今週も忙しくなりそうなので、更新はまた来週とかになりそうですね~
眼を開けた先に待っていたもの、それは『夢』だった。そう形容するべきだろうか。いや、正確には……。
「……戻ってきたのか」
吐いた溜息は何に対するものなのかは分からない。だが、今の心境を形容する言葉すらも見つからない。故にそうせずにはいられなかったのだ。刹那、自分のものではない声が後ろから響く。
「お帰りなさい、狩人様」
懐かしい声……と言っても離れていたのは数週間程度だが、聴き慣れたフレーズと共に呼びかけられた。
「……人形か」
そこには自分よりも背の高い人間……否、人形が佇んでいた。まあ、予測通りではあったがな。どうやらここは正真正銘の『狩人の夢』らしい。
「すまなかった」
「……?どういうことでしょうか?」
俺は人形に詫びた。謝られた当人は意味が分からないようで、首を傾げる。
「知っているとは思うが……俺は君の主人であるゲールマンを殺した」
俺はあの世界に飛ばされる以前に、狩人の夢の主……いや、正確には『管理者』であるゲールマンを殺した。
あの時、俺は彼の介錯を断り、まだ狩人として成したいことがあると彼に伝えた。だが、彼がそれを許すことはなかった。当たり前だ、その時点で俺は彼にとって『用済み』であり、これ以上ヤーナムに看過させる意味がなかったからだ。彼の目的は『赤子』の力を手に入れた狩人、すなわち俺が得た力を月の魔物へと献上することだった。故に、俺がこれ以上生きながらえる必要性もないため、強引にも俺を殺そうとしてきたというわけだ。しかし……。
「正当防衛でやむを得なかったこともある……だが、理解してほしい。俺はこれ以上夢に囚われる彼を見たくなかった」
俺は知ってしまったのだ。彼がどんなに酷く、残酷で、悲しい過去を背負って生きているのかを。ルドウイーク、マリア、ローレンス……彼は掛け替えのない存在全てを失った。だが、その苦しみから逃れることは青ざめた血が許さない。無限地獄とも言えるであろう苦しみから彼を解放するためには、これしか方法がなかったのだ。
「狩人様、私はあなたを恨んだりはしません。寧ろ、ゲールマン様をこの夢から解放して頂いたことには感謝しています」
その言葉に感情というものは感じられない。人形は表情を変えずに続ける。
「私には……何もできませんでした。あの方が感じている苦痛も、悲しみも、何一つ手助けすることはできませんでした……。ですが、狩人様のおかげであの方は、本当の意味での安らぎを得ることができたのです。恨む理由など、私にはありません」
「……ありがとう」
一瞬、彼女の口元が微笑んだ気がした。だが、それは彼女が深々と頭を下げたことにより定かではないものとなった。だが、彼女が俺を恨んでいないことが分かり、少しだけ心が軽くなった。その安心感からか、戻ってきた当初の疑問を思い出した。
「ところで、聞きたいんだが……なぜ、この空間は未だ存在している?それと、俺はここに戻るまでの間どこに行っていたんだ?」
俺の疑問、それは二つある。一つ目としては、そもそも俺はゲールマンを夢から解放した後、月の魔物を倒した。ここが奴が創り出していた空間なのであれば、形を保っていられるはずがない。だが、現にここにこうして残っている。それが第一の疑問。二つ目、それは先ほどまでいたはずのアラガミが存在する世界の事だ。今はこうして狩人の夢にいるが、あの世界がただの『夢』であったとは思えない。
「ここはもう、狩人様の知る『狩人の夢』ではありません」
「……?どういうことだ?」
今度は俺が首を傾げる番だった。俺は黙って人形の話に耳を傾けた。
「狩人様が月の神を屠り……月の力を手に入れた時、確かにここは一度崩壊しました。ですが狩人様はご自身が崩壊に巻き込まれない様、ご自身を別の場所へと転移なさられたのではないかと思われます。そして、その後転移なさったその場所から、長い年月をかけこの空間を創ることに力を注ぎ……空間の修復が終えたことを見越して帰還なされたのだと、私は思っています」
突拍子のない話だ。理解はできるが納得がいかない。話によれば無意識にこの空間を作り出したとのことだが、。
「長い年月……それはつまりどのくらいの時間だ?」
「恐らく……100年以上かと思われます」
「100年……」
言葉を失う、だがそれならば全ての事に説明がついてしまうのも事実だ。あの世界の技術力、食やその他の文化……全てが先進的で、人が生み出したとは思えないような代物ばかりだった。が、しかし、雨垂れが長い年月をかけて岩を穿つように、人類が地道な努力の果て得たのがあの未来だというなら合点がいく。
「では、その間俺は……」
「記憶がないのでしたら、恐らく身を隠してお休みになられていたのではないでしょうか。狩人様は既に上位の方となられましたが、その神にも等しいお力をまだご自身の意志通りには扱えるわけではないのでしょう……。ですが、ご自身の安全を確保するためには無意識的に使役できるのではないかと思います」
人形の話は俺にとって突拍子がなく信じ難いものであったが、全て納得のいく範疇であり、俺は事実として話を受け入れていた。数百年もの間、意識のないまま身を隠すなど不可能とも思えたが、実際俺は『姿なきオドン』の従者であるアメンドーズの力を得ている。それを考えれば自身の姿を消し、数百年隠れることも可能だろう。
「じゃあ、今の俺の体はどうなっている……?あの世界から消えたということか?」
従来通り、夢に戻っているのであれば俺はあの世界から消えていることになる。そもそも、だ。狩りを全うし、上位者にまで成り果てた俺は今後何をすれば良いのか。あの世界に……
「いいえ……今この場所にいるのは、狩人様の意識だけです」
「何……?」
「恐らく、これも無意識の内なのでしょう。あちらの現実に実体をを残し、狩人様は狩人様の意識だけをここにご帰還なされたようです。なぜかと聞かれると……また推察になりますが、狩人様自身がその方が都合がよいと判断なさったのでしょう」
無意識で色々しすぎだろう俺の体よ。だが、少し安心した。確かにその方があちらでは都合がいい。突然、消えたとなれば大騒ぎになるだろう……。あれ――?
「どうして……大騒ぎになると都合が悪いんだ?」
先ほど自分で思ったばかりだろう、これからどう生きていけば分からないと。なのにどうして、俺はあの世界で都合の悪いことをしたくないと思うのだろうか。もっとも俺のような化け物が世界に看過する方が危険なことだというのに。
「……そうすることで、きっと狩人様が成すべきことがあると……狩人様ご自身が分かっているのでしょう」
「無意識の内にか?」
無言で頷く人形。やれやれ、俺の『意志』は定まっていないというのに、俺の『意識』は勝手に動いているようだ。結局、狩人のころと何一つ変わらない。自嘲気味な笑みを口元に浮かべ、頭を掻く。だがまあ、やることは大体分かった。俺は結局のところ
「……分かった。今後も、あの世界で生きようと思う。明確な目的はまだないが……今は、道なりに進むのみだ」
「分かりました。狩人様がそう仰るのなら、私はそれに従います。」
「あぁ、色々助かった。用があればまた戻る」
「はい、ではこちらに――」
人形が歩き出し、俺はそれについて行く。少し歩くと見慣れた場所に付いた。
それは俺とゲールマンが死闘を繰り広げた場所であり、すべてが終わった場所――。
「大樹の下に、墓石があります。そこから現実とこの空間を行き来できるようになっています。今後はいつでも戻れると思いますので、いつでもお帰り下さい」
「うむ、相分かった」
言われるがまま大樹の元へと向かう。そして墓石に手を伸ばそうとする。
「……ん?」
ふと、隣を見ると手前の墓石より一回り大きな墓石が立っていた。そこには――
ルドウイーク
ゲールマン
マリア
ローレンス
---安らかにここに眠る---
「はは……」
自分が勝手に作り出したものなのは分かっている。だが、それでも『救われた』のだと感じた。エゴでもいい、彼らが静かな安らぎを得られるのであれば……。
「……あの、狩人様」
唐突に呼ばれて、振り向いた。そこにはいつも通りの佇まいをした人形がいた。しかし――
「――少し、お変りになりましたね」
彼女は、微笑んでいた。枷など何処にも無い、自由な表情で。声もどことなく温かさを感じる。そうか、簪を渡した時に君が感じたという温かさはこのような感覚だったのだな。
「……ああ、君もな」
それだけ言って、墓石に手を触れた。視界が揺らぐような感覚に思わず目を瞑る。数秒と経たずして、意識が光の中へと飲みこまれていった。
「いってらっしゃい、狩人様。貴方の目覚めが、有義なものでありますように――」
その言葉を聞き終えた刹那、俺は再度『
※注釈※
狩人の夢は月の魔物が空間を作り出したときに、ゲールマンの意識に強く残っているものを具現化したもの。
よって、狩人の古工房を模して創れられ、副産物として具現化した人形は結果的に狩人の助けを担う者となった。
そして、今回創られた夢もそれと同じ原理であり、アドルの意識の中で強く残っているものをベースに創られた結果、大樹の墓場と人形が生成された。
といった風な、私なりの考察のもとに話を進めています。
ただでさえ正確な情報が少ないゲームですので、時折自分の考察を織り交ぜることもあります。その点はどうか、ご了承ください。