哿の暗殺教室   作:翠色の風

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まずは謝罪を。
近日中に投稿と書いておきながら、こんなに期間が空き申し訳ありません。



UAがとうとう10万を超えました。
投稿ペースが落ちつつありますが失踪だけはしないので、これからも『哿の暗殺教室』をよろしくお願いします。


58弾 弱者の時間

「みんなー、園長先生はおケガしちゃってしばらくお仕事できないの。代わりにね、このお兄ちゃん達が何でもしてくれるって!」

「「「はーい‼」」」

 

事故の翌日、さっそく全員でわかばパークに向かった俺達は、現在保母さんから子供たちに紹介されているところだ。

さっそく子供たちが俺達に集まってきており、それぞれが相手をするはめに。

 

「ねえ、兄ちゃん何か一発芸やって!」

 

俺も例に漏れず、集まって来た子供たちに何かしろとせがまれてきた。

一発芸か……

俺の得意技なんて、バタフライナイフの連続開閉ぐらいだが当然子供には危険だと言うことで今日は持ってきていない。

 

「一発芸なんてできないな」

「えー」

「あっちの姉ちゃんが面白い事やってるのに?」

「期待した俺達が間違いだったんだよ」

「そうだね……」

 

さっきから年上に散々な言い方してくるなコイツら。

しかも面白い事やってる女子って誰だよ?

 

子供達が指さす方向を見てみると律がいたが

 

「平賀さん曰く『ドリルはロマンなのだ』らしいです。これでこのロボットもかっこよくなったはずです」

「「「ふぉぉぉぉ!!」」」

 

律は子供達のおもちゃの手にドリルを装備させるという魔改造をやっていた。

子供達も目をキラキラと輝かせているから良いもののぬいぐるみまでドリルをつけるのはどうかと思うぞ。

 

「キンジ何サボってるの。ちゃんと子供の相手しなさいよ」

「ん? 凛香か。律のほうに子供たちが行っただけでサボってるわけじゃないぞ」

「今のアンタの状態がサボりじゃないわけないでしょ。律‼ 〇カちゃん人形までドリルつけようとするな‼」

 

俺の横に来たかと思えば、律を止めるためにそっちに行く凛香。

それをボーっと見ていると、凛香が顔だけ振り向き

 

「そうだ。キンジ暇なら買い物行ってきて、買うものは保母さんに聞けばいいから」

「ん、了解」

 

一応保母さんと磯貝たちに声をかけようと玄関に向かう傍ら周りを見て探す。

 

「……ッ‼」

 

昨日俺がガラにもなく説教したヤツの大半から視線を逸らされてしまう。

 

(……はぁ。分かっていたとはいえ、いごごちが悪いな)

 

不知火あたりなら昨日の事ももっと穏便にできたかもしれない、しかしコミュ力が高くない俺にはあんな説教ぐらいしか思いつかなかった。

多少の後悔はあるが覚悟していたことでもあるため、磯貝に「買い出しに行ってくる」と言ってすぐに部屋を出る。

保母さんには玄関で会い、凛香に言われた事を伝えると

 

「ちょうど買い出しの人手が足りなくて助かったわ。買い物なんだけど、スーパークヌギに行ってもらえないかしら?」

 

スーパークヌギ?

あそこって、確か椚ヶ丘中から近いスーパーだよな? ここからだと少し遠くないか? 

 

「それは構わないですけど、駅前のスーパーのほうが近いんじゃないですか?」

「そうなんだけどね、まだ紹介していない最年長の子がそっちの方が安いからって買い物して帰ってくれるのよ。あなたと同じ学校だから制服ですぐわかると思うわ。その子には私が連絡しとくからお願いね」

 

 

 

~凛香side~

 

こっそりとキンジの後をつけ、玄関から出て行くのを確認した私は再び皆がいる部屋に戻る。

 

「キンジは出かけたわよ」

 

そう言うと子供たちを相手にしながらも皆は円になるように集まった。

 

「それで昨日キンジ君と何があったの?」

 

赤羽が集まったのを確認して口を開くと、昨日キンジに怒られていたメンバーが程度の差はあれどその言葉に反応している。

 

「俺達はここで働く原因はタコから聞いているよ。けどキンジ君と何があったかは知らないんだ、まあある程度の予想はついてるんだけどね」

「できたら私達も教えてほしいな。今の皆と遠山君は見てられないよ……」

 

赤羽に続いて茅野も聞いてくると罰が悪そうに磯貝が昨日の事について話し始めた。

 

「実は……」

 

磯貝の話す内容は特に付け加えて話す必要のないものだった。

一緒にあの場にいた、神崎、律も黙っている。

全てを話し終えて、少しのあいだ子供の騒ぐ声しか聞こえてこなかったが不意に

 

「「お前たちバカなのか?」」

 

赤羽と意外にもイトナがそう口を開いた。

 

「バカって……俺達も今の現状見てここの重要な戦力を失ったことに自覚は「それだけじゃないよ」何があるんだよカルマ」

「岡島、キンジ君に感謝しときなよ。下手したら殺せんせーいなくなってたかもしれないんだから」

「「「ッ⁉」」」

「皆驚いてるけど今回の事考えてみなよ。加害者側が『〇〇の為だから、相手がケガしても仕方がない』なんてふざけた事言ってんだよ、しかもタコの色は黒だったんでしょ。たぶんだけどキンジ君が発砲しなかったら、皆叩かれてたんじゃない? そしたら生徒に危害を加えたって理由ができて、殺せんせーは教師を続けられなくなるじゃん」

 

カルマの説明であの時の状況を改めて理解し、あの場で言い訳していたメンバーの顔色が青くなる。

あの時私はキンジ側だったけど、相談する前に岡島たちのを見ていたら確実に参加していた。

『悲観論で備え、楽観論で行動しろ』改めてキンジに言われた言葉の意味が理解できた気がする。

 

「そういえばキンジに言われた『力を持つ者としての責任と使い方』の意味、理解できたの?」

 

私が怒られた人に聞くが大半は「うっ……」と言い、顔に理解していないと書かれていた。

 

「キンジの例えがピンとこなかったんだよ」

「なんとなくプロと素人の違いぐらいはわかったんだけどね」

 

確かに寺坂や中村の言う通り、あれはキンジの説明不足もあるかもしれない。

 

「俺みたいになるなってことだろ」

「どういうことイトナ君?」

「詳しい事は神崎や速水に聞け、渚」

 

イトナなんで私や神崎に……最後までアンタが答えなさいよ。

私がそう思いながらイトナを睨むも、本人はどこ吹く風と気にせずに律が改造したロボット(ドリル付き)をいじり始めた。

 

「「「…………」」」

 

皆は皆で全員こっちを見てくるし……

 

「はぁ。 アンタたちが考えているほど難しいことじゃないわよ」

 

私自身口下手な為、後の事を神崎に引き継いでもらうよう目線で促すと、神崎は苦笑を浮かべながら

 

「うん、速水さんの言う通りだね。キンジ君の例えは難しいから……そうね、正義と悪の違いって何だと思う杉野君?」

「え⁉ た、正しいかどうかとか?」

「うん、そう。それと一緒だよ。正しい事に使うのが強い力を持った人の責任でしょ。今回の皆は悪い人と一緒で他の人たちの立場を考えなかった結果だよ、本校舎の人たちと一緒でね」

「弱者の立場……俺達も半年前はそうだったのにな」

 

前原がそう呟いてそのまま沈黙が続く。

 

「キンジに改めて謝らないとな」

「そうだね、岡島君。私達ちゃんとキンジ君に謝ってないしね。あとは力の使い方だね」

 

矢田がそう呟くが、答えを言っていたのに何を悩んでるんだろう?

 

「さっき神崎が言ってたじゃない、『正義と悪の違い』って」

「どういうこと凛香ちゃん?」

「だから矢田、ち「速水さん、ヒントは上げたんだからあとは皆が自力で気づいてもらわないといけないよ」……そういうことらしいわ」

 

神崎に答えを言う前に止められてしまう。

 

「じゃあ反省はここまでにして、この後のこと考えようよ」

「遠山君も今はいないし、神崎さんの言う通りね。2週間もあればこの現状もいろいろできるんじゃない?」

「そうだな、じゃあ手分けして松方さんの代役を務めよう。まずは作戦会議だ」

 

片岡と磯貝が引き継ぎ、役割分担を決める作戦会議をしここでの本格的な活動が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

~キンジside~

 

保母さんにそう言われ、スーパークヌギへと向かったがそれらしい人物が見当たらない。

 

「しまった。ソイツの特徴とか聞いとけばよかったな」

 

今からケータイで特徴でも聞くかと思いわかばパークの電話番号を打っていく。

 

「うぅ……お願いだから向こうに行ってよ~」

「ワン‼」

 

スーパーのすぐそばで小型犬に懐かれて半泣きになっている大量の荷物を持った女子がいた。

 

「もしかしてアイツか?」

 

確証はないが取りあえず犬を抱きかかえ助けてやる。

 

「あ~なんだ。大丈夫か?」

「ありがとうございます。犬は苦手なんですよって遠山先輩じゃないですか!」

 

このセミロングの子とどこかで会ったか?

俺の事を先輩って言うからには、1年か2年のはずだが……

 

「分からないですか? ほら借り物競争で審査した」

「ああ。あの時の子か」

 

あまり思い出したくないが、目の前にいるのは借り物競争でメグを横抱きで抱えて走って審査してもらった子だった。

犬を抱えているせいなのか、微妙に距離を取るその子は俺が思い出したことが嬉しいのか笑顔になり

 

「思い出してもらえましたか? 私『間宮ののか』って言います、よろしくお願いしますね」

「あ、ああ。それにしても間宮、その荷物もしかしてわかばパークの買い出しなのか?」

「え? もしかして遠山先輩が梅野さんが言っていた園長の代わりの助っ人ですか⁉」

 

 

 

 

 

幸いにも犬の飼い主はすぐに見つかり、間宮から荷物を半分受け取り二人でワカバパークへと向かう。

 

「そう言えばなんで間宮は俺の名前知っていたんだ?」

「体育祭の後、本校舎で先輩は有名になってますよ」

「へーそうなのか?」

「ええ、特に男子が話しているのを見ますよ」

 

間宮自体は詳しい事を知らないそうだが、体育祭では活躍した覚えはない。

 

「有名になる理由が分からないな」

「そうですか? 棒倒しの時の先輩、かっこよかったですよ」

 

間宮はそんな恥ずかしくなるような言葉をコテンと首を傾げながら、身長差的に見上げるように言ってくる。

反射的に顔を明後日の方向に向け、この話題を終らせるためにも違う話題を探す。

 

「そ、そうだ! なんで間宮はワカバパークにいるんだ? あそこって小学生ぐらいまでと思ったんだが」

「…………いろいろあって、姉と2人で東京に来たんです。2人で暮らすのは危険だって言われ、叔母の知り合いの松方さんの所で生活するように言われたんですよ。姉はつい最近、寮制の学校に転校して今はわかばパークにいないんですけどね」

 

……話題選び間違えたな。武偵高にいた頃ならこんな見るからに訳アリだって事も聞かねーはずなのに。

 

「スマン、間宮」

「気にしないでください先輩。それにそろそろわかばパークに着きます……よ?」

 

俺と間宮はわかばパークに着いたところで立ち止まってしまった。

何故かわかばパーク内に大量の丸太が積まれていたのだ。

 

「これはいったい……」

「俺が出たときはなかったぞ、こんなの」

 

2人して立ち止まって積まれている丸太を見ていると奥から前原や岡島がやってきた。

 

「お、帰ってきたかキンジ」

「前原、岡島これは?」

「ああ、キンジがいない間にいろいろ話し合ったんだよ」

「それでわかったんだ、俺達がやってしまった大きさがな。あと……」

 

そう言って岡島が1歩前に来て突然頭を下げはじめた。

 

「すまねぇキンジ。昨日はいろいろ迷惑かけちまった。正直まだキンジの言う『力を持つ者の責任』は分かっても『使い方』は分からねえ、だから」

 

頭を下げながらそう言う岡島の頭を軽くたたく。

 

「キンジ?」

「それを理解する為にも先生はここで働くように言ったんだろ。あの先生のやることだ、真面目にやれば答えが出るはずだ。2週間後でもお前らの『責任と使い方』について聞くさ。2週間頑張ろうぜ」

「あ”あ”、あ”り”か”と”う”」

「こんな事で泣くなよな、岡島」

 

目の前で泣く岡島に苦笑を浮かべていると、おずおずと間宮が出てきた。

 

「あの先輩、何かあったんですか?」

「まあ良くあるケンカだな」

「そうだったんですか。仲直りできて良かったです。岡島先輩、これ使ってください」

 

そう言って岡島にハンカチを渡す間宮を見て、さっきまで黙っていた前原が

 

「そうだキンジ、なんでののかちゃんと一緒に戻って来たんだよ」

「間宮はここに住んでるんだと、あと前原は間宮の事知ってたのかよ」

「はあ⁉ むしろなんでお前は知らねーんだよ。1年生の学年トップの間宮ののかちゃんだぞ! 性格よし、見た目よし、学力よしの三拍子で1学期だけでも学年問わず告白する男子が多数いたってE組まで知れ渡るほど有名だぞ‼」

「ま、前原先輩、私はそんなにスゴクないですよ。それに学力は特待生制度で学費全額免除が理由ですし……」

「老若男女問わず優しく接する姿から一部では『椚ヶ丘の天使』って言われててだな」

「それ初めて聞きましたよ⁉」

 

前原の言葉に顔を真っ赤にさせて間宮が毎回反応する。

そんな感じでギャーギャーと騒いでいると、中にいた子供たちも俺達の事に気づいたようで庭に出てきて

 

「あ、忍者のお姉ちゃんが帰ってきた!」

「おかえりなさい、忍者のお姉ちゃん!」

「いつものアレやってー」

 

忍者? 風魔みたいに吹矢や手裏剣でも持ってるのか?

一般人じゃないかもしれないと少し警戒し間宮を見るも、間宮は子供たちの視線に合わせるようにしゃがんで

 

「ただいま。毎回言ってるけど私は忍者のお姉ちゃんじゃなくてののかお姉ちゃんって言ってほしいな。アレは私の勉強が終わったらやってあげるから待っててね」

 

子供達一人ひとりを相手にしており、俺の気にしすぎだと判断する。

大方、子供をあやすのにやったことがたまたま忍者みたいに見えたんだろうな。

 

「先輩? どうしたんですか?」

「いや何でもない。さっさと買ったものを中に持ってこうぜ間宮」

 

間宮に一言言って中に入ると、玄関に3人ほど仁王立ちしている者が……

 

「ねえキンジ、なんでアンタ毎回毎回どこか行くたびに女の子を連れてくるの?」

「キンジ君の為に頑張ったのにこれはアウトだよ」

「キンジさん、子供たちの教育上これは良くないです」

 

凛香、有希子、律が俺を囲むように立って、逃げ場を失う。

 

「待ってくれ3人とも、まずは俺の話を聞いてくれ」

「「「問道無用(です)!」」」

 

 

 

のちに凛香達に攻撃される俺を見た子供たちは、大きくなったらこんな人物にはならないという意味を込めて俺の事を『(反面教師として人生の)せんせい』と呼ぶのだった。


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