グリモアーたとえ面倒でも世界は動く-   作:famgri

114 / 327
第6章 抗う
第109話 映画村の珍事


翌日

 

純雄の寺

 

「・・・ごめんな、父さん・・・母さん・・・。

 遅くなって・・・。」

 

ロウは両親の墓の前で

膝をついていた。

 

「・・・・・。」

 

ゆっくりと手を合わせる。

 

「・・・ユウ・・・。」

 

墓石には両親の名前の隣に

ユウの名前が刻まれていた。

 

「あとは・・・ゆっくり休め。

 俺に任せろ。」

 

そう言って、立ち上がった。

 

「まさか・・・こんなことに

 なるとはねぇ・・・。」

 

「! 純雄さん・・・。」

 

「しかし、君が自分から話したのは

 私以来じゃないかな?」

 

にこりとほほ笑む。

 

「・・・ただの気まぐれですよ。」

 

ぷいっと顔をそむける。

 

「・・・ふふ、けど私に言った通りに

 なっただろう?」

 

「・・・まあ、そうですが。」

 

「・・・まだ、続けるのかい?」

 

「ええ、あなたにはまだ親がいた頃に

 このあたりで遊んだことがあるだけの

 縁でしたが・・・・・・・。」

 

「随分言うね、君も。ところで、

 今日もクエストかい?」

 

「ええ。」

 

置いていたカバンと

刀を手に取る。

 

「・・・・。」

 

両親とユウの墓を見る。

 

「・・・いってきます。」

 

そう言って、ロウは寺を出た。

 

「・・・・ふふ。」

 

純雄はロウの背中を優しい笑みを

浮かべながら、見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽村映画村

 

「あっ、いたいた! ロウ!

 交代の時間よ!」

 

映画村の衣装に着替えた

月詠がロウのもとに駆け寄る。

 

「ああ、わかった。」

 

返事をしたロウは侍の恰好をし

自分の刀を腰に挿している。

 

「えっと、あんたとエミリアと・・・

 冬樹イヴね。また2時間後に交代だから。

 うふふ、休憩時間何しようかしら。忍者ショーに

 からくり屋敷・・・。」

 

「守谷さん、あまり遠くへ行かないで

 くださいね。」

 

「冬樹・・・まあ確かに支倉を呼び戻すのが

 大変だったしな。」

 

「わかってるわよ。一応、警備のクエスト

 なんだから。はしゃいでる誰かさんと一緒に

 しないでよね。ねっ、エミリア。」

 

「ほぉう? けどあいつすげえはしゃいでるぞ?」

 

ロウが指さした先には・・・

 

「鬼の副長に一番組組長に・・・くぅ~!

 幕末浪漫です・・・!!」

 

「エミリア!」

 

「ほあっ!?」

 

大声で呼ばれ、体が飛び上がった。

 

「ご、ごめんなさい! お話、聞いて

 なかったです・・・。」

 

「学園生として警備に来ている自覚を

 持ってください、という話です。」

 

「すみません・・・映画村は初めてだから

 つい興奮しちゃって・・・。」

 

少し顔を赤くする。

 

「まあいいわ、なんかあったらすぐ合流できる

 ところにいるから安心して。」

 

「ロウさんはエミリアさんとそっちの道を

 お願いします。私は1人で問題ないので、それでは。」

 

イヴは早足で警備に向かおうとする。

 

「ま、待ちなさいよ! ちゃんとグループで

 ・・・っとと。」

 

足が服に引っかかり、転びそうになる。

 

「皆々様~! よいものを見つけました!

 『おちむしゃくん』なる人形が沢山・・・!」

 

大量の人形を抱えながら

刀子が歩いてくる。

 

「ああもう、イヴ! 待ちなさいって!」

 

「あっ、支倉さん! おちむしゃくんが

 落ちました・・・!」

 

エミリアは人形を拾い、刀子に

渡そうとする。

 

・・・・ん?

 

「おい、お前ら! いったんとま・・・」

 

「きゃあ!」

 

「痛!!」

 

4人は同時に頭をぶつけてしまう。

 

「まったく・・・。」

 

ロウは4人のもとへ駆け寄る。

 

「ほれ、守谷。さっさと立て。」

 

月詠に手を差し伸べる。

 

「う・・・あ、ありがとうございます。」

 

「・・・・・ん?」

 

月詠の口調に違和感を覚えた。

 

こいつ、こんな口調だったか・・・?

 

「あいたたた・・・。」

 

エミリアが起き上がる。

 

「もう、気を付けてよ! 危ないじゃない!」

 

「・・・・んん?」

 

エミリアの口調にも違和感を感じた。

 

「うぅ・・・。」

 

今度はイヴが起き上がる。

 

「ほあぁ、申し訳ござらぬ! 拙者と

 したことが!」

 

「おっと?」

 

「みなさん、大丈夫ですか? お怪我は?」

 

「・・・・・・。」

 

4人の状態を見て、ロウは

呆然とした。

 

どうなってんだ・・・?

 

4人を何度も見る。

 

「・・・お前ら、いったん落ち着け。

 そして、よく見ろ。」

 

「・・・・え? ノエル・・・?」

 

「・・・・。」

 

月詠の様子を見る。

 

「・・・冬樹?」

 

「ロウ、何を言って・・・・・・

 ふ、ふおおおぉぉぉ!?」

 

イヴは自分の姿を見ると

腰を抜かす。

 

「その言葉遣いは・・・支倉・・・か?」

 

ロウはいまいち自信が持てない。

 

「あわわわ・・・私がもう1人・・・。」

 

「え? え? ツクの体、なんで・・・。」

 

「今の呼び方・・・お前、守谷か。」

 

「ま、待ってください。守谷さんが

 私の体に?」

 

「そうなると、お前はブルームフィールドか。」

 

少しずつ状況整理を始める。

 

「ツクはツクよ!」

 

「拙者の顔のお主は誰でござるか!?」

 

「・・・お前ら、とりあえず落ち着け。

 まあ、どういうわけかわからねえが、

 ・・・4人とも入れ替わってるんだよ。」

 

「「「い、入れ替わってる!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「つまり・・・こういうことか。」

 

紙を取り出し、状況を書き込んだ。

 

体 中身

 

守谷 冬樹

 

冬樹 支倉

 

支倉 ブルームフィールド

 

ブルームフィールド 守屋

 

「け、結構わかりやすいわね・・・。」

 

「しかしまあ、こういうことがあるんだな。

 マンガだけだと思ってた。」

 

「ふーむ、なかなか信じがたい状況だが・・・。」

 

「・・・・くく。」

 

ロウは少し肩を震わせて笑う。

 

「ろ、ロウ! 何がおかしい!」

 

「そりゃお前・・・冬樹がその口調って・・・

 ・・・ぷっ・・・!」

 

笑いがこらえきれない。

 

「ま、まあとにかく、こうなったんじゃ

 とりあえず、クエストを続けるしかねえな。」

 

「・・・そうですね。仕事を無事に終えることを

 最優先にしましょう。」

 

「・・・守谷さんの顔で話してるのに

 すごく冷静です。」

 

刀子(エミリア)は少し驚く。

 

「ちょっと、どういうことよエミリア!

 いつもツクが冷静じゃないっての?」

 

「実際そうだろ。」

 

はあ、とため息をつく。

 

「・・・とにかく、持ち場に戻ってください。

 今日はこのままクエストを完遂すること。

 どうするか考えるのはそのあと。いいですね。」

 

「わかってるわよ。今はどうしようもないんだし。」

 

「んじゃあ、予定通り、守谷は休憩。俺と

 冬樹とブルームフィールドが警備・・・・・ん?」

 

1つの疑問が浮かぶ。

月詠(イヴ)が手を挙げる。

 

「今は私が守谷さんですけれど。

 休憩? 警備?」

 

「誰が誰だか混乱してきたでござる・・・あっ!」

 

「どうした、もり・・・支倉。」

 

「今あんた間違えたでしょ。」

 

図星だったため、頭を数回掻く。

 

「それで、どうした。支倉。」

 

「拙者、キャストとして活劇撮影の

 手伝いをせねばならん!」

 

「活劇撮影?」

 

「先ほど声をかけられたのでな。奉仕の一環として

 請け負った。」

 

「あの、私の体でですか?」

 

いやそうな雰囲気を出す。

 

「左様。鎧姿でないのが惜しいが、この姿でも

 十分に殺陣はできよう!」

 

「い、いえ、できるかできないかではなく・・・」

 

「心配無用! 拙者に任せておけ。野薔薇の名に

 かけて完璧な殺陣を演じて見せようぞ。例えば

 こう・・・はあああ・・・きええええー!!」

 

大声をあげ、構えをとる。

 

「ちょ、そんなに足を開いたら

 着物から見え・・・」

 

急いで足を隠す。

 

「む、これは失敬! 少々はしたなかったかな!

 ふぅ・・・よっこいしょ。」

 

「ま、股を開いて座らないでください!!」

 

「・・・・はあ・・・・。」

 

ロウは下を向いて、

大きくため息をついた・・・。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。