哿の暗殺教室   作:翠色の風

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74弾 渚の時間

どんな事をしていても時間だけは待ってくれず、気づけば最後の授業が終わっていた。

母さんは放課後すぐに来ると言ってたから、三者面談までもうすぐだ。

 

「では先生は準備しますので、渚君はお母さまを迎えに行ってください」

 

皆に押し込まれつつ、菅谷君の作ったマスクをかぶって殺せんせーがそう促す。

皆のおかげで見た目の問題は大丈夫なんだ、今は上手くいくことを祈ろう。

心の中で祈りつつ、僕は言われた通り玄関へと向かった。

 

 

 

 

校舎の玄関を出ると、遠くのほうに一人の女性がこちらに来ているのが見える。

母さんだ。向こうもこちらに気づいたようで視線が合い、会話できる距離まで来ると

 

「あなたは黙って言う通りにするのよ渚。母さんが必ず挫折の道から救ってあげるから」

 

波長からして、爆発寸前の爆弾。一言でも間違えればくる状態だった。

僕はただ縦にうなずく以外に選択肢は取れず、そのまま母さんの後を付いて教員室へと向かうしかなかった。

 

「失礼します」

「ようこそ渚君のお母さま。そこにおかけになってください」

「え、ええ。ありがとうございます」

 

扉を開けると目の前には、ほほ笑む烏間先生。

……うん。本人を知ってる僕たちからすれば違和感がすごいし、外から小さな声で「こんなの烏間先生じゃないよぉ」なんて声も聞こえてくるけど、まあよしとしとこう。

 

「山登りはさぞお疲れでしたでしょう、お話に移る前にまずは冷たいジュースとお菓子でも」

「まあ、グァバジュース!私コレ好きなんですよ。こんな豪華なモノありがとうございます」

 

烏間先生に変装した殺せんせー改め、殺す間先生が出したのはグァバジュースとマカロン。

母さんの趣向を調べて出したんだろうけど……コレ、絶対に三者面談で出す物じゃないよね殺せんせー⁉

 

「ええ、存じておりますとも。渚君はこのクラスでの成長ぶりには目を見張るものものがあります。それもこれもお母さまが育ててくれたおかげですのでコレはそのお礼です」

「まあ!そんな褒められても何もありませんよ」

「それと渚君に聞きましたよ、お母さまも体操の内脇選手のファンなのですね」

「先生もなんですか?」

「ええ、彼の頂点を目指す真摯な姿は素晴らしいですからね」

 

スゴイ。母さんのツボを押さえて回してくれてる。

波長もさっきより穏やかになってるし、これだけ打ち解けてくれてるならもしかしたら……

 

「もう我慢できないよ桃花ちゃん‼烏間先生はもっとクールで「はいはい。あとちょっとだけ我慢しようねー」モガモガモガ‼」

 

ああ……烏間先生の姿で甘い顔をしてるから暴走しそうな倉橋さんが窓辺で矢田さんに抑えられてる。

 

「あら?少し外が騒がしいわね」

「すいません。皆、放課後の勉強会をやってるんですよ。あまりにも熱中しすぎて時々こういった討論に近い事も起きてしまうんです」

「あら、そうだったんですか。それなら仕方ないですね」

「お気遣いいただきありがとうございます。それにしても改めて思いましたけど、お母さまは大変お綺麗ですね。渚君もお母さまの美貌に似たんでしょうかね?」

 

今まで満面の笑みを浮かべていた母さんがそれを聞いた瞬間、表情が能面のように無になる。

今までは上手く回避できていたがとうとう押してしまったのだ。

『地雷』というなのスイッチを

 

「ええ、ホント。これで女の子なら私の理想だったのに」

「お母さまの理想ですか?」

 

殺せんせーの言葉を聞きつつ、母さんが僕に手を伸ばし――ブチッと髪を結んでいたゴムを千切る。

 

「母さん」

「あなたは黙ってなさい。母さんが一番分かってるんだから」

 

さっきとは違う作った笑み。

 

「このくらいの齢なら、女の子は長髪が似合うんですよ。なのに私は短髪しか許されなくて、3年になって勝手にまとめた時は怒りましたが、コレはこれで可愛らしかったので見逃しています」

「……そうですか」

「そうそう進路の話でしたよね。この子は蛍大に行くべきなんです、そのためには蛍大合格者が都内有数の椚ヶ丘高校へ進学するべきですし、なにより中学で放り出されたら大学や就職に悪影響ですわ。ですからこの子がE組を出れるようにお力添えをお願いします」

「渚君、君もそれを望んで「先生、この子はまだ何も分かっていませんわ。失敗を経験した親が道を造ってあげるべきなんです」……よくわかりました」

 

え? 殺せんせー、僕はそんなこと望んでなんか……

 

「なら、渚は「分かったのは、なぜ渚君が今の彼になったかです」は?」

 

――スッ

 

「「「「ブフッ⁉」」」」

 

何を考えたのか、殺せんせーは突然髪の毛を取ったのだ。

顔は完璧に烏間先生なのに、頭は陽によって明るく照らされてる。

これには僕も母さんも、外から見ていた皆も噴出した。

カルマ君、さすがにこれは撮影したらマズいよ‼

 

「え、先生⁉」

「そう私、烏間惟臣はヅラなんです‼ お母さま、髪型も高校も大学も保護者が決めるものじゃない。確かに時には道をただす必要があるかもしれません。ですが、それは親のコンプレックスを隠すためじゃない!彼の人生は彼のモノだ。なら進路は渚君が決めなければいけません」

 

その言葉は自然に僕の心へと染み渡り、気づけば頬に一筋の涙が流れていた。

 

「この際担任として言わせてもらいます。渚君自身が望まない限り、E組から出ることは認めません」

 

この後母さんが怒りのままに叫び僕の目を覚まさせると言って出て行ったが、僕の心にはさっきの殺せんせーの言葉が繰り返し響いていた。

 

「殺せんせー」

「うーむ、思わず少し強めに言ってしまいました。先ほどの続きですか、君がハッキリと自分の意思を言うことが最も大事なんですよ」

 

変装用のマスクを破り、いつもの恰好に戻りながら殺せんせーはそう言う。

自分の意思をハッキリと母さんに伝える……僕にとっては殺せんせーの暗殺並みに難しいことだろう。

 

「僕にできるのかな……」

「大丈夫、殺す気があれば何でもできます。君の人生の1周目は、この教室から始まっているんですから」

 

 

 

 

その晩、家に帰るとなぜか母さんは上機嫌でエビフライを揚げていた。

なんで? てっきり、殺せんせーで機嫌が悪くなっていると思ったのに。

 

「母さん?」

「もうすぐご飯できるから、その後にゆっくりと話しましょう渚」

「う、うん」

 

数分で晩御飯はできた。

 

「食べながら話しましょう。それで渚どうかしたの?」

 

緊張でノドがカラカラに乾いた為、水を一口飲む。

 

「うん、実は母さんに話したいことがあるんだ」

 

おっかなびっくりにそれでもゆっくりと一言一言母さんに伝えるために口を開く。

でもその前に母さんの方が早かった。

 

「ねえ渚、母さんもわかったの」

「え?どうした……の」

 

なんか急に眠たく……どうして……

必死に倒れまいとテーブルに手をつくもうまくいかず ――ガチャン と食器を落としながらテーブルに顔を突っ込んでしまう。

 

「言ってもダメなら、実力行使しかないって」

 

……ダメだ。もう眠く……

今にも意識を落としそうになるなか、いやに母さんの言葉だけはハッキリと聞こえてくる。

 

「あなたの人生観、改造てあげるわ渚」

 

そこで目の前が真っ暗になった。

 

 

 

意識がハッキリすると、僕はテーブルではなくどこかの地面に倒れていた。

真っ暗でここがどこかなのか分からない。

 

――ボッ‼

 

当たりをキョロキョロ見渡していると、灯りがつく。

それは松明に火をつけた母さんだった。

そして、灯りがついたことによりここの場所も分かった。

見慣れた木造の校舎。学校に僕と母さんはいた。

 

「母さん、いったい何を」

「ここを燃やしなさい渚」

 

ここを燃やすって、なんで⁉

 

「なっ何言ってるの母さん⁉」

「これは必要な事よ。あなたの溜まった膿を消毒する為にね」

「僕は」

「あなたの為なのよ‼ ねえ、なんで母さんの言うことが聞けないの? アナタが良い子なら母さんの気持ち分かってくれるわよね?あなたは私みたいに挫折してほしくないのよ。 そのために私は色々したわ、塾にも行かせたし、私立にも入らせた。疲れた体に鞭打ってご飯も作ったわ、なのにあなたはツルッパゲの若ハゲに洗脳されて逆らってばっかり‼渚は私が作り上げたのよ‼ ええ、そうよ。だから今からする事も正しいわ、これも渚のため。私は正しい事をするのよ」

 

……違う。

でも、心のどこかで母さんが言っていることは正しいと思う自分もいることを否定できない。

一度、深く深呼吸をする。

 

『まずは君自身が、ハッキリと君の意思を伝えるんですよ』

 

……うん。僕の意思はとっくに解っている。

今までなら言えなかったけど、殺す気で頑張れば言える。

 

「母さん」

 

そこまで言ったところで、母さんが持ってる松明が ――ボッと空気を切る音と共に先の燃えている部分が落ちた。

 

「さっきからキーキーうるせぇんだよ、クソババア。ドラマの時間が来るだろうがよ」

「ババッ⁉ だ、誰よアンタ‼邪魔しな『――ビシッ』キャッ‼」

 

鞭……それにこの時間に、この殺気……()()()

 

「邪魔なのはテメーらだよ。こちとら何日も下調べをしてんだからな。今期の水曜10時のドラマをここでヤツは必ず見る。そこをついてこのマッハを超える俺の鞭でぶち抜いて殺す予定なのによぉ」

「殺すって……何⁉どういうことなの⁉ け、警察」

「チッ。無償の殺しはやらねぇのが殺し屋だが、ここまで騒がれたら本命がパァだ。……幸いババアを殺しても賞金は出るし、口封じに殺っちまうか」

「ひっ」

 

母さん ――怯えている。

殺し屋 ――油断している。

 

素早く僕は波長を読み、状況を判断。

一手、どうにかして鞭を手放すことができたら。

何か方法はと、探るとポケットに何か重みを感じる。

この重みは最近知ったものだ。

 

『ワタシノ愛銃ヨ。アナタノ第一歩()()()()()ニミセテミナサイ』

 

もう慣れ親しんだ片言口調、2人にはこの声が聞こえていないみたいだ。

ありがとうございます。ウー先生。

そして殺せんせー見ていてください、これが僕の新たな1周目の第一歩です。

 

――パァン‼

 

僕は気配を溶かしつつ、殺し屋の鞭の持ち手めがけグロック17を抜き発砲した。

 

「グッ‼ このガキ、いつの間に銃なんか‼」

「渚……あんた」

 

2人の驚いた顔を無視し、こっちを意識した殺し屋を封じるために僕は無造作に近づく。

 

「母さん、あなたの顔色を窺う生活はある才能を伸ばしてくれました。母さんは望んだわけじゃないけど、コレのおかげで僕はE組の皆の役に立てています」

 

ただ、無造作に歩くだけじゃない。気配を波長すらも変える。

 

「母さん、僕は今全力で挑戦しているんです。それは卒業までに……結果を出します」

 

それは死神の時にみせた獰猛な烏間先生の殺気

 

「成功したら髪を切ります」

 

それはいくつもの罠をしかけ僕たちを嵌めた死神の狡猾さ

 

「育ててくれたお金は全部返します」

 

それはキンジ君のようなカリスマ性

 

「それでも許してもらえないなら」

 

それは殺せんせーのような未知の生物が発する怒気

 

僕にはまだ死神のように人外の雰囲気は纏えない。

だから、僕が知る中で最高のモノを持つ人たちを組み合わせていく。

それはまるで平家物語に出てくる妖怪のように。

猿の頭に狸の胴体、虎の脚に蛇の尾を持つ妖怪。

一つ一つは知っている動物も組み合わせれば、それは化け物へと変貌する。

 

『鵺』

 

これが死神の技を受け、考えた僕の技だ。

 

「やめろ。来るな、来るんじゃねぇ!聞いてねえよ、こんなのがいるなんて!」

 

腰を抜かし、ズルズルと這う殺し屋をゆっくりと追う。

1歩1歩歩むたびに気配を強め、さらに組み上げていく。

 

「僕は母さんから卒業します」

 

――パンッ‼

 

殺し屋に追いつき、乱れ切った波長に対してもう一つの技。『クラップスタナー』で殺し屋を沈めた。

 

母さん、僕を産んでくれたことに感謝をしています。

でも……贅沢かもしれないけど、ただこの世に生まれた我が子がそこそこ無事に育っただけで喜んでくれたら。

それなら全て丸く収まるのに……

 

「渚……あなた渚なのよね? いったい何をしたの、それにアイツは何⁉」

「すませんお母さま、たまにこの辺りには不良の類が遊び場にしてるんですよ。夜間にここに来るのは辞めといた方がいいですよ」

 

気づけば、皆にダメ出しされた烏間先生の変装をした殺せんせーが来て母さんに説明していた。

 

「殺せんせー来てたんだ」

「堂々と3月までに殺す宣言をしましたね。もう後には引けませんよぉヌルフフフ」

「アハハ……わかってるよ」

 

この先生、いつから見てたんだろう?

 

「それとクラップスタナーはまだまだですね。麻痺が浅いです」

 

え?

ふと足元をみると、ガムテープでグルグル巻きにされて、むせび泣く殺し屋が転がっていた。

どうやら、波長を乱しすぎて上手く合わせられなかったようだ。

 

「さてお母様、渚君はまだ未熟ですが温かく見守ってあげてください」

「…………」

「決してあなたを裏切ったわけじゃないんです、ただ誰もが通る巣立ちの準備を始めただけですよ」

 

それを聞いた母さんはドサッと倒れた。

 

「母さん⁉」

「大丈夫です。緊張が解けて気を失っただけですよ。送りますから、車にのりなさい」

「……うん」

 

 

 

その後は、ただ静かに山を下りていく。

殺せんせー普通に運転してるけど、免許なんてもってるのかな?

 

「さて渚君、進路相談の続きです。万が一先生を殺せたとしましょう……その後君はその才能で殺し屋になろうと思いますか?」

 

それは前に示した僕の路。

才能が最も生かせるであろう職種。

でも……

 

「たぶん違う。才能ってこうと決まったものじゃないんだと思う。授かり方が色々なら使い方も色々なんじゃないかな」

『アラ、面白イ話ヲシテルワネ』

「ニュヤ⁉どこから声が⁉」

『アナタノ事ハ知ッテルワ、黄色イタコサン。武偵高デ教師ヲヤッテイル、チャン・ウーヨ」

 

さすがの殺せんせーもこれにはびっくりしてる。まあ突然声が聞えるもんね。

 

「ウー先生、銃を貸していただきありがとうどざいます」

『返サナクテ良イハヨ。アナタガ一歩ヲ踏ミ出セタ、オ祝イニアゲルワ』

「え、いいんですか⁉」

『ソレヨリモサッキノ話ノ続キヲ話シテチョウダイ』

「先生も色々と聞きたいところですが渚君お願いします」

「えっと……だから、暗殺に適したような才能でも今日母さんを守れたように僕も誰かを助けるために使いたいんだ。だからウー先生、あの推薦書受けたいと思います」

『アナタナラ、ソウ言ッテクレルト思ッタワ』

 

僕の膝にあの時見せてもらったものと同じ推薦書が現れる。

 

「どうやら君も見つかったようですね。ご両親としっかりと対話の努力を忘れず、君の意思を伝えなさい。速水さんにも言いましたけど、その道は困難です。ここで学べることを精一杯学びなさい」

「はい!」

『アラアラ、少シ妬ケルワネ。ドウ?タコサン、コノ後ニデモ』

「ニュヤ⁉ いえいえいえいえいえ、この後先生も用事がありますので」

 

僕は殺し屋、そして武偵になりたい。

今なら胸を張って言える。ならまずは母さんにこの気持ちを、意思をしっかりと伝えよう。

 

 




???「ビョビョビョ、ホントの姿はこんなのだって見せてやりたいじょ」



今回もまた1人持ち銃の公開です。
渚はグロック17に決まりました。

他のメンバーはまだまだ活動報告で募集中です。
気軽に書いていってください

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