グリモアーたとえ面倒でも世界は動く-   作:famgri

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第135話 見せられないもの

学園

 

噴水広場

 

「せ~んぱい! お疲れさまでした!」

 

「ああ、お疲れさん。」

 

結局あの後、2人は散々迷ってしまい

1時間後にようやく出ることができ、

学園に戻ってきていた。

 

「授業免除か・・・。」

 

「私も今日は精鋭部隊の訓練もないので、

 もう自由時間です。それにしても先輩。」

 

「ん?」

 

「先輩って、すごく学園に詳しいんですねぇ。

 だって私、報告に行くのにいつも1時間くらい

 かかってたんですけど・・・。」

 

「それはお前だけだ。」

 

軽くため息をつき、あきれる。

 

「入学の時期はそんなに変わらないのに

 やっぱり先輩ってすごいです。」

 

「・・・・・。」

 

「私ももっと頑張らなきゃ・・・あ。」

 

「ん? なんだ。」

 

「先輩、これから時間ありますか?」

 

「ああ、特に予定はない。」

 

「実はお姉ちゃんがエジプトのお土産を

 くれたんですよ。バス・・・ブーサって

 言うんです。」

 

浅梨はロウの服の袖をつかむ。

 

「その、せっかくなんで一緒に食べませんか?

 寮に置いてあるんで、先輩の部屋に持って」

 

「待て。」

 

手をかざして浅梨の話を止める。

 

「先輩?」

 

「お前じゃ時間がかかりすぎる。お前の

 部屋でいい。」

 

「私の部屋、ですか? ・・・そうですよね!

 私の部屋から持っていくと半日くらい

 かかりますもんね!」

 

下手したら何日もつかねえかも

しれねえしな・・・。

 

「ちょっと散らかってよければ、

 どうぞご招待します!」

 

「んじゃあ、そうするか。

 大体・・・20分ぐらいしたらそっちに行く。」

 

「・・・先輩、私、頑張りますね!」

 

そう言って、浅梨は戻っていった。

 

「・・・・・?」

 

ロウは浅梨の言ったことの意味が

わからなかった。

 

 

 

 

<ロウ、浅梨の部屋へ>

 

 

 

 

「えっと、あいつの部屋は・・・ここか。」

 

浅梨の部屋のドアの前に立ち

チャイムを鳴らす。

すると、ドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ! ・・・・・。」

 

「? どうした。」

 

「えっと・・・なんだか、少し

 恥ずかしいですね・・・。」

 

少し顔を赤くする。

 

「そんなもんか?」

 

「だって、自分の部屋を他の人に見せるのって

 先輩が初めてで・・・・変なところが

 なければいいんですけど。」

 

「ふーん・・・。」

 

浅梨の部屋の中をきょろきょろと見る。

 

「あ、だ、だからってじろじろ見ないで

 くださいよぉ!」

 

手をバタバタさせて慌てる。

 

「早く、早く座ってください!

 お茶入れますから!」

 

「ああ、悪い悪い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ。」

 

ロウは出されたお茶を

ゆっくりとすする。

 

「うわぁ・・・このお菓子、すごく

 おいしいです。」

 

「へぇ・・・。」

 

「先輩もどうぞ。はい。」

 

「・・・?」

 

浅梨はお菓子を持って、

ロウに近づく。

 

「はい、あーん。」

 

「あ、ああ・・・。」

 

されるがままに、ロウは

浅梨にお菓子を食べさせられた。

 

「・・・結構甘いな。」

 

少し顔をしかめる。

 

「そんなに甘いですか? お茶飲みます?」

 

コップをロウに差し出す。

 

「ふふふ、先輩、甘いもの苦手なんですか?

 かわいい♪」

 

「ああ?」

 

「あ、ち、違うんです! そ、そんな意味じゃ

 なくて・・・・せ、先輩はかっこいいです!」

 

「急に変わったな・・・・・。

 てか、我妻。近くねえか?」

 

浅梨はロウのすぐ隣に座っていた。

 

「え? 隣に座る理由、ですか?

 ・・・・じ、実は・・・」

 

「実は?」

 

「今日、お招きしたのはお菓子だけじゃないんです!」

 

「?」

 

浅梨の大きい声におされ、

少し後ずさる。

 

「あ、あの、とっても不躾なお願いかも

 しれないんですが・・・」

 

「なんだ、もったいつけず言ってみろ。」

 

「・・・その、見てほしくて・・・

 とっても恥ずかしいんですが・・・。」

 

徐々に顔が赤くなる。

 

「誰にも見せられない・・・私の・・・」

 

「私の?」

 

「私の・・・・テスト結果を・・・・。」

 

「・・・・・ん?」

 

若干上ずった声をあげる。

 

「テスト結果?」

 

「せ、先輩だけなんですよぉ! エレン先輩に

 見せたら・・・ああ、恐ろしい!」

 

その姿を想像し、頭をブンブンと

横に振る。

 

「そんなに悪いのか。」

 

「私、魔法の技術や体力には自信があるんですけど・・・

 頭の方がちょっとですね・・・。」

 

そう言って、そのテストの結果を見せる。

 

「・・・確かにひどいな。」

 

「うぅ・・・ツクちゃんにお勉強教えて

 もらってるんですけど・・・学園にいる

 間だけだから・・・。」

 

「まあ、あいつの教え方じゃそんなもんだろ。」

 

「結構辛辣ですね・・・・・。そ、そこで

 寮では先輩に教えてもらいたいんです!

 どうですか!?」

 

「・・・仕方ねえな。」

 

小さくため息をつく。

 

「よ、よろしくお願いします!

 私に、私に先輩の知ってること、

 教えてください~!」

 

浅梨のこの言葉は隣に

聞こえていたため、ロウはしばらく

誤解されることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

裏世界

 

特級危険区域

 

「・・・む! あれは・・・まさか・・・・。」

 

刀子はある光景を見て、

目を細める。

 

「おー、集まって何やってんだ?」

 

律が刀子に近づく。

 

ロウたちは特級危険区域の

ゲートの確保のため、ここに来ていた。

 

「し、静かに! こちらに隠れろ!

 お主、どこからここに!」

 

「いやー、西原の予知に従ってたら

 いつの間にか・・・なんかあんの?」

 

「見つけたぞ・・・あれが、ゲートだ。」

 

怜が指さす。

 

「あれか・・・。」

 

ロウは怜が指さしたほうにある

ゲートをじっと見る。

 

「マジで? あれが? てかヤバくね?

 まわり、魔物だらけじゃんかよ。しかもでっか!」

 

「あの大きさなら弱くても

 タイコンデロガだな。」

 

「ゲートは霧が噴出するところ・・・とはいえ、

 これは多すぎる。」

 

「ゲート見えたって言っても、すんげー

 遠いじゃん? コレ、マジで行くの?」

 

「まあ、とりあえず・・・」

 

ロウはデバイスを取り出す。

 

「後ろにいる野薔薇に連絡する。

 本部にどうするか確認して、むこうに

 よっちゃあ、今回のクエストは終わりだ。」

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「・・・そうか、わかった。」

 

通話を切る。

 

「今から会長が来る。魔物の数を

 ある程度減らした後、撤退する。

 会長が来たら、すぐに戦闘開始だ。」

 

「任せろ。魔物が来たとしても、

 拙者が食い止めてみせよう。」

 

「・・・あたし、後ろと合流・・・ま、

 いいや。西原、頼むぜ・・・まだ死にたくねーし。」

 

「ロウ。」

 

「なんだ、神凪。」

 

「今日はここまでだろうが、いずれ本番が来る。

 その時のために・・・怪我だけは

 しないようにな。」

 

「わかってるよ。・・・もうそろそろ来るな。

 行くぞ、神凪。」

 

「ああ。」


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