律のハッキングによってマップと警備の配置を知った俺達は、警備が配置されていない崖の上にある通用口からホテルに侵入することになった。
「はやくーおいてくよー」
「岡野、相変わらず身軽だな」
「そうだな木村、ひなたはこういうことをやらせたら1番だ」
「それに比べて教師陣は……」
木村と共に下にいる教師3人を見る。
教師3人の内、イリーナ先生と殺せんせーは明らかに烏間先生のお荷物だ。
「つか、なんでビッチ先生まできてんだ?」
「留守番が嫌だったみたいよ」
「フン、足手まといにならなきゃいいけどな」
千葉とメグのやり取りに寺坂も入って、手がしびれてきたと騒いでいるイリーナ先生を困った子みたいに見ている。
「烏間先生、イリーナ先生は俺が運びますよ」
「む、しかし」
「俺なら大丈夫です。それに」
「きゃっ!」
素早くイリーナ先生の片手を掴んだ後、持ち上げてお姫様抱っこする。
「女性を運ぶ際は優しくしないと」
イリーナ先生をお姫様抱っこしたため両手がふさがった俺は駆け上るように崖を登っていく。
「さすがトオヤマは女の扱いが分かっているじゃない。あとでご褒美のキスをあげるわ」
「……ビッチ先生」
声の方を見ると凛香がいつの間にか横まで来ていて、思わず身震いするほどの笑顔を見せている。
「今のキンジに言っても意味ないから後でお仕置きだけど、ビッチ先生もされたいの?」
「や、やっぱりキスはナシよ、トオヤマ!」
イリーナ先生は青い顔で必死に言っていた。
どうやら俺には弁明の余地すら残ってないみたいだな……
崖を登り切ってホテルの中に入った俺達はさっそく足止めをくらっている。
「ロビーに警備が多いな……」
烏間先生の言う通り、少なくとも10人以上警備がいる。
発見されずに通り抜けるのはまず無理だ。
「何よ、普通に通ればいいじゃない」
皆がどうすべきかと悩んでいると、イリーナ先生が当たり前のように言って前に出てきた。
なるほどそういうことか。
皆はイリーナ先生の言葉の意味に気づけないようで呆れたように見ている。
「イリーナ先生、ここはまかせても大丈夫ですか?」
「当たり前じゃないトオヤマ、それにしてもアンタ女心をくすぐらせる声色も出せるのね。今度ロメオの技術を教えてあげるわ」
「美しい女性のお誘いだからお受けしたいところだけど、それだけは勘弁したいかな」
そんな技術を教えられたら、間違いなく凛香に殴られそうだしね。
軽口を言い合った後、イリーナ先生はロビーに出て行った。
「おい、キンジ! なんでビッチ先生を止めなかったんだ」
「磯貝忘れたか? イリーナ先生は色仕掛けの達人だぞ」
ビッチ先生は酔ったフリをして警備に話しかけている。
「来週そこでピアノを弾くの、酔い覚ましに調律をチェックしたいから弾かせてもらっていいかしら?」
「えっと……じゃあ、フロントに確認を」
「いいじゃない。貴方達に聞いて欲しいの。それに審査してもらえないかしら?」
「審査?」
「そ、ダメなところがあったら叱ってください」
そういって警備を釘付けにした先生は演奏を始める。
これには、警備以外に俺達も思わず見とれてしまった。
イリーナ先生の演奏は全身を鮮やかに使って体でも表現されている。
その色気漂う表現のおかげでヒステリアモードの血流もより一層高まった。
(20分稼いであげる。行きなさい)
ハンドサインで合図が送られたため、俺達は近くの非常階段に素早く移動して先に進む。
最大の関門であるロビーを抜けた俺達は3階まで一気に登る事ができた。
「遠山君、ここからは上着とネクタイを脱いでくれ」
烏間先生の言う通り上着とネクタイを脱いで寺坂の持っているリュックにしまう。
銃はカッターシャツの中に入れ、抜きやすいように3つほどボタンを外しておいた。
「どうして上着を脱がせたんですか?」
烏間先生の言葉が疑問に思ったのかカエデが聞いている。
「ここからは客のフリをするためだ。武偵とわかったら関係ないものまで攻撃してきそうだからな」
「客? 俺らみたいな中学生の団体なんているんスか?」
「聞いた限り、結構いるみたいだ菅谷君。主に芸能人みたいな金持ちの子供だ。その子たちは甘やかされて育ったため、あどけないうちから悪い遊びに手を染めているみたいだ」
「だから君たちもそんな輩のように世の中を嘗めた感じで歩いていきましょう」
殺せんせーの言葉でそれぞれがそれっぽい顔をしているが、全員どこか違うような気が……どちらかというとチンピラのほうが似合うな。
「皆、敵も客のフリをして襲ってくるかもしれないから警戒だけは怠るなよ」
『了解!』
烏間先生を先頭に3階中広間まで進んだが、今のところは敵にも会わず順調に進んでいる。
「ここまで誰もいねーし楽勝だな、時間ねーんだしさっさと進もうぜ」
誰ともすれ違わない、そして烏間先生がいることから気が緩んだのか寺坂と吉田が先に走っていった。
「おい、お前ら!」
俺が言っても寺坂たちは止まらずに進む。
奥から、客らしき人物が来た。
ッ!? あいつは!
「「寺坂(君)、そいつは危ない!」」
俺と優月の言葉に寺坂が反応するも、相手はすでに攻撃のモーションに入っている。
(桜花で……ダメだ、間に合わない!)
寺坂たちが攻撃をくらうと思った瞬間、烏間先生が超人的なスピ-ドで近づき2人を投げる。
しかし烏間先生自身は避けきれずに敵の攻撃であるガスを浴びてしまった。
「殺気を見せないで攻撃するのは俺の十八番だったんだが、なぜ分かったのかな?」
「アナタ、私達が来たときにドリンクを配ってたおじさんでしょ?」
『……あっ!』
「それだけだと証拠不十分だぜ、ドリンク以外にも毒を盛る機会はたくさんあるだろ?」
どうやら相手はしらばっくれるみたいだ。
それなら、推理の答え合わせといこうか。
「俺達のみに発症したことから、感染源は恐らく飲食物」
「私達が島に来て、同じものを食べたのはあのドリンクと夕食のみよ」
「ウィルスに感染した人の中には夕食を食べずに動画を編集していたヤツもいた、そうなると感染源は昼間のドリンクのみになる」
「「従って、犯人はアンタだ(あなたよ)!」」
「ッ‼」
『おお~』パチパチパチ
俺と優月による息の合った推理の答え合わせに周りは思わず拍手をしている。
「まるで探偵みたいね」
「凛香、忘れているみたいだから言うが俺は探偵だぞ」
推理せずに戦闘ばっかしている探偵だけどな。
「すごいよ2人とも」
「ふふふ、そうでしょ渚君。普段から少年漫画読んでいたら普通じゃない状況でも素早く適応できるのよ。それに探偵物はコ〇ン・金〇一とか有名なのがあるからね。あと探偵と言えばM〇文庫から出る緋〇のア〇ア22巻が2016年4月25日に発売だから読んでる皆は要チェックよ!」
「不破さん最後のは露骨すぎだよ! それにこの二次作品の原作、片方はジャ〇プの作品だよ! せめてジャ〇プの作品も言おうよ」
「ジャ〇プの探偵物? 良く知らないけど文庫版とかであるんじゃないの?」
「いろいろ雑すぎない⁉」
……なぜ優月が絡むと一気に話がメタくなるんだ。
一応今シリアス展開だったはずだよな?
「……ククク」
「何がおかしいんだ?」
俺がそう聞くと前にいた烏間先生が倒れた。
『え⁉』
「……毒物使いか」
「その通り。そいつに使ったのは室内用の麻酔ガス。一瞬で象すら気絶し、外気に触れるとすぐ分解する優れものだ」
ヤツは気絶した烏間先生を通り越して俺の前までくる。
「ウィルスの開発者もアナタですね。無駄に感染源を広げなく取引向き……麻酔ガス同様実用性に優れている」
殺せんせーのいう通りウィルスの制作者で間違いないな。
「それをお前たちに教える義理はない。ただお前たちに取引の意志がない事だけは良く分かった。交渉決裂だ、ボスに報告しよう」
「そうはさせないわ」
「何⁉ いつのまに出口を!」
凛香達に指示を出し、すでに退路は塞いである。
これでヤツは俺達を倒さないかぎりここから移動できないことになる。
「俺達を見た瞬間、アンタは攻撃せずにボスに報告するべきだったな」
「ガキが何人集まろうと時間の問題だ。リーダー格であるお前さえ殺れば後は逃げ出すだろう」
そう言いつつヤツは俺に対して殺気を出しながら構える。
あともうひと押しか。
俺はベレッタを抜いてヤツの意識をより一層こちらに向けさせる。
「その年で実銃……お前武偵だな?」
「そうだ、あと1つ良いことを教えてやるよ」
「なんだ?」
「俺達の先生をあまり嘗めない事だな」
「え?」
グシャッ
気絶したフリをしていた烏間先生の膝蹴りがヤツの顔面にきまった。
まさか、象すら効く麻酔に耐えきるなんてハンドサインを見た際はびっくりしたぜ。
「烏間先生この後の戦闘は?」
「無理だ。しばらくは普通に歩くフリしか出来そうもないな」
やはり無理か……
「象すら気絶するのに歩けるほうがおかしいだろ……」
「あの人も十分化け物よね」
菅谷、ひなた、烏間先生は公安0課にいたんだぞ。
たぶん一般の常識なんて、ほとんど当てはまらないはずだ。
倒した毒物使いを持ってきたガムテープで拘束し、俺達は次の階へと足を進めるのだった。
ノリで書いた要チェックがホントにこの作品にとって要チェックに……
まさか原作があんな展開になるなんて