イトナが学校に来るようになって数日がたつが、アレから特に何事もなく毎日が過ぎていく。
今日の授業も終わり帰ろうと準備をしていたら、横の席にいたイトナが何か作ってるのが目に入った。
「イトナ、何作ってんだ?」
「見ての通りラジコン戦闘車だキンジ。昨日、あのタコに勉強漬けされてストレス溜まったから、こいつで殺してやる」
イトナもアレやられたのか……
俺も1学期にやった補習初日に『君の実力を知りたいのでこれ全てやってください』と言われ、何十枚もテストをやらされた記憶がある。
しかも終わった後、あの殺せんせーが無言になって生暖かい目で俺の肩叩いてきたのは真面目に悲しくなった。
俺の事はともかくイトナのヤツ、ラジコンで殺すってそんなもんで殺れるはずが……
「なんかスゲーハイテクだぞ、コレ⁉」
イトナが作っているラジコンを見ると、どうやら既製品を改造しているようだ。
改造しすぎてどこをどう改造したのかが全く分からない。
俺の驚いた声に周りも集まりだし、気づいたら男子全員がイトナの周りに集まっていた。
「自分で改造考えて改造するなんてすごいな、イトナは」
「親父の工場でだいたいの電子工作は覚えたからな、こんなの寺坂以外なら誰でもできる」
磯貝も褒めているが触手植えられていたころとはまるで別人みたいだ。
「それに寺坂がバカ面で『100回失敗したっていい』って言ってたからな。失敗覚悟でコレで殺ってやる」
「あぁ?」
……イトナ、寺坂に何か恨みでもあんのか?
毒舌は変わりなかったが、以前のような焦りはイトナにはもうない。
そんな風に変わったイトナを見ていると、どうやらラジコンの改造は終わったようで分解していた機体を組み上げている。
男子全員が見守る中、ラジコンが動き出した。
「「「おおー!」」」
思わず全員から歓声の声が出る。
ラジコンは俺達の足の隙間を縫うように走った後、立ててあった空き缶を砲台で吹っ飛ばした。
すごいな……移動や射撃の時でさえほとんど音がしなかったぞ、ホントに暗殺でも使えるんじゃないか?
「電子制御を多用してギアの駆動音を抑えている」
「そうなのか、それでそのコントローラーの画面はなんなんだ?」
前原が聞くと、イトナはラジコンの砲台近くに埋め込まれていたレンズを指さし
「ガン・カメラだ。スマホのモノを流用させ、銃の照準と連動させてある」
「へー、なんだかスパイっぽいな」
イトナのヤツ、こんなにスゴイ奴だったのかよ……
「それとお前たちに言っておくことがある。シロから聞いた標的の弱点だ。ヤツのネクタイの真下には心臓がある、そこを当てれば1発で絶命できるそうだ」
マジか……殺せんせーにもそんな急所があったんだな。
だがコレで今まで以上に暗殺が成功する確率があがるはず。
「急所も分かったんだし、試運転もかねて殺せんせーを殺りに行こうぜ」
「もちろんそのつもりだ」
岡島の提案にイトナはラジコンを教員室に向け走らせた。
俺達がその様子を後ろから見ていると、教員室に着く前に廊下で倉橋、矢田、中村がラジコンの目の前を横切る。
あぶねぇ、カメラの視野が広かったらスカートの中が見えるとこだったぞ……
ギリギリ見えなかった為、人知れず安堵していた俺だが皆の反応は違うようだった。
「……前原、見えたか?」
「いやカメラが追い付かなかった。視野が狭すぎる」
クラス内のエロ代表ともいえる岡島と前原の2人が悔しそうに言っている。
「カメラをもっとデカくて高性能にできねーのかよ?」
「重量がかさんで機動力が落ちて標的が捕捉できないから無理だ」
おい、捕捉って何を見る気だ。絶対に標的が違うモノになってんだろ。
「魚眼レンズだ」
「「「ッ⁉」」」
「送られてきた画像をCPUで歪み補正をすれば、小さいレンズで広い視野を確保できる」
いや、竹林。参謀みたいに提案するがコイツらがやってるのただの覗きだぞ!
「ならレンズは俺が調達する。律、歪み補正のプログラムを頼む」
岡島がそう言うが、律の本体は画面が映らず真っ暗なままだ。
おかしいな、いつもならすぐに反応して画面に出てくるんだが……
だがそれよりも律が出てこないとなると、律に頼むようにコイツら絶対に俺を巻き込んでくる。
気づかれずにそーっと周りから抜け出そうとしていると、1歩遅く岡島に肩を掴まれた。
「どこ行くんだキンジ? 頼みたいことがあるんだ、聞いてくれるよな?」
「断る! 絶対にろくでもないことだろ!」
「キンジ、これは俺達の夢が詰まった計画なんだ。その為には律の協力が不可欠、お前が頼んだら律は絶対に作る。だから頼んでくれ」
「いやだっつてんだろ!」
何が俺達の夢だよ! 下着ドロにドン引きしてたくせにやってること同じじゃねーか!
「キンジには律のプログラムを依頼させるとして、あとは足回りだな」
だから竹林、俺を勝手に参加させるな!
しがみついてくる岡島を引き離そうと躍起になりながらも、ガンカメラの映像を見てみるとどうやら段差で倒れたようで映像が横向きになっていた。
「駆動系や金属加工には覚えがある。俺が開発してやるよ」
「車体の色も目立つな……学校迷彩は俺が塗ろう」
吉田、菅谷と続々と名乗りを上げていく。
なんとか岡島を振り落とした俺は、遠くから見ていた渚の元に逃げた。
「岡島のヤツ、しつこすぎだろ……」
「キンジ君、なんていうか……大変だったね。けどスゴイなイトナ君、エロと殺しとモノ作りで皆のツボをガッツリと掴んでいるよ」
「やっていることはただの犯罪だがな」
「アハハ……」
渚が苦笑いしていると、木村がラジコンを持って教室に戻って来た。
どうやら途中で何者かに壊されたみたいで、ラジコンは無残な姿だった。
「次からはドライバーとガンナーを分担しないとな。千葉、射撃は頼むぞ」
「え?」
岡島、千葉まで巻き込むなよ……
「開発に失敗はつきものだ」
そう言ってイトナは壊れたラジコンに『糸成Ⅰ』と書いている。
「100回失敗してもいい最後には必ず殺す。よろしくなお前ら」
男子全員が頷く。
過程はどうあれ、イトナを中心に結束がさらに強まったのは確かだ。
これはこれでまあ良かったんだろう。
「よっしゃ、コレで3月までに女子全員のスカートの中を偵察するぜ!」
岡島がこんな事を言わなければな。
岡島の背後にいる人物たちを見て、盗撮しようとしていたヤツ全員の顔が青くなる。
盗撮しようとしていた時点でこうなることはヒスらなくても読めていたがな。
「なあ皆、気のせいか? お前らを見ていると次の展開が見えてくるんだが……」
顔を青くした皆を見て岡島も察したんだろう、ゆっくりと岡島が振り返ると、
「スカートの中がなんですって?」
「ひっ、片岡⁉」
岡島の後ろには女子全員が集まっており、全員がゴミを見るような目でこちらを見ていた。
「それで誰が言い出しっぺなの?」
「いや……これはだな…………キンジだ! キンジが言い出しっぺなんだ!」
なっ⁉ 岡島のヤツ俺に全部擦り付ける気かよ!
「「キンジ(君)?」」
俺のすぐそばから声がした。
落ち着け、俺は何も悪い事はしていない。無実なんだ、それを言うだけでこれは終る。
そーっと声がする方向に顔を向けると、すぐそばには鬼の形相の凛香と笑顔だが目が笑ってない有希子がいた。
やっぱり、怖え!
「キンジ君、最後に何か言うことはある?」
「俺は何もやってない! 渚、お前からも言ってくれ!」
有希子の最終通告に一気に血の気が引いた俺は慌てて渚に助けを求めた。
「キンジの言ってることはホント渚?」
「う、うん。キンジ君はやってないよ」
助かった、渚が弁明してくれたおかげで2人の殺気は俺から岡島に変わる。
「岡島……キンジに擦り付けた分も含めて覚悟はできた?」
凛香が小通連を抜きながら、岡島に問う。
「いや……いやだ、助けて……」
自業自得だ、俺に擦り付けやがって大人しく罰をくらっとけ。
他の奴等も女子たちが怖く手を差し伸べない。
「あ……ああ……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
旧校舎に響く男の声、俺達ができたのは哀れにも制裁を受けた1人の男に合掌することのみだった。
~???side~
E組の周りを調べたら、丁度よく武偵高でアレの開発をしていることが知れた。
他にも色々調べていたら、遠山キンジが面白い体質を持っていることも分かった。
恐らく速水凛香でもなれると思うがせっかくだ、もう一手加えて入学前の良い練習台として扱おう。
仕込みはさっき終わったから、後はアレの完成は急がせないとね。
「もしもし、京菱重工ですか? ええ、ええ。実はお願いしたいことがありまして……」
血だまりに沈む男を一瞥し、僕は計画の下準備を着々と進めるのだった。
次のシリアス回、原作より色々荒れそうです
次回、とうとうキンジのコードネームの発表です