哿の暗殺教室   作:翠色の風

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64弾 裏切りの時間 2限目

あれから10数分もたたずに俺はレキを連れ、理子が見せた映像の建物の前に着いた。

 

「理子、ホントにココで間違いないんだろーな」

『うん、さっきみせた監視カメラにキーくん達が映ってるから間違いないよ』

 

理子の言葉が正しいならあそこに皆が……

 

「レキ。敵の数は不明。優先は椚ヶ丘の生徒の保護だ。俺が前に出る。援護は任せた」

 

俺は今分かる限りの情報から状況情報(ブリーフィング)を行い、レキは俺の提案に了承する。

入り口は二つ、目の前にある建物の入り口と反対側に回ったところにある地下に続く入り口。

俺はまず、目の前にあった扉を開けた。

 

「誰もいないな……」

 

誰もいないどころか、普通ならあるはずの蛍光灯すらない……

 

「キンジさん、壁に擦れた後があります。恐らく何かの仕掛けで地下に繋がっていて、人質はそこかと」

 

レキの予想は恐らく正しい、理子曰くE組の皆が入ってから俺らが来るまでここには誰も来ていない。

28人もの人数を複数ある監視カメラを避けて運び出すのは恐らく難しいはず。

そうと分かれば、俺達は反対側にあった地下への入口へと向かった。

 

「開いてる……」

 

こういう時、人質の逃げ場を無くすために大抵扉のロックは解除されてないはずだが……

考えられるのは誘われているか人質を絶対に逃がさないという自信があるのかのどっちか。

どのみち俺達はここ以外から潜入する以外の選択肢はない。

 

「レキいくぞ」

 

ドアノブの動きに違和感はない、トラップが仕掛けられている可能性は低いはず。

例え罠がなくても待ち伏せされている可能性があるため、恐る恐る開けるが何もなく階段が続くだけだった。

警戒を続けながら、目の前にあった階段を降りていく……少しすると長い廊下に出た。

 

「敵影無し、このまま進むぞ」

 

レキにハンドサインで促し、進もうとすると

 

『キーくん、――ザザッ 気を――ザザッて、電波が――ザーーーー』

――カツ―ン、カツ―ン

 

地下に入ったせいなのか耳につけていた通信機の調子が悪く、理子との通信が切れた。

それと同時に通路の奥から足音が鳴る。

 

――カツ―ン、カツ―ン

 

隠れるには部屋に続く扉は遠く、曲がり角も無いため隠れられそうな場所がない。

仕方なく俺はベレッタを構えながら、来るであろう敵に身構える。

 

――カツ―ン、カツ―ン

 

おかしい……足音は近づいてきてるのに、姿が一切見えない。

 

「私は1発の銃弾」

 

レキが俺の斜め後ろでドラグノフを構えながら、詩のようなことを呟いている。

 

(これは……)

 

前にレキと組んだことがある強襲科の奴に聞いた事がある。

レキはターゲットを弾く際、自身に暗示をかけるように今と同じ言葉を呟くと。

 

――カツ―ン、カツ―ン

「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない」

 

――カツ―ン、カツ―ン

 

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

――バスッと少し遠くから音が鳴る。

レキの弾が何かにヒットした。

 

 

「寸分たがわず眉間を狙うか……姿を見せなかったはずなのにどうやって分かったんだい?」

 

未だ姿は見えないが、男性の声が聞こえてきた。

この声、どこかで……

 

「あなたの足音から身長とここからの距離を計測しました」

「さすがはSランク……遠山君も僕が呼ぶ前に来てくれた、これなら少しは楽しめそうだ」

 

その声と共にすぐ近くに男は現れた、俺が良く知る少女を連れて。

 

「おい、アンタ……花屋じゃなかったのかよ」

 

それを見た俺はいつもより低い声で問う。

現れた男は夏ごろに幼馴染のプレゼントを相談したり、岡島たちがケガをさせた園長の為に救急車を手配してくれた男だった。

 

「これは自己紹介が遅れたね。『死神』と名乗れば君も分かるかな?」

 

死神……危険リストA上位等級に登録され、ロブロさんに一番優れた殺し屋と称された人物。

 

「なぜ、そんな殺し屋が凛香を連れてんだよ!」

 

死神はピクリとも動かない凛香を片手で抱くように持っていた。

 

「ああ、彼女はある人物に連れていくように頼まれたんだよ。安心するといい、血は少し貰ったが死んではないよ」

「……おい」

「まあなかなか綺麗な顔をしてるから、渡す前に少し遊ぶかもしれないけどね」

 

死神が後半何を言ってるかなんて聞こえなかった。

怒りで頭の中がいっぱいになっていたからだ。

凛香を連れていくだと。

こんな悪党に頼む奴の元に……俺みたいなのを憧れてくれた幼馴染が……

 

「離しやがれ……そいつはお前みたいなヤツが触れて良い女じゃねー‼」

 

頭に血が昇ってたのがさらに増し、――ドクン、ドクンと黒い獰猛な感情と共に血流が集まってくる。

これは鷹岡の時の……

だが今はあの時の比ではない。

 

『奪え……奪い返せ……!』

 

と、言う声が自分の中心・中央、そのさらに奥から聞こえ俺自身が塗りつぶされていく。

 

「どうやらなったみたいだね。でも残念だ、()()()()()()

 

こいつはヒステリアモードの事を知ってるのか。

それに今の口ぶり、いつもと違うコレも知ってるな。

まあいい、凛香を奪い返してから聞きだすだけだ。

 

「レキ合わせろ!」

 

その言葉と共に凛香に当たらないよう計算しながら、ベレッタを撃つ。

 

「それではまだ僕が戦うに値しないな」

 

――パパパパパパッ

 

俺とレキの銃声が通路に響く、しかし着弾音は一つせず ――カランカランと代わりに銃弾が地面に落ちていた。

 

「律……」

ご主人様(マスター)への攻撃行動、敵と判断します」

 

そこには死神に背を向けて律が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ、律が……

 

「律に何をした」

「何もしてないさ、これは元々僕のモノだからね。今の君相手にはちょうどいいだろ?」

 

その言葉にさらにどす黒い感情が死神に湧く。

もう一度仕掛けようと構えるが、それよりも先に律が至近距離に躍り出てきた。

 

速い

 

そう感じた頃には俺の口を塞がれた。

 

「ん…………」

「ッ⁉」

 

()()()()

予想外な事の為一瞬動けなかったが、キスされたと認識でき引き離そうと俺はもがく。

だが律は俺の後頭部をガッチリとホールドし、律の唇は離れない。

次第に俺の中にあったどす黒いモノが抜けていく。

まるで俺に伝わる律の唇の熱の代わりに吸い取られるように……

 

キスされてから1分は立ったのだろうか、俺にとってはそれ以上に長く感じられたがそこでようやく律が離れてくれた。

 

「律……やってくれたね」

「今の状態をノルマーレ8割、ベルセ2割と判断。遠山金次を殺せる確率が50%から90%に上がりました」

 

今の俺に流れる血流は感覚で分かったが、あの獰猛なのが時々流れるだけで大半がいつものモノになっている。

律は敵の手に堕ちているし……正直このままじゃマズいな。

 

「おや、どうやらもう一組お客さんだ。律ここは頼んだよ」

「はい、ご主人様」

 

死神が渚がやるように溶けるように消えていく。

 

「待て!」

「ここは通させません」

 

死神が言っていたE組以外の客が来た、考えられるのは高確率であの人たちだ。

なら……

 

「レキ、俺は律を止める。お前は先に行って、烏間先生の援護に行け!」

「分かりました」

 

俺が先頭を走り、後ろにレキが続く。

 

「行かせないと言っています」

「律、ごめんよ」

 

こちらに殴りかかって来た律に謝りつつ、合気道の要領でそばにあった扉に叩きつける。

 

――ガシャンと大きな音が鳴るとともに扉と律が部屋の中に吹っ飛ぶ、俺も律をここで抑えるためにその部屋に入った。

中は牢獄のように檻がある部屋……いや、牢獄を見るための部屋だった。

檻の向こうの壁には大きな穴が……多分だが皆が脱出する前にいた部屋なんだろう。

 

「遠山金次を最優先排除対象に再設定、続けて近接戦闘に以降します」

 

部屋の奥まで飛ばした律が起き上がる。

それに呼応するように、いつの間にか律のヒューマノイドになる前の本体が横に鎮座していた。

律からも関節などから蒸気が噴き出している。

やるしかないのか……

 

「律、俺はそんな悪い子に育てた覚えはないよ。そんな悪い事をする律には少しお仕置きが必要みたいだね」

「いきます……モード狂宴(オルギア)。先に宣言します、あなたでは私に勝てません」




次回 律VSキンジ
そしてレキは……

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