魔法と人の或る物語   作:シロ紅葉

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69話

 両端《ターミナル》のホーム内は閑散としている。

 ここで今晩を過ごしている旅行客もすでに寝静まっているみたい。

 だからなのかな。足音がやけに響いている。

 明かりが消されているから顔は見えないけど、制服からして多分、警備兵だと思う人物が二人。先頭車両にいる運転手の側までやってきた。

 何やら一言二言と会話をした後に、警備兵と運転手が改札口の方へと歩いていった。

 

「荷ほどきもあるから、ここで一泊してから朝一にここを出ていくつもりよ」

 

 残ったもう一人の警備兵が資材チェックでもするつもりなのか、先頭の方からコンテナの中を確認し始めた。

 

「ね、ねぇ。ここにいたらまずくない?」

「ですね。いつまでもここにいたら見つかってしまいますよ」

 

 しばしの沈黙。そして、纏が口を開いた。

 

「行動を開始するなら今しかなさそうだな」

「まぁ、待て。それなら先に俺が行かせてもらうぜ」

「え?! まさか、一人でいくつもりなの」

「いくら覇人くんがキャパシティの幹部でも危険ですよ」

 

 目の前にいるのはたった三人だけだけど、それでも一人で行かせるのはちょっと、止めざるを得ない。

 

「行かせてやりなさいよ。フォローならあたしがするわ」

 

 閉じていた魔眼を再び開いて、戦闘態勢をとる蘭。

 

「よし……っ! そんじゃ、任せたぜ」

 

 ホームに躍り出た覇人は、背を向けて改札口を抜けようとしている二人に感づかれない様に、一息でコンテナの中をチェックしている警備兵に手刀を浴びせて昏倒させた。

 小さな悲鳴を残した警備兵に気づいた二人はとっさに振り向く――!

 

「――! な!? お前、何者だ――!」

 

 懐に差した警棒を身構えた警備兵は敵意をあらわにして叫ぶ。

 だが、一瞬にして途絶える。

 隣では蘭がすでに魔力弾を撃ちだしたあとだった。

 唐突の襲撃に驚いて、みっともなく改札口を抜けだそうとする運転手を、覇人が手にした半透明の刃で殴りつけて気絶させた。

 

「い、一瞬で終わったね……」

「さすがに二人は場慣れしているな」

 

 静けさを取り戻したホームに降り立って、辺りを見回す。この辺にはもう誰もいなさそうだね。

 

「さ、のんびりしている暇はないわよ。急がないと残った警備兵がこっちに来るわよ」

 

 駆け出して改札口を飛び越えていく蘭と覇人。

 

「茜ちゃん。行くよ――」

 

 しゃがみこんで、気絶した運転手に情を抱いている茜ちゃんに呼びかける。

 

「はい。――巻き込んでしまってごめんなさい」

 

 改札口を抜けると広間に出た。

 内装は石畳で出来ている地面だけを残して、過去の記憶と大きく変わっていた。

 

 以前までなら無骨な受付に、重々しい鉄製の扉。夜には虫が群がるときもあった、壁掛けの蛍光灯。まるで清潔感がなかったんだけど、その面影すらない。

 でも、いまでは洒落っ気のある受付。木製の扉。天井にはめ込まれた照明からは、温かいオレンジ色が淡く石畳を着飾っている。なんというか、ホテルのロビーのような感じ。

 

 完全に観光客をお招きするように改修したような印象。各区画の玄関口としては、それはもう綺麗な方がいいんだろうけど、もう別世界としか思えないよ。

 けど、私的にはこっちのほうが断然いいかな。

 茜ちゃんも変貌ぶりに口を開いて、感傷している。うん、私も同じ気持ちだよ。

 

「二階から残りの八人の警備兵が降りてくるわよ」

 

 さすがにちょっと騒がしすぎたのか、それとも外の様子が気になったのか。蘭は魔眼で観察した状況を教えてくれる。

 

「私が相手をします」

 

 二階に続く階段は、入り口の近くにある。茜ちゃんは、魔法で生みだしたクリスタル状の銃を構えると、ほどなくして警備兵の姿が見えた。

 

「――」

 

 二発の射撃。一発は外れたけど、二発目は見事に肩を貫いた。そのまま、手すりに体が傾いていって落下する。

 あまり高くなかったのがせめてもの運。たぶん、骨折ぐらいで済んでいると思う。

 茜ちゃんは、ちょっと心を痛める様な表情をする。いくら敵だからと言っても、やっぱり無関係な人を傷つけることには抵抗があるんだね。きっと良心が痛んでいるんだ。

 

「まさか、魔法使いか――!? くそ、二十九側に連絡を取れ!」

 

 階段から怒号が聞こえる。

 夜の静けさが一気に目を覚まして、途端に騒がしくなる玄関口。

 敵意をあらわにした警備兵が警棒を構えて現れる。

 同時に、外で捜索していた警備兵が騒ぎに気づいて戻ってこようとする。

 

「これって、ピンチなんじゃないの。どうする? アレは無視して、さっさと二十九区側に逃げ込んじゃおうか?」

「で、でもそれだと追いつかれてしまったら、挟み撃ちに合いますよ」

 

 まだ見えないけど、増援を呼んでいたから、後ろ側からも襲われる危険性が出てきてる。

 立ち止まっていても挟み撃ち。進んでも挟み撃ち。

 しかもあっちにはまだ、二十人もいるからかなり状況は悪くなってきてる。

 出来れば、残った警備兵を倒して前へと進む方がいいんだけど、あまりゆっくりと相手にもしていられない。

 

「全員で前の警備兵を全力で倒してから、さっさと橋を渡ってしまうよ」

「そうするしかなさそうですね」

 

 私は刀を創って、茜ちゃんは銃を手にする。 

 

「待ちなさい――! あたしが一気に正面を蹴散らすわ」

「どうするつもりなんだ」

 

 正面というのは、階段にいる三人とその辺に潜んでいる四人の警備兵。そして、いまこっちに向かってきている五人の警備兵。

 

 占めて――十二人。

 

 いくらなんでも数的に無理なんじゃないかなと纏と同じく思う。

 

「――こうするのよ!」

 

 手の平から撃ち出されたのは魔力による光線。

 両端《ターミナル》のロビーの天井を横なぎに払っていき、やがてはすぐそばにある階段にまで――

 

 破壊/開拓/浪費の三拍子を担った脅威が軌跡を描き切る――!

 

 崩落の悲鳴と絶望の悲鳴が重なり合い、悲痛の叫びとなってロビーを震わす。

 入り口は塞がれた状態となって、外にいる警備兵はこちら側に来れなくなった。ついでに、二階にいた警備兵も崩落とともに全員落下して、下敷きに――

 

 その暴力を――私たちは目に灼き付けていた。

 

 単純に魔力を凝縮させる魔力弾とは比べものならない上位の技術《センス》。

 魔力弾自体をうまく使いこなせていないからこそ、その難しさが分かる。

 

 凝縮ではなく、放出――。

 

 内側から練り上げた魔力を固めるぐらいなら、得手不得手の領域。だけど、これはそこからはみ出た極みの境地。

 

 光線は、常に一定量の魔力を絶え間なく流し続けなければいけない。稼働を止めない魔力は、疲弊を生みだすだけ。

 例えるならマラソン。それは、ただひたすらに体力を消費し続けることと同義の結果を残すこととなる。

 変幻自在に威力を調節することが強みとなる魔力弾とは違って、魔力砲は体力が持ち続ける限り、半永久的に持続する。

 

「ら、蘭さん! やり過ぎですよっ!」

「大丈夫よ。全員死んでいないわ」

 

 蘭の魔眼では、瓦礫の中に魔力が検知されたらしい。私ではまず分からない。

 魔法使いではなかったとしても、人だったら誰でも微量の魔力は持ち合わせてるから、それが検知されたのなら。状態はどうであれ、生きていることは間違いない。

 

 ひとまずは……助かったの……かな? 私たちも襲われることもなくなったし、警備兵も生きているみたいだし、これで良かったということにしとこ。あまり考えすぎても裏の世界ではもう常識が通じるとも思えないしね。

 

「ねえ、蘭……これはやっぱりやりすぎだと私もいま、思ったよ」

「奇遇だな、俺もだぜ」 

 

 この騒音のなかで、眠りについていた観光客が「何事だ!」と心配気味に部屋から溢れてくる。

 子連れの親は子供を部屋に押し返して、大人たちはみんな一様に崩落した入り口に目を向けた。

 騒ぎは波紋のように広がって、あちらこちらの扉が開かれてはロビーに人が密集し始めてる。

 

「この場を鎮めないとまずいな。この人たちを巻き込んでしまうぞ」

「そんなことになってしまっては大問題ですよ」

 

 さながら町の喧騒のようになっていって、もはやちょっとやそっとじゃ収まりそうにもなくなってきた。

 

「よっし! ここは俺に任せときな!」

 

 覇人は一歩前に出て、一声上げた。

 

「安心しな。俺たちはアンチマジックだ!」

 

 真っ赤な嘘を堂々と宣言して、私たちは唖然となる。その反応とは真逆に聴取の様子に切り替わった野次馬たち。

 

「覇人くん! いきなり何を言っているのですか!」

「嘘つくのっていいの? 後々、アンチマジックにばれたりすると、大事になりそうなんだけど」

「嘘じゃねえよ。な、纏。見せてやれよ」

「――え?」

「これよ、これ。あんたも一応、まだ持っているのでしょう」

「あ、ああ……これか」

 

 蘭と纏が取り出したのはアンチマジックのバッジ。

 私が綺麗に真っ二つに斬った纏のバッジはそのままで、チャックのついた袋に入った状態で見せびらかす。

 それにしても、蘭は「元」戦闘員なんじゃなかったっけ? あ、纏も「元」だったね。

 もちろん、そんなことを知らない野次馬たちは信じてしまう。

 

「俺たちがいるってことはもう分かっちゃあいると思うが、魔法使いとの戦闘が始まっている。俺たちが連中を仕留めるまでは、全員部屋に立て籠もってな」

 

 集まれば早ければ、解散も早い。まるで、潮が引くように野次馬たちは帰っていく。

 魔法使いの脅威は、メディアで報じられている通りのこと。人々はただ、無事に平和を造ってもらうことに身を任せるしか何もできないのだから。

 

「やり方はともかく、一応なんとかなったね」

「よくとっさに思いつくもんだわ」

 

 思いっきり騙していたことになるんだけど、まあいいよね。結果的にお互いにいい形で落ち着いたんだし。

 

「どうよ、俺の悪知恵は――! 役にたっただろ」

「……まったく。そういうことに関しては頭の回転が速いんだな。でも、礼は言わせてもらうよ。覇人のおかげで無事に切り抜けれた。ありがとう」

「ま、お前もちょっとは理解できただろ。これが大人の世界での生き抜き方だ」

「だからって、真似して酒やギャンブルに手を出す気はないぞ。俺は、誠実に生きていくって決めているんだからな」

「真面目だねぇ」

 

 本当にそう思うよ。

 覇人ほどとはいえ、もうちょっと適当に生きてみればいいのに……。

 でも、こういう人が一人はいてくれないと、このチームはどんどんカオスになっていきそう。

 

「……いつまで話し込んでいるのよ。先、行くわよ」

「待ってよ……置いてかないでって」

「蘭さん、一人で先に行くと危険ですよ」

 

 覇人と纏のやり取りに付き合いきれなくなった、というよりも多分興味もなさそうな蘭は、接続の橋へと向かう。

 こっちはこっちで単独行動に出ようとするから、あっちこっちと振り回される。

 

「ここで立ち止まっていても仕方がないな。せっかく覇人が好機を作ってくれたんだ。今は先を急ごう」

 

 石畳となったロビーから接続の橋を遮っている、開閉バーを跨ぐ。

 目前に迫った接続の橋からは再びアスファルトで出来た道路に切り替わった。二車線の幅に加えて、線路が敷かれている。

 周囲は安全のためにガラス壁が天井まで覆っており、橋というよりは長い渡り廊下のよう。

 空を見上げれば満天の星々が照明代わりにもなっていて、まるでプラネタリウムみたい。

 横を眺めれば視界一杯に広がる黒い海。こんな静かな深夜では、波打つ音色が一層際立って、目を閉じれば優しい子守唄のように聞こえる。

 

「海なんて久しぶりに見たよ」

「ここじゃないと見れない景色ですよね」

「前はトンネルみたいだったけど、ガラスに変えたおかげで観光客が一気に増えたのよね」

「あんときは両端《ターミナル》の屋上に登らねえと見れない景色だったしな」

「そう考えると、この改装はかなり良い仕事をしたみたいだな」

 

 区画内には川や池、湖があったとしても海はない。なぜかというと、魔障壁が囲っているから。

 だから、唯一この場所だけが海を拝むことができる特別な場所になっているため、観光名所の一つとして数えられるようになったんだよ。

 とは言っても、ほかに何かがあるのかと言われると何もないから、私はこの場所に来ることなんてほとんどない。

 だって、わざわざ海だけを眺めるためだけにこんな区画の端っこまで行こうとなんて思わないし。

 そんな目的を持っている人は大抵、ロマンチストな思考をしているカップル。月の綺麗な夜だと、星も散らばっている。ベタだけど、私もそんな人たちと同類だったりするんだよね。なんかいいよね、そういうの。

 

「全員、止まって――。来たわ」

「こりゃ、大勢いやがるな」

 

 橋を渡っていくと、見えてきたのは大勢の人影。

 服装からして、警備兵だということが分かる。ということは、多分、二十人が待ち構えているということになる。

 

「やっぱり、避けては通れないみたいですね」

「だが、ここを通らなければ明日は来ない」

 

 茜ちゃんが銃を構え。

 蘭が魔眼で見据える。

 そして、覇人が半透明状の刃を手に執る。

 臨戦体制になった私たちに対して、警備兵たちからどよめきの声が走った。

 とりあえずはといった雰囲気で警棒を構えている。

 警備兵の本分は魔法使いとの戦闘ではないから、対処のしようがないし、どう戦えばいいのかも分からないに違いない。

 

 そこに私たちの勝機があるはず――

 

「ん? 一人、別格のやつが潜んでいるみたいだぜ」

「――え。いるの? そんな人」

 

 全員、一様にして同じ構えをしているのに、私には分からない。あ、もしかすると、真ん中に少し装飾の違った偉そうな人。二十九区の両端《ターミナル》の責任者だと思うからその人かもしれないね。

 

「――! 気を付けるのよ。一人、最悪な奴がいるわ」

 

 人影が割れて、明らかに異質な人物が現れる。

 

 服装も違う。喪服みたいな色を身に纏った戦装束。

 何度も襲われて、その色から逃げてきた。

 とうとう、こんなところでまで出会うことになるなんて。

 見慣れたその姿は、アンチマジックの魔法使い殲滅部隊――戦闘員だった。

 

「よう、久しぶりにみる顔だと思ったら、やっぱ蘭だったか。と、そっちの野郎は先日の……」

「あの姉ちゃんか。とっくに帰っちまったんじゃねえのかよ」

「覇人。知っているのか?」

「昨日、ちょっとあってな。ま、気にすんな」

 

 なんか怪しい。そういえば、夜から今日の朝にかけていなかったから、その時間に何かあったんだろうね。

 

「――柚子瑠《ゆずる》……あんたとこんなところでまた会えるなんてね。思っても見なかったわ」

 

 感動の再会? には見えないけど、一体……。

 

「誰? 蘭の知り合い?」

「見たところ、戦闘員だと思いますけど……蘭さんの戦闘員時代での付き合いのあった人なんですか」

 

 事情を窺う眼差しを向ける。

 

「華南柚子瑠(かなんゆずる)。元三十区所属の戦闘員よ。そして、あたしと同期でもあるわ」

「その同期がそっち側に堕ちるとは、聞いた時は何かの冗談かと思ったよ」

「……一通りの事情は知っているみたいね」

「まあな」

 

 蘭とは違って、ちょっとおっかない感じがする。蘭もおっかないといえばそうなんだけど、また違う雰囲気。なんというか、暴力的な印象。適当に茶化したりすると多分、受け付けてくれない感じ。

 

「B級戦闘員のあんたがわざわざこんな端っこの方まで見回りに来るなんてね。そっちは暇なのかしら」

「あ? そんなわけないだろ。てめえんとこの区が人手不足だって嘆くから、使いに出されてやったんだよ。で、その帰りってところでこの状況ってわけ」

「そう。それは迷惑をかけたわね」

「ほんといい迷惑だよ。戦闘員が二人も抜けて、守人とかいうクソ真面目そうないけ好かない野郎が異動するわで、いまそっちには監視官上がりの戦闘員しかいないんだろ」

「……! なによそれ。守人って異動したの? それに、監視官上がりって、まさか鎗真のこと?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。割り込んで済まないんだが、親父が異動ってどういうことなんだ?」

 

 纏のお父さんである天童守人は、ずっと三十区にいる戦闘員。纏と二人暮らしだから、いままでは離れることが出来なかったということ。

 その息子である纏が親から離れたんだから、異動したってことなのかな。

 

「そいつがクソ真面目の息子で、裏切りの戦闘員だったか」

「俺のことは、いまは置いといてくれ。それより親父のことについて教えてほしいんだ」

「そっちで起きた魔法使い騒動の解決後に、S級に昇格したついでに、中心地の二十三区に行ったぜ。鎗真とかいう奴は守人の後釜ってことだろうな」

 

 一旦、整理してみよう。

 

 天童守人がS級で異動。

 鎗真っていう誰か知らない人が戦闘員なり立て。

 蘭が魔法使いになって私たちの大切な友達になって。

 纏がアンチマジックを裏切ったことになっているということだね。

 

「じゃあ、三十区にいる戦闘員はその鎗真って人と月ちゃん、殊羅だけになるの?」

「ううん。月ちゃんと殊羅さんは回収屋という魔法使いを探して、あっちこっちと行き来しているみたいだから、三十区にいるとは限らないと思いますよ」

 

 そういえば、そんなこと言ってたね。月ちゃんと殊羅ももう、ここにはいない可能性もあるんだね。

 

「……あーあ。まったく……てめえらのせいで、うちはこれから残業に入ることになってしまったんだからよ。

 責任取っててめえら全員――大人しく捕まってくれるぐらいのことはしてくれよ――」

 

 腰元から取り出した鞭を激しく地面に打ち付ける。

 小気味いい音がなって、闘争心をむき出しにしてくる。

 

「同期のよしみで逃がしてくれたりはしないのかしら」

「甘いこと言ってるんじゃねえぞ――どっちかというとうちは、一度てめえとは力比べがしてみたかったからな。丁度いい機会だぜ」

 

 続いて、反対側の手に拳銃を構える。

 雨と鞭ではなく、銃と鞭。

 ただただ、暴力しか見せつけないね。

 

「終末無限の世界蛇《ヨルムンガンド》――。あの鞭は伸縮自在の鞭よ。どこまで逃げても追ってくるから気を付けるのよ」

「何言ってるの。私たちは逃げも隠れもする気なんてないでしょ。

 だって、前しか行く場所がないんだから――!」

 

 私は刀を創造する。

 白と黒の私が造りだす一振り。

 何色にも染まれる白紙。

 切り開かなければ色彩は乗らない。

 つまり、何もしなければ白紙のままだということ。

 斬るのは行き損ねるという絶望だけ。

 その色だけで十分。

 先行き明るい未来のために――

 この刀を希望で塗り替えてみせる。

 

「ああ、その通りだな。

 ――たとえ、誰が相手であったとしても、降りかかる火の粉は払ってみせる」

 

 纏は背中に担いでいた竹刀袋から太刀を抜き取る。

 夜に咲いた星の光が降り注ぎ、光沢のある黒塗りの太刀が淡く濡れる。

 

 

「魔法使いが四人と散り行く輝石の剣(クラウ・ソラス)の使い手かよ。いいモノを使わせてもらえてんだな。

 ――これはうちらの方に分が悪いな。けど、てめえらはここから生かすわけにいかねえんだよ。

 覚悟しな――! 一人、二人ぐらいの命は貰っていかせてもらうぜ」

 


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