to Muv-Luv from 天獄 ≪凍結≫ 作:(´神`)
誤字等の報告、よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
《カオス・コスモス崩壊後 天柱内部》
「…負けを認めるよ、Z-BLUE……私は神になれなかったし、その資格もなかった…」
至高神Zとなった聖アドヴェントとZ-BLUEの、誰もが永遠にも感じられる程に長い様で短い激闘は熾烈を極めた最終戦により、宇宙崩壊を可能とする圧倒的だった至高神Zはその動きを止めた。
「そして、この胸を占める想いはやはり、哀しみよりも喜びの方が良い」
神になろうとした『喜び』を司るアドヴェントの顔は、諦めから来る苦笑と空元気が綯い交ぜになっていたが、嘗てから浮かべていた貼り付けたような笑みでは無い。
むしろ、感情溢れる一人の生命体が持ち合わせる、疲れていて尚浮かぶ事の出来る自然で、ある種の達成感に満ちた爽やかな笑顔を心から浮かべていたと言える。
「アドヴェント!」
Z-BLUEの中でも人一倍アドヴェントとの関わりが深かったヒビキは、自分の言葉に乗せた想いと願いが通じ、やっとアドヴェントと真の意味で心が通い合った感覚に陥り、満面の笑みを浮かべる。
アドヴェントを信じては裏切られた事のあるヒビキからすれば、アドヴェントは恨む相手とも言えるが、それよりも自身を成長させてくれた相手としての認識が大きかった所為だろう。
「ヒビキ……君に…いや、全ての生命に詫びたい。私も本来の務めを果たそう。この宇宙の全てを守るために…」
アドヴェントがそう言い終えるや否や、宇宙の崩壊を食い止めようとするZ-BLUEを後押しするように、持ち合わせるだけの次元力を振り絞る。
即興ではあるが、『他者を理解し、受け入れて共に歩む』事をアドヴェントが果たした事で『存在しようとする力』が増し、宇宙の大崩壊の原因である『消滅しようとする力』を上回る。
「桂様!」
宇宙の大崩壊を止める絶好のチャンスが訪れた事を見逃さなかったAGが、真の特異点である桂に合図を送り、桂もそれを待ってましたと言わんばかりに強く頷き、この場に居る皆に号令を掛ける。
「やるぞ! 今度こそ、全ての世界を修復する!! いや、全ての世界を新たに創造するんだ!! 」
「その先に待つのは…」
大破寸前といえる程激しく損傷したジェミニオン・レイ内部にて、パイロットシート後部に位置するサブシートの座席に座っているスズネは意図せず呟いていた。
「それを決めるのは、生きている人達、それぞれの願いです!」
スズネに呼応する様に、同じくジェミニオン・レイに乗っているヒビキが、操縦桿を力強く握りしめながら応えた。
「あっ…あああっ! 始まる…! 始まります!!」
AGが空間の変化の予兆を逸早く感じ取り、空間内に溢れ出す力の奔流と、それに伴う未知の変化に思わずディスプレイ上の目を点にさせ、落ち着きなく叫ぶ。
「これが…人々の願い!」
矮小だと愚かだと切り捨て、願いや意志に耳を傾ける事が今まで無かったアドヴェントは、人々の願いの力を見て驚きを隠せずに居た。
Z-BLUEとヒビキにその想いの丈を見せつけられて敗北した今でも、『消滅しようとした力』を上回り、宇宙の大崩壊という未来を変化させようとしている力に、納得と安心すら感じ始めていた。
「今、全てが一つになる!!」
「これで全てを終わらせる…!」
ヒビキの台詞に、桂も合わせる様にその想いを叫ぶ。
「そして、新たな多元世界の始まりだ!!」
桂の宣言とも取れる言葉と共に、総計12のスフィアとZクリスタルの力、至高神Zの残る全次元力を使用して超時空修復が行われ、周囲一体を目を覆う程の眩くも優しい光が包み、誰もが意識を手放した――
「…キ……ヒビ……ヒビキくん!」
――目を覆ってしまう強い光により気を失った後、ヒビキは耳元で自身の名を呼ぶ声に起こされた。
「うぅっ…」
「大丈夫!? ヒビキくん!」
ハッとして思わず反射的に上体を起こそうとし、思うように動かなかった体をスズネに支えられながら周囲を見渡すと、そこには思わず魅了される様な星々の煌めきがそこかしこに散らばる宇宙空間。そして、最初に自身に声を掛けてくれたであろう心配そうに、現在形で体を支えてくれているスズネと、少し離れた所に立っているアドヴェント。
そして、スズネの手を借りながらも体を起こして立ち上がったヒビキの目に映る、アドヴェントの側にある異質で暗黒と言っても差し支えのない縦に少し長く形成された楕円状の闇が存在していた。
「…アドヴェント…『それ』は…?」
ヒビキは気になる存在である楕円上の闇の方を見ながら、闇の側で立ち竦むアドヴェントに声を掛ける。
不安げで理解しているが、如何にも納得していないという表情をしたアドヴェントが闇を一瞥してヒビキとスズネの方に真剣な顔をしながら振り返り、口をゆっくりと開けた。
「これは、さっきまで『消滅しようとする因果』だったんだ。これが無くなれば、超時空修復は完成するだろう」
「…だった…?」
アドヴェントの放つ言葉の意味が汲み取れず、思わず復唱する。
ちらりとスズネを見てみると、スズネも理解しきれずに頭の上に疑問符を浮かべては首を捻っていた。
「触ってみてくれ。これに…」
そう言いながらアドヴェントは、伸ばした指先をそっと闇に触れさせる。アドヴェントは静かに瞼を閉じ、心なしか哀しい顔を浮かべてからヒビキの方に振り返る。
「アドヴェント…?」
アドヴェントの意図が分からず、スズネがアドヴェントにもう一度問いかける様に名を呼ぶが、アドヴェントは闇から目を背けるように顔を少し反らし、俯き加減に目をゆっくりと、だが強めに瞑る。
アドヴェントの悔しさにも見える表情に、ヒビキは意を決して闇に近づき、スズネと顔を一度だけ見合わせてアイコンタクトを取った後、ゆっくりと指先だけを闇に付ける、すると――
「…なっ!!」
「…こんなっ!!」
二人が闇に触れた、その瞬間。二人に『誰か知らない大勢』の記憶が、ダムから放水された水が川に一斉に流れるように流れ込んできた。
宇宙怪獣やインベーダーを彷彿とさせるバアルであろう未知の生命体と戦い、機動兵器の中で仲間や己が食われ、轢かれ、押し潰され、溶かされる様であった。その光景は余りにも無残で、他に言い様がない程に一方的で、命の軽さをまざまざと見せつけるように、呆気無く死んでいった人々の記憶だった。
死に際の恐怖に押し潰されて発狂し、仲間や愛する者が目の前で屠られ、悲鳴の様な慟哭を上げる兵士達。打ちひしがれる人々の哀しくも断片的な死の間際の記憶を、闇から手を反射的に離してしまうまでのその一瞬に見てしまう。
余りにも凄惨な映像に、スズネは口から漏れ出る声を手で抑えて殺しながらも、必死に嗚咽を堪らえて静かに涙を流し、気づけばヒビキは俯きながら強く拳を握りこんでいた。
「これは、ここより近い平行世界だろう……あのバアルの様な生命体は、紛れも無く『消滅しようとする力』だ。恐らく…近い平行世界の中でも、一番『消滅しようとする力』が強い世界。ヒビキ、スズネ…君は、これを見てどう思った?」
アドヴェントの言葉に、ヒビキは静かに顔を上げ、そして一呼吸置いて力強く応える。
「そこが何処だろうと、関係無い! あんなに辛くて悲しい想いをする人々を、見捨てる事は出来ない! 俺達は…Z-BLUEは、まだこの宇宙を救いきっちゃいない。あの世界だって、必ず救ってみせる!」
「私も…私も救いたいっ! ヒビキくんと、皆と一緒に、彼らを!」
ヒビキの力強い想いに共鳴するように、涙を服の裾で拭いて力強く応えるスズネと、それに嬉しそうにはにかむヒビキを見て、アドヴェントはそうかと小さく呟き、闇にそっと触れる。
闇は瞬く間に中央部分の闇が螺旋状に離れ、闇色の『道』に変化した。
「アドヴェント…」
「ここから先は、君たちだけで行ってくれ。私はこの闇を安定化させ、ヒビキ達が帰ってくるまで見守ってなければならない様だからね…だから、私はここを…この宇宙を一時的だけど、守っているよ…」
アドヴェントの優しさと決意を感じられる笑顔に、ヒビキとスズネは精一杯の笑顔を返した後、闇の中に振り返る事無く進んで行った。
(ここを頼んだぞ…か。ありがとう……私も、ここから見守っているよ、ヒビキ)
一人、空間に取り残されたアドヴェントはヒビキが残した言葉に思わず微笑を浮かべるも、直ぐに顔をいつもの笑顔に戻して腕を振るう。
シュンっと縮小するような音を立てて闇の中央に出来ていた『道』を閉じ、先程と変わらずに黒く反時計回りに暗黒が渦巻く闇の前に、その中を覗き込む様に静かに座り込んだ。
期待と喜びに溢れ、弟子を送り出す師匠の様な微笑ましい笑顔を浮かべていた事に、アドヴェントは気づかなかった。
活動報告にて、皆さんに相談したい事がございます。
良ければ、手伝って頂けると幸いです。
感想欄でのアンケートは禁止なので、ここでそれ紛いの事をしています。ご了承下さい。
っていうか、え、誰この最後のアドヴェント…(困惑)
跡部ントのキャラがわからなくなったので、最終話まで退場して頂きます。