~渚side~
今日は転校生が来るため、みんな朝からそわそわしている。
「今日から来る転校生、可愛い女の子だったらいいな」
岡島君は相変わらずだね……
「やっぱり、転校生も殺し屋なのかな?」
性別はともかくこんな時期にくる転校生だ、普通じゃないはず…
「いや、どうやら武偵らしいぜ」
事前にある程度聞いていたみたいで杉野が答えてくれた。
「武偵?」
僕を含めクラスの大半は知らないらしい。
「……本物の銃を持つことが許された国家資格よ。」
速水さんは知っているみたいだ。
本物の銃を使いなれているのだったら、射撃についてアドバイスとか貰えるだろうか……
「武偵に知り合いでもいるの?」
何人かが知りたかったことを茅野が代表して聞いている。
「幼馴染が武偵なの、4年くらい会ってないんだけどね。それに、武偵中学に行ってから全然連絡くれないけど……」
とちょっとムスッとした顔で速水さんがつぶやいて、聞いていた中村さんなどがニヤニヤしている、相変わらずそういうのに敏感だね……
始業のチャイムがなって殺せんせーともう一人の男子が教室に入ってきた。あの子が転校生かな?
あ、前原君と岡島君がもう興味なくしている。
「みなさん、おはようございます。知っていると思いますが今日は転校生がいます。さあ遠山君自己紹介をお願いします」
殺せんせーは黒板に『遠山金次』と書きながら、転校生に自己紹介をするように言っている。
「遠山金次です。よろしくお願いします」
名前だけを言った彼は、見た目は特に僕らと変わらない、どこにでもいそうな普通の男子に見える。
そんなことを思いながら転校生の遠山君を見ていると、
「なんであんたがここに来ているの!?」
声がした方向に振り向くと速水さんがとても驚いた顔をして立ち上がっていた。
もしかして、遠山君が速水さんの言っていた幼馴染?
~キンジside~
「遠山くんは武偵ランクが高い、こいつの暗殺に加わってもらうために依頼を出して生徒として今日から加わってもらった」
俺が凛香の問に答える前に烏間さんが教室に入りながらそう説明し、落ち着いたように見える凛香も烏間さんの説明のあと大人しく席に座っている。
「ヌルフフフ…速水さんと遠山君の関係も気になりますが、とりあえず遠山君への質問タイムと行きましょうか。質問はありますか?」
「はやみんとはどんな関係ですか~?」
たしかあの金髪女子は……中村だったか?
「凛香とはただの幼馴染です」
本当の事を言っただけなのになぜ凛香は睨んでくる。
あと殺せんせーよ、何故唐突にメモしてるんだ。
「武偵ってどんなことするのか教えてもらえますか?」
あいつはたしか潮田だったな。
「武偵ってのは簡単に言ったら金と法が許せば何でもやる何でも屋みたいなものだな。例えば迷子の動物探しとかテロの制圧とか」
テロの制圧と言ったあたりで、何人かは驚いた顔で見ている。制圧なんて、
「遠山君ってさー、どのくらい強いの?」
一番後ろにいる赤髪の赤羽が聞いてくる。
「……」
これはどう答えよう、ヒスれば100人のFBI捜査官からも逃げ切れると思うが、あのことに触れたくないし知られたくない。適当にごまかすか。
「彼は強襲逮捕を習得する学科でSランクを取っている。具体的な強さでいえば特殊部隊1個中隊ほどと同等だ」
俺が答えようとする前に烏間さんが答えてしまい教室はざわめいた。
こんなことを言えば
「じゃあ、試しに今日殺ってもらわない?」
ほら、やっぱりな……
「さんせー」
「おもしろそー」
今の俺だと触手1本すら破壊できないのが目に見えて分かってしまう。
凛香、そんな憐みの目で見るならこの騒ぎを止めてくれ……
「……無理」
心を読んだのか分からないが、ばっさりと凛香に断られた。
「では遠山君の実力を見るためにも、午後からやる体育の時にやってもらおう」
そう烏間さんが締めたため、今日の午後に殺せんせーに挑むことが決まった。
決まってしまったものは仕方ない。通常モードだが俺が出せる全力で挑んでやろう。
午前中は殺せんせーによる授業だったが、中学といえどさすが有名進学校何を言っているか全くわからなかった。
さらに、暗殺が行われている場所と聞いていたため神経が尖っていたらしく周りの音が拳銃のノッキング音や手榴弾のピンを抜く音に聞こえてしまい午前中の授業はいつも以上に授業に集中できなかった。
余談だが、授業終わりに殺せんせーからこれから毎日『放課後ヌルヌル強化学習』を開くから必ず来いと言われ補習が決まってしまった…
昼飯を食べ終わり、殺せんせーへの対処法について考えていると凛香がやって来た。
「……今、大丈夫?」
「ああ、別に問題はないがどうした?」
たぶん、朝のことだろう。
「朝の続きだけど、なんで高1のキンジがきたの?」
「烏間さんが言った通り拒否権のない依頼がきたからだ。国が言うには殺し屋がだめなら武偵はどうだって……」
「……なんでよりにもよってアレ持ちのキンジが選ばれるのよ」
俺だって自分から志願したわけではないんだが……
「ハァ、とりあえず納得するしかないか……」
「そうしてくれ……」
「それにしてもキンジがSランクなんて信じられないわ……」
「俺だって、Sランクにはなりたくてなったんじゃないんだけどな……」
「……もしかして、アレで認定されたの?」
凛香のいうアレとはもちろんヒステリアモードのことだ。凛香には昔この体質についてばれている。
「……」
図星だったため、思わず凛香から視線をそらしてしまった。
「……クラスの人でアレになったら分かっているわよね?」
声だけで、普段よりもつり上がった目で俺を睨んでいることが分かる。
凛香にはヒステリアモードになるトリガーも知られているため、万が一ヒスった日にはその場で凛香の鉄拳制裁が待っていることが容易に想像できる。
俺は背後に鬼が映っている凛香に冷や汗をたらしつつブンブンと首を縦にうなずいた。
「そろそろ時間だな」
雑談をしていると、気づけばあと5分でチャイムが鳴る、その為教室には俺と凛香の2人だけだった。
「そうね……それにしてもキンジがこれから同じ教室にいるなんて…今だに信じられないわ」
「そりゃ年も違うしな……」
「でもね……実は小学生の頃、キンジと一緒のクラスで授業とか受けたかったんだ……」
凛香は俺の前に移動した後、振り向きながらめったに見せない満面の笑顔を見せて
「……これからよろしくね……キンジ」
小学生の頃に比べ、女性らしくなった幼馴染の笑顔に俺は見惚れてしまった。
体の芯に熱が集まるような、あの感覚すら気づかぬほどに……
~凛香side~
キンジの様子がおかしい。
「やっぱりいつ見ても、凛香の笑顔は魅力的だね」
急に口調や仕草がキザっぽく変わっている……
「……もしかして……なったの?」
「ああ、こんな可愛らしい笑顔を見せられたらね」
キンジがウインクしながら肯定ととれる言い方をしてくる。
「……」
私でなったことに嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔が赤くなっているのが容易に分かり、思わず顔を下に向けてしまった。
「凛香、もうすぐチャイムがなる。俺としてはもう少し凛香の可愛らしい顔を独り占めしたいところだけど急ごう」
相変わらずこの時のキンジはシレっと私が恥ずかしくなるようなことを言ってくる。
手も当然のようにつないでくるし、今はキンジの顔をまともに見れそうにないや……
「…どうせなったんだから、触手の1本でも破壊してみてよね……」
「1本とは言わず3本くらい破壊してみせるよ」
この時のキンジが言うと、ほんとにできそうに思えてくる。
今回は誰もいなかったから良かったけど……いや、やっぱり恥ずかしいしヒステリアモードが解けたら取りあえず殴ってやろう。
そう決意しながらキンジに手を引かれて、私たちは集合場所へ向かった。
次回は殺せんせーVSキンジです。
ヒスったキンジの口調が難しい…