グリモアーたとえ面倒でも世界は動く-   作:famgri

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第124話 水難の予知

「むにゃむにゃ・・・・はっ。

 ・・・みなさんが・・・水難に?」

 

「・・・水難?」

 

「ええ・・・流されます・・・

 テントが・・・。」

 

ゆえ子の顔が青ざめていく。

 

「そんなに遠くはありません。すぐ、

 なのでは・・・。対策しておかないと・・・。」

 

「つってもな・・・・もう

 張り終えちまったぞ。」

 

テントを指さす。

 

「ふぇぇ・・・。」

 

外そうとしていたゆえ子は

その場にへたりこんでしまう。

 

「いやー、がんばったがんばった。」

 

「やり遂げたさわやかな表情・・・

 心苦しいですが・・・・音無さん。」

 

「どーした?」

 

「テントを移動したほうがよいと

 思います。」

 

「・・・移動・・・ええ?

 ど、どういうことだ?」

 

ゆえ子の言葉に戸惑う。

 

「川が氾濫してテントが流されてしまう

 光景を見まして・・・。」

 

「川が・・・氾濫? ま、まっさか!

 こんないい天気なのによ!」

 

「まあ、山の天気は変わりやすいって

 言うからな。」

 

ロウは山の頂上付近を見る。

 

「でも氾濫するほどの大雨だったら

 さすがに予報が出てるだろ。」

 

「確かにそうなのですが・・・うう・・・

 予知は根拠が予知しかないのが苦しいです。

 ですが、視てしまった者の定め。音無さん、

 ゆえもお手伝いします。移動しましょう。」

 

「・・・マジか・・・全部やり直すと

 なると午後がつぶれちまうぞ・・・。」

 

「カレーできましたよー!」

 

ももがロウたちを呼ぶ。

 

「ま、とりあえず、一旦

 カレー食ってから考えるか。」

 

「そうそう。腹が減ってはギターも弾けぬ。

 だからな。」

 

「・・・そうですね。どちらにしろ

 ご飯を食べなければお役に立てないです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐ、んぐ・・・プハー!

 このいっぱいのために生きてるっすねぇ!」

 

「・・・ビール飲んでるみてぇだな。」

 

「麦茶ですよ! 麦茶!」

 

自由とロウにつっこむ。

 

「おいしくできてよかった。

 なんか自信ついちゃった。」

 

「次は爆発させんなよ。」

 

「うん! コツをつかんだから大丈夫!」

 

「おーし! あたしもギターの

 練習しときたいな!」

 

「・・・西原さん、さっきの話、

 少し聞こえたんですけど・・・・・

 テントが流されるって、どういうことでしょうか?」

 

「どうやら、川が氾濫するらしい。」

 

「は、氾濫!? こんないい天気なのに・・・。」

 

「だが、西原の予知は当たるからな。」

 

「ゆえもこんな楽しいのに水を差したくないです。

 ですが、どうかご協力をいただければ・・・。」

 

「・・・・・。」

 

腕を組んで考える。

 

「当たったら、そうとうまずいことになる。」

 

「でも、みんなを説得するのは・・・。」

 

「いざとなれば、ゆえ1人でも

 移動します。」

 

「まあ、どちらにせよ、移動する理由を

 説明しないとな。少し待て。」

 

「・・・いつ予知が実現するかわかりません。

 一刻も早く移動したいのですが・・・。」

 

「勝手なことをするわけにも

 いかないですし。」

 

ロウとももが移動の説明に

行こうとしたとき

 

「いやぁ、ホント珍しいぜ。意図的に

 やったんじゃなけりゃ奇蹟・・・ ?

 なんだ?」

 

「ああ、朝比奈か。実はな・・・」

 

 

 

<ロウ、説明中>

 

 

 

「・・・川が氾濫? テントが

 流される?」

 

「はい。でもこんないい天気の上に

 少しくらい雨が降ってもそんなにはって・・・。

 でも万が一を考えて、移動したほうがいいって

 なったんです。」

 

「そこで全員に移動する理由を

 説明しようとしてな・・・ん?」

 

「・・・・・・・。」

 

龍季が何かを考えている。

 

「すぐに起きる可能性もあるのか?」

 

「ああ、おそらくな。」

 

「・・・ロウ、魔力よこせ。

 強化魔法を使う。」

 

「! 何か見つけたのか?」

 

「ちょっとやそっとの雨で氾濫するぜ。

 さっき上流を見てきた。」

 

「上流・・・なるほど。」

 

龍季の考えがわかったのか

ロウはにやりと笑う。

 

「んだよ、なんか変かよ?」

 

「いいや、俺もテントを移動させた後

 上を見ようと思ってからな。ちょうどよかった。」

 

「あの・・・」

 

ももは何が言いたいか

わからない。

 

「去年の台風だかなんだか知らねえが

 泥がたまって川をせき止めてた。

 全部たまってるわけじゃねえが、結構な

 水量だ。」

 

「もしもその状態で強い雨が降って、

 堆積した泥が崩れれば、ついさっき

 張ったテントが流されるだろうな。」

 

「さら、手伝え。」

 

「は、はいぃ!」

 

龍季はさらを連れ、行こうとする。

 

「あ、朝比奈先輩! もうちょっと

 待って・・・」

 

「説得してる間になにかあったらどうするんだよ。

 そんなの後でいい。なかったらないで

 いいじゃねーか。」

 

「・・・そうだな。西原。

 ロープを運んでくれ。」

 

「・・・はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

かなり強い雨が降ったが、

ロウたちの対処によってなんとか

洪水に巻き込まれることを避けられた。

 

「・・・う、うわぁ・・・さっき

 テント張ってたところ、見事に流されてんな・・・。

 西原、悪かった。」

 

律はゆえ子に頭を下げる。

 

「正直、ねーだろって思ってた・・・。」

 

「いえ、ゆえもお気持ちはわかりますし。

 それにみんなが協力してくれたおかげで

 無事に終わりました。」

 

大丈夫と言う笑みを浮かべる。

 

「・・・でも、不思議ですねぇ。一気に

 どばーって降って、あっという間に

 やんじゃいました。」

 

「確か、スコールっていうんだろ? なんで

 急に日本で・・・。」

 

「北海道の氷が解けたからだよ。

 知っとけ。」

 

「・・・もしかして、解けた氷が

 降ってきたのか!?」

 

「ちげーっつの! 北海道が日本を

 冷やしてたんだよ、今まで!」

 

「日本の平均気温が上昇して

 亜熱帯に属するようになったんだよ。」

 

結構ニュースでやってたはずだが・・・

 

「夕立なんて珍しかったが、第6次の

 前は普通だったろ?」

 

「・・・んー、確かにそんな記憶が

 あるなぁ・・・って、朝比奈、

 お前頭いいな!」

 

「ただの常識だっつーの! 知らねえほうが

 おかしいだろ!」

 

「・・・朝比奈さん。」

 

ゆえ子が龍季に近づく。

 

「ああ?」

 

「ありがとうございます。」

 

ゆっくりと頭を下げた。

 

「・・・た、大したことじゃねえ。」

 

「朝比奈さんが信じてくれて、

 嬉しかったです。」

 

「ふん、予知を信じたんじゃねえよ。

 実際に上流を見てきたからだ。

 ったくよ・・・。」

 

照れくさそうに頭を掻く。

 

「それでは、キャンプファイヤーの準備を

 始めましょうか!」

 

「でも今の雨で全部湿気ったんじゃねーの?」

 

「すぐ乾きますよ! 西原さん、

 キャンプファイヤーの光景は見えますか?」

 

「・・・・・・。」

 

目を閉じる。

 

「はい。みんな楽しんでます。音無さんは

 ギターを弾いて、小鳥遊さんはゲームをして

 桃世さんも朝比奈さんも仲月さんも南さんも

 ゆえもおしゃべりしています。ロウさんは

 みんなに引っ張りだこですね。」

 

「・・・若干、大変だな・・・。」

 

「じゃあ、それに間に合うように、急いで

 準備しなきゃ!」

 

「ももちゃーん! 夕飯の準備始めるねー!」

 

「あ、は、はい! 待っててください!

 すぐに行きますから!」

 

ももは智花の手伝いに向かう。

 

「・・・んじゃま、やりますか。」

 

自由もだるそうな声で

準備をする。

 

「そーだな。西原のおかげで台無しに

 ならなかったんだ。絶対成功させようぜ!」

 

律は枯れ木を集めに向かう。

 

「・・・よかった。お役に立ててよかったです。

 でも、いけませんね。他の予知の魔法使いは

 もっと正確に未来を視ます。」

 

「・・・まあ、その辺は

 お前次第だな。」

 

「ええ・・・。ゆえも頑張らなくては。

 それでは、ロウさん・・・。」

 

「どうした?」

 

「ちょ、ちょっと騒いだので疲れてしまいました。

 ちょっと、寄りかかってもよろしいでしょうか・・・?」

 

「はあ、仕方ねえな。ほれ。」

 

「あ、ありがとうございます・・・。」

 

ゆえ子はゆっくりとロウに

寄りかかると、すぐに眠ってしまった。


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