艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです!

とりあえずチキンの自分はイベント難易度をさっさと途中から丙に下げました。現状で嬉しかったドロップは時津風海風春風朝風の駆逐艦たちですかね?
丙提督のみなさん、E-5はボスマスでA勝利でも朝風は落ちますよ! 自分が落ちたんだから間違いないです。丙だからどうせ落ちないなんてことはない! さあ、立ち上がれ丙提督! 丙で何が悪い!



願いの理由

『おいおい、翔鶴。こりゃどういう状況だ?』

 

「私にはなんとも……」

 

東雲の問いかけに翔鶴が困惑したように口ごもる。それも無理ないことではあった。

 

『さらしなが沈んでるのも驚いたが……レ級が1体に減ってるのはどういうことだ?』

 

東雲は到着直前に峻に一言入れておこうとしてさらしなへ通信を繋ごうとしていた。だがまったく繋がらなかったので内心でかなりヒヤリとしていたのだ。

つまり、東雲は事前にさらしなが沈んでいる可能性はあると察していた。だからこそ、そこに関してはさほど驚いていなかった。

だがレ級に関しては意表を突かれた。報告では2体だったはずだったが、どれだけ確認しても1体しかいないのだ。

 

『あの野郎……まさかあの欠けた戦力でレ級を落としたってのか……』

 

「状況から鑑みるにそうとしか……」

 

東雲と峻の通信は完全に途絶えている。確認しようとかけ直しても恐らくは出ないだろう。東雲も翔鶴もそう直感していた。なにかよっぽどの事情がない限り、峻が帆波隊の指揮権をそう易々と渡すことなどありえないからだ。

 

『まあいい。2体を相手取るつもりで来たのがその半分で済むんだ。負担が軽くなって悪いことはない』

 

「そうですね。では提督、ご指示を」

 

レ級が新たな獲物を見つけたと言わんばかりにニタリと不気味に嗤う。翔鶴の皮膚が粟立ち、ぞくりと背筋に寒気が走った。それでも後ろに下がることはせず、むしろ1歩前に進み出て、キッと眉を吊り上げた。

 

『翔鶴、攻撃隊発艦。吹雪、翔鶴の護衛に回れ。比叡、砲撃用意。目標、敵戦艦レ級。その他はそれぞれの援護に回れ』

 

「「「了解」」」

 

たった一言。それだけ告げると東雲隊という群れは統率された行動を見せ始める。

 

「第一次攻撃隊、発艦はじめ!」

 

弦をピンと張り、引き絞る。吸って、吐いて、吸って。呼吸を止めると弦を引いていた右手を離す。

 

翔鶴が操る攻撃隊とレ級の飛ばした異形の艦載機が空中で交錯する。翔鶴は攻撃隊に機銃を掃射させつつ、最大速度で駆け抜けさせた。異形の艦載機は一瞬すぎるできごとに対応が遅れ、編隊の一部が崩れる。

 

「私がやっつけちゃうんだから!」

 

そして崩れた編隊に吹雪の高射装置から撃ち出された弾丸が襲いかかる。

 

「横須賀を……舐めるなあああああ!」

 

吹雪の艤装に集中配備された三連装の機銃が火を噴く。それでも全てを撃ち落とすことは出来ないのだが、穴の空いた攻撃なら回避することができる。

投下される爆弾をすいすいと避け、迫り来る魚雷の信管を誤作動させて爆破処理する。

 

「私たちはどうすればいい?」

 

天津風が近くまですり寄り、指示を仰ぐ。北上と叢雲はあまり戦力としてあてにならなくとも、天津風とゴーヤはまだ動けた。ゴーヤは大半を海中に潜っていたため無傷で済んでいるし、天津風もダメージはあるが、自律駆動砲がまだ2機も残っている。これだけあればそれなりには戦えると考えたのだ。

 

『いやいい。帆波隊は後方待機。砲撃支援だけしておいてくれ』

 

だがその申し出を東雲はばっさりと切り捨てる。

 

「…………砲撃支援命令、了解よ」

 

なぜ申し出を受けなかったのか。それがすぐにわからないほど天津風の頭に血は上っていなかった。

ここまで2時間、1回の休憩も挟むことなく戦い通しだったのだ。しかも、常にフルスロットルで、だ。ランナーズハイと言ってもいい加減、限界を迎えているのは火を見るより明らかだった。

 

後方に下がっていく天津風たちを目の端に捉えながら翔鶴は小さな違和感を感じた。

 

「叢雲ちゃんが戦闘継続不能になるなんて……」

 

珍しい、というよりそんなことがありえたのかと半ば疑う気持ちだった。

翔鶴たちは詳しい事情は知らない。叢雲が無茶をした結果、レ級が討たれたことも、その反動として艤装の機関部が摩耗してしまっていることもだ。

そしてその感情も。

 

『いたずらに戦闘を引き延ばしても旨味はねえ。速攻で片付けるぞ!』

 

東雲の合図と共に翔鶴が発艦させていた攻撃隊をレ級に肉薄させる。当然、レ級もさせじと艦載機をぶつけてくるが、伊達に横須賀鎮守府の主力を(うた)ってはいない。翔鶴の攻撃隊は敵艦載機郡を食い破り、穴を開けるとそこからなだれ込んでいく。

 

『全艦、一斉射用意!』

 

翔鶴が艦爆で動きを抑えている内に比叡たちが狙いをつける。一撃で正確に全弾を当てるために風速から波高、湿度、果ては気流など全ての値を入力していく。

 

「くっ……」

 

だが間に合わない。翔鶴がレ級の動きを押えつけていたのだが、がむしゃらに撒き散らされる砲撃に攻撃隊が思うように接近できないようになってしまったのだ。

このままではせっかく精密につけた狙いが無駄になる。もう一度やりなおせないわけではないが、何度も繰り返し挑戦する度に被害は出てしまう。そうなれば総合的な火力は落ち、一撃にて葬り去ることが難しくなる。

 

「やらせないわ!」

 

高速で動く物体がレ級に体当たりを敢行し、爆撃の網から抜け出そうとしていたレ級がよろめく。

それは天津風の自律駆動砲だった。レ級に全速力で衝突させた衝撃により砲塔が大きく歪み、ボディがひしゃげていた。

 

『今だ! 撃てぇ!』

 

「まっかせてください!」

 

天津風が作った隙を逃す東雲ではない。すぐさま砲撃命令を下すとそれに呼応して比叡が一斉に砲門を開いた。他の艦娘たちも競うようにして砲撃を始める。

余すことなく砲弾がレ級の体に突き刺さるとその白亜の体躯を抉っていく。

 

「徹甲弾です。弾け飛んでください!」

 

比叡が叫ぶとレ級の体内に埋まった徹甲弾の炸薬が爆発し、その体を内側から壊していく。

そして周辺にぶよぶよとした肉塊を撒き散らしながら海中へと没して行った。

 

「戦闘終了。周囲に他の敵影なしです」

 

『ごくろうさん。そのままラバウルにいってそこから帰ってこい。ところでどういう経緯があったか説明できる奴は誰かいるか?』

 

「あ、ゴーヤができるよ」

 

『そうか。じゃ、頼む。具体的にはシュンの野郎がなんで通信に出られないのかを』

 

「てーとくは……意識が飛んだんだと思う。それくらいの大怪我だったし、あの怪我のままで指揮を執っていたこと自体が異常だよ」

 

『あれが意識を飛ばすってことは相当だな……ラバウルにも医療施設はある。そこで本格的に治療だな。容態は?』

 

『輸送船団長の長浜です。集中的に治療しとりますが、なにぶん船の設備では延命が限界でして……ですがラバウルまでならなんとかなると医務長が言っとります』

 

『ならばそのまま急行してください。翔鶴、そのまま輸送船団の護衛につくんだ』

 

「了解しました」

 

怪我の程度は言われなかった。だがかなりのものだということだけは予想できた。

 

「大丈夫だといいのだけれど……」

 

不安そうな翔鶴の胸中を他所に、船団はラバウルへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラバウルまでは半日程度かかった。これでもそれなりに飛ばしたのだが、やはり船。足は決して早くない。

けやき丸では輸血をしたが、あまりにも失われた血液が多く、生理食塩水でショック症状が起きないように誤魔化してなんとか峻は三途の川を渡らずにいた。

 

そしてラバウルに着くと同時に緊急搬送され、集中治療室にいた。治療室に入ってからかれこれ3時間が経過している。

 

「てーとく、大丈夫だよね……?」

 

廊下に置かれた人工革の長椅子に座りながら祈るような気持ちでゴーヤが呟く。絶対に大丈夫だと言い切りたいが、あの怪我を直視して大丈夫だなどと安易に言うことができなかった。

 

「私がもっとパラレルを上手く使えていたらっ……」

 

比較的、負傷した中でも軽い怪我だった天津風が悔しそうに拳を強く握りしめる。その頭部には包帯が巻かれている。隠れているが服の下も恐らくは。

 

「天津風はもう大丈夫なの?」

 

「私の怪我はほんとに大したことないから」

 

手をひらひらと振って平気であることを天津風が示す。天津風に関して言うならば自律駆動砲の損失が多かった。だが逆にそれが犠牲になることで天津風自身の怪我は大事に至らなかったのだ。

 

「問題は北上ね。直撃もらってるから……」

 

「うん。だからちょっち引きずってるよ」

 

腕に点滴を打ち、病人着をまとった北上が車椅子の自動化した車輪を回しながら手術室の前にやって来た。左足をギプスに包み、頭部から胴体にかけてぐるぐると包帯に巻かれている。

 

「大丈夫なの?」

 

「天津風、心配しすぎー。高速修復材を使うほどじゃないってー」

 

北上がけらけらと笑う。少し無理をした痛々しい笑みではあるがそれでも無事らしい。

 

「叢雲はどうしたでち?」

 

「んー、よくわかんないけど精密検査だって」

 

「へえ……」

 

納得したようなしてないような声でゴーヤが頷く。3人は知らないことだったが、叢雲が無理やり使用したリーパーシステムの後遺症が無いかどうかのチェックを受けているのだった。

 

天津風は立っていることが疲れたのか、ゴーヤの隣にポスンと座る。薄暗い廊下に秒針の音だけがコチコチと響き、時間がゆっくりと流れる。

 

「すみません」

 

「翔鶴……さん?」

 

コツコツと靴の踵を響かせて翔鶴が手術室の前の廊下に現れた。

 

「東雲中将からの連絡です。帆波大佐の処置が終わり、医者の許可が出たら飛行機で横須賀に戻るように、とのことです」

 

ゴーヤたちが目を合わせる。司令官は現在進行形で手術中。そして秘書艦も精密検査とやらで外している。この場合はだれがこの命令を受ければいいのだろうか。

 

「天津風、いく?」

 

「いやよ。北上、あなたが行きなさいよ」

 

「えー、あたし? パスかなあ」

 

「あ、あのー……」

 

持ってきた辞令を受けとられずに、自分そっちのけで堂々とひそひそ話を目の前でされた翔鶴が戸惑う。

 

「「「さーいしょーはグー。じゃーんけーんぽん!」」」

 

「あのー、私はスルーですか……」

 

挙句の果てにだれが受理するかを決めるためにじゃんけんを小声で始める。一応、手術室に迷惑がかからないようにという気遣いが元で小声になっているのだが、目の前で辞令だけ伝えて置いてきぼりにされている翔鶴には丸聞こえだ。

 

「翔鶴さん、辞令をもう一回お願いするでち……」

 

そして負けたゴーヤが翔鶴の前に進み出る。今日はゴーヤにとってグーが鬼門らしい。

 

「あっ、はい……帆波大佐の怪我が移動しても問題なくなった時点で意識の有無は関係なく横須賀まで飛行機でくるように、とのことです。横須賀中央病院に個室を取ったそうなので、そちらの方が養生できると。その際に、帆波隊は大佐に同行してください。あと私たちも飛行機には同乗させてもらいます」

 

「了解です……えっとこれでいいのかな?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

馴れない様子でおっかなびっくり受理をするゴーヤを微笑ましげな表情で翔鶴が見つめる。

 

その時、手術中のランプが消えた。手術室から峻の乗ったストレッチャーが押されて来る。瞼は閉じたままで口に酸素マスクを付けられ、点滴など至るところにチューブが繋がっている。

 

「っ! てーとく!」

 

ゴーヤはストレッチャーに駆け寄ろうとするが、看護師に押しとどめられる。仕方なく押されていくストレッチャーを見送った。そしてストレッチャーが角を曲がって見えなくなった後に、手術室から執刀医らしき男が出てきた。

 

「帆波大佐はどうですか?」

 

落ち着いた様子で翔鶴が進み出る。その背中にゴーヤたちが続いた。不安が濃くにじみ出た瞳が執刀医を見つめる。

 

「しばらく意識は戻らないかもしれませんが、一命を取り留めました」

 

「怪我は? 大丈夫……なのかしら?」

 

天津風がおそるおそる問いかける。

 

「広範囲に火傷が見られますが、深度が浅いため大事には至っていません。また左眼の網膜に傷がついているため、一時的に視力の低下が見られると思いますが、おそらくすぐに視力は回復するはずです。あとは内臓ですね。爆発した時の破片が突き刺さり、傷ついています。しばらくは激しい運動を避けた方がいいでしょう。ですが破片は摘出しましたし、こちらも時間はかかりますが、治っていくかと。問題は……」

 

「問題は?」

 

北上が車椅子でにじり寄る。天津風も小さく1歩まえに出た。だがゴーヤは進み出ずにいた。恐らくはゴーヤだけが執刀医が続いて口に出すであろう言葉をうすうす察していたからだ。

 

「問題は右脚です。完全に付け根の少し下あたりで吹き飛んでいます。残念ですが、今の医療では失われた足を生やすことは出来ません」

 

「嘘……」

 

「冗談……じゃないんだよね…………」

 

天津風と北上が絶句する。けれどゴーヤは驚かない。だからただ深くうなだれた。

 

わかっていた。沈みかけているさらしなの通路を背負うように肩を貸して一緒に歩いた時、こうなってしまうと知っていた。

 

今でも迷っている。

あの時、本当に峻の目になってもよかったのかと。余計に負担をかけてしまっていたのではないか。もしかしたら脳に変な異常が出て、目を覚まさないかもしれない。そんな不穏な予感がずっと胸の中を駆け巡る。

 

「ゴーヤは…………あれでよかったんだよね? 間違ってないよね?」

 

自分の答えが出ていないのに、問いかけたところで意味なんてあるわけない。時間が経ってもあの行動が正しかったのか自信が持てなかった。

だから答えが返ってくるとは思わなかった。

 

「間違ってなんかいないわよ」

 

声のした方向へ振り向く。そこにはほとんど無傷の叢雲がどこか足取りが重いような歩幅で歩いていた。

 

「ゴーヤ、あなたは間違ってない。あいつを支えてくれなければ私たちは全滅してたかもしれなかった。いえ、確実にそうなってた。だから自分を責めることなんてしなくていいわ」

 

「そうなの……かな?」

 

「そうよ。現に見なさい。みんな生きてるわ」

 

どこかしらに負傷はしているかもしれない。けれど生きている。峻も生死の境をさまよっているかもしれない。けれど戻ってくる望みは十二分にある。

 

だからゴーヤの働きは無駄じゃない、と叢雲は言外に告げていた。

 

「意味はあったんだ……」

 

「ええ。とにかく今は休みなさい。ほとんど休んでないでしょう?」

 

「う」

 

図星だった。戦闘終了から落ち着かなくてずっとけやき丸の医務室付近をうろうろと歩き続け、ラバウルに着いてからは運ばれていくストレッチャーを追いかけて手術室の前にある長椅子に居続けた。腰は下ろせているが、しっかりとした休息が取れたかと言われると微妙なラインだった。

 

「どのみちあとは容態が安定するまで待つだけよ。それにあいつが起きた時にゴーヤの目の下にクマがあったら締まらないじゃない」

 

「……うん、わかった。休んでくるでち」

 

実際、疲れていたのだろう。大人しくゴーヤは休むことを受け入れる。それに疲れてやつれた顔を見せるのはなんとなく抵抗があった。

ラバウルの基地司令が割り当ててくれた客人用の部屋に向かってゴーヤが歩き始める。これからベットで休むことを考えると急に眠気が襲ってきたあたり、疲労はかなりのものだったようだ。

 

少し覚束無い足取りで部屋へ歩いていくゴーヤの後ろ姿を叢雲は見守る。気づけば周りには誰もいなかった。天津風も北上も翔鶴もいつの間にか部屋に戻っていたらしい。

 

「ゴーヤ、確かに()()()()間違ってない。きっと……」

 

────きっと間違えたのは私だ。

 

思いっきり廊下の壁に拳を叩きつける。冷たいコンクリートの壁は物を言わずに、ただ衝撃だけが腕に返った。

 

「っ…………」

 

キリングマシーンにはなるな。

あの時、峻が投げかけた言葉が叢雲の頭の中でぐるぐると回り続ける。後になってから冷静に考えると、自分はやりすぎたのではないだろうか。あのレ級は尾を斬り落とした時、反応できていなかった。ならばすぐ一刀のもとに斬り捨ててしまえば済んだ話だった。それなのにレ級の両腕と両脚を切り裂いたのは峻が殺されたと勘違いし、怒りと復讐心に駆られたからだ。暴虐の限りを尽くし、ただ痛みと苦しみを与えてやることしか頭になかったのだ。

その証拠として叢雲は斬り飛ばしたレ級の頭を一刀両断するというなんの意味もない、憂さ晴らしすらしている。

 

「私はっ……私はっ…………」

 

強くなりたかった。でもそれを峻は否定した。その先にあるものは強さではないと。

 

なら私は何になりたかったのだろう。なんで強くなりたいと願ったのだろう……

 




金剛型が榛名、霧島、比叡ときて一番艦が未だ出てきていない事件。
だってあの子出すタイミング見失ったんですもん。ごめんよ金剛。まあ、それを言ったら赤城とか出てないし、長門に至ってはおまけ編であの扱いだし……
き、気にしたら負けということで!

感想、評価などお待ちしてます。それでは!

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