETAが活動を停止した。

 

動きたくても動けない状態と云うべきか。

 

藻掻く様に僅かに揺れるが、まともに動く事が出来ているBETAは只の一体もおらず、次の瞬間にはゼウス神の槍先で切り飛ばされているか、カオス・カペルの放つ青い炎に燃やされている。

 

BETAに思考は無い。正確には、戦術的な動きを可能とすれど、一体一体が個々の判断で回避をするといった事は出来ない。故に、奇襲の要領で主縦坑から大広間に落下してきたBETAは、その全てが等しく動きを止められる事となる。

 

 

「クソっ! いざ相手にすると数が多くて面倒すぎるぜ…!」

 

 

3機目の大広間到達者であるクロウは、コクピットで舌打ち混じりにゴチていた。

 

幾ら大広間でカオス・カペルの行動阻害が機能しているとは云え、機体を狙って真上から落下するBETAに直撃すればたまったものでは無いのだ。上を常に見上げ、危険な位置から落ちてくるBETAをひたすら撃ち抜くというのは、中々に根気と集中力を要する。

 

 

「回収班、急いでくれ!」

 

 

ジェガンで降下してくる地上部隊に警告を放ちながら、降下の障害となりそうなBETAを優先的に排除していく。主縦坑を降下する回収班に当てない様にしつつ、その回収班を狙って上から落下してくるBETAだけを撃ち抜くのがどれだけ至難かは想像が付くだろう。

 

火星任務への機体としてナイトバードを改造したアクシオ・スコートSP・VRマーズ。その主兵装であるロングバレルに換装したAX-55EAGLEを上空へ向け、引き金を引き続ける。

 

回収班としても、下手な回避軌道でクロウに撃ち抜かれてはたまらない為、降下しながらの回避軌道は出来ないのだ。クロウをただ信頼しながらまっすぐ降下するしか無い回収班の緊張の度合いは半端では無い。

 

 

「回収班、大広間に到達! これより、反応炉及びG元素の回収を行います!」

 

 

回収班の着陸により、緊迫する空中戦をやり遂げたクロウは少しだけ息を吐き、再び照準にBETAを合わせてAX-55EAGLEのトリガーを引き絞る。

 

このまま行けば順調に終われる。そうクロウが逡巡した時に起こった。

 

 

「急いで! そろそろ行動阻害の効果が保たない!」

 

 

大広間の戦闘を行っている現在、それに大きく貢献している行動阻害魔術の効果が終焉を迎えるという報告。それは、大広間での激戦が始まるという事を意味する。数機の回収班を護衛しつつ、ハイヴから目標の物を回収して帰還するという状況。

 

それに加え、大広間で自由にBETAが動き回るのであれば、混戦は避けられないだろう。ましてや、現在行動停止しているBETAが瞬時に動き出す事を加味すれば、状況は一気に暗転する。

 

回収班がやられては、収穫物も得られずに文字通り無駄死にさせてしまう事になるのだ。それだけは避けねばならないと誰もが理解している。

 

 

「回収物を減らす事は可能か!?」

 

「G元素だけでも回収します! どうにか3分下さい!」

 

「良いわ! それだけならなんとか保たせる!」

 

「なんとか急いでくれ! BETAの数が徐々に増えてる!」

 

 

剣で硬直しているBETAを休む暇なく切り捨てるゼウス神の提案に、回収班は有無を言わずに計画を変更する。

 

この判断の速さこそ、Z-BLUEの優秀さを示す一つと言えるだろう。

 

制限時間3分。短く長い激闘の幕開けを知らせるかの様に、行動阻害の瘴気が霧散。仕留めきれずに停止していたBETAが一挙に行動を開始した。

 

 

「チッ、全力出すぜ!」

 

 

AX-55EAGLEのロングバレルを外したクロウは、少しでも釘付けに出来ればそれだけで回収班に迫るBETAは減ると信じ、眼前にチャフを射出。

 

ターボチャージャーの出力を上げながら全速力でダッシュを開始し、眼前の要塞級が放つ衝角にタイミングを合わせて跳躍を繰り出す。

 

通常のアクシオを悠に超えた機動性能は衝角をすれ違う様に回避し、そのまま反転しつつAX-55EAGLEを連射。大ダメージを与えるよりも多くの敵を傷つけて引き寄せる為に全力で高機動戦闘を連続させていく。

 

 

「やらせねぇよ!」

 

 

衝突しそうになる突撃級を肩部に取り付けられたEAモーター・カノンで打ち抜き、回収班に飛びかかる戦車級をEMダガーで切り払う様は、紛うこと無く死力を尽くして護衛していた。

 

 

「揃って私に溺れて貰おうか…!」

 

 

クロウの本気を見たツィーネも、そう強く宣言すると同時に四枚の黒い羽で機体を覆い隠し、力を開放せんと大きく広げた羽を赤く発光させる。羽に浮き出る紋様は禍々しい魔の翼に変化し、形を変えてカオス・カペルの手の中に収束。

 

見る見る内に構えを取る両腕の中に超大なエネルギーの槍が形成された。

 

 

「お前達には、暗黒の世界へ消えて貰う!」

 

 

切迫した状況下ながらも敵を嘲笑うツィーネは瞬時に目を鋭くさせ、槍の先端を華咲く様に増強させつつ横薙ぎに振るう。

 

32メートルの機体の倍を遥かに超える長槍は、殺到する無数のBETAを瞬時に切り伏せる。槍先の軌跡に漂う黒い霞の様なエネルギーの残滓に紛れる煌めく紫の光。それが認識出来るほど光を増した直後、無数の爆発を起こしながら新たに落ちてきたBETA諸共周囲を吹き飛ばしていく。

 

次元力を扱う機体だけあり、クロウの扱うアクシオとは派手さも威力も桁違いである。

 

 

「小賢しい者共め!! うおおおおおおおおっ!!」

 

 

一撃の重さと堅牢さで言えば、遂に剣と槍を両方使い始めたゼウス神の方が圧倒的なのは間違いないだろう。

 

18メートルのアクシオ、32メートルのカオス・カペル。それを悠に超えた200メートル超の体躯で剣や槍を豪快に振り回すゼウス神こそ、現状最もBETAから狙われている存在だ。

 

ゼウス神は遠距離兵器こそまともなものを持っていないものの、光子力で形成した剣や槍を瞬時に切り替え、時に投擲しては再生成しながら戦闘続行し続ける様は正しく闘神そのもの。眩い黄金の鎧は現状ハイヴ内戦闘で繰り広げられるBETAの攻撃で傷を付く事は無く、例えダメージを与えられたとすれど、光子力の輝きで忽ちに傷を癒やしてしまうゼウス神に敵は居ない。

 

右手の槍と左手の剣を巧みに使い分けるゼウスは雄叫びを上げながらも、敵を貫き切り裂く手腕は繊細で、並みの硬度では無い突撃級の装甲殻や要塞級の衝角でさえも容易く切り伏せる。ゼウス神にBETAの数・質共に一切通用していないという異常事態地味た光景が、そこに確かに存在していた。

 

それでも、飽く迄目標は回収班の護衛である事に変わりはない。

 

 

「させんッ!」

 

 

回収班に迫る要塞級3体を槍の投擲で一息に串刺しにすれば、勢い余って大広間の壁際まで他のBETAを貫きながら一本の死の軌跡を描く。だが、投げた直後ゼウス神は既にそこを見ておらず、剣で切り払いながらも新たに光子力で生成した槍を振り回し、一体でも多く薙ぎ払っていた。

 

高次元生命体としての強さを誇っていようとも、護衛対象はそうではない。そう考えれば、まだまだ弱いなと僅かに自嘲するゼウス神。

 

高次元生命体は決して万能では無い。加えて、多元世界に存在した他の高次元生命体の様に破壊と自己の利益だけを求めている訳でもないのだ。誰かを守る事など、他の高次元生命体達は忘れ去ってしまった事だが、今でもこうして人間を守り、共に歩んでいる事こそが正しいと知っているゼウス神の表情に、悲嘆の色は無い。

 

 

「回収班、G元素を回収しました!」

 

「よし、よくやったぜお前ら!」

 

 

優秀な回収班の出す結果に、喜色を浮かべるクロウ。

 

3分と宣言していた作業時間だったが、実際は30秒以上も残して作業を終わらせているのだ。180秒と150秒では、戦場においてこの差は小さい様で遥かに大きい。

 

 

「先ずは私が先行する! 二人とも、援護に期待してる!」

 

「良いだろうッ!」

 

「オーライ、行くぜ!」

 

 

先陣を切ったカオス・カペルは、主縦坑を高速で上昇する。次元力を扱う機体故に推力が高いため、上からカオス・カペル目掛けて降ってくるBETA程度、瞬時に避けれる事が可能だ。また、危険地帯を素早く通過出来るのも大きい。

 

全ての横穴を超えた後、再び両腕に青い炎を纏わせ、比較的大きめの横坑に向けてそれを放つ。

 

目的は一つ、BETAの溶解だ。BETA達の死骸を消滅しない程度に焼き尽くす事で、横坑から少しでも出てくる時間を遅らせるのが作戦である。また、溶けたBETAの上に炎の残滓を留まらせる事や、半端に融解した死骸が地面や床に接着するのも足止めにはもってこいなのである。

 

 

「邪魔なんだよ、お前ら! どれだけ居るんだよ!」

 

 

回収班が上昇して上がってくる中、それに少し遅れて追従するクロウも不満を垂らしながら援護に徹する。

 

AX-55EAGLEのロングバレルで援護していたのだが、BETAの大群に襲われてロングバレルを破損させてしまったのだ。それ故、AX-55EAGLEで直接援護に出向いている形になっている。

 

だがモタモタはしていられない。今までは周囲と上方向だけに気を配っていたが、現状は下まで気を配らねばならない。現状、自身等の上には主縦坑の出入り口から覗く地上がある。つまり、上の地上に向けて下から光線属種に狙われる可能性がある事を意味しているのだ。

 

更に、大広間にはゼウス神が取り残されている。

 

幾らBETAの攻撃をものともしないと言えど、周囲のBETAを切り捨てつつ、此方を狙う光線属種を優先的に狙うのは少々手間が掛かるなど、ここに居る全員が理解しているだろう。

 

大広間に降下しようと横坑から落ち始めた重光線級をEAモーター・カノンで吹き飛ばし、AX-55EAGLEの残弾が残り僅かだと見た直後、クロウは声を挙げた。

 

 

「ゼウス、早く撤退してくれ!」

 

 

その声に導かれ、ゼウス神はアサルトブースターを使用しながら思いっきり跳躍。見る見る内に大広間から離脱し始める。

 

それを確認し、クロウも主縦坑を急上昇を開始。だが、そう簡単にはいかないのがBETA戦だ。

 

真横を光線が通ったと思えば、回収班の一機を撃ち抜いていた。悲鳴亡き爆発に、全員の緊張度が急激に増加する。

 

 

「クソッ! 回収班、急げ!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

 

予期してはいた事だが、大広間からの光線照射はかなり危険である。現に、大広間で戦う者が居なくなった途端、残っていた光線級がここぞと横坑から湧いては大広間に降り立ち、直ぐに主縦坑を見上げている。

 

EAモーター・カノンは肩兵装故に真下を狙う事は叶わず、AX-55EAGLEも既に射程外。脱出まであと数秒の所で発生した危機的状況に、クロウは思わず下唇を噛む。

 

隙を見てはツィーネがシャドウ・レイを撃ち下ろしているが、気休め程度にしかならないのだ。

 

 

「――ッ! させはせんッ!!」

 

 

叫んだゼウス神が己の剣の腹で、重光線級の照射を受け止める。その延長線上には、回収班が居たのだ。もし、ゼウス神による会心の援護防御が無ければ回収したG元素を失う事になっていただろう。

 

変わらず真下から光線が飛来するが、そうそうチャンスを与えるZ-BLUEでは無い。

 

ゼウス神のカバーの御陰か、一機また一機と回収班がなんとか主縦坑を通り抜け、ハイヴからの脱出に成功する。

 

 

「回収班、離脱します!」

 

「よし。全機速やかに帰投せよ!」

 

 

その報告を受け、地上で戦闘していた全機が速やかに帰還する。

 

F.S.の素早い指揮で収容出来ない機体を除いた全機を収容し、調査隊は無事火星を脱する事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年9月7日 20時30分 ソーラリアン》

 

 

「…ハァ、アンタ馬鹿だねぇ…」

 

「流石にこれは可哀想な気もしますが…うーん」

 

「うっ……」

 

 

ソーラリアンの格納庫にて、男女と一人のロボットが意気消沈していた。

 

それぞれの感情は正確には同じでは無い。呆れ、哀れ、気まずさと多様でありながら、沈痛さが三人を丁寧に包んでいる。

 

片手に持った端末のデータとクロウの顔を交互に見やり、大きな溜息を一つ零したのはトライアだ。

 

 

「アンタ、何の為に仕事を推してやったと思ってんだい?」

 

「い、いや分かってんだよ! だからBETAの各種アソート選り取り見取りな戦闘データを取ってきたんだ!」

 

 

そう言いながら身振り手振りで必死さを伝えるクロウ。仕事はしたぞと、そこは評価してくれと。だが、世の中は往々にして優しくないものである。

 

 

「…でもクロウさん。採算、取れてないですよ?」

 

「うぐッ――!」

 

 

AGに急所を突かれ、力無く膝から崩れ落ちる。それでも――そう思い、瞳を潤わせて上目遣いにトライアを見上げようとする。

 

チーフなら、土壇場では少しだけ優しくなってくれるかもしれないチーフなら。そう願いを込めて顔を挙げ、視線が交差した瞬間、トライアの瞳に優しさは一切見えなかった。

 

再び崩れる様に項垂れたクロウは、肩をポンポンと叩かれてAGに慰められている。

 

 

「…………で、どうすんのさ」

 

「…………マジですみません」

 

 

頭上から降り注ぐ容赦無い言葉に、今のクロウが返す言葉を持ち合わせている筈もない。

 

 

「……ハァ……謝られても困るんだけどね。困ってるのはアンタだし」

 

「……ハイ」

 

「ま、これに懲りたら戦い方を変えるこったね。急造のアクシオの改造機で良くやった方とは思うけど、こんなんじゃ身と懐が保たないよ」

 

「……ハイ」

 

「…取り敢えず戻りな。ここに居たって出来る事は無いんだ」

 

「……ハイ」

 

 

終ぞハイと小さく返すしか出来ず、フラフラと力無く背を向けて返っていくクロウ。

 

 

「…さ、再開するよ」

 

 

トライアも再び溜息を零し、AGに仕事の再開を促した。

 

AGも可哀想にとゴチつつ、呆れて気落ちしているトライアに声を掛けた。

 

 

「にしても、少し可哀想でしたね。急造のアクシオが一回でガタつくほどの激しい戦闘で、敵からの損傷は特に見受けられなかったんですよ? 昔と比べて腕は遥かに上がってます」

 

「それは理解してる。でもね、あんまり甘やかす訳にはいかないのは分かってるだろう? 大体、今回のアクシオだって向こうの頼みで仕上げたんだ。負債無しってするには、ちと甘えが過ぎるんだよ」

 

 

クロウのフォローを買って出るも、トライアは頭が痛いと言わんばかりにこめかみを抑えて苦言を吐き出す。

 

火星調査隊の際、クロウが搭乗していたアクシオ・スコートSP・VRマーズは、アクシオ・ナイトバードを急遽改良したモノ。AX-55EAGLE、両肩に外付けされたEAモーター・カノン、EMダガーを備え、短い時間でそこそこの機体に調整された機体だった。

 

以前のアクシオ・スコートSPとは違い、内部までを細かく弄る時間が無い状態で取り敢えず仕上げたというのが本音である。そこに断続的なACPファイズで過負荷を掛け続けたのだから、機体が一度でガタガタになるのも無理は無いだろう。

 

言うなれば、山岳で行われるマウンテンバイクのレースにそこらの安いママチャリで挑む様なものだ。例え完走出来たとしても、ママチャリに掛かる負荷が半端では無いのと同じと言えば分かるだろうか。

 

確かにクロウは頑張ったと言えるだろう。安物のママチャリをちょろっと改造してレースで上位に食い込む様な働きをしているのだから。だが、懐事情には決して優しくない。

 

一度で使い潰してしまった事により、±合わせて利益を少しずつ出していく為の初動――その一歩目で『BETAのデータ』『アクシオの戦闘データ』という利益を『弾代』と『武装含めた機体の修理費』で華麗に吹き飛ばしているのだ。

 

手を抜ける作戦で無かったのが事実としてあるかもしれない。そこで例えば、手を抜く事が出来たとしよう。それでもクロウならば、手を抜いて他のメンバーに余計な手間を掛けさせるのを決して選択などしない。クロウ・ブルーストとは、そういう男なのだから。

 

今回は仕方ないと言えば仕方ない事だと言えたのだ。数字だけで見れば借金は今回の任務で増えているのが現状ではあるが。

 

 

「「ハァ……」」

 

 

遣る瀬無いのはAGもトライアも同じ事だ。それを表すかの様に、二人して同時に重たい息を吐き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




∀の月光蝶設定は独自設定です。Z世界での事実と照らし合わせ、一部を独自に設定したものが此方に成ります。まぁ天獄篇では月光蝶強すぎたし…多少はね?(震え声)

因みに、ゼウス神の装備しているブースターは天獄篇に普通にある強化パーツです。

次回は早くて夏終わりになるかと思います。宜しくお願いしますm(_ _)m

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