哿の暗殺教室   作:翠色の風

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最後の投稿から約1ヶ月……やっと……やっと論文が終わった……
これでようやく話の続きがかける……
前話の感想もこの後すぐに返信いたします。



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73弾 周回の時間

家に帰ると、母さんは先に戻ってきており「ただいま」と言って早々に僕はリビングへと呼び出された。

 

「どうしたの母さん」

「ちょっとそこに座りなさい」

 

そう言われイスに座ると、目の前には2学期の中間の結果用紙が置かれている。

僕の今回の結果は前回より低い54位、母さんが望む50位以内には入ることができなかった。

怒られるかと思い、母さんの顔色を窺うと……あれ?黒くない。

1学期の中間の成績を知った時のような暗さが窺えなかった。

 

「渚。私、田中君のお母さんに聞いたのよ。3年前にお兄さんが60位でも復帰できたって」

「え?」

 

言外にE組を出なさいと言う言葉に頭が一瞬真っ白になった。

 

「多額の寄付金を出せば特例で可能なのよ。だから私もそうするわ。一刻も早くアンタをE組から脱出させなきゃ。今度D組の「ちょっと待ってよ母さん!僕はE組のままで」………」

「楽しいし成績も上がってるんだよ?お願いだからこのまま……」

 

E組を出たくない。

とっさに浮かび上がった気持ちのままに母さんに逆らったところで、僕はようやく気付いた。

今の行動は完全に悪手だったことに。

波長、顔色どちらも最悪なタイミングでやってしまった。

今までの経験からして()()

 

「何よ‼その言い草は‼そんな向上心の無い子に育てた覚えはないわよ‼挫折の傷は一生治らないの、()()()()()()()()()()()()()! 同じ苦しみを味あわせたくない母さんの気持ちがなんでわからないの‼」

 

母さんがヒステリックに叫びながら、僕の髪を掴み、前後に揺さぶる。

――ブチブチ と髪やゴムの切れる音が聞こえ、痛みを感じるが僕はただ必死にこらえた。

 

変に逆らったものなら余計にひどくなる。

 

「だいたいアンタのせいで寄付金を出すのよ! それをアンタは、何様のつもり‼」

「……ごめんなさい。僕の理解がたりなかった……」

 

こうなってはもう話ができない。

ちゃんと顔色をうかがえなかった僕のミスだ。

 

「いい渚、アンタは子供なんだから私の言う通りにすればいいの。私とか父さんみたいにならないように全部プランを考えてあげてるんだから」

 

母さんが何かある度に僕に言い聞かせてる言葉だ。

 

「椚ヶ丘高校からなら蛍大に入れるんだから」

 

母さんが試験で落ちた一流大学だ。

 

「その理由はね。学閥って言って、会社によってはどの大学出身かで出世できるか決まるの。菱丸は蛍大出身がトップを占めてるの。そこに就職して……」

 

母さんが入れなかった名門商社。

 

「世界中を飛び回る仕事をするの」

 

母さんがやりたかった仕事。

 

「欲を言えば女の子が良かったわ。そしたら私がさせてもらえなかったオシャレを存分に教えてあげたのに」

 

これも口癖だ。

せめて女の子らしく……僕が髪を伸ばし続ける理由だ。

 

「ほら髪が長いからやっぱりワンピースが似合う」

 

そんなこと知りたくもない、それに僕は男なんだ。

でも母さんの殺気にも似た執念に、きっと僕はこの先も逆らえないんだろうな……

やっぱり僕は皆のようになれないのかな……

 

「そうだ!さっそく明日、E組の担任に転級手続きを頼みに行くわよ」

「…………えッ⁉」

「ちゃんと話せば協力してもらえるわよ。だって短期間でここまでやってくれた先生でしょ?きっと品行方正で」

 

つい先日、女子がいないからって男子と理想のスリーサイズを話し合ってたよ‼

 

「器が大きくて」

 

速水さん達と生涯ゲームをやって、殺せんせーだけ借金を負ったから奥の手(ちゃぶ台返し)をやってたなぁ。

 

「生徒の未来を何より一番に考える、素敵な先生なんでしょ?」

 

その先生、来年に地球を破壊する宣言しています……

マズイ、烏間先生は明日出張でいないはず。

殺せんせーのことが母さんにバレたら、それこそE組が……

 

「そ、そんな急だと先生も困るよ」

「担任でしょ?放課後すぐだったら大丈夫よ。それにこれはアンタの為よ、渚。ちゃんと明日、サヨナラの挨拶をするのよ」

 

どれだけ言っても、母さんの顔は暗いまま変わらない。

こんな状態ではもう説得は出来そうもなく、結局僕は何も言えずに部屋に戻るしかできなかった。

 

 

 

 

 

その晩、僕は殺せんせーにこの事を伝えるためにも電話を掛けることにした。

殺せんせー、この前海外で寝てるって言ってたけど、電話の料金大丈夫かな……

 

――プルルルルルルプルルルルルル……ガチャ

 

Hello, who is it(もしもし、どちら様かな)?」

 

え?誰?

殺せんせーにかけたはずなのに聞こえてきたのは、全く違う青年のような声。

しかもビッチ先生並に流暢な英語だった。

 

「すいません、間違えました!」

 

慌てて僕は電話を切り、先ほどかけた番号を確認するもそれは殺せんせーの電話番号で間違いなかった。

 

「さっきの人誰だったのかな?」

 

もう一度かけ直し、電話は1コールで繋がった。

 

「もしもし渚君、なんで電話を切ったのですか?」

「え?さっきの声、殺せんせーだったの!?」

「ちょっと変装をしてイギリスにいまして、変声したまま電話に出てしまいました」

 

変声って……キンジ君に読唇術教えたりしてたよね?殺せんせーができないことってあるのかな?

 

「それで渚君。こんな時間にどうしたのですか?」

「あ、そうだった! 殺せんせー、実は……」

 

殺せんせーに促され、僕は母さんとのやり取りを殺せんせーに話した。

 

「……ほほう、お母様が転級の相談でいらっしゃると」

「どうしよう……速水さんの時と違って烏間先生がいないし、部下の人は先生じゃないから無理だし……それに僕、E組を抜けたくないよ」

「大丈夫です渚君。先生にかかれば三者面談くらい、速水さんの時のように余裕でこなせますよ」

 

殺せんせーの言葉に不安を感じ、改めて速水さんの三者面談を思い出す。

確か、烏間先生と速水さんのお母さんが知り合いでバレそうになって殺せんせーが途中から参加して……

……あれ? 殺せんせー、自分から正体バラしてなかった?

 

 

 

 

 

結局、不安はぬぐえないまま翌日を迎えてしまった。

 

「皆さん、今日は渚君のお母さまが三者面談に来ますので放課後の訓練は控えてくださいね」

 

と殺せんせーが朝のホームルームに皆に伝えた為、昼休みになった今でもクラスの話題はもっぱら今日の放課後の話ばかりだ。

 

「渚の母ちゃんかー。一回遊びに行ったけど、割とキツイ態度取られたよなー」

「あれでも杉野たちが来たときは機嫌が良かった方なんだけどね……殺せんせーは大丈夫って言ってはいたんだけど」

 

僕らも自然と話題は今日の放課後の話になり、少し前にあったことのある杉野は苦笑いを浮かべていた。

 

「烏間先生は今主張中よね。殺せんせー、本当に大丈夫なの?私の時真っ先に正体バラしてたわよ」

「それに殺せんせー本人が言わなくても、不審すぎて怪しまれないかな?」

 

僕たちの会話が聞こえたのか、近くの席でご飯を食べていた速水さんや神崎さんも会話に加わってくる。

速水さんの時は多分特別なんだろうけど、それでも心配だなぁ……

 

「私が代わりに担任やろうか?」

「ビッチ先生⁉」

 

三村君の声で教卓のほうを向くと、そこにはいつの間にかビッチ先生が立っていた。

 

「まず私は人間だし、タコとカラスマの次にアンタ達の事知ってるわよ」

 

そうだよ、担任は烏間先生や殺せんせーだけじゃないんだ。

ビッチ先生がやってくれれば、わざわざバレそうなリスクを負う必要ないじゃないか。

 

「じゃあ私が渚の母さん役をやるから、ちょっと予行練習をやってみよう」

 

そうして片岡さんの指導のもと、ビッチ先生の面談練習が始まった。

 

「では先生、担任として最も大切にしていることはなんですか?」

「そうですね、お母さま……あえて言うならば『一体感』ですわ」

「じゃあうちの渚にはどういった教育を?」

「渚君にはまず安易にキスで舌を使わないように教育していますわ」

 

率直に言おう、ビッチ先生は殺せんせーより三者面談に出しちゃダメな存在だった。

 

「まず唇の力を抜いて…………」

 

うん……ビッチ先生もダメだとしたら、やっぱり殺せんせーを信じるしか……って⁉

 

「片岡さん、それはマズいよ⁉」

「大丈夫、入ってるのはゴム弾だから‼一回この脳内ピンクは撃つ!」

「当たり所悪いと死んじゃうよ‼」

 

少し考え事しているうちの、堪忍袋の緒が切れた片岡さんが最近届いたMP-443グラッチを抜いていた。

 

「その内、訴えられっぞ。こんな痴女担任」

 

寺坂君! のんきに話してないで一緒に止めて‼ 僕一人だと片岡さん止めれないから‼

 

「ヌルフフフ やはり私が出るしかないですね。今後あるかもしれない三者面談の事も考えて、烏間先生に変装してみましたよ」

 

必死にビッチ先生を撃とうとする片岡さんを抑えていると、扉越しに人のシルエットが映った。

声でもわかったが、そのシルエットは殺せんせーなのはクラスのみんなが分かっていた。

 

「どうせいつもみたいにクオリティの低い変装だろ?」

「すれ違うぐらいなら大丈夫だろうけど、今回は面とむかってじっくり長く話すからばれないかな~?」

 

木村君や倉橋さんの言うとおり、いつもどおりじゃ今回はまずい……シルエット的には烏間先生に見えなくもないけど……

 

「心配ご無用!今回は完璧ですよ!」

 

そう言って殺せんせーが――ガラッ!と扉を開け……

 

「ワイが……ワイが烏間や!」

「「「「いや、誰やねん!」」」

 

それは相変わらず再現度の低い……律に似せようと変装した偽律さん並に違う再現度120%の別人だった。

 

「いやいや、何言ってんねん。眉間のしわとか似てるやろ?」

「その前に鼻!」

「それに口と耳!」

「あと、なんで関西弁なの!?」

 

皆の言うとおり、ツッコむ箇所が多すぎるよ……なんでそれでいけると思ったの?

 

「それでそのソーセージみたいな腕は?」

「ええところに気付いたな、不破さん。これは烏間先生のガチムチな筋肉を似せたんや」

「無駄に凝ってるわね……けど今回がギャグ話だったとしても、さすがにこれは無理よ……」

 

不破さんの言葉に全員がこんな時に頼れそうな人に……神崎さんへと自然と目がいった。

 

「え?私!? あと不破さん、さっきのセリフはメタイと思うよ」

「久々のセリフだから大丈夫よ。それで殺せんせーはどうにかなる?」

「それなら簡単だよ。普通に変装したらいいんだから」

 

普通に変装?

 

「どういうことなの神崎さん?」

「まず、殺せんせーだとバレるのって特徴的な顔でしょ。だからまずは変装用のマスクを被らせたらいいでしょ。菅谷君作れるかな?」

「ああ。材料はあるし、放課後には間に合うぜ」

「それで次に身長。これも三者面談なんだから簡単だよ」

「なるほどね。常識的なサイズだけ机からだして、あとは下に詰め込むんだね」

「うん、カルマ君の言うとおり。三者面談なんだから、座りっぱなしでも違和感ないはずだよ」

 

すごい、どんどん問題点が改善されていってる。これで、殺せんせーの不審さがなくなった。

 

「あとは念のために声も変えたいところだけど……律にボイスチェンジャーを作ってもらったら……」

 

これは殺せんせーにとっては、他より問題がないはずだよね。

 

「殺せんせー、昨日みたいに変声できるよね?」

「ええ、渚君。もちろん、できますよ。あー……あー……これでどうですか?」

「すごい!烏間先生の声にそっくり!?」

 

茅野の言うとおり、声だけ聴くとそこに烏間先生がいると勘違いするぐらいにはそっくりだった。

 

「これなら三者面談も大丈夫じゃないかな?」

「これならまず大丈夫ですよ、神崎さん。でも先生のボケをこうまで殺されると昼休みにせっせと準備した意味が……」

 

烏間先生の声でペチン、ペチンと壁を殴りながらシクシクと泣く殺せんせーを見て、神崎さんが苦笑いを浮かべたところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

先ほどまであったいろいろな不安は、みんなの協力でなくなり

『このままE組に残りたい』

改めて、そう実感した昼休みだった。

 




今回、一人だけ銃が出ました。
片岡さんはMP-443グラッチです。アンケートではトカレフだったのですが、安全装置がないなどの許可が下りそうにないな~と思ってしまい、ソ連軍で採用されていた銃繋がりで探し、せっかくだから弾もそろってたほうがいいだろうと思った結果トカレフ→マカロフ→MP-443グラッチとなりました。

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