哿の暗殺教室   作:翠色の風

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お待たせしました。
久々にキンジの登場です


75弾 学園祭の時間

「じゃあそれとなく烏間さんに伝えといてね」

「はい、わかりました」

 

長かった入院生活が終わった俺は、現在椚ヶ丘へと向かっている。

思えば入院中は大変だったな……

理子や武藤はナース目当てに遊びに来て騒ぐ。

看病しに来た白雪は同じように看病に来た有希子を見た途端、今まで見たことないくらいにキレてM60をぶっぱなすし……

てか、せめて刀を出せよ。自分の武器が行方不明って武偵としてどうかと思うぞ。

これだけでも俺の胃が死にそうだったのに、トドメとばかりにアレが待ってるんだよなぁ。

 

「なんで綴や高天原先生まで来るんだよ……」

 

退院しようとした所で部屋に高天原先生がやって来て、蘭豹以外も学園祭に来ると言われたのだ。

ただでさえ蘭豹だけでも気が滅入るのに、学園祭ヤバくないか?

 

「あれ? 遠山先輩?」

「ん?」

 

家に帰るためにモノレールが来るのを駅で待っていると、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

そっちに顔を向けるとなぜか大量の買い物袋を持つ間宮がいたのだ。

 

「なんで間宮が? まだ昼過ぎだぞ、授業中じゃないのか?」

「学園祭の買い出しですよ。それを言ったらなんで先輩もこんな所に?」

 

あぶねぇ、たまたま椚ヶ丘中の制服を着ていてよかった。

武偵高の制服だったらバレてたぞ。

 

「俺もちょっと野暮用でこっちに来てたんだよ」

「買い出しじゃなさそうですし……あんな噂があるのに、もしかしてサボリですか?」

「噂?」

 

いったいなんのことだ?

そんなこと入院中に凛香達は言ってなかったが……

 

「知らないんですか? 今、本校舎の方では先輩たちとA組の人たちが何かするんじゃないかって盛り上がってますよ」

「そんな噂初めて聞いたぞ。そもそも何をやるかも決まってないはずなのに」

「え、まだだったんですか!?」

 

なんでそこまで驚くんだ間宮の奴?

たかが中学の学園祭だろ、むしろもう買い出しとかしている間宮のクラスが早すぎるんじゃないのか?

 

「そういえば先輩は転校してきたから詳しいことは……とりあえずモノレールが来たので学校に向かいながら説明しますね」

「いや、俺はそのまま家に……」

「い・い・で・す・ね」

 

ぐっと近づき、ふくれっ面で俺を見上げてくる間宮に思わず後ずさってしまう。

 

「わ、わかった」

「全く先輩はダメダメなんですから!」

 

結局、間宮の圧力に負けた俺は道すがら椚ヶ丘中の学園祭について詳しい事を聞く事になってしまった。

ホントなら誰もいない部屋でのんびりとできたんだが……

 

「いいですか先輩、うちの学園祭はガチの商売合戦なんです。学園祭の収益はデカデカと貼られて、トップを取れば就活にアピールできるぐらいにはスゴイんですよ」

 

模擬店の結果が就活に響くのか、それは確かに躍起になるな。

それにだからこそ間宮がまだ準備をしてないことに驚いたのか。

 

「だから模擬店では社会人顔負けなところな店があるみたいです。これも噂なんですがA組の先輩達はスズメフードサービスとスポンサー契約を結んだらしいですよ」

「は?」

 

スポンサー契約!?

噂が本当ならプロの料理を学園祭で提供って事か。

多分契約を結んだのは浅野だろうが、アイツ本当に一般人なのか?

実は高ランクの武偵とか組織の人間でしたって言われても信じられるぞ。

A組のやることは多分集客率も高いのだろうが、俺たちにはそんな人脈がない。

そこで他のクラスは何をするのかと思い、間宮の持っている袋を覗いてみると食材が見えた。

 

「間宮の所は飲食店か?」

「え? あ、はい!私達は珍しいかなって思って、胡椒餅(フージャオピン)を作るんです。これなら私達のを食べながら他のお店にも行けますから」

「フージャオピン? なんだそれ?」

 

多分、名前からして海外の料理だと思うが、聞いたこともないし全く想像がつかないな。

 

「えっと豚肉を生地に包んで焼く、台湾の料理らしいんですけど……」

「台湾料理か、って『らしい』?」

「私もつい最近まで知らなかったんです。ちょっと前に模擬店の事を考えながらスーパーで食材を見てたんですけど、そしたら黄色い頭の大きな人がやって来て『ヌルフフフ、学園祭と言えばコレしかないでしょう。この窯を使ってぜひコレを作ってください』ってレシピと窯をくれたんです」

 

黄色い頭、大きな人、ヌルフフフ……まさかな。

下着ドロの時のようにあの教師が浮かび上がったが、きっと今回のも偽物だ。

食べたいからって理由だけでやりそうだが違うと信じよう。

 

「……親切なヤツもいんだな」

「はい、ぜひあの人にも学園祭に来てほしいです」

 

その後は模擬店の単価などの事を聞いていると、気づけば本校舎と旧校舎へと別れる道まで来ていた。

 

「先輩とはここでお別れですね。そうだ先輩!私も先輩のお店に行くんで当日はぜひ来てくださいね」

「ああ、その時は凛香とかも連れてく」

「………むぅ。やっぱり先輩はダメダメです」

 

なんでまたプクゥと頬を膨らますんだ間宮のヤツ。

ガチな商売合戦なら大勢連れてったほうが良いだろ?

 

 

 

 

 

間宮と別れた後、いつもの山道を上って旧校舎へと向かっていると何故か真新しい靴の跡がいくつか残っていた。

おかしいな、しばらくは烏間先生の授業は銃の扱いについてだったはず。こんなところに足跡なんて残らないはずなのに。

もしや新手の殺し屋がやって来たのかと思い、辺りを注意深く見てみる。

靴の後は複数人、しかもついさっきここを通ったような跡だった。

 

(……近いな)

 

念の為、ベレッタを抜いてセーフティーを解く。

少しの音も聞き逃さないように、警戒レベルを上げながらさらに周囲を探る。

 

――ガサッ

 

「上か!」

 

バッと銃口を樹上に向けると、こちらに銃口を向ける人物が目に入った。

 

「凛香だったのか」

「誰かと思ったらキンジじゃない。アンタ今日は退院したら家にいるって言ってたのに」

 

凛香の手元には俺と同じベレッタM92Fとなぜか大きな袋を持っていた。

 

「たまたま間宮にあって学園祭の事を聞いたんだよ。その袋の中が俺達の模擬店のか?」

「うん、殺せんせーにコレを探せって言われて」

 

そう言ってこちらへと片手でスカートを抑えて、飛び降りてくる。

片手で抑えているがそれでもスカートはある程度翻える。

普段は見えてない太ももが露わになって、その奥も……って。

 

「ッ‼」

 

何じっと見てんだよ俺‼

ここでヒスって見ろ。凛香にぶん殴られるぞ。

凛香も凛香だ。なんでスカートなのに、こっちに降りてくんだよ。

 

「キンジ、とりあえず校舎に戻るわよ」

 

当の凛香は何でもないような対応をしてくる。

今のは無自覚なんだろうが、俺の体質知ってんだからもう少し気を使ってくれよ。

そんな事を言えば先ほどの事も言わなくてはならなくなり、そうなるとバレる→切れる→秋水のコンボが決まるのが目に見えている。

見えている地雷を踏みたくない為、俺はため息を吐いて何も言わず凛香の後を追うのだった。

 

校舎につくと他の皆も凛香と同様に色々と山の中から探してたようで、続々と集まってくる。

皆、俺を見て驚き、退院の祝いの言葉を貰いながら校舎の中へと入った。

 

「皆さん集まったようですね。おやキンジ君、退院おめでとうございます。登校は明日からと聞いてたのですが?」

「ありがとう殺せんせー。学園祭が気になって来たんだ。それでE組は何をするんだ?」

「ヌルフフフ、キンジ君も暗殺と勉学以外の集大成のひとつである学園祭(これ)にやる気十分ですね。学園祭で必要なのは『お得感』、E組の武器は例えばこれです」

 

そう言って凛香達が集めていた袋から取り出したのはドングリだった。

工芸品とかに加工してもわざわざここまで来るほどの物ではないと思うが……

 

「これはマテバシイという実が大きくアクが少ない品種です。律さん!あの曲をお願いします」

「はい!BGMスタートです」

 

そう言って流れるのは某3分クッキングで有名なあの曲。

エプロンと三角巾を身につけた殺せんせーと律。

黒板にはしっかり『ころP 3分クッキング』なんて書いてるし……

 

「こんにちは、殺せんせーです。秋もふかまった季節に行う学園祭でこんなものはいかがでしょう。では材料の準備です」

「サポーターの律です。材料は皆さんが取って来たマテバシイです」

「ではまず取ったマテバシイを水につけます」

「水に浮いたものは虫食いなので取り除くんですね」

「ええ、そうです。選別した後は石などで殻を割り、渋皮を取り除きます」

「これが取り除いたものです」

 

そうして出てきたのは殻を割ったドングリ。

へえ、ドングリも殻を剥けばピーナッツの中身みたいなんだな。

 

「これをどうするんですか、殺せんせー?」

「荒めに砕いた後、1週間ほど流水でアク抜きします」

「ここですと布袋に入れて、川に入れとけばいいんですね」

「はい、それをさらに3日間天日干しにし、石臼で引きます。これで『ドングリ粉』の完成です」

「うわぁ、まるで小麦粉みたいになりましたね」

 

さらに殺せんせーがマッハでどこからか持ってきたのは小麦粉よりも黒っぽい粉。

 

(((最初からドングリ粉だけ用意しとけばいいよな(よね)?)))

 

途中の工程のドングリはある程度作業が省けたと思えばいいのだが、ますます殺せんせーが何を作るのか分からなくなってきた。

 

「いい線です律さん。この完成したドングリ粉を使って作る料理は『ラーメン』です」

「ラーメンだと?」

 

この中で誰よりもラーメンに詳しい村松がドングリ粉をひと舐めするも、その顔は明るいものではなかった。

 

「味も香りも面白れぇが粘りがないな。これじゃあ『つなぎ』として大量の卵やかん水が必要になるぞ」

「それは大丈夫です村松さん。代わりにコレを使います」

 

律がもってるのは、むかごがついているツルだった。

久しく食ってないが、よくばあちゃんがむかごご飯を作ってたから覚えている。

むかごは美味いが、アレには粘りはなかったと思うが……

律はむかごがついたツルの先を見ると、ツルの先にはなんとトロロ芋がついていた。

 

「ヌルフフフ。天然の自然薯です、トロロにすればつなぎとしては申し分なく自然の山ならどこでも生えてます」

「ちなみにだいたい1㎏で数千円ぐらいの値段になります」

 

それを聞いて全員の目の色が変わる、特に磯貝なんて目を¥に変えて

 

「俺、卒業したら自然薯堀になろっかなあ」

 

なんてうわ言のように言って、片岡が必死に呼び戻している。

自然薯でこれなんだ、もし松茸なんて出たらヤバいんじゃないか……

 

「さて、これで麺は作れます。後は残った資金でスープ作りですね」

「ならつけ麺だ。これだけ癖が強いんだ、なら濃いつけ汁のほうが相性がいい。それに利益率も高ぇ」

 

どんどんと俺達の模擬店の具体的なイメージが見えてくる。

 

「さらにここには魚や木の実、キノコなど山奥に隠れて誰もその威力に気づかない武器がたくさんあります」

「なるほどな。隠し武器で客に攻撃、確かに俺達らしい店だわ」

「その通りです寺坂君。皆さん、山の幸の数々(きみ達)の刃で殺すつもりで売りましょう」

 

その後はひたすら山で材料を集める者、メニューを考案する者、宣伝を考える者などに別れて学園祭当日まで準備を行った。

 

あとこの準備期間中、学園祭の事をどこからか聞いた白雪や理子が一方的に俺を集合時間を記したメールを送ってきて、平穏無事に学園祭が終わりそうにない事が決定したのだった。




『ころP 3分クッキング』は 殺意と愛情を食卓に
殺せんせーと律の提供でお送りしました。

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