哿の暗殺教室   作:翠色の風

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1度投稿したのですが、誤って修正前のものを投稿してしまいましたので改めて投稿し直しました。
御迷惑をおかけいたします。


23弾 上司の時間

翌日の昼休みになっても寺坂は登校してこなかった。

今までは授業をサボることがあっても朝から来ていたため、少し気になるが考えても仕方ない。

殺せんせーは殺せんせーで、昨日の事を引きずっているのか朝からずっと泣いているし……。

 

「グスッ…グスッ」

「いつまでバイクの事で泣いてんだよ、殺せんせー」

「キンジ君違うんです。これは涙じゃなくて鼻水です」

 

鼻水だと?

目から液体が流れてるようにしか見えないんだが……

殺せんせーの顔をよく見ると、なんと黒い点が4つあるではないか。

 

「目はこっちで、鼻がこっちです」

『まぎらわしいわ!』

 

目の上に鼻って、まじで殺せんせーの顔の構造は分からん。

 

「夏風邪でも引きましたかねぇ、どうも昨日から調子が悪い」

 

そんな事を殺せんせーがぼやいていると、昨日からいなかった寺坂が登校してきた。

 

「寺坂君!今日は来ないと思ってましたよ!」

 

そういって殺せんせーは駆け寄っていく

 

「昨日の事は大丈夫ですからご心配なく!皆も気にしてませんよね?」

「う……うん、鼻水まみれになってる寺坂のほうが気になる」

 

寺坂の顔は食事中に見たくない光景が広がっている。

食欲がなくなるからやめてほしいものだ。

寺坂はキレるかと思ったが、落ち着いて殺せんせーのネクタイで顔を拭いた後

 

「おいタコ、お前水が弱点なんだってな。そろそろ本気でぶっ殺してやるよ、放課後プールに来い」

 

殺せんせーの殺害宣言をした。続けて俺達に向かって協力しろと言ってくる。

 

「……お前今までの暗殺ではずっと協力してこなかったよな。そんなお前の命令に皆が従うと思うか?」

 

前原の言う通り、寺坂に協力しようとするヤツは俺も含め全員いなかった。

信頼関係がないヤツの協力なぞ無料でやる物好きなんていないだろう。

 

「別に来なくていいんだぜ、その時は賞金は全部俺のもんだ」

 

よほど暗殺に自信があるのだろう、寺坂はそう言って教室を出て行った。

計画が分からないことに心配なのか渚が後を追う。

 

「キンジは行くの?」

「依頼でもないし行かねーわ」

 

そんなことを言っていると携帯にいた律が何故か落ち込んでいる。

 

「律はなんで落ち込んでんだよ?」

「最近屋外での暗殺ばかりで全然活躍できないので……」

 

まあ、本体はここに固定されてるもんな。

 

「律は十分サポートとして役立ってるんだ、気にすんな」

「キンジさん……」

 

落ち込んでいる律にフォローを入れていると、何故か凛香はムスッと不機嫌になってた。

 

「凛香どうした?」

「別に……」

 

いや、持っている箸がミシミシ言ってんだけど……

これ以上ここにいると凛香に八つ当たりされそうな為、逃げようとしたら足が何かで固定されていた。

 

「なんだこれ⁉」

 

発生源を目で追うとそれは殺せんせーから流れていた。

 

「皆せっかく寺坂君が殺る気を出したんです行きましょうよ」

 

汚ねぇ!これ殺せんせーの鼻水かよ!

 

「さあ、皆で暗殺して気持ちよく仲直りです」

『まずこの粘液をどうにかしろ!』

 

身動きが取れない上に殺せんせーがしつこいため、渋々OKを出した俺達は放課後に暗殺場所であるプールに向かう。

寺坂の指示でプールの中で散らばるように待機している。

俺は寺坂直々に水門の近くに指定された。

 

「なるほど水に落としてそこを狙う作戦ですか」

 

全員が待機すると、丁度よく殺せんせーがやってきた。

 

「それで寺坂君は拳銃1丁でどうやって落とすつもりですか?」

 

殺せんせーの言う通り寺坂の持ち物は拳銃以外に見当たらない。

拳銃1つで殺せんせーをどうにかできるなんてE組にいたら嫌でも分かるはずだが……

だが寺坂は今も持っている拳銃を殺せんせーに向けるだけだった。

 

「覚悟はできたか、俺はずっとテメーの事が嫌いで仕方なかったんだよ」

「ええ知っています。この後じっくり2人で話しましょう」

 

殺せんせーの挑発ともとれる発言に寺坂が拳銃の引き金を引いた。

その瞬間俺の後ろの水門が突然爆発した。

 

『⁉』

 

水門が破壊されたことによって、プールの水が放流される。

 

(クソ!この先は確か険しい岩場だったはず、このままじゃ全員死ぬぞ!)

 

俺は流されながらも必死にむき出しになった大きな木の根に掴まり難を逃れる。

俺の目の前にはどんどん皆が流れてきている。

 

(ヒステリアモードになるかもしれないが、救命の方が大事だ)

 

覚悟を決め、届く範囲で流れてくる皆を掴もうとする。

 

(覚悟は決めたがなんでこう女子ばかり来るんだよ!)

 

俺は手が届いた凛香、矢田、中村を手元に引っ張る。

 

「流されないようにしっかり俺に掴まってろ!」

 

そう指示し、俺の腕や胸に女子達はしがみついてくる。

気づけば、女子達の匂いや女子特有の柔らかさが直に伝わりヒステリアモードになっていた。

水量が増えてきて流れが激しくなってくる。

いざとなれば手荒だが女子達を岸に投げ飛ばすつもりだったが、目の前から黄色い触手が伸びてくるのが見えた。

殺せんせーがこちらまで助けに来たのだろう。

俺ごと女子を助けると同時に、殺せんせーは()()に叩きつけられた。

そのおかげで今回の爆破の真犯人が分かる。

 

「殺せんせーは⁉」

「下だよ凛香、それに今回の真犯人達もそこにいる」

「「「え⁉」」」

 

殺せんせーが叩きつけられた場所を見てみると、そこには殺せんせーの他にシロとイトナがいたのだ。

 

「まさかさっきの爆発も?」

「正解だよ桃花。寺坂の行動も含め全部シロの計画さ」

 

クラスで孤立していた寺坂に言葉巧みにいろいろと仕掛けさせたんだろう。

最後には寺坂の表情から見て、最後の爆弾は寺坂自身も知らなかったんだろうがな。

 

「キンジその話マジかよ」

「ああ、岡島」

 

俺達より前に助けられた岡島達がこっちに来ながら聞いてくる。

いつの間にか、暗殺をサボったカルマもいた。

 

「殺せんせー押されすぎじゃない?」

 

確かにあの程度ならなんとかなるのが殺せんせーだ。

 

(まさか……)

 

そう思い殺せんせーの周りを見渡す。

 

「やっぱりか!」

「キンジ何がやっぱりなんだ?」

「タコの頭上を見てみろよ」

『寺坂⁉』

 

俺が手段を考えながら、千葉の問に答えようとしたがその前に森から出てきた寺坂が答える。

殺せんせーの頭上には今にも落ちそうな原と吉田と村松がいたのだ。

 

「原達を気にしてあのタコは集中できない。シロのヤツそこまで計算に入れてんだろうな」

「寺坂、マジで原達危険なんだぞ。何のんきに言ってんだ!」

 

寺坂があまりに冷静な為、前原が怒鳴っている。

助けようにもうかつに近づけないな……

特に原が掴まっている枝は今にも折れそうになっている。

 

「寺坂……どうする気だ」

「俺みたいなやつは頭が良い奴に操られんのがオチだ。だがよ、俺だって操られる相手ぐらい選びてぇ」

 

寺坂の目の色が先ほどの暗殺の時と違う。

 

「カルマ、お前が俺を操ってみろや」

「なんでキンジ君じゃなくて俺なんだい?」

 

その問には俺が代わりに答えてあげよう。

 

「カルマの方が俺よりよっぽど狡猾な作戦を考えれるからだろ」

「ふーん……まあ良いや、けど俺の作戦実行できるの死ぬかもよ?」

「完璧に実行してやんよ」

「じゃあ、寺坂まず原さんは放っとこう」

『はぁ⁉』

「おいカルマ、なんで一番危ない原を助けねーんだよ!ふとましいから動けねーしヘビィだから枝折れそうだぞ!」

 

寺坂、女性にその発言はダメだよ。

 

「大丈夫だ寺坂、寿美玲達は俺と殺せんせーが助ける」

「そういうこと、だから俺を信じて動いてよ。悪いようにはしないから」

「……」

「寺坂、『仲間を信じ、仲間を助けよ。』だ。アイツらは必ず助ける。だからカルマを信じろ」

「カルマ、早く指示を出せ」

 

カルマの指示で俺と寺坂はイトナの前に出る。

 

「お前……あの時の」

 

俺を見たとたんイトナは殺せんせーへの攻撃をやめ、俺に迫ってくる。

 

「あの時は自己紹介ができなかったね。俺は遠山金次だ」

「イトナ!まずはこのタコからだ」

「とおやま……きんじ……」

 

カルマの言う通り殺せんせー以上に直接倒された俺の方がヤツの優先順位は高いみたいだな。

 

「イトナ!キンジの前に俺とタイマン張れや!」

 

寺坂はシャツを脱ぎ、盾のように自身の目の前に広げる。

寺坂の行動を止めようとする殺せんせーに、俺は目線で寿美玲達を助けるように伝える。

 

「邪魔だ!」

 

シロの命令を聞かないイトナは触手を寺坂めがけて放った。

 

「今だ!」

 

俺の合図に寺坂がシャツを離す。

触手はそのままシャツを巻き取りつつ寺坂に迫る。

このままでは寺坂に当たるため、その前に俺が裏拳で秋水を寺坂に撃ち触手の攻撃範囲から外す。

 

(すまん寺坂、気絶するほど痛いと思うが触手よりマシだ耐えてくれ)

 

寺坂に心の中で謝りながら、今度は俺に触手が迫ってくる。

スローになった世界で触手が地面と平行に俺の胸辺りを狙いに来ているのが見えたため、俺はスウェーで上体が地面と平行になるまで後ろにそらして攻撃を避けた。

 

「クシュン」

 

イトナはくしゃみをし始めた。

当然だ、なぜなら寺坂のシャツは昨日の殺虫剤に入っていたガスがたっぷり浴びたものだからな。

 

「殺せんせー弱点一緒だよね、じゃあこれも効くでしょ?」

 

カルマの指示で上にいた皆が飛び降りた。

その衝撃で大量の水しぶきがイトナにかかる。

イトナの触手も水を吸い太くなる。

 

「……」

 

黙っているシロに向かって

 

「これ以上続けるならこっちも全力でやらせてもらうぞ」

 

俺はベレッタを抜きつつ、警告を言い渡す。

 

「……ここは引こう。帰るよイトナ」

「……」

「イトナ!」

 

イトナはずっと俺を睨んでいたが、シロの二度目の呼びかけで崖の上に一足飛びで登りシロと共に帰っていった。

 

「なんとかなったな……」

 

そう言って一息着くと寺坂にいきなり投げ飛ばされた。

 

「何すんだ寺坂!」

「それはこっちのセリフだキンジ!味方の攻撃で死にかけるとかシャレになんねーよ!」

「あれでも手加減したんだよ!」

「手加減の意味一度調べてこい、この逸般人!」

『うんうん』

 

なんで皆寺坂に同意してんだよ!

 

「そもそも命令したのはカルマだろう!」

 

半ギレした俺は八つ当たり気味にカルマを水に落とす。

 

「はぁァ⁉上司に向かって何すんだよ!」

「うるせぇ、何が上司だ!サボり魔の癖にオイシイ所だけしっかりいやがって!」

「確かにキンジの言う通りだな」

「全員で泥水もかけようよ」

『いいねぇ』

 

その後、クラス全員参加の泥合戦から俺(ノーマル)vs寺坂vsカルマの乱闘が夕方まで続くことになった。

 


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