今回は6割凛香、4割キンジ視点で物語が進みます。
~凛香side~
「本日の体育は以上だが、これは初心者のうちに高等技術に手を出せば死にかねないものだ! 基本の受け身をしっかり身につけるように!」
気づけば体育が終わっていた。
皆は先ほどまで教えてもらっていた、極めればビルからビルへ忍者のごとく踏破できる、道なき道で行動できるフリーランニングで盛り上がっている。
私もいつも通りなら皆と同様に盛り上がっていただろう。
「速水君、もうすぐ君の親が着く時間だ。着替えたら教員室で待機していてくれ」
コレさえなければ。
母親に武偵高に進学する事を伝えたら、反対してきたあげく突然三者懇談するって……
この後の事を考えて、ため息をついてると茅野が心配そうにこちらに近付いてきた。
「速水さん、そんなに三者面談嫌なの?」
「あんな化け物じゃなければ、このまま回れ右して今すぐ帰りたいぐらいにはイヤ」
「化け物って……」
茅野は苦笑を浮かべているが、アレだけはどう頑張っても人間が勝てる気しないからそう表現するしかないのだ。
「キンジにも聞いてみたら? たぶん同じ事言うと思うから」
「そんなに速水さんの親って強いの?」
「凛香の母親が元公安4課でその実力から0課もできることなら相手にしたくないって言われていたらしいぞ」
この発言で他の人たち、特に0課について聞いたことのある矢田や岡野は特に驚いていた。
「0課もって……遠山君、0課は国内最強の公務員って前に言ってたよね?」
「ああ、矢田。それだけ凛香の母親が別格なんだよ」
キンジも昔怒られた時を思い出したんだろう、徐々に顔色が悪くなっている。
「ねえキンジ君、公安4課は何をするところなの?」
「俺も4課がやっていることは知らないんだ、凛香は知っているか?」
純粋に疑問に思ったんだろう潮田が聞いてきたが、キンジも知らないらしい。
「私も分からないけど、昔親が酔っている時に『妖怪や吸血鬼と闘ったことあるんだぞ。スゴイだろー』って言ってたような……」
『……』
あの時私は酔っ払いの戯言程度に聞き流していた為、皆も同じ反応をすると思ったがどうも違った。
「……キンジ君、妖怪って実在するの?」
「いや俺は見たことないけど、あの人ならあながちあり得る……」
「速水さんも既に人間やめかけてるし、親がそれでも納得できるかも」
「ホントに妖怪と戦ってるんだったら、もしかしたら有名な人物の子孫だったりして」
せめて私に聞こえないように言ってほしい。
しかも私も片岡達に逸般人認定されかけているし……
「不破、有名な人物の子孫はキンジだから」
「え? どういうこと速水さん?」
「凛香、余計な事「だからキンジのご先祖が遠山の金さんってことよ」クソ、遅かった!」
『え、え~~~⁉』
むしろ『この桜吹雪~』って決め台詞言っている時点で気づいてないほうがびっくりなんだけど。
なんだかんだ皆と雑談しているうちに懇談の時間が迫っていたため、烏間先生に言われた通り私は教員室で大人しく待機することにした。
「烏間先生、私が三者面談をするのは……」
「絶対にダメだ! 実の親に暗殺の事がバレたら黙ってるはずないだろ!」
「私が本当の担任なのに……」
教員室に入るとさっそく烏間先生に怒られる殺せんせーが視界に写った。
殺せんせー、お願いだから今日だけは大人しくしていてほしい。バレたらホントにヤバいから。
私からも殺せんせーに頼んでシクシクと泣きながらだったが大人しく殺せんせーは教員室から出てくれた。
「大丈夫だ、ヤツさえ来なければ無事に三者懇談はできる」
烏間先生はこう言うが、なぜだろういつも以上に不安に感じる。
コンコン
ノックが鳴った。とうとうあの人が来たんだろう。
「どうぞ」
「失礼するよ」
烏間先生の一言で教員室に入ってきたのは、長い茶髪をポニーテールで纏めた、長身でつり目ぎみの女性。母さんだった。
娘の私が言うのもアレだがおそらく美人の部類に入るであろう顔が入った途端、驚きの顔に変わる。
「なんで、烏間がここにいるんだい?」
「まさか、大岡さんですか⁉」
忘れていた烏間先生も公安0課だったんだ……
母さんと知り合っていてもおかしくないのになんで誰も気づかなかったんだろう。
「今は大岡じゃないよ、結婚して速水瑠美になった」
「そうでしたか……最後に会ったのは確か先輩の葬式の時でしたね」
「
母さんがバカって言うのはキンジの父さんの事だから、烏間先生ってキンジの父さんとも知り合いだったんだ。
「まあ元気でやっていて何よりだ、まさか烏間が
さっきまでしんみりした雰囲気だったはずなのに、殺気混じりに言った母さんの一言で空気がガラリと変わった。
「……ちょっと心境の変化がありまして」
「ほー、葬式で『金叉先輩の意志を引き継げる人物になってみせます!』って遺影に向かって涙混じりに言っていたあの烏間がねぇ」
「…………」
烏間先生の視線が徐々に泳ぎ始めた。
てか母さんの言った事が、普段のクールな姿から全く想像できないんだけど。
「それでココでいったい何をしているんだい?」
「……いつ気づいたんですか?」
「凛香が3年になってすぐさ。突然、体運びが教えてもないのに諜報や暗殺者のそれになってたんだよ」
そんな前から気づいてたんですか、お母さん。
どんどん教員室の空気が重く圧迫されたものになってきてる。
できるなら今すぐここから逃げ出したいんだけど……
「アレも持ってきているから物理的に聞くこともできるけど、ちょっとネズミが多いみたいだねぇ」
そう言って母さんが一度も見ていなかった後ろの窓に近付く、まさか……
~キンジside~
『そうでしたか……最後に会ったのは確か先輩の葬式の時でしたね』
(あの時、烏間先生もいたのかよ……)
俺は関わりたくなかったのだが、読唇してくれと強制的に連れられクラスのほぼ全員が外から三者懇談の様子をうかがっている。
まさか、烏間先生と凛香の母さんが知り合いだったなんて……
「どうなんだキンジ、暗殺の事上手く隠せているか?」
「磯貝、凛香の母親と烏間先生が知り合いだ」
「おいおいマジかよ、マズくね?」
「前原落ち着け、知り合いだったとしてもまだバレたわけじゃない」
ざわざわとなりかけた皆を磯貝が落ち着かせ、その間に俺は出来るだけ気配を殺しつつ読唇を続ける。
『それでココでいったい何をしているんだい?』
三者懇談の目的はやはり
「マズイ、暗殺の事に気づいている!」
読唇術で得た情報を後ろにいた皆に振り返って伝えると、皆からの反応はほぼなかった。
? さっきみたいに慌てると思ったが反応がおかしい。
目線も俺より上に行ってるし……奥田なんかは何かに怯えるように震えている。
嫌な予感を感じつつ、おそるおそる皆の目線を追うと
「キンジ~、かれこれ3年ぶりじゃないか」
「る、瑠美さん……オヒサシブリデス」
いつの間にか窓から顔を出していた、凛香の母さん、瑠美さんと目がばっちりあってしまった。
「それでなんで凛香より年上のアンタがここの生徒やってんだい?」
「あー、それはですね……留年?」
「…………キンジ。アンタはいつかやるとは思ったけど、まさか中学すら卒業できないなんて…… 留年ぐらいでくじけずに頑張りなよ」
「瑠美さん、違うから! マジで受け止めないでくれ!」
アンタ、俺の事そんな風に思ってたのかよ。想像以上にショックなんだが……
「アハハ、冗談だって。アンタが武偵高に進学していることぐらい染みついたその匂いで分かるさ」
そう言うと瑠美さんは片手で俺の襟を掴むとブンと教員室に投げるように引き込まれた。
何とか受け身を取って、すぐに起き上がれたがそこから先は動けない。
瑠美さんから発せられたプレッシャーに押しつぶされたからだ。
「烏間、キンジ。アタシは気が短い方なんでねぇ、そろそろあんたらがココに来た本当の理由を吐いてもらおうか」
次回でご先祖を公開、なるべく早い投稿頑張ります