元レプリカがダンジョンにいるのは間違っているのだろうか 作:V1テイマー
「悪りぃベル…なんか迷惑かけちまったな」
バツの悪そうな顔をして頭をポリポリとかきながら青年はベルに頭を下げる。
それに対しベルはぶんぶんと首を横に振り、青年に向かって笑いかけた。
「そんな!気にし無いでください。それに結局力になってくれたのは神様ですから」
そう言って横に動かした視線の先には、小さな身長に反比例した胸を張りどやぁと得意げに笑顔を浮かべる少女の姿があった。
「ふふん!当然さ。なんせ未来の子供達を守るのは僕の役目だからね!」
目の前にいる少女が自分は神だと名乗り出た時はまさか、と思ったがこうしてみるも不思議と納得できる気もする。
青年は未だに少女が神様だとは信じきれてい無いらしく半信半疑の目を向けているが。
この3人が集まるきっかけとなったほんの少し前の出来事をベルは思い返した。
「さぁあんちゃん、一体どういうつもりでウチのリンゴを持って行ったのか説明してもらおうか。身なりからするとリンゴを買う金のねぇ
貧乏冒険者でもあるめぇよ。どこのファミリアのぼっちゃんなんだ?」
今にも掴みかかりそうだった所をベルがなだめたおかげか、幾分かの冷静さを取り戻した男。
この人はオラリオの街で出店の果実屋の店主をやっていて、今日もダンジョン帰りの冒険者にリンゴを売っていたのだという。
2人から話を聞くと、どうやら青年が代金を支払わずにリンゴ持って行ったのは事実のようだ。
しかし、ベルの目には青年が悪事を働くような人間には見えず何かの間違いでは無いか、という思いが捨てきれずにいた。
そんなベルの視線を受けていた青年はため息をつくとそっぽを向いたまま答える。
「名前はルーク、ルークフォンファブレ…それ以外は覚えてない」
青年ーールークはぶっきら棒にしかし、どこか寂しそうな顔で遠くを見つめた。
それを聞いたベルは驚きに目を開き、店主は疑いの眼差しをむける。
「おいおい、あんちゃん。嘘つくにしてももう少しまとも嘘をついたらどうだ?」
「嘘じゃねーよ!気づいたらこの街にいて名前以外何にも思い出せねーし、どこ行ったらいいかもわかんねぇしおまけに腹は減るし…そしたら美味そうな匂いのするもんが沢山置いてあったから少しくらいもらってもいいだろって思ったんだよ!」
普通に考えれば突拍子のない話であり到底信じられるものでは無い。
しかし、ルークの声にはどこか鬼気迫るものがありそれを逃げるための言い訳だと言うのはベルにも店主にも憚られた。
「し、しかしなぁあんちゃん…こっちも商売でやってんだ。丸っと嘘ついてる、とは言わ無いが商品を盗んだのも事実だしよぉ」
「で、でしたらリンゴの代金は僕が払います!知らなかったとはいえ僕もリンゴ食べちゃいましたし」
頭を抱える店主に対しベルはルークを庇うようにして店主の前に出る。
元々の優しさに加えこの街にきて久しぶり優しくしてくれたこと、ルークの寂し気な表情、そして何より自分と同じで彼も1人ぼっちなのかもしれないという思いがベルを動かしていた。
「お前…」
ルークは心の底から驚いたというように目を開きベルを見つめる。
「うーん…まぁ代金を貰えるなら支払いは誰でも構わないが、君はどこのファミリア所属なんだ?身元を証明できる物はあるのか?」
「え!?えーと…僕はまだ未所属の冒険者で家族とかもいなくて、そのぅ…」
「いや、もう今更俺自体は赤毛のあんちゃんが嘘ついてるとも思えないけどよ?こっちも冒険者相手に商売してるから分かるんだが、中には情に訴えかけて犯行を繰り返す奴もいてだな…だからせめて所属のファミリアくらいは抑えとかないと周りにも示しがつかねぇんよ」
なるほど、と思うと同時にしまったとベルは感じた。
ルークを助けようと思っての行動だったがルークが仮に助かっても、店主を困らせる結果になってしまいそうだ。
今までの会話からこの店主が良い人であるのは分かってきた、だからこそこの人は最終的にルークもベルも許して自分が泥をかぶってしまうだろう。
仕方ないとばかりにため息をついた店主が口を開こうとした瞬間1人の少女がその場に躍り出た。
「やぁやぁ!話は聞かせて貰ったよ?そこの赤髪君は嘘をついてない、この神が保証しよう!店主くんも白髪君も中々人を見る目があるね」
やたらと高いテンションで歩み寄ってきた少女は近くまで来ると腰に手を当て胸を張る。
「ヘスティア様、なんでここに?というかいつから聞いてたんですかって最初から?…はぁ…まぁ神様にゃ嘘はつけねーていうからこのあんちゃんやっぱ記憶ないのか」
どうやら店主とは知り合いの人物、いや神様のようで1人納得していく。
それに頷いた神、ヘスティアは続けざまに口をひらいた。
「どうだろう?そこの2人を僕のファミリアに入れるというのは!今回の件はそれで丸く収まると思うけどね」
「うぇぇぇぇ!?」
本日二度目となる絶叫をあげるベル。
しかし、今回は驚きに加え喜びの感情もあった。
ついに自らのファミリアが見つかったかもしれないのだ。
「え!?ヘスティア様のとこにですか?い、いやそれは…」
「…なんだい店主君。僕のファミリアじゃ何か問題でもあるのかな?」
笑顔ながらもどこか威圧を感じさせるヘスティアに詰め寄られ押し黙る店主。
ヘスティアはくるり、とベル達の方に振り向いた。
「と言うわけでどうだい?君達、僕のファミリアに入らないか」
そう言って手を差し伸べて来る女神の手を握ろうとして止める、隣にいるルークはどうするのだろうか、自分にとっては好都合だがルークがどうしたいのかは分からない。
ルークはまだ状況を飲み込めず惚けているようだったがベルと視線が合うと自らもおずおずと手を伸ばす。
「俺、正直ファミリアとか冒険者とかよく分かんねーけど…そのファミリアに入ることで助けてもらった恩を返せるならそうする」
そう言ってベルと同時にヘスティアの手を掴んだ。
本当は一昨日に投稿予定でしたが寝落ちして携帯の電池が切れて内容がおじゃんに…そのため最後の方はちょっと手直しするかもです。