艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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OpUS-09 『Disgusting point』

ボロボロのビルの屋上で伏せた姿勢のまま、スコープをのぞく。

スコープの向こう側に見えるのはこれまたボロボロの廃屋。ただ1点、廃屋の窓をじっと睨み続ける。

 

「なあ、動きはあったか?」

 

「ない。てかテメエは観測手(スポッター)なんだから見えてんだろ」

 

「なんの動きもないと暇だよな」

 

「…………否定はしねえ」

 

トリガーカバーに指をかけたまま、スコープをのぞき続けるのは確かに暇だ。いや、いっそ苦行ですらある。冷たいコンクリートに寝そべり、冷たい風に晒されながらじっとしているのはかなり忍耐力を要されることだ。

 

「そろそろ隊長どのが痺れを切らさねえといいんだがな」

 

「言うなよ。じれったい気持ちはわかるつもりだぜ?」

 

「硬直状態ってのはどうもな……おっと」

 

拡声器のスイッチを入れた時に聞こえる独特の音が鼓膜を震わせ、スナイパーとスポッターのふたりが押し黙る。

 

《あー、あー。帆波峻、貴様は完全に包囲されている。銃殺許可は出ているが、大人しく投降すれば殺しはしない。投降したまえ。繰り返す、投降したまえ》

 

「……投降すると思うか?」

 

「しないに缶コーヒー1本」

 

上乗せ(レイズ)しなくていいのか?」

 

「お前もどうせしないに賭けるんだろ」

 

「まあな」

 

「ならこの賭けは成り立たねえじゃねえか」

 

「はっ、ちげえねぇ。っと……」

 

ザザッ、と通信機がノイズを発する。アイコンタクトで静かにするよう相方に告げると通信に出る。

 

『目標が窓に姿を現したら撃て』

 

「……殺ってもいいってことですか?」

 

『ああ。どのみち上は殺して構わんと言ってきている。これ以上、伸ばすのも面倒だ』

 

「了解」

 

相方がぐるりと首を回す。切れた通信機をじっと見つめていた。

 

「聞こえてたか?」

 

「ああ。殺れってことだろ?」

 

「ビンゴ。さて、やるか」

 

その声を皮切りにして上からイヤーマフがしっかりと装着しているか確認。右目でスコープをのぞき込む。相方のスポッターが望遠レンズを覗き込む。

 

「窓から姿を見せた瞬間に殺る。頼むぜ相棒(スポッター)

 

「任せな相棒(スナイパー)

 

緊張の糸がさっきよりも一段と張り詰める。肌で感じた風の向きと強さ、空気の湿り具合など含めて長年の経験から大まかな弾道を事前に導く。

 

あとは姿を見せたら細かい修正を行い、この人差し指をトリガーにかけてゆっくりと引けばジ・エンドだ。

 

自分が担当の窓をじっと見続ける。風の音や軋むコンクリート、カサカサとゴミが転がる音など、周囲の雑音がフェードアウト。自分の規則正しい呼吸音だけが聞こえる。視界には遠くの窓しか入らなくなった。

 

両目を見開いてその時を待つ。勝負は一瞬。窓に姿を見せたら速攻で弾道を補正し、一撃で決める。

 

自分が超一流だと自惚れるつもりはない。むしろ狙撃の腕は平凡の部類だ。

だが狙撃手として必要なものがあるという自負はある。

 

相手の届かないところから一撃を叩き込む狙撃は卑怯だと思われるかもしれない。最前線には出ないため、こちらの命を危険に晒すことなく、無慈悲に相手の命を刈り取るからだ。

 

卑怯と罵られようと、殺す覚悟だけはきっちりと持っている。

 

だから躊躇いなくこのトリガーは引ける。

 

「…………きた」

 

帆波峻だ。窓ごしではあるが、姿を捉えた。

 

「おおよそ窓枠上方から30、右から25だ」

 

「了解」

 

脳が唸りを上げて回転する。コンマ1秒にも満たない時間で弾道を補正し、狙いを定める。

 

呼吸を整えて銃身がブレないよう、慎重にトリガーに指をかけ、ゆっくりと引いた。

 

リコイルショック。

 

身体中に震動が這い回る。

 

サプレッサーによって抑えられた銃声がしんとした大気を震わせた。

 

スコープは覗いたままに。硝煙が風に吹き飛ばされ、すぐに視界はクリアになった。

 

帆波峻が左手を額にやった。狙撃されたことに気づいたのか?

 

いや、だが手のひらごときで狙撃用の銃弾を防ぐことなどできはしない。体がどっと後ろに倒れ込んで姿が完全に見えなくなった。

 

「ヘッドショット。お見事」

 

「どうも。あっけないな」

 

相方が望遠レンズから目を離した。縮こまっていた背中をぐぐっと伸ばす。

 

「ま、これでよかったんじゃねえの? そういやこれでボーナスとか出ないのかね?」

 

「さあな。お上の采配に期待するさ」

 

肩を竦めながらスコープにつけていた目を離してまばたきをした。狙撃手の仕事はここまでだ。あとは前衛部隊に任せる。

とはいえ今の狙撃で確実に仕留めたはず。前衛がするのは死亡の確認だけだろうが。

 

「ま、あとは作戦終了の合図を待とうぜ」

 

「そうだな。ボーナスが出たら飲みにでも行こうや」

 

「ははっ、いいかもな」

 

男2人が笑いあう。もう決まったも同然だった。

 

 

 

 

 

「狙撃が成功したとの報告です!」

 

「よし!」

 

ずっと難しい顔をしていた現場指揮官の顔に喜色が浮かぶ。いそいそと指揮卓につくと憲兵隊の配置状況とにらめっこを始める。

 

「第107憲兵隊から4名を選出しろ。編成でき次第、廃屋の中へ突入させる」

 

「はっ!」

 

素早く机に駆け寄る。現場において出せる人員は誰がふさわしいだろうかと考えを巡らせる。

 

「冷静に判断できる人間を中核に編成したいですね」

 

「そうだな。それを中心に腕の立つものを編成したいところだ。銃撃だけに限らずな」

 

「そうですね。狙撃は成功したとのことですが、万が一という可能性を捨てきれない以上は、念には念を押した方がよろしいかと」

 

「ああ。その通りだ」

 

現場指揮官が頷く。大所帯で行っても、廃屋が大きくないため、互いが邪魔になる。そのため、少数精鋭で突入させる必要があるのだ。

 

「まだ駆逐艦がどうなっているかわかっておらん。十分に警戒するように言っておけ」

 

「了解です」

 

副官が敬礼。仮設本部から回れ右をして出ると指定された人員たちへ向けた通信を飛ばした。

 

 

 

 

 

「で、俺らにお鉢が回ってきたと」

 

「そういうことになるな」

 

「腕を買って、とは言われましたけど貧乏くじ引かされましたねえ」

 

「まあ、そう腐るな。命令は命令だ。やるしかあるまい」

 

隊長がスリングが繋がった小銃を持ち直す。後に続く3人もそれに倣ってしっかりと保持し直した。

歩くたびにひび割れた道路の砂利がざくざくと鳴る。

 

「目標は死んだんでしたっけ?」

 

「確定ではないがな。我々のすべきことはその確認と駆逐艦の確保だ。駆逐艦が抵抗する場合は撃ってよし、とのことだ」

 

「駆逐艦っつーと年端もいかない女の子みたいな見た目でしたっけ? 嫌だねえ、そんなのを撃つなんて」

 

「交代要員の申請が必要か?」

「まっさか。冗談がキツイっすよ、隊長」

 

軽口を叩いていた部下も廃屋に近づけば黙った。フルフェイスメットを被っているため、表情まではわからないが、仕事の顔になっていることは察された。

 

「廃屋内の詳しい地形はわからん。その場の判断で対応する。いいな?」

 

「「「ラジャ」」」

 

廃屋の扉の前に立つ。銃撃のせいで穴だらけになった半開きの扉を内側へ蹴り飛ばすと4人が同時に小銃を構える。

 

「……よし、行くぞ」

 

トラップが仕掛けられていないことを確かめてから、廃屋に一歩目を踏み出す。4人が互いの背中を守りあうようにしながらゆっくりと前進。

 

「……確か1階の西向き配置の部屋でしたね」

 

「そうだ。もう少し先だ。警戒を怠らずに行くぞ」

 

「アイアイ」

 

荒らされた床埃のあとからここに目標はいたことがわかる。違うサイズの足跡が2つ。片方は男物、もう片方は女物らしきサイズだ。

 

背中に汗がにじむ。フルフェイスメットの中の吐息がわずかに荒い。

 

玄関からじりじりと奥へ。小銃を構えてキッチンの中に素早く身を滑り込ませる。誰もいない。

 

「……この奥だ」

 

キッチンから出ると、再び廊下を行軍。あまり大きくない家のため、廊下は決して長くない。だが安全確認をしながら一歩一歩と歩けば自然と時間はかかる。

 

そして階段にさしかかった時、階下に何かが勢いよく飛び降りてきた。何かは飛び降りてきた勢いをそのままに、先頭にいた隊長に当たり、壁際まで吹き飛ばした。

 

「かはっ……」

 

背中からとてつもない衝撃。肺の空気をメット内で吐き出した。頭がぐらぐらとする。立ち上がれと体に命ずるが全身が鉛になったように動かない。

 

ちっ、脳震盪か……

 

薄れゆく意識の中で隊長の男は自分がどうして気絶したのかを悟っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

峻は階下に飛び降りると位置エネルギーをそのままに、先頭にいた隊長格らしき人間を思いっきり蹴飛ばした。隊長格を落とせば一瞬だけでも混乱が生じる。そして誰が本部に報告するかと迷う。それを計算した上で初手は隊長格を落とすつもりだった。

伸びたことを右目の動きだけで確認すると、次の標的に狙いを定める。

 

発砲されると面倒だ。だからその暇すら与えずに片付ける必要がある。

殺さずに、そして撃たせずに。なおかつ撃たずに片付けるためには、こちらも出し惜しみはナシだ。

 

ダン! と左脚で踏み込むと加速。と、同時に右脚に意識を送って内部の機構を始動させる。

 

薙ぎ払うように振るわれた右脚の内部に仕込まれたブースターが作動。蹴りの速度が加速した。

 

速度は重さになる。ふわりと投げられたボールと全力で投げられたボール、どちらがぶつかったら痛いかなど論ずるまでもない。

 

ならば蹴りの速度を上げればどうなるか。もちろん、体感の威力は上昇する。

 

「ぐぁっ!」

 

ブースターの青白い光を引きながら峻の鋼鉄の右脚が小銃を叩き折り、蹴りを食らった憲兵の体が浮き上がる。そして先と同じように壁に叩きつけられて伸びた。

 

本部に連絡させる時間を与えるな。

 

ブースターの勢いに振り回されそうになる体をなんとか抑え込むと、今度は右脚のブースターを作動させながら踏み込み。

 

残る2人の懐に飛び込む。フルフェイスメットとボディアーマーのつなぎ目に手を差し込んで頸動脈を強く圧迫。それを2人同時に実行した。

 

もがこうとするがもう遅い。右が、続いて左の憲兵の力が抜けて崩れた。

 

──殺すんだ。さあ、我らが理想のために……

 

「ぐっ……」

 

ふらりと峻が揺れ、頭に手を当てる。震える左手がホルスターに向かって伸びていく。

 

落ち着け。ここは昔じゃない。殺しは悪手だ。

 

脈打つ心臓を抑え込む。打って変わって荒れ始めた吐息が耳障りだ。

 

「はあ、はあ、はあ…………ゴフッ!」

 

口から血が溢れ出した。口の端を伝う血を右の手の甲でぐいと拭う。

 

「無茶の代償、か……」

 

峻は退院している。だが完治と退院は違う。腕とあばらの骨折は治った。体の火傷も、裂傷も。

だが、内臓(なか)は別だ。あくまで退院できたのは日常生活においては支障がないレベルまで回復したと判断されたからであって、ここまでの負荷を体にかけることは想定されていない。

ただ暴れているだけでも体に負荷をかけていたのだ。それに加えて右脚の使用。

 

峻の右脚に仕込んであるのは小型とはいえ高出力のブースターだ。つまり生まれる振動も反動もただ蹴るだけとは段違いとなる。

 

もしも万全の体調で振るっていたのならこうはならない。明石は峻に渡された設計図を忠実に再現しつつ、体へ悪影響を出させないように製作していたからだ。

 

だが峻の怪我は完治していない。内臓の傷は塞がりかけなのだ。

 

「無茶無理上等。屈しねえぞ、俺は」

 

口元に残る血を拭ってがくがくと震える体を気付けとして叩く。喉にせり上がってくるものをこらえて、よろめきながらキッチンへと向かう。

 

無茶なんていまさらだ。さっきの狙撃されたフリをすることだって、後ろへ倒れ込むタイミングがわずかにでも遅れれば、峻は三途の川を渡っていた。

窓に姿を晒せば、狙撃手が撃ってくることは予測していた。だから遠くのマズルフラッシュを見逃さないようにした。あとは飛んできた弾丸に合わせて当たる1歩手前で後ろへ倒れ込む。左手で額を覆ったのはスポッターの目を誤魔化すためだった。

そして右脚の使用だ。とっくに無茶も無理も押し通していた。

 

床下収納に近づくと2回ノック。少し間を空けてからもう1度。

床下収納のふたが小さく持ち上がり、叢雲が顔を出す。

 

「……どうしたのよ」

 

「出てきていいぞ。まだ安全じゃねえけどな」

 

「ふうん……」

 

叢雲が床下収納から出てくると服についたホコリを払う。

 

「で、どうするの」

 

「時間がねえ。説明しながら行く。とにかく来てくれ」

 

上着を翻した峻の後を叢雲が急いで追いかける。早足で駆けていく峻は打ち倒したフル装備の憲兵たちのそばに膝をついた。

 

「こいつらの装備を剥ぐ」

 

「へっ?」

 

「いいから。時間がねえ」

 

峻が気絶した憲兵からフルフェイスメットからボディーアーマー、ブーツやらを手早く脱がせていく。

 

「ちょっ!? あ、あんた何するつもりよ!」

 

「変装。こいつらの装備を着けてれば憲兵隊になりすませる。ほら、その服の上からでいいからこれ着とけ」

 

ぽんと放り投げられた装備が叢雲の足元に転がった。峻はそのまま2人目の装備を剥ぎ取りにかかる。

完璧ではないことは承知の上。一瞬でも欺くことができれば重畳だ。

 

「っし。あとはこの2人を適当に縛り上げておいてっと」

 

凍え死なれては目覚めが悪いため、寝室に置きっぱなしになっていた布団で包むとその上から縛り上げて床下収納に詰め込んだ。

 

「いいか、叢雲。できるかぎりお前は喋るな。応答は俺がやる」

 

「どうして?」

 

「お前は声が高いだろ。野郎の声と言い張るのは無理がありすぎる」

 

どんなソプラノボイスな男だよ、と峻が苦笑した。着ている服の上から剥ぎ取った憲兵の服を着込んで装備を装着すれば、もう見た目は完全に憲兵と同一だ。

 

「いいか、俺たちはケガしている。そういうことにしろ。いいな?」

 

「ええ、わかったわ」

 

フルフェイスメットを被った叢雲がうなづく。峻もメットを被ると無線機のスイッチを押した。

『こちら本部。突入隊、応答を。繰り返す。こちら本部。突入隊、応答を』

 

「こ、こちら突入隊……」

 

『突入隊、何がありましたか?』

 

峻が声色を弱々しいものに似せる。さっきまで吐血したりしてきたので、近く似せるのは簡単だった。

 

「目標に襲撃を受け……2名が意識不明。自分を含めた残る2名も、やられました……」

 

『目標は?』

 

「わ、わかりません……姿が見えなく、なってしまい……ぐっ」

 

『すぐに追加の部隊を送る』

 

「自分ともう1人は歩けます……ですが残りは動けないため、担架などを……」

 

『了解した。そう伝えておこう。目標はまだ家屋内にいるか?』

 

「……すみません。それすらも……もしかすると他に脱出路を確保していたのかもしれません……」

 

『周辺も捜索すべきか……とにかくご苦労。自力で戻れるのならすまないが戻ってくれ。後方に仮設とはいえ手当てのできる場所がある』

 

「了解……」

 

プツ、と通信が切れた。峻は思わず息を吐き出す。

 

「な、なんとかなるだろ?」

 

「逆によくなんとかできたわね」

 

「それに関しちゃ同感だ。ま、こっから先も不測の事態が連発するだろ。臨機応変に行くからな」

 

壁に寄りかかって気絶したままの憲兵はそのままにして、表口の玄関から出た。あえてよろよろと足取りを不確かにして歩く。

 

「大丈夫か? ひとりかふたりを出して肩でも貸させるぞ?」

 

「いや、大丈夫だ。それより目標を…… 」

 

「わ、わかった」

 

わざと痛々しい声の中に強がるような調子を混ぜる。フルフェイスメットのため、顔は見えない。声はいつもと少し変えておけばそうそう気づかれるようなことはないだろう。

 

「気づかないでくれよ……?」

 

内心で祈りながら進む。本部を迂回してだんだんと人気のない場所へ。つけられていないことを確かめつつ、着実に憲兵隊がいた場所から遠くへと離れていく。

 

「おい」

 

「っ! はい、どうしました?」

 

「確か突入隊の2人だな? そっちじゃない。仮設医務室は向こうだ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

くるりと向きを変える。舌打ちしたくなる気持ちを抑えて仕方なく仮設医務室へと足を向ける。

 

「待て」

 

だが投げかけられた一言が峻と叢雲の足を止めさせた。奥歯を強く噛み締めて苛立ちをこらえようとする。

 

「動くな。貴様らは包囲されている」

 

「……やっぱ無理あるよな」

 

峻が素早く反転すると声をかけてきた男に近づき、腰に伸びかけていた手を弾く。そのまま一瞬で締め上げた。

 

「がぁ……ぐ、ごぁ…………」

 

5秒できっちりと意識を刈り取る。ぐったりと憲兵が倒れ伏すまでさしたる時間は必要なかった。影から飛び出してきた憲兵隊の数に舌打ちし、叢雲を投げ込むように影へ放り込む。

 

「誘い出しかよ、くそったれ!」

 

コンクリートが抉られ、破片が飛び散る。視界が確保できない屋内でやりあうよりも、外でというわけだろう。

こうなると防具は邪魔になる。さっさと脱ぎ捨てるとCz75とナイフを抜き取って構えた。

 

「いっ……けぇっ!」

 

右脚のブースターを作動させながら大きく飛び上がる。建物の取っ掛かりを足がかりにして軽やかに屋上へと上っていく。

幸いなことに憲兵隊から峻の壁を駆け上がる姿は見ることができない。そしてブースターの駆動音も、銃声にまぎれて上手く聞こえない。

 

「っと。うん、行けるな」

 

屋上から峻が確認したのは憲兵隊の車が停めてある位置。そして憲兵隊の展開状況だ。それさえ大まかにわかってしまえば対応できる。

 

再び取っ掛かりに足をかけつつ、叢雲の元へ。トン、と軽く着地すると砂埃がもわっと舞い上がった。

 

「もうボディアーマーは脱いでいい」

 

「えらく早いのね」

 

「今は身軽が最優先だ。この角を走った先に車が停めてある。そこまで駆け抜けるぞ」

 

「でも銃撃にあうわよ?」

 

「だからこいつを使う」

 

峻が取り出したのは憲兵隊の車両から以前、盗んだ手榴弾だ。

 

「これで一瞬だけ気を引く」

 

「大丈夫なの?」

 

「ああ」

 

手榴弾と言っても爆破規模はそこまで広くない。だが音はかなり大きい。それなりの音がでれば憲兵の注意を少しだけくらいなら逸らすことができる。

 

「スリーカウントで行くぞ。いいな?」

 

「了解」

 

「3、2、1……ゴー!」

 

手榴弾のピンを抜いてカウントを始める前のタイミングで思いっきり投擲した。コン、と地面に手榴弾がぶつかると同時に音を立てて炸裂した。

その時には既に叢雲と峻は走り出していた。憲兵たちがわずかな時間、手榴弾に気を取られている隙に走り出した。目指すは憲兵隊の車両だ。

 

「開かないわよ!」

 

「すぐ開ける!」

 

叢雲がドアを引っ張っている間にコネクトデバイスで車体の電子ロックをしているシステムにバックドアを構築して侵入するとロックを解除した。

Cz75で牽制。撃つことで憲兵の接近を防ぎつつ、ついでに周囲に停まっていた他の車両のタイヤを撃ち抜いてパンクさせた。そしてするりと運転席に滑り込みながら制圧したシステムからエンジンをかける。

 

「飛ばすぞ! 舌噛むなよ!」

 

アクセルをベタ踏みして全力で逃走の姿勢に入る。追いかけられるであろう車両は潰した以上は、この場から素早く逃げれば跡を追われることはない。

 

後ろから銃撃が続く。だが走行している車にそうそう上手く当たるわけがない。すぐに憲兵から車は豆粒のようなサイズになるまで遠くへ離れていった。

 

「やられた……」

 

 

 

オペレーション・イーカロスは失敗した。




こんにちは、プレリュードです!

我ながら無茶苦茶をやったな、と思っております。変装て。それにひっかかんなや。とかすっごい反省してます。
本当に最近タスクが溜まりまくってて1話あたりが雑にならないようにしないとって思ってはいるんですけどね、はい。まあ、とにかくがんばります。
それにしても最近、他の艦娘を出してないなぁ。そろそろ出してあげたいんですけど機会がなかなか……

感想、評価などお待ちしてます。それでは!

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