狩人様は神喰いに。   作:zakuzaku

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久しぶりの本編です。
番外編やら書いているうちにお気に入り総数が250件突破していました。
ブラボ自体がニッチな作品なのでここまで読んでくれる方がいるとは思いませんでした。


戸惑い

――朝だ。目覚めというものは斯くも素晴らしい。ゲールマンの介錯に身を委ねていたら、このような朝を迎えられていたのだろうか。

 

などと、感傷に浸っている暇はない。フェンリルは案外人使いが荒いらしく、朝食を摂って数分後には任務が控えている。休暇は存外少ない。2週間以上任務が続くこともざらである。俺自身、簡単には疲労困憊しない自信はある。が、しかし他のブラッドの面々のこともある。ロミオやナナには結構辛いのではないだろうか。

 

 

「心にもない労いとは如何なものか……」

 

 

くつくつと悪どい嘲笑を漏らす。それはやること成すこと全部が自分以外優先になってきている自身にか、はたまたそんな自身を信じる他者へのものか。あり得ないことを嘯くのなら、属に言う「人間性」が回復しているとでもいうのか。そこまで考えて思い至る。そもそも――。

 

 

「『人間』の俺は……どんな奴だったか」

 

 

……いかん。感傷に浸っている暇はないとさっき自分で言い聞かせたばかりだろう。下らないことを考えている暇があるならさっさと身支度を済ませ、ロビーに行くべきだ。自身にそう言い聞かせ、壁に掛けてあったコートを着込んだ後、部屋を出る。

 

 

「……あ」

 

 

俺の声ではない。それは目の前の人物からのものだ。

 

 

「よう、よく眠れたか?」

 

「ッ……おはようございます」

 

 

無意識にそう言ってしまったが皮肉過ぎただろうか。目の前の人物、シエルは隠すつもりのない敵意を視線に乗せてぶつけてきた。以前より隙の無い立ち振る舞いではあったが、今はその比ではない。明らかに彼女を纏う雰囲気が違う。手を出そうものならすぐにでも噛み付く……出会った当初の番犬はその姿をさながら孤立した野犬の様に変貌させていた。簡素な挨拶を終え暫しの沈黙の後、彼女は俺の前を通り過ぎてエレベーターに乗り込む。俺も同伴しようと思ったがそうもいかない様だった。何故なら――。

 

 

「仲間に向ける殺気じゃないな……結構結構」

 

 

背を向けているのに一歩近づけば悪寒が走る。自身が人並み以上に殺気に敏感なのもあるが、それにしてもこれは……まあ、粗方狙い通りだから別に構わない。今は存分に俺を敵視し、周りを疑えばいい。その心が彼女自身を守ることに変わりは無いのだから。

 

 

「シエル、俺はお前を"信用"しているぞ」

 

 

その言葉の真意は、『今の』彼女に伝わることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「うぇ~……感応種かぁ。やっば、緊張してきた」

 

 

私こと香月ナナは食べ物の消化は早いと自負してるけど、緊張の飲み込みは無理なんだよねー……と勝手に自己分析して緊張を解そうと試みたり。

 

数分前、新しい任務が私たちに追加された。なんでも、前にアドルのことをボコボコにしたアラガミと同じ種類のアラガミが討伐対象らしい。流石にアレと同じ強さのアラガミではないらしいけど、普通のアラガミじゃあり得ない攻撃とか行動とかしてくるって話は聞いている。そんな話を聞かされてから数分後、輸送トラックの車内で勝てるのかなーと心配してる今に至る。

 

 

「緊張するのも分かる。が、今の俺たちなら勝てない相手じゃない。俺だけじゃなく、ラケル先生やフライアのみんながお前たちの実力を知っている。だから、心配するな」

 

 

ジュリウス隊長、安心させようとしてくれてるのは分かるけどさ。逆に言えば、失敗したらみんなをガッカリさせちゃうっていう意味にもなるよね。むぅ、緊張してるときってやっぱり何処かでマイナスのイメージを持っちゃう。アドルとシエルちゃんはどうなんだろ。

 

 

「……ん?どうした、ナナ。腹でも減ったか?」

 

「なんでそーなるの!?」

 

 

ジュリウス隊長は普通に緊張していることに気付いたのに、この御仁はどうしてそんな発想になるのかね!?

 

 

「なんだ、違うのか。今回は任務前におでんパンを食べていなかったようだったから、てっきり腹が減ったのかと思ったんだが」

 

 

あー……確かに食べてなかったけども、私だって一応女子なんだからいつも腹が減ってる奴みたいな認識はちょっと傷つくよ?でも、確かに嫌な気持ちになった時とかはいつもおでんパンを食べてた。そんなことも忘れるぐらい緊張してたんだ。

 

そう思い、いつも持ってる袋からおでんパンを取り出しほおばる。口の中に少し甘いパンと塩分控えめの出汁の味が広がると同時に、いつもの感覚が強張る体を包んだような気がした。少しするとその感覚は日常に帰って来たような安心感に変わり、知らず知らずのうちに私の緊張を取り払ってくれた。

 

 

「うむ、やはりナナは食事の時が一番生き生きとしているな」

 

「それ褒めてる?」

 

「食事を率先して摂ろうとする姿勢は美徳に決まっているだろう」

 

「……アドルって難しい表現使うよねー」

 

 

なんかもうなんで緊張してるのか分かんなくなっちゃったよ。そもそも、新しいアラガミなんていつも戦ってるし、みんなで全部乗り越えてきた。変に意識してるのは私だけだったみたいだね。アドルもジュリウスもシエルちゃんもみんな戦い慣れしてるメンバーだし、勝てるに決まってるよ、うん。

 

 

「あ、そういえばシエルちゃん。私いつもショットガンばかり使ってるけど、今回はシエルちゃんと同じスナイパーに変えてみたんだよー。アドバイスとか貰えるとうれしいな!」

 

「へっ?……あ、ああ。はい、分かりました」

 

 

あれ、なんか反応が上の空?もしかしてシエルちゃんも緊張してるのかな……はっ、実は私の射撃が余りにも酷過ぎて改善のしようが無いとか!?

 

 

「大丈夫!私、射撃の間合いとか考えるの苦手だけど、近づくアラガミは吹っ飛ばして遠距離で狙えるようにするから!」

 

「そこまで近づかれたのならその場で止めを刺したほうがいいのでは……?」

 

 

あ、それもそっか。確かにわざわざ吹っ飛ばす必要性なかったね。でも、遠くからの射撃って難しいよ。細かい動きとかあまり得意じゃないし、待つのも性に合わないしさ。

 

 

「まあ、そこは臨機応変にってことで……とにかく今日もよろしくね!」

 

 

私はおもむろに彼女の手の甲に手を重ねる――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

「え――」

 

 

何の変哲もない、私としては挨拶のような行為。けどシエルちゃんは重ねた手を払うようにして一気にひっこめた。今までされたことの無い反応に私は茫然としてしまう。

 

 

「えっと……ごめんね?なんかその、嫌だった?」

 

「あ、いえ!違うん……です。その、少し驚いただけで」

 

「んー……?」

 

 

よく分からない。けれど決して良い反応でないのはわかる。自分で嫌だったかと聞いたけど、そういうモノじゃない気がする。うまく言えないけど、シエルちゃんは、少し痛々しいようにみえた。

 

 

「そろそろ現地入りする。各自神機の準備を怠るな」

 

 

遮るようにジュリウス隊長の声が響いた。再度シエルちゃんに目を向けるとずっと下を向いて、思いつめたような表情をしていた。できることならもう一度話しておきたかったけれど隊長の命令もあり、私は神機ケースを用意するため輸送トラックの後方へと移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

自分でも非常に馬鹿らしいと思う。どうして、こんなにも怯えているのか。彼女は同じ部隊の仲間なのに。

 

 

……『仲間』って、なんでしょうか。

 

 

私には友人と呼べるような人間はいない。ラケル先生やレア博士のような尊敬に値する、いわば家族のような人はいる。でも……そんな人たちでさえ、アドル副隊長を信頼している。ジュリウス隊長も、ナナもロミオもギルも……みんなが彼を慕っている。だが、副隊長自身が周囲を信頼しているとは限らない。

 

 

 

『――目で見える情報というのは常に限定的なもので本質が現れることはほとんどない。思考を巡らせ、模索し、真実を暴くことだ』

 

 

 

その言葉があの日からずっと頭の片隅に渦巻いている。ここ数日、彼の言う『真実』とは何なのかと考えてはみた。が、依然としてその答えは見つからないまま今日を迎えてしまった。それに彼はこの言葉を『忠告』と言ったのだ。そして最後に――。

 

 

『Come with me if you want to live......』

 

 

直訳すれば『生きたいのなら私について来い』という意味。要は前言の忠告を素直に受け入れろということなのだろう。馬鹿馬鹿しい、自分を殺そうとした人間の言葉を素直に受けとれる訳がない。

 

 

「おいナナ、服におでんの出汁のシミが……」

 

「え?あ、ホントだー。でもこれからいっぱい汚れるんだから一緒でしょー」

 

 

他愛もない会話を平然とするその姿は偽りのもの。仮面の下に潜んでいるのは獰猛な獣……いや、狩人と言うべきか。隙を見せたが最後、躊躇なき凶刃に命を落とすだろう。警戒を怠ってはならない。心を許してはならない。戯言に耳を貸してはいけない。そう思わなければならない。そうでなくてはならないはずなのに――。

 

 

 

 

……どうして、こんなにも心が揺れているのでしょうか?

 

 

 

『まもなく戦闘エリアに到着します。皆さんご武運を――』

 

 

普段通りの通信が無慈悲に時の流れを告げる。当然その事実に逆らうことはできず、感情の整理が付かないまま、私は戦いへと赴くしかなった。




GOD EATER ONLINEが配信されましたねー。実を言うとそれを理由にGESSを執筆しているユーザーたちでコラボ企画が立ち上げられまして、参加させて頂くことになりました。問題は―――



内容全然何も考えていないんですよね




・・・何書くかなぁ(遠い目)

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