哿の暗殺教室   作:翠色の風

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87弾 対決の時間

改めて武器を構えている奴らを確認する。

ほとんどの奴は自分が得意な分野の武器を構える中、数人気になるやつが目に入る。

寺坂はひしゃげた盾を捨て、律によって作成された新しい盾を構えている。

竹林は銃やナイフの代わりに手投げの爆弾らしきものを持っている。

カルマはナイフなどを装備はしているが構えず、無手だ。

律もカルマ同様に無手となにも装備していないがその後ろには本体が鎮座している。

有希子は銃を構えているが、なんなんだあの銃は?

P250に一見似ているが違う銃だ。あんな銃は見たことが無い。

そして凛香、片手には見慣れた小通連をそしてもう片方には忘れたくても忘れられない銃コルトSAA――ピースメーカーが握られていた。

 

対して俺はというとあの日着の身着のままな為、銃やナイフどころか服すら防弾性のモノではない。

まあ、それがどうしたというわけだがな。

 

「凛香ちゃん、勝手に動かないで。せっかくの有利性が意味ないよ」

「ごめん、つい」

「そんな風に言うからには準備はもう済んだんだろ有希子。さっさと来いよ」

 

銃口を俺に向けたまま凛香を叱る有希子にそう言うと、有希子は満面の笑みを浮かべこう言ってきた。

 

「もちろん、暗殺はここからだよ。竹林君‼」

 

――ボンッ‼

竹林が手早く持っていた爆薬を地面にたたきつける。

それは爆弾とは違い煙玉だったらしく視界が真っ白に染まり、有希子たちの姿が消えた。

そして始まるのは先ほど同様の銃撃戦からだった。

パァンと銃声が聞こえ、白煙を突き抜けてゴム弾が俺の方向へと飛んでくる。

これが普段ならここで詰むだろう。

だが今はヒステリアモード。

しかも触手によって血流は激しく、強くなっている。

俺は自身に当たりそうな弾だけを先ほどの凛香の銃撃同様に2本の指で当たらない方向へと転換させる。

それによって弾はかすりはするが直撃はない。

 

「ふっ」

「おりゃぁ!」

 

そして続けて両側から挟むように、磯貝と前原コンビがナイフで仕掛けてきた。

それをバックステップで避ける。

これはフェイクだ。

本命は……

 

「「ッ!?」」

()()()()の攻撃だ)

 

そう確信していた俺は瞬時に手を振り上げ、振り下ろされる2本のナイフをそれぞれ挟み、そのまま振り下ろして2人をナイフごと叩きつけようとするが、

 

「おわっとと」

「やっぱり一筋縄じゃいかないか~」

「バカみたいに弱点(首)を狙いすぎてバレバレだ」

 

身軽さに定評がある二人な為、素早く受け身をとり白煙の中へと消える。

 

「んじゃ、次は俺だね。一度キンジ君とは戦ってみたかったんだ」

 

煙のなかから今度は入れ替わるようにカルマが姿を現す。

その構えは好戦的なカルマにしては防御よりの構え、カウンターでも狙う気なのか?

面白い。その挑発乗ってやるよ!

 

俺はそのままカルマへと飛び込むように近づき右を突き出す。

カルマは危なげなくだが、それを受けとめず逸らすように受け流す。

この受け流しは夏休みに見せていたが烏間先生の技を模倣したものだ。

だが完成度はあの時の比ではない。

あの技術に体育祭で俺を見て盗んだ潜林も使って、より確実に拳を逸らしている。

その事実が俺のカルマへの期待が高まり、より速くより重く両拳を振るう。

 

「ッと。キンジ君、そんな程度でしか拳を振るえないの?ガッカリだなぁ」

「よく言うぜ、逸らすだけで精一杯なくせによ。そんなにお望みならコレも受け流してみろよ!」

 

――パァァァァン‼

 

拳がマッハを越えてカルマの顔面へと吸い込まれるように飛んでいく。

それすらも頬を掠らせるほどギリギリで逸らしたカルマにもう一撃と空いた拳を握ると……カルマは罠にかかった獲物を見るかのような笑みを浮かべていた。

 

――パパパパッ

 

普段なら気づかないが、銃声とマズルフラッシュから撃った人物が分かった。

幼馴染と幼いころにせがんで聞いたことのある銃声と聞いたことがない銃声。

このタイミングで撃ってくるか、凛香、有希子!

 

その全ての銃弾はカルマを掠ることなく全てが通り過ぎ

 

――キィィン‼

 

銃弾同士がぶつかり俺に向けて方向が変わる。

俺の位置や撃つ方向は律の指示か。

銃弾は俺の四肢へと向かっている。

ここから今までのような回避は無理だ。

かといって受けるのもダメだ。

これが普通の銃弾なら触手でどうにかできるが、撃ってくるのは対先生用非殺傷弾。

触手を貫通して食らってしまう。

俺がとれた行動は触手も駆使して体勢を崩してでも、当たらないように銃弾を避けることだけだった。

 

「とった!」

 

体勢が崩れたところでカルマがすばやく後ろに回り込み、俺の首に腕を回し締め付ける。

関節技(サブミッション)、それもシンプルかつそれでいて強力なチョークスリーパーで俺の意識を落とす気か。

触手は見た目に反して非力であり、カルマの技をほどくことができない。

これが攻撃手段が触手な茅野なら終わってただろうな。

――ゴスッ!

 

「ぐっ」

 

遠山家の奥の手でもある頭突き。

それをもろに喰らいカルマの手が緩んだところで肘による一撃と共にカルマを解いて、その場から下がる。

 

「~~ッ、まさか頭突きがあんな威力とか想定外だわ。とりあえず無難な攻め方をしたけど、どうする神崎さん?」

 

ここでようやく煙が晴れた。

俺とあいつらとの距離は最初と同じ距離まで離れていた。

 

「うん、イトナ君が言ってた弱点が全くないね。元々戦闘面に秀でてるから多少の低下が無意味、むしろ触手を纏って上がってる。精神面のほうも良い方に転がってる感じかな?」

 

冷静に俺を分析してくる有希子。

次はどんな手で楽しませてくれるのか。

E組の成長を実感し、次の一手に期待をして俺からは仕掛けずに成り行きを見ていると「私が行きます」と律が本体を担いで出てきた。

 

「おいおい律。お前だけか?他のも連れてきていいんだぜ」

「いいえ。一人じゃないとむしろ危険なんです。未知(触手)には未知(先端科学)で対抗です。おにいちゃん、これが私の全力です!PAD・シャノン プロトタイプ アロケーション。そしてショータイムです!」

 

そう律が宣言し跳び上がると、それと共に本体が花が開くかのごとく開き何かが飛びだす。

その飛び出したものは律の背、胸、肩、腰へとガシャン、ガシャンと音をたてて装着されていく。

 

「「「な、なん……だと!?」」」

 

男どもの感嘆の声とともに見えた全貌は、黄色に染まったパワードスーツだった。

それを見ている男子と一部の女子は心なしか目が輝いている。

 

「ちょっと律!なんでプロトタイプなの!?そこは王道にテストタイプでしょ!?」

「いいえ、これでいいんです不破さん。だって私は主役じゃなくてヒロインですから。それに言いたかったんです。『お兄ちゃん、あなたは死なせません。私の命に代えても救います。だって私が死んでも(体の)変わりはいるもの』」

「殺せんせーじゃなくて律が3回目のインパクトを起こして人類滅ぼしそうね……」

 

……まあいい。コイツ等のコレは今に始まったことではないからな。

そんな二人のやりとりは気にせず、改めて律が纏ったパワードスーツを見る。

腰付近に可変翼と噴射口があることから恐らく空中戦闘が可能、手と連動すように大きな機械の手はあるが武器は持っていない。

いざとなれば本体が作るんだろう。

だがそれは武器がないというわけではない。

 

(くくっやりがいがあるじゃねーか)

 

なによりも目に写るのは機械の腕から出ているM134と肩に取り付けられた多連装の小型ハッチ、どうみてもミサイルを撃つために装備している。

誰が見ても過剰戦力だろう。

 

「いきます!お兄ちゃん、あなたの手は殺めるものじゃなく、誰かを救うためにあることを思い出させてみせます!」

 

怪物対機械。

第二開戦の開幕はミサイルによる爆炎から始まった。

 

 


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