哿の暗殺教室   作:翠色の風

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今回キンジの出番ほぼないです。






3/3先祖の役職上、一部の設定を変更しました。


45弾 憧れの時間

「烏間、キンジ。アタシは気が短い方なんでねぇ、そろそろあんたらがココに来た本当の理由を吐いてもらおうか」

「「「……」」」

 

教員室に引き込まれた俺と元々いた凛香は、凛香の母親である瑠美さんのプレッシャーに身動き1つ取れなかった。烏間先生も俺達ほど圧倒されてはいないがうっすらと冷汗が出ているのが見える。

どうする、このままじゃマジで瑠美さんが暴れはじめるぞ……

 

「では私から説明いたします。速水さんのお母さん」

 

誰も動けない中、扉の外から声が響く。

全員がその声のする方向を向くと扉が開き、変装をしていない殺せんせーが堂々と教員室に入って来た。

 

「おい! ターゲット、お前は入って来るなって……」

「この人相手にはどう頑張っても隠しきれない事は烏間先生、アナタが一番分かっているのでしょう?」

「ッ‼」

 

烏間先生も分かっていたんだろう、それ以上は何も言わなかった。

ここでようやく瑠美さんは殺気にも似たプレッシャーを引っ込め、いつものニヤニヤとした顔になっていた。

 

「アンタがホントの担任だね?」

「ええ、生徒には『殺せんせー』と呼ばれています。私の姿に驚かないのですね」

「元々やってた仕事で、アンタみたいな人ならざる者とよく遊んでたんだよ。それぐらい(姿かたち)で驚かないさ」

 

さっき凛香が言ってた、瑠美さんが妖怪と戦ったことがあるって話ホントみたいだな……

 

「そうでしたか、ではさっそくですが私の事から説明します。まず月が爆発した事件は御存じですよね?」

 

そこからは殺せんせーは月が爆発したのは自分がやったからだと、暗殺される条件としてここで教師をしていること、その為に生徒は烏間先生に指導してもらい、俺も依頼でここに潜入捜査として来ていることを30分近くかけて詳しく話した。

その間、瑠美さんは一言も発することなく殺せんせーが全て話終わったところで

 

「烏間やキンジがいた理由には納得したよ。……ハァ、アタシもとことん運がないねぇ。ここなら安全だって思って椚ヶ丘に引っ越したのに」

「すいません、大岡さん」

「だから今は速水だって言ってんだろ、烏間」

 

ため息をつく瑠美さんに烏間先生が謝っているが……

ちょっと待て、今烏間先生は瑠美さんの事『大岡』って言ってなかったか?

 

「瑠美さん、まさか」

「ん? なんだい知らなかったのかい? 凛香の母方の家系は南町奉行所の大岡だよ」

 

おいおい南町奉行所の大岡って言ったら……

 

「キンジ、母さんの家系知ってるの?」

「凛香、なんでお前が知らねえんだよ! 大岡家って言ったら武装検事で有名な一族でかなりの資産家だぞ!」

「え⁉」

 

俺の説明に驚いた凛香は勢いよく立ち上がり

 

「母さん、それ初めて聞いたんだけど」

「だって聞かれなかったしねぇ。聞かれなければわざわざ教える必要ないって、キンジも思うだろ?」

「瑠美さん、俺に振らないでくれ」

「……キンジも母さんと同じ事言うつもり?」

 

凛香も睨むな、俺はまだ何も言ってないだろ。

 

「速水さん、話が進みませんので一度座ってください」

 

俺が凛香に睨まれていると、いつにもまして真面目な殺せんせーが凛香を座らせた。

 

「お母さん、私は絶対にお子さんに危害は加えません。どうかこのまま速水さんをE組に残らせてもらえないでしょうか」

「ああ、かまわないよ」

「そうですよね。やはり、今世紀最大の土下座をやるしか……ってニュヤ⁉ 良いんですか⁉」

「ああ、アンタは危害を加えないし烏間が監督しているんだろう。ならいいさ」

 

てっきり止めてくると思ってたばかりに声には出してなかったが烏間先生は珍しく驚いた顔をしていた。

 

「待って母さん、ここはよくてなんで武偵高はダメなの」

「武偵高だけはダメだ。アンタは武偵みたいな殺伐とした世界に行く必要はない」

「母さんだって元々公安でしょ」

「それと凛香を武偵高に行かせる理由は関係ないねぇ」

 

2人の口論はどんどんヒートアップしていき、止めるべきかと思ったところで殺せんせーが先に動いた。

 

「2人とも落ち着いてください、速水さん武偵高に行きたい理由を教えていただけませんか?」

「……私には元々将来何がしたいかなんてなかった。けどキンジが来てから、武偵として正義の味方として戦うキンジの姿がとてもカッコよくて憧れを抱けたの。私もそんな人物になりたいって、武偵になって誰かを助ける人になりたいって」

 

目の前でこうもハッキリと言われると恥ずかしくなって顔が熱い。

だが凛香の気持ちも分かる、俺も父さんや兄さんの姿に憧れて武偵を目指したのだから。

ただ、まさか俺を見て凛香がそんな風に思ってくれたとはな。

 

「速水さん、アナタが目指そうとしているのは恐らく数ある選択肢の中でも困難に位置する道です。誰かを助ける道なら警察なども手はありますよ」

「私が憧れたのは武偵で警察ではありません。それに憧れたモノならどれだけ困難でも乗り越えてみせます」

 

殺せんせーの言葉にハッキリと答えた凛香の声が教員室に響く。

 

「お母さん、娘さんはこれほど強い意志を持って武偵を志しています。どうか見守ってあげてくれませんか?」

「やっぱり、凛香にも私と同じ正義の味方の血が流れていたってことかい」

 

瑠美さんは笑みを浮かべつつ、何かをこらえるように言葉を吐き続ける。

 

「……凛香には普通の生活を送ってほしかったんだけどねぇ。元々の職場でも旦那や凛香に危険にあってほしくなかったから結婚した事や凛香を産んだ事を伏せてまで働いた。まあ結局バカ(金叉)のとこにはバレて、アイツが死んだ後も世話になったんだけどね」

 

瑠美さんがバカって言っていた人物は父さんだけだ。

もしかして、よく凛香が遊びに来ていたのって父さんにバレたのが理由だったのか?

 

「凛香の気持ちは分かったよ。けどね、武偵高に行くのを認めるのに1つ条件がある」

「母さん、条件って?」

「簡単な事さ、心は見せてもらったからね、あとはアンタが武偵高でもやっていける技や体を持っているかアタシ直々に見極めてやるよ」

 

マジで言ってんのかよ瑠美さん、中学生相手に元公安が大人げないんじゃないか?

この瑠美さんの発言に誰よりも驚き、慌てたのは烏間先生だった。

 

「速水さん、あなたに暴れられたらここが壊れてしまいます!」

「加減はするさ烏間、使う武器もエアガンとゴムみたいなナイフがあるんだろう? それを使う。ルールはそうだねぇ、私にどんな手を使ってもいいから一撃入れてみな」

 

待ってくれ、今校舎が壊れるって言ったよな、そんな人相手に凛香1人で大丈夫なのか?

そう考えていると、瑠美さんは思い出してかのように俺を指さし、

 

「ああそうだ。凛香1人でもいいんだがキンジ、アンタもコレに参加しな」

「ちょっ、瑠美さん。なんで唐突に俺まで参加なんだ⁉」

「私の凛香を誑かした罰さ。それにアンタも金一やバカを目標にしてんだろう、なら私ぐらい超えないと話になんないよ」

 

瑠美さんレベルになると『ぐらい』で済むレベルじゃないだが……

ふと黙っている凛香を見ると今すぐにでもやってやると言わんばかりにやる気に満ちた目をしていて。

さっき凛香は俺の姿を見て武偵を志したと言っていたな、なら俺もそんなヤツの前でカッコ悪い事は言ってられないか。

 

「わかった。俺も参加する」

「キンジ……」

「俺達はパートナーなんだろ。ならこの壁も2人で乗り越えるぞ」

「うん!」

 

俺と凛香は瑠美さんと共に外に出て正面に対峙する。

殺せんせーや烏間先生、たぶん外から聞いていたのだろう皆も校舎近くから見守っているのが見えた。

 

「凛香、始める前に言っておく。これから武偵なるなら戦いに身を置くことになる。なら、大岡の本家に女が産まれていない以上アンタがこれを引き継ぐことになるんだよ」

 

そう言った瑠美さんが2つの長さが微妙に違う短刀を掲げた。

 

「大岡家は平安の時代から代々男が権力を女が力を引き継ぐ決まりになっててねぇ。力を引き継ぐとあるモノが渡されるんだがその証がこの宝刀さ。そして宝刀を引き継いだ者は最初の持ち主にあやかってこう呼ばれる」

 

そう言うと瑠美さんは2つのうち長い方の短刀を抜き、透き通る声で言葉を連ねていく。

 

「草子 枕を紐解けば、音に聞こえし『大通連』。いらかの如く八雲立ち、群がる悪鬼を雀刺し」

 

すると先ほどまで青空だった空がみるみるうちに灰色の雲に包まれ、風も吹き始めた。

それと同時に瑠美さんの雰囲気が変わる。父さんと……かつて『静かなる鬼』と呼ばれた遠山金叉と同じ人を超えた、鬼を彷彿させる程の殺気を纏うモノに。

 

「その名は『立烏帽子』。憧れに近付きたいなら全力で来な凛香、キンジ。今回は母親としての速水瑠美じゃなくて、立烏帽子としての大岡瑠美として相手してやるよ」


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