to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫   作:(´神`)

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お待たせしました。

やはり、これだけ書いていると自分の書く話が面白いのか、何も分からなくなりますね。

今回も、至って普通の話です。

賛否両論あるかと思いますが、ご容赦下さい。


第ニ章 (2)

帝国に所属する人々に於いて、待ちに待ったこの28日。

 

BETAの侵攻を食い止めた24日から既に4日経った。

 

数日前まで滅亡の危機に陥っていた筈の帝国の士気は非常に高い。

 

一月以上前から、毎日が負ければ滅亡、勝てば奇跡という状況に陥っていた。帝国の西日本奪還を諦める者は居なかったが、口に出す程の気力も希望も無かったのは確かだ。

 

だがしかし、帝国は希望の光を見出した。BETAを自国から退ける事も不可能では無いとすら考えている。

 

帝国の本土奪還はZ-BLUEの力が在ってこその話ではあるが、同盟を結んだ者同士、助け合う事は何ら可笑しい話では無い。

 

大東亜連合の援軍も練馬基地に到着し、実質アメリカ軍の国連宇宙軍も大気圏突入待ちしている所だ。

 

一月もの逆境を凌ぎ切った帝国の反逆が、この日を境にして始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

《1998年8月28日 6時30分 駿河湾》

 

日の出から1時間半ほど過ぎた頃、帝国の命運を左右する作戦が遂に開始されようとしていた。

 

口火を切るのは当然帝国軍だ。

 

その誉れある第一撃を加え様と用意を整え、その時を今か今かと待ち侘びているのは帝国海軍の人間である。

 

戦争に置いて、相手の兵站を断つのは最も重要だ。

 

これはBETA戦でも変わりはなく、兵站と称するのが適しているかはさておき、後続のBETAを叩いてから本拠地を攻めるのは本作戦の第一段階にも当然存在する。

 

BETAは膨大な数と、それに伴う異常な継戦能力の高さが厄介なのだ。そこを断ってしまえば、作戦成功の可能性は必然的に高まる。

 

従って、現在駿河湾及び富山湾にそれぞれ2艦隊ずつ展開しており、戦局である横浜付近に大陸側からBETAを送り込まない様に艦砲射撃で蹴散らすのが役目だった。

 

その為に、帝国海軍はこの作戦で国内の全砲弾の7割を消費するつもりである。

 

この数字を不用意と思いがちだが、仕方の無い部分が大きい事を忘れてはならない。妥協して佐渡ヶ島ハイヴから増援が来ても、大陸から増援が来ても作戦が崩壊する可能性が非常に高いのだ。油断が出来る状況に無い今、最大限出来ることをするべきなのである。

 

ただでさえ背水の陣でありながら、佐渡ヶ島ハイヴの動向に気を配りつつ横浜ハイヴを制圧しなければならないのだ。出し惜しみをして勝てませんでしたでは、話にならない。

 

 

「全艦、戦闘用意!」

 

「全艦、戦闘用意」

 

 

駿河湾の艦隊の旗艦『三笠』の艦長が、全艦隊に向けて一斉に指示を放つ。

 

艦長の声に従ってオペレーターが復唱し、それに応える様に艦隊の砲門が本土に向けられ、全艦が射撃体勢にスムーズに以降していく。

 

ハイヴ建設を阻止し、BETAを本土から叩き出すつもりで気合を込めて艦長が声を張り上げた。

 

 

「打ち方始めッ!!」

 

 

一旦撃ち始めれば、湾内に響く爆音は留まる事を知らない。

 

状況が変わるまでひたすら打ち続け、BETAの進軍速度を遅らせるだけだ。

 

今ここに、帝国に取っては『日の出』となるであろう明星作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月28日 7時00分 千葉県、旧勝浦市》

 

 

「トゥアハー・デ・ダナン、旧勝浦市に到着しました」

 

「了解した。そのまま待機していてくれ」

 

 

ブライトの命令に、テッサは肯定の意を述べるとトゥアハー・デ・ダナンの位置を固定させる。

 

現在、主な部隊は3つに別れていた。

 

1つは練馬基地から直接南下して横浜ハイヴを叩く大部隊、2つめは大気圏外で、降下準備を整え終えているアメリカ主導の宇宙軍、最後に、横浜から東京湾と千葉の房総半島を丸ごと挟んで向かい側にある、旧勝浦市の沖合で待機するトゥアハー・デ・ダナンの3つだ。

 

明星作戦は既に、帝国海軍の艦砲交差射撃によって始まっている。トゥアハー・デ・ダナンに収容されている戦略級の兵器による一撃で横浜ハイヴのBETAを無力化するのが、作戦の第二段階の始まりだ。

 

帝国軍と大東亜連合には、Z-BLUEの戦略級兵器で地表付近のBETAを無力化する事を既に伝えてある。

 

全体的に張り詰めた空気の中、ブライトが普段通りに言葉を発した。

 

 

「頃合いだな。テスタロッサ艦長、始めてくれ」

 

「了解しました」

 

 

穏やかだが、しっかりとした声色で返事を返し、カタパルトデッキに居る3歳年下のパイロットに静かに告げる。

 

 

「では、作戦を開始しましょう」

 

「オッケー。抑えめで行くよ!」

 

 

テッサの言葉を受け取ったチコ・サイエンスは、乗機のキャトフヴァンディスと共に勢い良く跳躍した。

 

 

 

 

 

作戦が開始された中、誰もが緊張していた。しかし、その度合はまるで別物である。

 

緊張とは一番程遠い雰囲気を持つのは、宇宙軍の上層部だ。G弾の射出用意を済ませている事から、狙いは明白ではあるが、緊張しない訳では無い。

 

間諜達から報告のあったZ-BLUEの戦力を見極めたいという思いが、如何ばかりかの緊張感を生み出している。宇宙空間に突如として現れた超銀河ダイグレンの事は理解しているが、あれが戦艦だという情報を聞いていても、イマイチ理解しきれていない。謎は何一つとして解消されていないのだ。

 

多摩川攻防戦の奇跡の数字も、帝国の新型戦術機に拠る物だろうと踏んでいた事も遠因にあるだろう。

 

それに、苦戦していると見たならばいつでも援護の心積もりでG弾を落とせば良い。故に、あるのは普段の緊張感程度となっている。

 

大東亜連合にもそれなりの緊張感はあるが、あくまでも通常の戦場にある緊張感だろう。

 

それと比較してみれば、帝国軍はかなりの緊張を強いられている。

 

作戦が成功すれば、本土を取り返した英雄。失敗すれば、最悪BETAの胃袋へ超特急だ。どう足掻いても緊張は拭えない。

 

例外はZ-BLUEだろう。言葉は悪いが、『この程度の絶望』を孕んでいる戦闘など、幾らでも経験している。負ければ自国の滅亡どころか、人類の破滅。地球崩壊。全並行世界の消滅。そんな戦いが少なくなかった。

 

種の存亡や全宇宙の未来を掛けた戦いを幾度も経験してきたZ-BLUEには、良くも悪くもいつも通りの戦場である。

 

作戦の第一段階である艦砲射撃が始まった同時刻。ピアティフの背後で腕組みをしながら戦場を映すモニターを眺めている夕呼が思考に耽っている最中、仙台第二帝都の作戦司令室にて場違いな雰囲気を醸し出しながら、夕呼に背後から声を掛ける男が居た。

 

 

「どうも、こんにちは。御機嫌如何ですかな、香月博士」

 

「何? 世間話に付き合う程、暇じゃないのは見て分かるでしょ」

 

 

相手を瞬時に声と話し方で理解した夕呼は、相手の方に向き直らず適当にあしらおうとする。

 

素っ気ないと受け取ったのだろう、訪問者はやれやれと肩を竦めながら歩を進め、夕呼の横に並んで立っては、夕呼の見つめるモニターを同じく見つめだした。

 

 

「いやはや、素晴らしいですねZ-BLUEは。あれは潜水艦の類なのでしょう? 潜水艦が宇宙から大気圏を突破してやってきただなんて、誠に信じ難いですな」

 

「五月蝿いわよ鎧衣。…用件は?」

 

 

鎧衣と呼ばれた四十代の男は、司令室には似合わない背広を着ていた。飄々とした雰囲気で商社マンを謳う目の前の男は夕呼の知り合いであり、情報源として見れば非常に優秀な相手だ。

 

油断は出来ない人物だが帝国にとっては非常に有益であり、夕呼との利害が一致する以上、これからも度々顔を合わせなければならない相手である。

 

 

「風の噂では、相当お疲れだとか。そこで、疲労回復にビタミン剤のサプリメントを――」

 

「用が無いなら早く帰りなさい」

 

 

食い気味に拒絶させられ、取り付く島も無い夕呼の態度に鎧衣は少し安心して、懐から取り出したサプリメントを手近なデスクに置く。それすらも目線すら配らせてくれない夕呼に意味深な笑みを溢すと、数拍置いてから話を始めた。

 

 

「…米国に不穏な動向が見られましてな。なんでも、G弾の性能検査をしたがっているとか」

 

 

その一言で稲妻に撃たれた様に、夕呼は体をビクリと震わせて鎧衣の顔を睨みつける。

 

 

「おお、そんなに怖い顔で睨まないで下さい。私がG弾を発射したい訳ではありませんので」

 

「それってこの作戦での話よね!? いつ決行されるのよ!」

 

 

夕呼は怒気を発しながら、自身より背の高い鎧衣の襟首を力強く掴んでは首元を締め上げる。鎧衣は睨まれているにも関わらず、話を聞いてもらえた事で少し口角を吊り上げながらも両手を前に出して夕呼に静止を促した。

 

静止の声に一々芝居掛かっている事が尚一層腹立たしい。

 

 

「まぁまぁ落ち着いて。私もこの数日間大掃除で忙しかったので、そこまで詳しい情報は入ってきて居ないのですよ。ですが、まず射出されると見て良いでしょう。明日か、明後日か。早ければ――」

 

「今日中って訳ね…」

 

「そうも考えられるでしょう」

 

 

不穏な雲行きに夕呼は体を僅かに震わす。

 

Z-BLUEとの同盟後、初の共同作戦をアメリカに滅茶苦茶にされるのは我慢がならない。だが、その程度はまだマシだ。関係性など、どうとでも築いていける可能性がある。

 

本当の問題は、G弾投下により頼みの綱であるZ-BLUEからの信頼が減衰する様な事があっては、堪った物では無いという事だ。それだけならまだしも、G弾によってZ-BLUEから戦死者を出した場合、銃口がこの世界に向きかねない。

 

 

「その情報、進展があったら直ぐに教えなさい」

 

「勿論ですとも」

 

「…用はそれだけ?」

 

「もう1つあるとすれば、博士の美貌を拝みに来たくらいですか」

 

「…ふん」

 

 

減らず口を叩く鎧衣を傍目に不満気に鼻を鳴らした夕呼は、再度モニターを観察し始める。

 

モニター越しに見える旧勝浦市で待機するトゥアハー・デ・ダナンの上には、たった一機の機体しか居ない。しかし、その機体には顔があった。造形は非常に人に近く、目には瞳がある事まで確認出来る。時折、瞬きをするのは気の所為だろうか、文字通り生きている様に見えるその巨体は、戦術機の倍近い。

 

 

(房総半島の南東の端から、どうするワケ…? しかもたった一機で…)

 

「人に近い顔とは、意味深なデザインですな。瞬きまでもが再現されている。女性の様な体型である事にも、意味があるのですかな?」

 

「五月蝿いから黙ってなさい」

 

「これは失敬」

 

 

隣で思考を読み取ったかの様に口を開き続ける男を黙らせると、夕呼は再び考えに浸る。

 

鎧衣はしょぼくれた様な表情を態と一瞬見せ、親指と人差指の先端で輪を作って唇の端に当て、チャックを閉じる様になぞって口を引き結んでいた。実際、先程の発言は思考を読んだのでは無く、夕呼の視線からモニターの何を見てるかを判断し、漠然と思った事を言ったに過ぎない。

 

夕呼がその体躯から想起したのは、多摩川攻防戦の最後に大暴れしたヴァンセットだ。ヴァンセットも戦術機の倍以上の大きさはあったが、それと比べれば小さい。

 

しかし、不明なのはその艤装だ。武器らしき物は何も伺えず、在り得ない話だが万が一、機体が徒手空拳で戦うと仮定しても、それにしては手足が些か細い。耐久性に自信がある機体には見えないし、そもそも近接戦を得意とするなら練馬基地側に派遣されているだろう。

 

ある程度Z-BLUEに慣れてきたと自負している夕呼は想像がつかない事を当たり前と切り捨て、無駄な脳内のカロリー消費を抑える。夕呼の中で、何が起きるのか分からなくとも、これから何かが起こるという強い予感はしていた。

 

 

「香月博士、Z-BLUEも作戦を開始した模様です」

 

「分かったわ。映像データを録画しておきなさい。何か起こるわよ」

 

「分かりました」

 

「その、何か…とは?」

 

(予想なんか付く訳無いでしょ…!)

 

 

ピアティフ+αとの遣り取りをしながらも、夕呼の視線の先はモニターから離れない。

 

性懲りも無く話しかけてくる若干一名に対しては頭の中で怒鳴るだけで留め、無言を貫くに終わる。下手に言葉を返せば、喜々として食いついてくる事は目に見えていた。

 

鎧衣からモニターの方に再度注意を戻すと、先程までトゥアハー・デ・ダナンの上で立ち続けていた機体が飛び上がっていた。

 

 

「エキゾチックマニューバ!」

 

 

気合を込める意味なのだろうか、オンになっているのだろう外部マイクを通して聞こえる声は、若い少女らしい声だ。

 

桃色と白色に彩られた不可思議な機体。目立った武装の見られなかったキャトフヴァンディスに、突如として急激な変化が現れる。

 

 

(この光…まさか!?)

 

 

夕呼が、いや、多摩川攻防戦を見届けた者全てが知っている光。突如として現れたBETAの超大型未確認種を一瞬の内に切り捨て、粉微塵にして爆砕したZ-BLUEのスーパーロボット――ヴァンセットが放った光と同等の物だろう。

 

夕呼の推測では『Z-BLUEの機体は、大きいほど火力が高い』と考えている。実際、400メートル前後である母艦の主砲は凄まじく、戦術機やMSよりも大きいヴァンセットの火力は目を疑うレベルだったからだ。

 

従って、モニターの前の機体は『ヴァンセットよりは火力が低い』と考えられる。ヴァンセットほどのトンデモ機体じゃないだろうと予想は出来た。

 

話を戻すが、かの輝きは奇跡の輝きとして、衛士の間で噂になっていた。その輝きが今、帝国の反逆の狼煙として煌めき出したのだ。

 

渦巻き青白い閃光を散りばめながら周囲を輝き包み込む力の奔流に、キャトフヴァンディスは身を任せている様にも、光を操っている様にも見えた。

 

前装甲のスカートがヒラヒラと揺れる程の強風の中、両手を大きく広げてキャトフヴァンディスは目を閉じる。

 

尖った両肩の装甲が青白く輝いた次の瞬間、キャトフヴァンディスの頭上には両肩の装甲の先端部である点と点を線で結ぶかの様に、青の雷の線が完成した。

 

次第に大きくなるバチバチという電力の放電にも似た音が続いたかと思えば、機体の少し上に弾き出される様に6つの丸い小さなエネルギーの球体が放出され、円を描く様に運動を始める。

 

円を描く球体は僅かに減速するも、直ぐに再加速を始めては描く円を縮小させながら高速回転し、次第に全てのエネルギーの球体が機体の頭上で1つとなって一際強く輝いた。

 

 

「――っ!」

 

「む…」

 

 

あまりの閃光にモニターの前に居た夕呼は手で僅かに顔を覆い、鎧衣も目を細める。

 

 

「バスタァァァァァァァァ!」

 

 

キャトフヴァンディスは素早い動きで胸部装甲に収納されていたバスターラケットを取り出し、如何にも可愛らしい動きで数回ほど回転。フォームを整え、バスターラケットを展開する。

 

ここまでくれば、もう夕呼にも予想出来た。武装の特性はともかく、現実味も無視して、Z-BLUEの機体が何をしようと言うのかは朧気ながらに。

 

現実味の話は今更だろう。戦線が有利になるならZ-BLUEを。モニターの向こうの、少女の乗っている場違いな見た目の機体を信じるしかない。

 

 

「スマッシュ!!」

 

 

狙いを定めて引き絞ったキャトフヴァンディスの腕が、勢い良く真下に振り下ろされた――

 

響くは莫大なエネルギーの奔る轟音。青の光線が走り、斜め上空で停滞したかに見えた瞬間、赤方偏移により真っ赤な閃光に変化する。分離した6つの赤の極光は房総半島を悠に超え、次第に青の光線に変化しながらも、上空で急激なカーブを描き続ける。

 

横浜ハイヴの建造途中の小さなモニュメントを六方から青い奔流が強襲すれば、直後に起きたのは少量の爆風。遅れて、目を焼くのではと錯覚しそうになる極大の閃光。

 

強すぎる光に司令室ですら部屋中が白く輝き、それぞれの目に届く僅かな痛みに何処からとも無く小さな悲鳴が響いた。

 

 

「…うぅ……痛っ…! ……はっ!?」

 

 

夕呼は痛む目を抑えながらも、頭を振って意識を無理矢理覚醒させてモニターを確認する。

 

ぼやけて見えるのを疎ましく思いながらも、視界のピントを瞼の微細な動きで素早く調節し、横浜ハイヴが映されているモニターを見ると――

 

 

「……嘘…でしょ…」

 

「なんと…」

 

 

地表付近で活動していたBETAは揃って氷漬け。ハイヴ全体が分厚い氷に覆われ、周囲の大地と東京湾の一部までもが氷獄の中に押し込められた静寂なる世界が広がっていた。

 

数秒間、夕呼は何も言葉に出来ずに呆けていると、地表の氷漬けになっていたBETAとモニュメントが爆散する。

 

其処には、8月の末にしては異例の雪が静かに降っていた。

 

Z-BLUE以外の誰もが予想出来なかったであろう、想定外の極みの様な一撃で、明星作戦は静かに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月28日 7時00分 旧武蔵野》

 

キャトフヴァンディスのバスタースマッシュによる先制攻撃を以って、Z-BLUEは進軍を開始し始めていた。

 

ラー・カイラムとネェルアーガマが前進を開始した事により帝国軍の部隊達も正気を取り戻し、Z-BLUEの二隻を追う形で進軍している。

 

ラー・カイラムとネェルアーガマの速力が早過ぎるため、Z-BLUEが先行している状態だ。

 

 

「ブライト司令、第二射は必要無さそうですな」

 

「そのようだ。だが、油断はするなよ」

 

「了解です」

 

 

ブライトとオットーは互いに言葉を交わしながらも、内心はヒヤヒヤしている。

 

作戦の第一段階として、太平洋側と日本海側からの艦砲交差射撃により後続を寸断。最低でも遅滞させ、その後にキャトフヴァンディスによる超々遠距離からの威力を抑えたバスタースマッシュでハイヴ周辺のBETAの動きを阻害。進軍してくるBETAの群れをラー・カイラムとネェルアーガマの一斉射撃で一掃し、ハイヴ付近でトゥアハー・デ・ダナンと合流しながら連携してハイヴを落とすといった流れだ。

 

だが威力が強すぎたのか、それともBETAが弱かったのか。予想内の氷結範囲であった筈が、BETAは一向に進軍してこないどころか、地下から地上にすら上がってこないのだ。

 

不穏な空気を匂わせる戦場だが、Z-BLUEは構わず進軍を続ける。

 

 

「地下の振動を確認。突撃級の第一波と思われます。数、約50」

 

 

BETAの反応も見えないまま、前進する事数分。多摩川を超えた辺りで地下の振動を確認した。しかし、数は極少数だ。

 

言っては何だが拍子抜けする様な数であり、報告をあげたメランに答えるブライトの声も若干トーンダウンしていた。

 

 

「出現地点にメガ粒子砲を浴びせておけ」

 

「了解しました」

 

 

気の抜けた遣り取りから数分後、出現予測地点の地面が急激に隆起し、突撃級が複数飛び出てくるが、それも待ち構えられていたメガ粒子砲により、直ぐ様消滅する。

 

突撃級が穿った穴からは後続のBETAが続々と出てくるが、穴の数自体が少ない事から非常に混雑しており、出て来たとしても数秒足らずでメガ粒子砲を浴びて肉塊と化していく。

 

やがて、突撃級の作成した穴からBETAは出てこなくなり、そのままラー・カイラムとネェルアーガマは進軍を再開し始めた。

 

既にBETAの支配地域だというのにBETAが殆ど出てこない事に疑問を抱いていたが、その答えも既に見つかっている。

 

恐らくだが、バスタースマッシュで凍らせた地面の強度が高い所為で、突撃級が地面に穴を開けられないのだろう。先程の僅かなBETAの群れも、地面が凍結していない場所であったのだ。

 

 

「よし、ネェルアーガマはラー・カイラムの南西に位置したまま、ここに固定だ。各機、出撃しろ!」

 

 

ブライトの指示に待ってましたと言わんばかりに各機が飛び出す。

 

その気持は分からないでも無いが、ブライトは指揮官という立場上、注意だけは促す事にした。

 

 

「BETAは見られないが、ここは一応奴等のテリトリーだ。気を抜くなよ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

返事だけは良いが、注意されて直ぐに、揃いも揃って機動兵器達はハイヴへ直行して行くのだ。

 

こめかみを親指でグリグリ押しながら、ブライトは溜息を1つ零した。

 

 

 

 

 

「戦場がこんなに静かなのって不思議ね。それにこの雪って、凍ったBETAの残骸でしょ? なーんかヤな感じ」

 

「油断するなよクェス。ここは間違いなく、BETAの巣の上なんだからな」

 

 

気を逸らすクェスに、注意の喚起を施すのは大体ギュネイだ。クェスを気にかけすぎて、最近では親や兄の様な立場になりかけている事を気にかけていたりする。

 

 

「ギュネイ、それ『ハイヴ』って言うのよ。知らなかった?」

 

「それくらい分かってる! というか、問題は其処じゃない!」

 

「フフ…はいはい、分かってるって」

 

 

ハイヴの名称について意外そうな顔で指摘され、ギュネイが顔を赤くしながら噛み付けば、今度はクスクスと笑い出す始末だ。

 

 

「完全に、妹に振り回される兄のソレだな」

 

「カミーユ!」

 

 

通信に割り込んで来たカミーユにサラリと気にしている所を突かれ、それを聞かれてクェスが再び笑い出し、カミーユのタッグであるフォウも『ダメよ、カミーユ』と静止の声を掛けるが、笑い声が隠しきれていない。

 

直ぐムキになる性格からか、近頃の周囲の弄り方に頭を悩ませるギュネイだったが、ふと目に入った計器に思考を切り替える。

 

 

「BETAの反応だ! 直ぐ下に居るぞ!」

 

 

ギュネイの声に弾かれるように反応したのは、先程まで笑っていたクェスとカミーユだ。

 

続いてカミーユのタッグであるフォウも飛び上がり、BETAを迎える。

 

4機の迎撃体勢が整った瞬間、地面の氷にヒビが入り、瞬く間に周囲に突撃級が複数顔を出した。

 

 

「このっ!」

 

「落ちろっ!」

 

 

クェスの攻撃に合わせ、撃ち漏らしたBETAを丁寧にギュネイが掃除する。

 

小型種は光線級以外全て無視しているが、それでも対処が追いつかない。

 

周囲の氷に次々ヒビが入り、突撃級を皮切りに止めど無くBETAが溢れだしているのだ。

 

 

「くっ、まずい…!」

 

「アムロ、これは…!」

 

 

少し離れた場所に居たアムロ達も含め、この場の全ての者が察した。

 

BETAに誘い込まれた事に。

 

 

 

 

 

機動部隊の殆どがハイヴの地表付近でBETAの罠に掛かった時、4キロ後方で待機していた二隻の母艦もまた、気が抜け無い状態にあった。

 

 

「前方のBETAをハイメガ砲で一掃しろ! コンロイ少佐、メガ・バズーカ・ランチャーを準備してくれ!」

 

「了解です!」

 

 

オットーは素早く指示を飛ばしながら、戦闘状況の推移を探る。

 

先程まで戦場は静かだったが、突如として地中からBETAが湧きだしたのだ。

 

加えて、出現したBETAの殆どがモニュメントのあった方向――つまり、ハイヴの中心部に向っていたのだ。十中八九、Z-BLUEの機動兵器を周囲から囲い込むつもりだったのだろう。

 

だが、安々とそうさせるつもりは無い。

 

せめて機動兵器達の退路だけでも作ろうと、ネェルアーガマとコンロイのジェガンでBETAの軍勢の一部を消滅させる。

 

ラー・カイラムのメガ粒子砲も一点に集中させる事、数分。なんとか機動兵器達が後退してきた。だが安心は出来ない。彼らの帰還は同時に、BETAの大軍を連れて戻ってきた事を意味しているのだから。

 

 

「駄目だ! 一度後退するぞ!」

 

「後退しろ! ラー・カイラムの盾になるぞ!」

 

 

修理の終わっていないラー・カイラムを狙われては堪らないと、ネェルアーガマと共に後退させながら機動兵器を回収し、順次素早く補給を行わせていく。

 

それでもネェルアーガマにも限界がある。直ぐ前方から急にBETAが出現し、そこに光線級も紛れて出てくるのだ。対処する前には何度か光線の照射を受ける羽目になる。

 

ハイヴと近すぎて、地平線の向こうで倒しておくという事が出来ないのだ。主砲などで逐一薙ぎ払っては居るが、それでも間に合わない。

 

 

「弾切れか。一度後退する」

 

「トロワ、カバーするので急いで!」

 

「了解した」

 

 

ネェルアーガマを守る様に展開しているカトル達も劣勢だ。必死にレーザー属種を始め、突撃級や要撃級を始末しているが、それでも圧倒的に手数が足りない。

 

計器の振動が大きくなったかと思えば、要塞級まで湧いて出る始末だ。

 

それに従って穴が肥大化し、湧き出るBETAの量も増加し始める。ハイヴの直ぐ側なのだから、BETAのの出現量も並ではない。

 

 

「このままではっ…!」

 

 

ジリジリと後退を余儀なくされて悔しそうな声を漏らすが、BETAの掃討に余念が無い。撤退するほどの余力を与えてくれないのだ。

 

 

「重光線級の出現を確認! 来ます!」

 

「何っ!? 不味いぞ!」

 

 

ネェルアーガマのオペレーターである、ミヒロが悲鳴の様に叫ぶ。

 

至近距離で重光線級までもが複数出現されては、本格的に危険だ。重光線級と光線級を含めれば、数が多くて対処出来ない。接近戦で一気に倒すのも手ではあるが、こうもBETAが多くては近づく事すらままならない。

 

だが、叫ぶだけではどうにもならないのが現状だ。最悪の状況に一歩一歩と近づくのを感じ取り、冷や汗が止まらないオットーの元に、1つの通信が入った。

 

 

「帝国斯衛軍第零特務大隊、助太刀するぞ!」

 

 

以前耳にした男の声が聞こえた次の瞬間、Z-BLUE達の斜め後方から青い2機の戦術機を先頭にして傘型の陣形を形成し、突撃し始めた。

 

Z-BLUEに気を遣りすぎた所為だろう、周囲のBETAを横から掻っ攫う様に屠る第零特務大隊の影響でBETAの手数が一瞬ではあるが、かなり減少した。

 

 

「後退中止だ! 打って出るぞ!」

 

 

これを好機と見たブライトは直ぐに前進の指示を飛ばす。BETAが怯んだ隙に、一気に押し戻す算段だ。他の戦術機はまだしも、第零特務大隊の実力は多摩川攻防戦で確認している。

 

 

「行くぞシャア!」

 

「分かっている! 行け、ファンネル!」

 

 

シャアの駆るサザビーの拡散メガ粒子砲が腹部から放たれ、前面のBETAが纏めて溶かされる。ファンネルを展開しながら薙ぎ倒して進むνガンダムとサザビーの圧倒的な制圧力で、進軍する為の道が一気に切り開かれたのだ。

 

 

「私に付いて来い、マリーダ」

 

「閣下、後ろはお任せ下さい!」

 

「フ…期待しているよ」

 

「は!」

 

 

シャアの切り開いた道をハマーンとマリーダが更に広げ、それに続いて補給を済ませた者達が続々とBETAを押し返し始めた。

 

第零特務大隊の援軍により、士気をかなり取り戻したZ-BLUEの士気は高い。

 

さっきまで押されていた事など無かったかの様に、安々とBETAを葬り始めたのだ。

 

 

 

 

 

「ファントム12、フォックス2!」

 

「ファントム2、フォックス3! くぅっ…!」

 

「恭子様!? このおおっ!!」

 

 

BETAが縦横無尽に入り乱れる中で、恭子と唯依は1つのエレメントとしてBETAを屠りながら互いをカバーしていた。

 

要塞級と重光線級の連携で、ここ3日間練習し続けてやっと出来た第零特務大隊初めての陣形を崩された今、生き残るのは個々の力量と運のみ。戦場を幾度か経験している恭子が居るとは言え、たった一度しか戦場を経験していない唯依の技量は、決して高いとは言えない。

 

従って恭子が唯依のカバーに回る事が多く、恭子自身の負担はかなり増している。

 

特段、恭子や唯依が弱い訳ではない。地上でありながらハイヴ内と遜色無いBETAの密度の高さを誇るこの戦域一帯が異常なのだ。

 

恭子の乗る武御雷の左手を圧し折った突撃級に向けて、唯依は怒りの赴くまま87式突撃砲のトリガーを強く引き絞る。

 

堅牢な甲殻とは裏腹に、比較的柔らかい背を見せていた突撃級は意図も簡単に崩れ落ちた。

 

 

「唯依っ!」

 

「――なっ!?」

 

 

確実に仕留める為に足を止めてしまった事が運の尽きか、突撃級を倒した事に安堵してしまった油断からか。背後に忍び寄っていた要撃級の鋏が、山吹色の武御雷に吸い込まれる様に容赦無く伸びる。

 

 

「ハアァァッ!!」

 

 

恭子の気合を込めた一撃により長刀で要撃級の腕部の付け根を叩き切るが、反対側の鋏が直ぐ様恭子の武御雷に、気付けば斜め上段から勢い良く振り下ろされていた。

 

 

「ああっ!」

 

「恭子様!!」

 

 

唯依が要撃級を両断して事無きを得るも、恭子からの応答が無い。

 

左腕部と左足が拉げた青の武御雷を良く見れば、コクピット部分が凹んでいた。唯依はまさかの事態を思い浮かべ、必死に声を振り絞って恭子に声を掛ける。

 

 

「恭子様? …恭子様! しっかりして下さい、恭子様! 斯様な所で倒れられてはなりません!! 恭子様ぁっ!!」

 

 

呼びかけに一向に答えてくれない恭子に、最悪の事態を思い浮かべてしまった唯依の叫びは悲壮感にあふれ、戦場であるにも関わらず涙を堪え切れないでいた。

 

戦場で味方を案じて足を止めるなど言語道断だが、周囲のBETAが戦術機よりもZ-BLUEの機体に吸い寄せられる様に動いている事で、幸いにも唯依達に狙いを定めるBETAは居なかった。

 

二週間の地獄の特訓を経て死の8分を経験しようとも、やはり衛士としては未だ未熟だ。そんな事にも気づかない程、唯依の頭は恭子の事しか考えられなくなっていた。

 

 

「恭子様っ…! お願いです…! どうか…」

 

「…ぅっ…そんなに騒がないで…私は、大丈夫だから…」

 

 

恭子の微かな応答の声を耳にした唯依は直ぐに涙を腕で乱暴に拭い取り、武御雷に片膝を着かせて手元の操縦桿を慎重に動かし、恭子の武御雷の胸部装甲を剥がそうとする。

 

 

「恭子様! 待っていて下さい、今コクピットを抉じ開けます!」

 

 

だが、ここは戦場だ。そんな悠長な事が出来る程甘くは無い。

 

 

「唯依、逃げなさい…!」

 

 

背後からの振動の大きさとその間隔で分かる。十中八九、要塞級が近づいているのだろう。それは恭子だけでなく、唯依にも分かっていた。

 

しかし、恭子は唯依にとって命の恩人であり、生きる意味すら示してくれた存在なのだ。戦場だからと言って、捨て置ける程2人の関係は弱くも浅くもない。

 

 

「恭子様を捨て置いて一人で逃げ帰るなど出来ません! もう少しですから…!」

 

 

ギシギシと軋む胸部装甲が外れるのが先か、要塞級が2人の元に訪れるのが先か。

 

恭子にはわかっているし、唯依も認めたくはないが理解している。胸部装甲の凹み方に問題があるのだろう、悲痛な程に動かないのだ。ゆっくりとは動いているが、それでも要塞級が来る前に助ける事は、誰の目にも不可能だと分かる。

 

 

「やめなさい、唯依…これは、命令よ…!」

 

「聞けません!」

 

 

上官の命令は絶対だが、それ以前に唯依には友達を救えなかった過去がある。幾ら恭子の命令でも、頑として動こうとはしなかった。

 

だが、無慈悲にも要塞級は直ぐそこまで来ている。

 

 

「唯依っ…!」

 

 

要塞級から伸びる衝角が見えた恭子は、思わず悲鳴を上げる。だが、次に聞こえたのは衝角が山吹色の武御雷を貫く音では無かった。

 

 

「させません!」

 

 

以前、多摩川攻防戦で聞いた声。特徴的な切断音。要塞級は三枚に下ろされた魚の様に、呆気無く崩れ落ちる。

 

 

「お久しぶりです! 大丈夫ですか?」

 

「あ…貴方は…!」

 

 

武御雷よりも体躯は小さいが、唯依と恭子を背に庇う様に立つ機体には見覚えがあった。

 

頭部に付いた真っ赤な鶏冠。薄紫と白のツートンカラー。両手に握られた特徴的な曲剣。通信から聞こえてくる声は、落ち着きのある優しげな少年の声。

 

 

「僕は、Z-BLUEのカトル・ラバーバ・ウィナーです。コクピットが開かないんですか?」

 

「…っ! そうだが、その装甲は固くて動かないのだぞっ…!」

 

「僕に任せて下さい」

 

 

驚きで一瞬声が出なかった唯依は、反抗心を剥き出しにしながらもカトルの好意を切り捨てようとする。要塞級にやられる覚悟で装甲を剥がそうとしたのに、殆ど動かなかったのだ。武御雷よりも小さい機体に、恭子を救える事は出来ないと思っての発言だ。

 

しかし、カトルは唯依に優しげな声を掛けた後、青の武御雷に近づいて唯依と同じようにサンドロックの膝を着かせた。

 

 

「トロワ、ノインさん、ヒルデ。少しの間で良いので、こちらをカバーして下さい」

 

「「「了解」」」

 

 

カトルの指示に応える様にカトル達の周囲を、何処からとも無くやってきた3機が囲む。そのどれもに見覚えがあり、その実力も多摩川攻防戦で見せつけられたのだから、良く知っている。

 

唯依は恭子が助かりそうだと薄々だが理解出来た途端に深く息を吐き出し、恭子が救出されるのを見守ると同時に、自分一人では助けられなかった悔しさに唇を強く噛み締めていた。

 

カトルは歪んだコクピットの邪魔な部分にヒートショーテルをゆっくりと近づけ、一瞬だけ熱した刃を当ててからコクピットに手を掛け、スムーズにコクピット前の邪魔な装甲を動かした。

 

ビクともしなかった装甲が動いた事に唯依は驚きを隠せないが、当然である。

 

そもそもサンドロックは、装甲の硬さと出力の高さが利点だ。装甲を熱で少しだけ柔らかくしているならば、自身のマニピュレーターだけで装甲を動かすくらい、どうという事は無い。

 

ましてや、動かす物がガンダニュウム合金ですら無いのだ。これぐらい出来なくてはガンダムの名折れだろうとカトルは思っている。現に、戦争では無く人助けにサンドロックが役立った事にカトルの表情は満足気だった。

 

何はともあれ、この瞬間を待ってましたと言わんばかりに唯依は乗機を屈ませて飛び降り、恭子をなんとか支えながら自身の武御雷に運びこむ事に成功した。

 

 

「…逃げなさいって言ったでしょ…」

 

「ごめんなさい…でも…」

 

「…ありがとう、命を助けられちゃったわね…」

 

 

恭子が唯依に微笑み掛けると、唯依はそれまで曇り気味だった顔色を一瞬で明るくさせる。

 

唯依は恭子の体を簡易ベルトで素早く固定すると、カトルの方に通信を繋げた。

 

複雑な心境からか、唯依の表情は若干険しく変化する。

 

 

「貴方の御蔭で大尉を救う事が出来ました。本当に感謝します」

 

「こういう時はお互い様です。先程は貴方達の部隊に助けられましたから。良ければ、僕達の母艦で補給と治療を受けて下さい。戦術機の装備は少量ですが、帝国から譲り受けている筈ですから」

 

 

トゥアハー・デ・ダナンが仙台港に寄港した際、夕呼のアイデアで戦術機の装備一式を少量だけネェル・アーガマに積載する事にしている。その為に、戦術機のカタログスペックと主兵装に関した書類を伊隅が事前に届けていたのだ。

 

表向きは戦術機装備一式のデータ採取の為に渡したのだろうが、こういった時を想定しての事だろうというのがZ-BLUEの見解だ。後に、譲渡した装備の一部を唯依の武御雷を始め、戦術機の補給の為に使用したと聞いて夕呼は呆れる事になる。

 

唯依からすればZ-BLUEに態々世話になる義理は無いが、申し出てくれている上に恭子に怪我が無いかも心配だ。申し出を素直に受け入れると、カトルは2機のトーラスとサーペントを率いてネェルアーガマに一時帰投する方針を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1998年8月28日 8時40分 国連宇宙軍、参謀本部》

 

 

「まさか帝国の援軍の力があれほどとは…」

 

「そんな事を言っている場合か!? 結局の所どうするのだ!」

 

「喚いたって仕方無いだろう。劣勢とは言えんのだぞ。無理に発射する訳には行かないのだ」

 

 

宇宙軍の参謀本部は、明星作戦が始まって以降喧騒が止まなかった。

 

喚く者、宥める者、悩む者。纏まりの無い参謀本部の会議室で、しびれを切らせた一人の男が遂に声を挙げる。

 

 

「静粛にッ!」

 

 

男の覇気を受け、口を開いていた者が一様に静まる。

 

参謀本部がこの様な事態になったのは、Z-BLUEの影響だ。

 

元々、宇宙軍は超銀河ダイグレンの対応を決めかね、揉めに揉めて居たのを『明星作戦が始まるから』という理由で、思考を放棄していたのだ。

 

しかし、作戦開始直後のバスタースマッシュで再びZ-BLUEを意識させられては堪ったものでは無い。

 

大体、一撃でハイヴ周辺の土地を凍らし、東京湾の一部を氷結させた挙句、地表付近のBETAを一掃して8月に雪を降らせるという字面だけでも馬鹿げている現象を、真っ向から受け止めろという方が無理な話だ。地面を凍らせてBETAを一時的に地表付近に出現しなくさせる等、至極意味不明である。

 

一時的にはBETAによってZ-BLUEに危機が訪れた様だが、斯衛軍により直ぐに窮地を脱し、戦闘開始から1時間で既にハイヴの地表で戦闘が行われているなど異例だ。

 

基本的にはハイヴに近づくまでがBETA戦での最初の山となる。大量のBETAを退けながら、数キロの間切り込み続けなければならないのだから、損耗率も必然的に激しい。

 

だが、Z-BLUEはたったの一撃で相手の陣地に王手を掛けてしまったのだ。

 

計算外も良い所である。

 

一時はBETAに押されていても、直ぐに取り返すZ-BLUEはハッキリ言っておかしい。

 

だが、こう考えてしまうのは仕方無いとも言えるだろう。

 

何故ならば、本来押される側はBETAだからだ。Z-BLUEは直ぐに形勢を元に戻しただけである。

 

BETAは戦術を取らないのが、この世界での常識だ。常にその圧倒的な数で正面から人類を蹂躙してきた忌々しい歴史がある。

 

だが、そのBETAがZ-BLUEを誘い込んで包囲したのだ。これを策と言わずしてなんなのだろうか。ここで注目すべきなのは、BETAが戦術を取った事自体が問題なのでは無い。BETAが戦術を取らなければいけないほど、Z-BLUEが圧倒的に強いという事を指し示している事だろう。そして、それをBETAも理解している。

 

現に、策を弄しておきながら斯衛軍のたった1手でBETAは総崩れしたのだ。優勢だった先程までの勢いは最早見る影も無い。今ではBETAの出撃地点が突撃級や要塞級の作った穴に絞られている事から、入れ食い状態で屠られ続けている始末だ。謂わば、ハイレベルな『モグラ叩き』と言った所だろう。

 

戦闘開始から僅か2時間も経過せずに、ハイヴ内に突入するかしないかと言った所まで戦局が動いているのだ。

 

此程までに展開の早すぎる戦場など、誰も知らない。宇宙軍に関わらず、どの軍の指揮官も対応に追われているのが現状だった。

 

 

「で、どうするのだ。まだ米軍すら送れていないのだぞ」

 

 

比較的冷静だった男が徐ろに話を切り出す。それに応える様に、参謀本部を静まり返らせた男が口を開いた。

 

 

「このタイミングで突入殻に載せて落としても、BETAに損害を与えれないのは明白だ。味方の妨害にしかならん。G弾を落としても同じだ。そもそも、味方も落とさずにG弾だけを落とすのは不味い」

 

「では、いつ米軍を派遣させるのだ! このままではハイヴ攻略が達成されてしまうでは無いか!」

 

 

先程まで喚いていた男が再び焦りを口にするが、その勢いは心做しか弱い。

 

他の者がまた騒ぐのかと睨みつけるが、男は視線など気にせずに机を叩きながら訴える。

 

 

「仕方あるまい…こうなった以上、ここからどうするかを考えるのが先決だ」

 

 

しかし、案の定と言うべきか、冷静さを持つ男が直ぐに正論で黙らせてしまった。

 

 

「今は様子見しかないだろう。だが、その時がくれば直ぐにでも米軍を突入させるぞ」

 

 

なんとも無難な意見により、騒乱は一時的に締め括られたのであった。

 

宇宙軍の参謀本部とは名ばかりの、学級委員会と同レベルの話し合いしか出来ていない事に、彼らが気付く余裕は一切無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




因みにですが、Z-BLUEの機体の『性能・演出』共に原作成分を含めています。

つまり、ゲッター勢とかグレンラガン勢とかの一部機体が、半端じゃない強さをお持ちです。

ヴァンセットやキャトフヴァンディスの動きや演出及び性能も、原作にある程度近づけています。

ゲーム本編とは違い、どの機体も数値化出来ない強さを持っています。御了承下さい。

これだけ投稿が遅いのは、文字数もさながら最初期のプロットと掛け離れた話が勝手に展開されているからです。

いつか、最初期のガバガバプロットを公開したいですね。

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