艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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Opus-12 『Bitterly point』

 

ほんの一瞬のことだった。

 

 

だが起きたその出来事は状況を劇的に変えた。

 

 

窓を突き破った銃弾が峻の左手にあったリモコンスイッチの送信部を撃ち抜いた。

 

 

それに呼応するように盾を持った海兵たちが突入。叢雲を庇うように峻との間へ割り込んだ。

 

 

『形勢逆転だな』

 

 

「ああ、そうだな!」

 

 

東雲の言葉に対して叫び返しながら峻が素早く間を取って窓に向かって突進。顔の前で両腕をクロスさせて体当たりした時に飛び散る破片から身を守ると外へと飛び出した。

 

 

そして着地する前に右手のCz75を持ち替えてワイヤーガンへ。手近な建造物に向けて撃ち込むとターザンロープの要領で一気に移動した。

 

 

遠くでもう1度、銃弾。空中では身動きが取れないとわかった上での狙撃だろう。

 

 

「ちっ」

 

 

右脚のブースターを一秒だけ作動。それだけで峻の体は左手に動き、銃弾は掠めるだけに留まる。

 

 

「まだまだ!」

 

 

空中で撃ち込んだワイヤーを外して巻き取り、次の建造物へ撃ち込む。位置エネルギーを速度に変えて、古くなってボロボロの廃墟を飛び回る。ワイヤーフックを打ち込んでは次へ。ワイヤーを巻き取らせることによって高度を稼いで振り子のように移動し続ける。

 

 

「発砲許可は降りている。撃て!」

 

 

「っ!」

 

 

右脚のブースターを使って左右に避ける。だが完璧には避けれない。何発かが峻の体を掠め、右肩を抉る。

 

 

危うくワイヤーガンを取り落としそうになることを堪えて射線を遮る位置を狙って建物の陰へと滑り込む。そのままワイヤーを巻き取って高所へと上っていく。

 

 

「あった」

 

 

これだけの数の海兵隊を運ぶために移動用の乗り物があると峻は睨んでいた。そして予想通り、少し離れて高い場所に登れば包囲網が敷かれた向こう側に大型車が停まっている。

 

 

「もらうぜ、その車」

 

 

包囲網を敷いている海兵隊の頭上に飛び降りると包囲している海兵を薙ぎ倒す。幸いにも前の憲兵隊と違ってボディーアーマーなどは着けていないため、右脚のブースターは使用せずともよかった。

 

 

「落ちろ」

 

 

手近な海兵に駆け寄ると膝蹴りを叩き込む。崩れ落ちる姿は見届けずに次へ飛びかかると顎を殴って意識を飛ばす。

 

 

「撃て!」

 

 

瞬時に全ての銃口を見て射線予測。空中では思うように身動きが取れなかったが、地に足がついていれば自在に動ける。あとは予測した射線から体をずらしておけば弾は当たらない。そして回避しながら右のワイヤーガンをCz75に持ち変えると連続で引き金を引いて銃をはたき落す。

 

 

「車はいただくぜ」

 

 

峻が今、欲しているものは逃走用の足だ。だから車がいる。ただくださいと言ってくれるわけではないこともわかりきっている。その為に力ずくで奪おうとしている。

 

 

「させん!」

 

 

「へえ、海兵隊ともなればそれなりがいるじゃなねえか」

 

 

突き出された拳が車に近づこうとした峻の左肩を捉えた。運転手だろうか。バックステップで衝撃を緩和させるとにやりと右の口角を吊り上げる。

 

 

「ここで終わりだ、帆波峻」

 

 

「できるものならやってみな」

 

 

もう一度、海兵が右拳を振り抜く。峻が左に首を傾けて避けると勢いをそのままに右脚で蹴りつけた。

 

 

「ぐっ」

 

 

海兵が腕で蹴りをガード。同時に横へ飛ぶことで峻と同じように威力を殺す。

 

 

「なかなか。だが浅い」

 

 

右脚のブースターを起動。蹴り終わって姿勢の崩れた峻の体勢を無理やり戻すと、今度は左足で胸の中央付近を蹴って吹き飛ばした。

 

 

「おし、あらかた片付いたな」

 

 

まだ数名ほどちらほら残ってはいる。だがこの数は放置したところでどうとでもなる。武器は全て破壊するか弾き飛ばしてあるのだ。

 

 

大型車に寄ると助手席に座って番をしていた海兵を打ち倒して鍵を奪い取り、キーシリンダーに差し込んで回す。エンジンさえかかってしまえばあとは簡単だ。

 

 

アクセルを踏み込んでスピードを上げる。最後の包囲網として配置されていた海兵たちはもう峻によって無力化されているため、逃げるのは楽勝だ。

 

 

「さて、目的は果たせた。こっからはどこに身を寄せようかねぇ」

 

 

死ぬなと言われた以上は死ぬわけにいかない。エンジンを噴かせて廃墟の中を突き進みながらこれからどうするべきか考えを巡らせる。

本格的にやることがなくなった。目的意識もない今はどうするか。完全に峻は路頭に迷っていた。

 

 

戦わなければいけなかった。それなのに戦う場は失われてしまった。もう峻は深海棲艦との戦いに身を置くことはないだろう。

 

 

「どうせ空港とかには顔写真が配られてるんだろうしな。国外逃亡は無理だろう」

 

 

助手席から答えはない。もう叢雲は東雲が無事に保護しているからだ。けれどそれでいい。これで良かったのだ。むしろ狙い通りですらある。

 

 

「マサキ、俺もお前のこと全てを知ってる訳じゃない。だが俺が叢雲を人質に使った時に怒れる人間なら信じられる」

 

 

ハンドルをきって曲がる。行く先は決まらない。この手にあるのは片道のみで行方が書き込まれていない切符だ。それでもアクセルは踏み続ける。先は決まってなくとも死ぬなと言われた言葉を無下にすることはできない。死ぬなと理由を与えられてしまったから。

 

 

「だから頼んだぜ」

 

 

ニヤリと右の口角を吊り上げる。頼んだ相手は誰か知るのは峻のみだ。

 

 

「ぐ、ごふっ」

 

 

口の端から赤い液体がつつ、と流れ落ちる。無茶の代償だ。右脚の連続使用はやはりこの傷が塞がりきっていない体には堪える。

片手でハンドルを握ったまま、ぐいと拭う。どこに行こうかとあてのない考えをぼんやりと巡らせる。スラムや難民キャンプにでも身を寄せるのがいいだろうか。

 

 

人混みの中に紛れ込めれば隠れることができる。だが都会では私服憲兵の目が光っている。スラムでもそれは変わらないかもしれないが、紛れこみやすいこともまた事実だ。

 

 

「っとと、忘れてた」

 

 

ポケットに入れていた壊れたリモコンスイッチを車を走らせたまま、近くの川へ投げ捨てた。もうこれに用はない。どうせ押したところで何も起きない無用の長物だ。

峻が電波の周波数をいじったため、スイッチを押して電波を発信したとしても、叢雲の首に嵌められていた爆弾は爆発しない。そういうふうに作った。

 

 

行くあても目的はない。ただあるのは死ぬことはできないというその身を縛る戒め、そして戦わなければいけないという強迫観念。

 

 

マリオネットの糸は切れた。もう指示を出す人間はいない。

 

 

ならば今まで指示通りに動いていた人形はどうなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 

叢雲の目がゆっくりと開く。どこか清潔感がありながらも殺風景な部屋だ。見たことのない天井に嗅いだことのない匂い。そして今まで嵌められたことのない……手枷。

 

 

「ああ、そっか……」

 

 

捕まったんだ。

 

 

そう叢雲が認識するまで大した時間はかからなかった。当然といえば当然だ。手枷なんて嵌められるようなシチュエーションはそう簡単に思いつかないからだ。

 

 

「まあ、限界は来てたものね……」

 

 

全てを峻に頼りきっていた。戦闘に参加せずに見ていただけ。叢雲は頼りきってしまっていた。散々、峻のことをサボり屋だなんだと言っておきながら怠惰なのは叢雲本人ではないか。

 

 

内心で自嘲する。とはいえやることは決まっていた。自分が捕まったということは一緒に逃げていた峻も捕まったのだろう。

 

 

だから助けなくてはいけない。これではまたあいつは自分の命を散らすことになってしまう。それだけは回避しなくてはいけない。助けてもらった恩義は返さなければいけないから。

 

 

「問題はどこにいるかなのよね……」

 

 

おそらくここは横須賀鎮守府だろう。東雲の率いる海兵隊に捕まったため、ほぼそこに関しては確実だ。

だが横須賀の敷地は広い。その全てを探して人ひとりを見つけ出すのは並大抵のことではないし、なにより時間がかかる。

 

 

そして時間をかければかけるほど不利になる以上は、確実だと思えるまでは大人しくしておく方が良策だろう。

 

 

手枷はどうしようか。いっそのこと壊してしまおうか。だがそう簡単に壊せるような作りだったら枷になるとは思わない。

 

 

最悪の場合は足技だけでなんとかするしかないかもしれない。そう思いながら体を起こす。毛布を戒められた両腕で苦労してどかし、ざっくりと畳んだ。

どうしようかと思案しつつベットの上に座りながら壁に背を預ける。

 

 

ちょうどいい具合に思考の海へと叢雲の意識が沈み始めた時、鍵を開ける音が唯一の出入口である部屋のドアから聞こえた。

 

 

「こい」

 

 

「……」

 

 

いわゆる尋問、というやつなのだろうか。無言で叢雲は言われた通りにドアまで歩いて行き、両脇と前後をしっかりと囲まれた状態で廊下を歩かされる。

 

 

「入れ」

 

 

言葉通りに部屋の中に入る。さっきの部屋と変わらないくらい白い壁紙とスツールがふたつ、テーブルがひとつという殺風景さだ。なんというか、イメージされる警察の取調室とそっくりだった。壁のうち一面がすべて鏡になっているところなど特に。

 

 

「さて、説明してもらうぞ」

 

 

「……」

 

 

「聞いているのか」

 

 

「……」

 

 

知らない男が言えと強要してくるが、口を開いてやる義理はない。幸いなことに、相手を無視するやり方は慣れている。どこ吹く風で素知らぬ顔。これだけやっておけば十分だ。

 

 

「何か言ったらどうなんだ。だんまりはないだろう」

 

 

「私から話を聞きたいのなら東雲中将を連れてきなさい」

 

 

「中将どのはお忙しい身だ。お前のような反逆者に割いてやれる時間などない」

 

 

「そこのマジックミラーの向こう側でこっそり聞く暇があるなら私に割く時間の捻出くらい余裕だと思うけど?」

 

 

さらりと言い切る。尋問官は表情を変えるようなことはなかったが、流れた空気と沈黙で叢雲は自分の勘が当たったことを察していた。

 

 

「図に乗るなよ、反逆者が」

 

 

「詳しい事情も知らないくせに反逆者扱いなんてね」

 

 

尋問官の言っていることは間違っていない。というか積極的に行動したのは叢雲で、さらに言うなら叢雲の行動した結果、峻も反逆者になっていたわけだが。

 

 

「貴様……」

 

 

こういう時の正しい対応なんて叢雲は知らない。だから咄嗟に思いついたのは峻の真似事だった。煽るような口調を真似して、本丸を引っ張り出す。この方法しか叢雲には思いつかなかった。

 

 

「なぜ貴様のような艦娘のために東雲中将どのが……」

 

 

「いやいい。俺が出張ろうじゃねえか」

 

 

尋問官の入ってきたドアをゆるりと押し開けて東雲が取調室に入ってくる。抗議しようとした尋問官を東雲が右手を上げるだけで押しとどめる。

 

 

「ですが!」

 

 

「いい。それにお前も尋問なんてやったことなかったのに無理させて悪かったな」

 

 

あとは俺がやる、と東雲が肩を叩いた。どこか申し訳なさそうに退出した尋問官だった男がいなくなるのを東雲が見送る。

 

 

「ご指名ってことだから来てやったぜ」

 

 

「無理を言って悪かったわ」

 

 

「別に構わん。で、教えてくれ反逆者。全てを」

 

 

「全て……か」

 

 

何を告げるべきなのだろうか。クローンのことは言うなと言われているし、将官クラスが怪しいと教えられている状態で中将である東雲に告げるのは躊躇われた。

 

 

だがそれならば何を言えばいいのだろうか。

 

 

あいつのことをどれだけ私は知っている? 何も知らないじゃないか。それなのに何を教えられると言うの? 時折あいつが見せる考え込んだ顔の裏も聞けずじまい。

 

 

「結局、私はあいつにとってなんだったのかしらね……」

 

 

「知らん。俺に言われたところでその答えが返ってくるわけないだろう。俺は帆波峻じゃない」

 

 

「それもそうね」

 

 

寂しげな声色がころりと変わる。聞いたところで無駄な事もわかっていた。

 

 

「悪いが少女の感傷に付き合ってやるほど俺は暇じゃない。だから単刀直入に行こうや」

 

 

首を回しながら東雲がスツールを引き寄せる。どっかりと腰を下ろすと机に両肘をついて手を組んだ。

 

 

「教えろ。帆波峻はどこにいる?」

 

 

「えっ…………」

 

 

目の前が真っ白になった。時間が止まったのかもしれないと錯覚する。

 

 

「ま、待って。あいつは捕まったんじゃないの……?」

 

 

「捕まってねえ。今もなお逃走中だ」

 

 

捕まってない。まだ逃げている。そんなわけない。あいつは……

 

 

「信じられねえか。だがこれならどうだ。横須賀海兵隊と帆波峻の戦闘記録映像だ」

 

 

見せられた映像。

 

 

それは峻が爆弾を叢雲の首に嵌めることによって人質にして海兵隊と話している映像だった。

 

 

それは峻が叢雲を置いてワイヤーガンを駆使して逃げている映像だった。

 

 

「そんな……そん、な…………」

 

 

映像は作られたものだ。東雲中将は嘘をついている。だからこんな事ありえない。

 

 

誰でもいい。これは現実じゃないと言って欲しい。こんなの嘘だと。

 

 

否定したい。否定したい。否定したい。否定したい。否定したい。

 

 

 

 

 

 

否定、させてよ…………

 

 

 

 

 

 

どれだけ否定したくともできない。叢雲も伊達に峻の秘書艦を務めていたわけではない。この手の映像を加工したものならば峻のいたずらなり、休憩時間の暇つぶしなりでいくらでも見てきた。だからわかる。わかってしまう。

 

 

この映像には加工した痕跡なんてなかった。

 

 

「私は…………」

 

 

叢雲がうなだれる。何も考えたくない。もう見る事も聞く事もしたくない。

 

 

「知らねえみたいだな、その様子だと」

 

 

「……捕まってるものだと思ってたのよ、今の今まで」

 

 

「意地の悪い事を言って悪かったな。人質扱いされた傷も残ってるだろうによ」

 

 

ふっと東雲が放っていた圧力を引っ込めて柔和な表情に変わる。

 

 

「だめだ。俺はどうもこういうのは苦手みたいだな」

 

 

「……そう」

 

 

「ああ。まあ、叢雲ちゃんが人質だったのを保護できたから成功とするさ。とりあえず横須賀鎮守府からは出られんが、その中でならある程度の自由は保証してやるよ」

 

 

「……感謝するわ」

 

 

「もう行っていい。っと、忘れてた。手を出せ」

 

 

無言で手枷の嵌められた両手を叢雲が東雲の前に差し出す。東雲がポケットから鍵を取り出し、手枷の鍵穴に差し込んで回すといともたやすく叢雲の両手を戒めていた枷が落ちた。

 

 

「ちょうどひとり部屋が空いてる。そこを自由に使っていい。常に見張りのつく生活にはなるがそれは仕方のない処置だと思って諦めてくれ」

 

 

「十分すぎる待遇よ」

 

 

礼だけすると叢雲が退室し、与えられた部屋へと案内されていく。完全に退室し、しばらくしてから東雲が詰めていた息を吐いた。

 

 

「酷だよなあ、まったく……」

 

 

「ご立派でしたよ、提督」

 

 

「そう言ってくれるのは翔鶴くらいのもんだよ。で、どうだった?」

 

 

微笑みながら翔鶴が取調室に入り、東雲から少し引いたところに立った。

 

 

「脈拍も呼吸も乱れてました。ですが、当然すぎる反応です」

 

 

「だろうな。彼女は見捨てられたんだ。当然といえば当然だ」

 

 

「嘘をついているかは脈拍などからはわかりませんがおそらく、いえ十中八九ついていないと思います」

 

 

「俺もそう思う。どこか大人びてすれてる風だがあの子の根は素直だ」

 

 

「そうですね。ですが今後はどうしましょう?」

 

 

「それなんだよなあ……」

 

 

ガシガシと東雲が頭を掻き毟る。叢雲にカマをかけてみれば峻の行方もわかるかと思ったのだが、当ては外れた。わざわざマジックミラーの向こう側に翔鶴を残して観察させ続けるまで念を押したが、意味はなかったようだ。

 

 

「叢雲ちゃんの動向に気を配りつつ、帆波峻の捜索を続けるってとこか」

 

 

「わかりました」

 

 

「いくか。いつまでも窓ひとつない取調室じゃあ息が詰まる」

 

 

スツールから立ち上がり、東雲が伸びをしてから取調室を出た。翔鶴が後に続き、東雲の手できっちりと鍵を閉める。

足音だけが響く廊下。そこに水滴が落ちる音が混ざり合う。

 

 

「雨、か」

 

 

東雲は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやって部屋に案内されたかわからない。ただぼんやりと歩いていたらいつの間にか部屋の中にいた。

 

 

「……雨ね」

 

 

なんとなく、というよりも気の迷いみたいなものかもしれない。雨に打たれたくなった。

叢雲は部屋を出て、ぼんやりと歩き始めた。傘を持っていかなければいけないという当たり前の考えも浮かばなさった。

 

 

「人質、ね…………」

 

 

雨粒が叢雲を叩く。青みがかった銀髪がしっとりと濡れて、服が肌に張り付く。

 

 

別に人質にされたことはまったく叢雲を傷つけていなかった。

 

 

なぜなら自らを人質にして包囲網を突破するように峻に言ったのは叢雲自身なのだから。

 

 

あの時点で叢雲は攻撃したと認知されていなかった。だとすれば人質として自分の身を使うことができる。そう考えて峻に提案したのは他ならぬ叢雲自身だった。

首に爆弾を嵌めて自分の身柄を利用しよう、と。だから爆発しないのは知っていた。

 

 

なんでそんなことをしたのか。答えは単純で簡単だ。

 

 

何もできない。ただずっと戦闘は任せっぱなし。

 

 

それが嫌で嫌でたまらなかった。まるで自分の無力さを目の前で突きつけられている気分だった。

 

 

だから自分の提案が通ったのだと思った時、どこか寂しさを感じながらも嬉しくすらあった。

 

 

「でも、私は……」

 

 

埠頭にむかってぽつぽつと歩き出す。冬の雨は身に凍みた。けれどそんなこと今はどうでもいい。

 

 

あの時、薬を盛られた。おそらくは睡眠薬。

 

 

始めは人質らしく見せるための演出だと思い込もうとした。薄れゆく意識の中できっとそうなのだと。

 

 

「でも違った。私がひとりで勝手にそう思い込んだだけだった!」

 

 

いきなり走り出そうとして足がもつれる。そのまま叢雲は倒れ込んだ。泥水が跳ね、口の中に入った。じゃりじゃりとした感覚が気持ち悪くて吐き出す。

 

 

だが立ち上がろうとする気は起きなかった。だからそのまま泥水の水たまりに倒れ込んだままでいた。

 

 

「なんで……」

 

 

拳をきつく握りながら声を絞り出す。届かなかった。遠すぎた。

 

 

「なんで私を置いて行ったぁぁぁぁ!!」

 

 

少女の慟哭が雨音の中で悲痛に響いた。

 





こんにちは、プレリュードです!
うん、どうしてこうなった! 迷走どころの騒ぎじゃねぇ! もはや終着点すらぶっ壊しそうな展開に書いた本人が困惑するという事態です。でもここまできたら突っ走るしかないんですよね。

えー、そして1つご報告を。

なんと私、プレリュードは艦これの合作企画に参加させていただきました!活動報告でもあげさせていただきますが、他のメンバーの方々が超絶豪華すぎて卒倒しそうですw
艦隊これくしょんーコンコルディアの落日ー
https://novel.syosetu.org/118909/
という作品です。もしお時間があればぜひ!

感想、評価などお待ちしてます。それでは!

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