哿の暗殺教室   作:翠色の風

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4/16 不破さんの銃のベース、星伽巫女の部分を修正しました。


78弾 縁の時間

波乱の学園祭1日目が終わった翌日、珍しく俺は1人で登校していた。

その理由は、いつものメンバーは料理の仕込みをするべく早々と学校へと向かったからだった。

ここに来てから一人で登校なんてなかった為、武偵高にいた頃以来の1人。

白雪は粉雪たち妹たちと共に昼頃に来るとメールが昨日きており、理子に関しても恐らく午後から来るはず。

後は知り合いだと、間宮が来るんだったな。

少なくとも昨日みたいな状況にはならない為、ここに生徒としていることが白雪や理子にバレなければいいだけだ。

 

~~♪

 

ん、メールか?

しかもこの音、強襲科からのメールじゃねーか!

僅か1ヶ月で身に着いた条件反射ですぐさまメールを開いて、俺は唖然とした。

 

件名 強襲科特別訓練について

本文 下記場所にて強襲科の訓練を行う。

   強襲科の生徒は1000までに拳銃、刀剣は携帯せず、

サイフを持って集合すること。

   

   訓練場所 東京都椚ヶ丘市○○―△△

 

どう見ても訓練場所が旧校舎のある裏山である。

しかも帯銃などせずサイフを持ってこいって……

どう考えても蘭豹以外考えられない。

また烏間先生目当てでここに来るつもりなのか。

いや、もうそんな事はどうでもいい。

それよりも俺がヤバイのだ。

もう白雪や理子どころではない。

同じ科の奴らが沢山来るなんて、誤魔化しきれるか分からんぞ!

どうする、料理と言える料理は作れないが最悪裏方に回るか、もう客の1人として紛ればここに殺し屋として潜入している事がバレる可能性はグッと減るんだが、それでもまずは皆にも聞かないと。

俺は、普段雑談などにも使うグループに端的に武偵高のメール内容と俺が見つかったら最悪機密が漏洩すると書き込み、皆にどうするべきか聞いてみる。

するとすぐにカルマが返信がきた。

 

『バレないから大丈夫。てか、キンジ君は急いで学校に来てほしいかな』

 

……なんだろう。頭のいいアイツのことだからいい案があるんだと思うがカルマの言葉には裏がありそうで全然安心できねー。

不安はあるがそれでもここにいても仕方ない為、俺はカルマに言われた通り駆け足で学校へと向かった。

念の為、フリーランニングで裏山の木々を伝って登ってると傍ら見えたのは旧校舎へと続く道にできた長蛇の列だった。

 

おいおい、武偵高の生徒。強襲科は分かるがなんで武藤とか他の学科の生徒や一般人まで並んでるんだよ。

余りの列にTV中継まで入っているし、並んでいるほとんどのヤツは暇つぶしなのかスマホをずっと見ているな。

その列を横目にどんどん上へと登っていくとそこにはほとんどのメンバーが揃っていた。

そして昨日の様に烏間先生の両脇を固める女教師二人(蘭豹とビッチ先生)。

やっぱりアンタが原因だったか……

 

「おい、カルマ。さっきの案ってなんなんだよ……誰だ、そいつ?」

 

校舎の前にいたカルマを見つけそちらへ向かうと、そこには理子が好きそうなフリフリの服をきた女子が地面にへたり込んでカルマに写メを取られていた。

 

「ん? 渚君だよ」

 

カルマの言葉とほぼ同時にこちらへと振り向いたのは涙目で顔を真っ赤にさせている渚。

その横には兄さんが着るような物よりファーが多い、コートと黒髪のウィッグを持つ中村。

……おい、この後の展開が読めるぞ。

 

「なあ、だいたい予想はつくがその服はなんだ中村?」

「それはもちろん遠山に着せるために決まってるじゃん」

「じゃあ、俺はこれで「これで正体隠せるでしょ?キンジ君」おい!カルマ、離せ!」

 

女装なんて絶対したくねーぞ。

なんだよ、そのメーテルみたいな服。つか、中村じりじりと近づくな!

 

「大丈夫大丈夫、化粧もしっかりとするからバレないっしょ。それにカルマが遠山の女装姿を載せたらこんなに行列できたんだよねー。昨日の売り上げだけだったらA組と差がついてるし、遠山も一肌脱いでよ」

 

気づけば中村以外にも律や倉橋、渚などが腕や足を抑えてくる。

てか渚は被害者なのに、なんで手伝ってんだよ!

 

「……死なばもろともだよ」

「やめろ……やめろぉぉぉぉ‼」

 

女子に絡まれ、その匂いにヒスりそうになるなか朝早い裏山に悲痛な叫び声が響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ジーーーーー

 

「はい、ドングリ麵ですね。ありがとうございます」

「2名でお待ちの森様ご席へご案内します!」

 

完結に言おう。

どうしてこうなった。

 

あの後無慈悲にも女装させられ、偽名として適当に不破に『クロメーテル』と名付けられた俺。

鏡を見た時は驚いたね。

こんな美人が目の前に現れたからな。

思わず銃口を眉間に当てそうになったよ。

 

そして現在多数の男性客の視線を浴び、さりげなくスマホを向けられ写真を撮られている。

どうやらこの客たち、カルマがSNSに載せた夏休みにヒスった俺が女装した姿を見てここに来たらしい。

最初はビーチで見た謎の美人が来るとなったのだが、どんどん拡散されていく上で噂に尾ひれがつき、最終的に『黒髪美人モデルが来る』となったせいで一般客も増え、朝の長蛇の列ができたのだ。

クロメーテルさん大人気だね。

おっと、衝動的に舌を嚙み千切りそうだった。

まあ、その代わりと言ってはデメリットの方が大きかったが懸念で会った俺がここにいることがバレる心配はなかった。

なんせ知り合いである、武藤や不知火も来たが気づいている様子はなく、武藤なんてこれでもかというぐらいに写真を撮ってくる。

武藤、学園祭が終わったら律に頼んで全部のデータ消させるからな‼

 

「くはっ!マジでこれがあの男かよ。産まれてくる性別間違えたんじゃねーのか」

「ドングリ麵ふたつ頼むぬ」

 

なっ!こいつら、普久間島で会った殺し屋のガストロとグリップじゃねーか。

 

「おい、なんでお前らが来てんだよ。殺し屋は昨日だけだろ!」

 

2人に近付き、周りには聞こえない声量でそう聞く。

気のせいか、視線が目の前の男二人に移動した気がする。それも殺気を込めて

 

「おーおー、殺し屋に殺気を向けるなんて良い度胸じゃねーか。それとお前の質問だが昨日みたいな連中の中で食っても、飯の味が分からねえよ」

「うむ、それに貴様らに伝えておきたい事もあるぬ」

 

伝えたい事?

そういえば、あともう一人の毒使い。確かスモッグだったか?

そいつがいないな。

 

「スモッグが最近話題になっている武偵殺しにやられたぬ」

「はあ⁉あれ、武偵を狙って起こしてるだろ?」

「いや、スモッグを含めてもう殺し屋は二桁の人数がやられてんだ。武偵殺しだと判断したのは表の人間を殺った手口と使っている爆薬が同じでスモッグがやられる直前にヤツだと報せてくれた。仕事先へ向かう乗り物がジャックされて爆発。国外でおきたのと日本で起きているのに対して、民間人も巻き込まれてんだよ」

「これが終わった後、俺たちもしばらく隠れるぬ。烏間も把握してるだろうぬが、一応同業者のおぬしらにもと思ってなぬ」

 

表だけじゃなく裏も被害を受けてるのかよ。

念の為、後で律に国外の事件を集めてもらっておくか。

 

「まっ良いもん見れたし、何かあれば1回ぐらいは手伝ってやるわ。頑張れよ、さてさてつけ麺はどの銃が上手いかねぇ」

「検討を祈るぬ」

「殺し屋に手を借りるほど落ちぶれてねえよ」

 

そう言って、席へと移動する2人。

そういえば、なんであいつらが女装している事知ってたんだよ。

今更になって、女装している事がバレていることを思い出した俺が死にたくなっていると見知った声が行列の方から聞こえてきた。

 

「3名でお待ちの星伽様ご席にご案内します!」

「キンちゃんにはやく会いたいなあ」

「白雪お姉さま!柿とビワのゼリーもあるらしいですよ」

「遠山様がいやがるといいでございますね」

 

ああ、とうとう来た。

もうすでに殺し屋にはバレたが武藤たちにバレてない今、特に俺の女装がバレると今後の生活に支障をきたす可能性がある関門は3つ。

白雪、理子、間宮の三人だ。

最初は粉雪と華雪を連れてきた白雪がやってきた。

 

――ドクン、ドクン

 

心臓の音が嫌に大きく聞こえる。

心の中でバレるな、バレるなと願いながら白雪たちの横を俺通ろうとして……

 

「キンちゃんの匂い!」

 

すれ違った直後、グルンとこちらへと白雪の顔だけが向いた。

ハイライトが消えた目に、勢い良く振り返ったせいで髪が乱れてヤバイ顔になってる。

怖すぎる。バレたとかそんなのじゃない、この目は殺気だけが宿っている。

これはアレだ。

俺の誕生日や入院中に凛香や有希子に向けた目と同じものだ。

 

「この女から匂ってくる……コノオンナカラ。キンチャンサマニテヲダシタカ……」

 

今すぐここから逃げ出したい。もはや眼光で人を2,3人は殺せるんじゃないかってぐらいには殺気がこもっている。

でも逃げたら、余計にひどい結果になりそうな気もする。

まさか白雪の暴走モードが俺自身に向けられる日が来るなんて……

こんな時、頼みの綱である白雪の妹の華雪と粉雪はと言うと

 

「白雪お姉様。そんな顔を素敵です」

「またでやがりますか……遠山様も大変でやがりますね」

 

1人はキャーキャー喜び、1人は諦めの境地へと至っていた。

華雪、俺を憐れむなら今その大変な状況の俺を助けてくれよ!!

妹がダメなら、他の皆に……

そう思い、視界に映った渚にアイコンタクトを送る。

 

「おーい、渚ちゃーん。遊びにきたぜー」

「ゆ、ユウジ君⁉」

「な、渚、その恰好……」

「うぇ‼母さんまで⁉」

 

ダメだ、渚は渚で別の問題に巻き込まれてやがる。

判断を誤った、頼れそうな人物が見当たらず俺へと殺気を向ける白雪がゆらりと近付いてくる。

 

「キンジなら中でドングリ麺を茹でてるわよ。白雪さん、ご注文は?」

「ドングリ麺で! やった、キンちゃんが愛情こめて作ってくれてるんだよね?。もうこれは夫婦間のやり取りといっても過言ではないはず……ぐへへ」

 

ナイスだ、凛香。

お前のおかげで白雪の殺気が収まった。

ただ一言言うならば、白雪お前、俺にドヤ顔を向けてるがニヤけた表情が人前で見せてはいけない顔になってんぞ。

取りあえずその落ちそう涎を拭え。

 

(貸し一つね)

 

そう口パクで凛香が言って白雪たち連れて行ってくれた。

やばかった……思わず冷汗が出たぞ。

いかん化粧が落ちる。とりあえずハンカチでって……あれ?ポケットに入れてたはずなのに。

当たりをキョロキョロと見回すと間宮ほどの長さの髪を二つ括りにした子がこっちにやってきた。

 

「うわー、すごい綺麗な子だー。あっ!あのコレ落としましたよ」

「お姉ちゃん待ってよ~。あれ遠山先輩……じゃない?」

 

今度は間宮かよ!

つか白雪や武藤たちにバレなかったのになんで気づきそうになった⁉

目の前で俺が落としたであろうハンカチを持つのはどことなく間宮と似たような人物。

後ろからコイツを追いかけている間宮の言葉から、コイツが姉なんだろう。

そして、その横で俺をボーっと見る金髪の奴は不知火が連れてきたやつじゃねーか?

金髪の奴は武偵中だったはず、そいつと同じ制服を着る間宮姉も武偵中で知り合いなんだろう。

間宮→間宮姉→金髪の順で誘われて来たんだろうな。

よく見れば、遠くにはワカバパークの子供たちも来ていた。

とりあえず声を出したらマズイ為、スマホにビッチ先生に少し習ったオランダ語で翻訳アプリに書いていく。

 

『ありがとうございます』

「えっと……どういたしましてって英語でなんていうんだっけ?」

「お姉ちゃん速いよ、小さい子もいるんだよ?それにこの人英語じゃなくてオランダ語だよ」

「えー⁉どうしよ私オランダ語なんて喋れないよ‼」

「だから翻訳アプリ使ってるでしょ!」

 

 

なんでか始まる姉妹による漫才、日本語が分かっている俺はどういう反応をすればいいんだろうか?

 

「えっと『どういたしまして。私は間宮あかりです。よろしくお願いします』っと」

『クロメーテルです』

「へークロメーテルさんって言うんだ―。ねえねえライカ。オランダの人なんて私初めて……どうしたのライカ?ボーっとして?」

「ハッ‼な、なんでもねーよあかり」

「もしかして、クロメーテルさんがあまりの美人に見とれたとか?」

「バッバカ!そんなんじゃねーよ‼それよりも早く食おうぜ!」

「ちょっとライカ!えっとクロメーテルさん、お店頑張ってね」

「あ、お姉ちゃん。私、先輩たちに挨拶してくるからー。うーんと遠山先輩どこかな?」

 

助かった、女装していて気づかれなかったのと、ライカって子のナイス判断で危機は去った……

じいさんたちもそのまま席に行ったし、間宮はもう大丈夫だろう。

後ヤバいのは理子ぐらいか……さすがにこうも立て続けに来るはずないはず。

さっきからバレそうでバレてないギリギリのラインで冷汗が止まらん。

 

「やっほーりこりんが来たよー」

 

……おい、ウソだろ。

 

なんでこうも立て続けに来るんだよ。

電話して連絡したのかって言うぐらいに間髪入れずに全員きやがった……

 

最後の関門である理子が着た瞬間、膝から崩れ落ちた俺。

 

「ふぉーー。やっぱり、この服が似合うと思った理子の目は間違いじゃなかったね」

 

そう言って俺を見て興奮する理子。

そして理子の言葉で悟った。

コイツもクロメーテル計画のグルだと。

今思えばこの服をカルマはどこで手に入れたんだと思ったが、そうか理子経由だったんだな。

それに気づいた俺は怒りを込めて視線を送るも、理子はどこ吹く風とスルーする。

そのまま俺を通り過ぎ、接客している律の方へ歩いていく。

 

「ねえねえ、りっちゃん、鉄郎コスって用意できる?」

「はい、すぐに用意できますよ。理子さん」

 

どこから出したのか律の手には、ところどころ空いた帽子にボロボロの布。

そしてどうやって用意したのか戦士の銃まで用意してある。

つか、律と理子。いつの間にそんな仲良くなってんだよ。

 

「ちなみに戦士の銃は不破さんに頼まれて作成しました。SAAをベースに、安全面の強化を施してます。もちろん武器としてもしっかり活躍できますよ」

「フフフ、これで私も宇宙戦士の仲間入りよ」

 

ツッコミどころが多すぎる。

取りあえず律、烏間先生を見てみろよ。今の会話聞いて、急いで許可をもらうために電話かけてんぞ。

 

「おー、りっちゃんの再現度パないね。これで完璧だよ『メーテルーー‼』」

 

理子は理子でマイペースに鉄郎のコスプレをすると、本人そっくりな声で9が3つつく宇宙列車のアニメの再現をする。

 

「鉄郎‼」

 

……律。なんで俺の後ろでそっくりな声を出す。

あれか?声に合わせてポーズしろっていうのか?

 

パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 

理子も見た目は美少女で、今の俺もはた目から見れば美女だと認識されている。

それまで見ているだけだった男たちは、ケータイを向けシャッター音は鳴らしまくる。

おい、カルマ、中村。撮影一枚500円とか言って商売始めてんじゃねーよ。

これにより拍車がかかったのか、時間がたつにつれ俺達の店の行列は長くなり、今日の学園祭の終わりの時間を迎える前に先に在庫の方がなくなり、山の生態系の事も考え一足はやく俺達の店は終ったのだった。

 

 

「さて、あらゆる生物との『縁』で完売となりましたが、感じましたか?君たちがどれほど多くの縁に恵まれてきたことかを。さあ、まだ学園祭は終っていません。存分に『縁』を広げに行ってください」

 

そう言って締めくくる殺せんせー。

なんだかんだで結局授業みたいだったな。

 

「おい、渚君の母親が『ヅラの事は黙っておく』って言ってたんだが、詳しく聞こうじゃないか」

「…………ニュヤ‼」

 

あ、逃げた。

烏間先生に何があったか知らんが、どうせ殺せんせーが悪いんだろう。

そういえば、間宮に店に来てくれなんて言われていたな。

 

そう思って、間宮の店に向かうためひとまず着替える。

凛香達は律が待ちきれないと思い、先に行かせて向こうで合流する手はずになっている。

 

「くふふ、キーくん♪りこりんとデートしよ♪」

「理子⁉ お前、いつからそこに」

「ん?遊びに来た時からいたよ。それにしてもキー君のその制服似合ってるね」

 

校舎を出るとそこにはもう帰ったと思った理子が居た。

てか理子に言われて気づいたが、今着てるの武偵高の制服じゃない。

 

「……任務だ」

「ふーん。まあそっちはいいや。じゃあさっそくデート開始だー」

「え、おい。ちょっと……」

 

理子に手を取られ、あれよあれよという間に指を絡められ、いわゆる恋人つなぎで握られ本校舎のほうへ引っ張られる。

まあ、いいや。どうせ、俺も本校舎のほうに向かうんだし。

悲しくも振り回されるのは、凛香や律で慣れている俺はそのまま成り行きに任せるのだった。

 

「ふっふふーん。キーくんとデート~♪」

「デートって……」

「男女が二人で遊ぶんだよ。それはもうデートでしょ!」

 

それを言ったら、夏ごろに凛香に付き合った買い物もデートになるんだが……

さすがにその理論はないだろ。

否定しようにも理子のトークはマシンガンのごとく続き、俺が口を挟む暇もない。

否定できなかったせいか、デートに定義され理子がぎゅっと俺の腕にしがみついてくる。

これは時々律もやってくるが、一部律とちがって大きく育った胸が押し付けられた。

おいおい、なんでこんな身長は小さいのにそこだけは大きんだよ。

岡島情報では、矢田、白雪の次に大きいらしく、ゴム鞠のような弾力が腕に伝わる。

 

(ヤバイ、落ち着け俺。二人きりがデートなら凛香達に合流すればいいんだ)

 

そう言い聞かせ、集まりそうな血流にギリギリで持ちこたえつつ、理子に引っ張られながら本校舎へと進むのだった。

 

「うーん、どれもおいしそうだね。キーくん」

「そ、そうだな」

 

どこにいんだよ凛香達。

こういう時だけなんで見つかんねーんだよ‼

理子とは別の意味で、辺りをキョロキョロしてると凛香達の前に間宮の店を見つけた。

 

「理子、腹減ったし。アレ食うぞ胡椒饅」

「お、台湾料理ですか。いいですなぁ」

「俺が買ってきてやるから、そこで待っていてくれ」

 

今すぐ離れたいが一心に理子を置いて、間宮の所属する1-Aの店へと向かう。

胡椒饅は少し並ばないと買えない為、並びながらここに凛香達がいないか席の方を見るも

 

「殺せんせー、あの子すごいわ」

「ええ不破さん。先生もまさかなんちゃって担仔麺になんちゃって獅子頭まで作るとは思いませんでした。あの子出る作品間違えていませんか?」

「はっ⁉もしや本場の四川料理を売る店もあるかもしれない! 行くわよ殺せんせー!丸々1話を語らないといけない料理が私達を待ってるわ!」

 

おい、不破、殺せんせー。久々にジャンプネタだからって興奮しすぎだ。

そこには驚きからか震える不破と殺せんせーがラーメンみたいな料理を食っていただけだった。

結局ここには凛香達はおらず、胡椒饅を持って俺は理子の下に戻るのだった。

 

「まさかキーくんが奢ってくれるなんて思わなかったよ。これは理子の好感度が上がったよ」

 

女が苦手な俺にとってそんなもん嬉しくもないんだが……

 

「あ……」

 

胡椒饅を片手に理子と他の店を見ていると、ふいに理子が止まる。

そこはA組がやっているイベントカフェだった。

 

「なんだここに行きたいのか理子?」

「ううん、ただここの見て調べてたの思い出したんだ、ここの制度」

 

唐突だな。理子のヤツ。

言っているのはここのE組制度のことだろう。

 

「理子はどう思うんだ?」

「私は嫌いだなこういう制度」

「そうか」

「キーくんは?」

 

理子の言葉には同意するが、付け加えるなきゃいけないな

なんせ俺自身がアイツ等の近くにいて感じとったんだからな。

 

「そもそも他人がそいつの価値を見定めるなんてできねーよ。無能だなんだって言われても、そこからいくらでも人成長できて変われるって知ってるからな。だから俺もこんな制度はくだらねぇって思っている」

 

ここに来てからの事を振り返りながらそう言うと、俺の言葉が信じられないのか理子はキョトンとした顔を浮かべていた。

 

「……なんだかキーくん変わったね」

「そうか?」

「うん、今のキーくんはカッコいいよ……理子もキーくん君の言う通りだと思う」

 

それは天真爛漫を地でいく理子からは想像がつかないほど、寂しい表情だった。

思わず俺は「理子?」と呼ぶと

 

「今日はありがとうキーくん。とっても楽しかったよ、また遊びに来るね。ばいばいきーん」

 

なんだよ理子のヤツ急に……

なんでか急に帰っていった理子の後ろ姿を見ていると声がかかった。

 

「理子さんとのデートはどうだったキンジ君?」

 

え?

優しい声色なのに肝が冷えるその声にバッと振り向くとそこには目が笑っていない有希子に、怒りの形相を浮かべる凛香。そして大量の胡椒饅を食べる律がいた。

 

「1年生の子に聞いて、急いで来てみれば私達を放っておいてデート……良いご身分ね」

 

「こ、これは!生地はサクサクのパリパリまるで「律、今は違うでしょ?」以下省略でおいしいですがお兄ちゃんギルティです!」

「落ち着け、お前ら。これはデートじゃ……」

「「問答無用」」

 

その後、ボロボロになった俺は凛香達にサイフ代わりとして振り回され、この日だけで5ケタの金が消えていくのだった。

 

ちなみにこの日のE組の売り上げはものすごかったらしく、総合売り上げは中3-A、中1-Aに続いて3番目の売り上げだったらしい。

…………げせぬ。


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