艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです!

イベントはみなさんどうですか? 諦めて自分は丙提督になりました。まあサラトガ欲しいからしかたないね。
山風来ません。丙提督にはドロップはねえってかアアン? だって資材が足りないんだよおおおおお!

そして劇場版艦これはいいぞ。もうね、あれは泣ける。アニメ見てないと繋がらないけど、見てるとやばい。思わず見終わった瞬間、パンフレット買いに走ってました。真面目に2回目とか行ってもいいレベルだと個人的には思います。とにかく睦月ちゃんがかわいい。いや、みんなかわいい。



死神の鎌

人は一定以上の強さで痛覚を刺激されると痛みを感じなくなるらしい。

峻は今の今まで自分の右脚がなくなっていることに気づいていなかった。

 

「てーとく! てーとく! しっかりするでち!」

 

「大丈夫……とは言えねえ、か…………」

 

何とか上体だけは起こし、背中を壁に預ける。吹き飛んだ右脚の根元からはとめどなく血が溢れる。緩慢な動きで上着を脱ぎ、袖を引きちぎった。残った背の部分を右脚の千切れた部位に当てて、破った袖できつく縛って止血する。

目に血が入ったせいで視界がぼやける。だが右脚の流血だけは止めておかなければすぐに失血死してしまうことはわかっていた。

 

ミシミシと軋む右腕を頸椎あたりへ。コネクトデバイスは稲妻のようなヒビが入っていたが壊れてはいないようだ。スラックスのポケットを探るとギリギリで中に滑り込ませた外部記憶媒体は無傷だ。

 

「ゴーヤ。肩、貸してくれ……」

 

「うん」

 

ゴーヤが峻の手を掴み、ぐいと持ち上げる。背の低いゴーヤはどちらかというと下から支える形で峻を立ち上がらせる。右脚が無いためまともに歩くことすらかなわない峻を支えてゴーヤはゆっくりと足を前へ。峻が左足だけで片足跳びのように移動するたびに床にポタポタと血が落ちる。

 

行きよりも慎重に、だが急いで。傷口がこれ以上、広がらないように細心の注意を払いながら脱出艇のあるハッチに向かう。

 

「そうだよなあ……ああわかってる……わかってるんだ…………」

 

峻が誰に向かって言うわけでもないことを囁く。ゴーヤはそのうわ言が誰に向かって言っているのかはわからない。だがどこか許しを乞っているような言い方だとだけ思った。

 

1歩前へ進む度に鮮血がこぼれ落ちる。痛覚は刺激されすぎてもはや感覚が鈍くなっている。

だがまだ死ねない。まだなにも果たせていない。

 

「てーとく、ついたよ」

 

「これを……小型艇に繋いでくれ……」

 

コネクトデバイスから延びる線をゴーヤに渡す。峻を小型艇にもたれさせると、受け取った線を片手にゴーヤは小型艇に飛び乗った。エンジンメーターの近くにあるキーシリンダーの隣に作られた配線を差し込む穴に突き刺すとすぐに峻の元に戻った。

 

「差してきたよ!」

 

「悪い、な……」

 

再びゴーヤに担がれるようにして乗り込んだ。朦朧とする思考を振り払い、小型艇の起動プログラムに侵入。すぐにエンジンがかかった。

操縦桿を握るのもえらいため、そのままコネクトデバイスを使って操舵。さらしなから小型艇がなめらかに発進した。

 

「うっ…………」

 

波に当てられ、舟が揺れるたびに痛みが走る。意識を手放さないように奥歯を強く食いしばった。

 

「あと少し頑張って。もうけやき丸につくよ」

 

「大丈夫だっての……」

 

強がってはみるが怪我はかなりひどい。さっきから艤装とのリンクを取り戻そうとはしてみるが、痛覚が邪魔をして思うようにいかないくらいだ。

 

峻とゴーヤを乗せた小型艇がけやき丸にあと少しのところまで接近した時、さらしながまた爆発した。今までの小さな誘爆とは違い、大きく船底に穴が開き、さらしなが本格的に傾き始める。船体に大きな亀裂が幾条も入り、装甲が崩落していく。

そして遂に鋼鉄の船が倒れた。周りの海水を道連れに渦を巻き、海底に向かってゆっくりと落ちていく。もう少し遅ければ一緒にどざえもんになるところだったかもしれない。

 

「大丈夫だよ。てーとくは大丈夫だから……」

 

「ははっ……こんなところでっ……くたばってられるか、よ…………」

 

強がってはいるが峻の声は苦悶に満ちていた。右脚が付け根の少し下で吹き飛んでいるのだ。いくら堪えようとしてもそう簡単なものではない。

口から粘ついた血が垂れる。それでもまっすぐにけやき丸へと舟を進めた。

 

けやき丸のハッチが開き、船内の誘導灯が道を示した。ゆっくりとその光を辿っていく。

 

「ストレッチャー持って来い! 緊急搬送だ! 重傷だぞ!」

 

舟を着けた先にはけやき丸の医療班が待機していた。素早く峻の体をストレッチャーに乗せると医務室に向かって走り始めた。その隣を艤装を外したゴーヤが並走する。

 

「待って、ください……」

 

「しゃべらないで! 傷口に障ります!」

 

「ゴーヤ……頼みがある」

 

隣を走るゴーヤの手首を峻が強く握る。そのあまりの力にゴーヤがびくりと震えた。

 

「あと20分……あと20分なんだ」

 

あと20分。それで東雲の救援が到着する。たったそれだけの時間を稼げば勝ちになる。だからこんなところでリタイヤするわけにはいかないのだ。

だが問題がある。両目ともに頭部から流れ出た血が入り、視界がぼやけているため、まともに戦場の状況を把握することができないのだ。

 

「ゴーヤ……俺の目になってくれ…………」

 

目が見えないのなら代わりになるものを用意すればいい。ゴーヤとの完全視覚共有。それで目が見えなくとも脳に映像を直接おくりこめば、見ることはできる。

 

「てーとくは……」

 

怪我をしているから無理しないでほしい、という言葉を言いかけてゴーヤは飲み込んだ。掴まれた手首にこもる力が峻に引き下がる気がさらさらないことを如実に示している。

この場において峻の支えとなり、力になれるのはゴーヤだけだ。そして峻はまだ戦うつもりでいる。自らの命を削ってでも戦う覚悟を決めている。

 

「任せて」

 

そこまで覚悟を決めているならば。そして自分が助けになるのなら。

自分を助けてくれた男のためにゴーヤは決意を固める。

 

いつまでも彼に頼ったままではいけない。これは戦争だ。いつ自分が縋っていた木が切り倒されてしまうかわからないのだから。

 

ならいい加減に寄りかかるだけではいけない。自分には立派な両脚があるじゃないか。そろそろひとりで立ち上がる時だ。

 

医務室に搬送されていく峻を最後まで見送ることなく、ゴーヤは踵を返す。急いで外した艤装の元に向かうと装着した。

 

『よお、ゴーヤ。聞こえるか?』

 

「うん、聞こえるよ」

 

脳波通信を峻は使っているのだろう。ついさっきまで聞いていた弱々しい声ではなく、いつも通りの声が聞こえる。

 

「大丈夫……でち?」

 

『ああ、問題ない。痛覚神経に伝わる信号をコネクトデバイスでブロックした。これで正常な思考ができる。こいつのいい所は麻酔なしで怪我の処置ができるとこかもな。もし麻酔を使ってたら意識がないからこんなことはできなかった』

 

それでも無茶していることにかわりはない。未だ医療において麻酔を使うのはコネクトデバイスによる神経信号のカットに関しては完全な安全性を保証しきれないからだ。

 

「ならてーとく、やるよ?」

 

『やってくれ。こっちはいつでもいける』

 

「完全視覚共有オン!」

 

『視覚の共有を確認。クリアに見えるぜ、ゴーヤの目に映るものが』

 

ゴーヤの目と峻の目が繋がった。これで目がうまく見えなくとも、ゴーヤの目を通して峻は戦場の状況を知ることができる。

 

『ゴーヤ、悪いが頼む』

 

「大丈夫だよ。なんだか今なら何だってできる気がするでち」

 

今まで出撃する時は深海棲艦の恐怖に震えていた。だがもう震えはない。ただ自分のやるべき事が見えていた。やりたい事が見えていた。そのためなら何だってできる。根拠のない話ではあるがそんな気持ちと共に何かが胸の奥からふつふつと湧き上がってくる。

 

「ゴーヤ、出撃します!」

 

高らかに自らの出撃を宣言するとゴーヤは海へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えることなんてできなかった。頭が沸騰したように熱い。刀を握る手は力を込めすぎたせいで血管が浮き、目には殺意が宿っている。

ニタニタと嗤うレ級に向かって叢雲は駆け出した。その笑みも叢雲をヒートアップさせる燃料にしかならない。

 

だがあまりの弾幕の濃さを目の前にして思うように接近できない。この距離からは主砲を撃っても戦艦クラスの装甲相手では大したダメージにならないし、魚雷は避けられてしまうだろう。そしてせっかく抜いた刀は届かない。

 

「まだ足りない」

 

目の前で嗤う敵を倒したい。だが今の持てる力ではまるで足りていない。

ならば底上げをしてやればいい。

 

弱い私なんていらない。欲しいのは強い私だけだ。

 

「コード1(ヒト)3(サン)。リーパーシステム起動」

 

艤装の中で眠っているものを呼び覚ます。ダン、と表示されたホロウィンドウに映し出された起動ボタンを荒々しく押した。

 

《このシステムの起動は司令官権限によりロックされています》

 

司令官権限によるロック。なら。

 

「現時点で帆波峻大佐を指揮能力喪失と判断し、司令官権限を旗艦の叢雲に強制譲渡する」

 

感情の抜け落ちた声で権限譲渡を宣言。そしてその上で起動を許可した。艤装の中で何かが明確に切り替わる。

 

《R.E.A.P.E.R.system is ready!》

 

REfractory Architecture non-Permanent Emancipated Realization system。和名では非永続型艤装機関完全解放システム。頭文字をとってREAPER。死神が持つ、命を刈り取る鎌の意を持つこの単語の通り、敵の命を刈り取るためのシステムだ。

そして峻が危険と判断し、作成を中止したシステムでもある。さらしなの通信系統が乗っ取られたなどのアクシデントが起きたため、峻が叢雲の艤装から消し忘れていたのだ。

 

艤装の機関部が異音を発し始める。叢雲は直立したままその時を待った。

 

2体のレ級の内、1体が棒立ちの叢雲をいい的だと思ったのか狙いをつけ、全ての砲門を開いた。撃ち出された砲弾が真っすぐに叢雲へと向かっていく。そして爆炎と衝撃を辺りへと撒き散らした。

だが爆炎の消えたそこに叢雲はいない。

 

姿を消した獲物を探すためにレ級が海を見渡す。尾の先に付いた砲塔がゆらゆらと揺れる。ふっとレ級の隣を風が吹き抜けた。

 

そしてその尾が根元から一刀に切り落とされた。

 

何が起きたのかレ級は理解できなかった。唯一わかったのは攻撃されたということ。斬撃であるということは近づかれたということだ。だが接近する姿は視界に捉えていない。

背後に殺意を感じてレ級が振り返る。

 

そこには刀を振り抜いた姿で立つ叢雲がいた。一瞬でレ級までの距離を詰めてその尾を斬り飛ばし、駆け抜けたのだ。

 

REAPERシステム。艤装の機関部にかけられているセーフティを強引に外し、意図的に暴走させることによって、出力を無理に上昇させ、通常ではありえない機動性を得るシステムだ。そしてそのブーストされた速度はレ級が叢雲の接近を視認することすら許さなかった。

 

「沈め」

 

感情の抜け落ちた声で叢雲が言い放つと姿が消えた。レ級の目の前まで霞むほどの速度で近づくと、下段からの切り上げでレ級の左腕を斬り飛ばし、続いて上段からの切り下ろしで右腕を肩から斬って捨てた。

 

「〜〜〜〜!」

 

レ級が何かを叫び、残っていた砲のうち1つを放つ。それに対して叢雲は左肩を捻ってしゃがみこむようにして避け、そのまま反時計回りに回転。勢いを殺さずにレ級の両足を右から左へ一気に切り裂いた。縮こまっていた体を伸ばす。

 

「私の前から消えてなくなれ」

 

そして最後に左から右へ刀を一閃。レ級の首が落とされた。

 

首も両腕も両足も切り離されたレ級の胴がどっと倒れ込む。間髪入れずに宙を舞うレ級の頭部を叢雲が上段から縦に斬りおとした。真っ二ついなった頭部が海に沈み、そしてあとを追うようにして切り離された部位が海面に落ち、海中に没していく。

 

「は、はは、ははは。はははは! なあんだ。簡単じゃない。殺すのって」

 

青白いぬめりのある返り血を被った叢雲が高らかに哄笑する。そして残ったもう1体のレ級に狙いをつけた。彼我の距離を走り抜けようとした時、機関の暴走状態が強制停止させられた。

 

『リーパーシステムは実戦で使うなと言ったはずだ、叢雲』

 

なぜ急に機関が止まったのか。そう、峻が司令官権限を叢雲から取り返し、リーパーシステムを強制停止させたのだ。

 

「あんた生きて……」

 

『勝手に殺すな。とにかくお前はもう前に出るな』

 

「私はまだっ……」

 

『だめだ。リーパーシステムは使用後に艤装の性能が大幅に低下する。そんな状態で前に出せるわけないだろう』

 

ならばなぜ強制停止などという行為に踏み切ったのか。それは機関を暴走状態にさせているからだ。もしも使用者の演算が追いつかなくなった場合、異常に回転する機関を抑えきれずに周りを巻き込む規模の爆発を起こす。そんなリスクを犯して使用限界時間まで使いきるよりは強制停止した方がいいと峻は判断した。

 

「まだ私は戦える! 私はあれに勝たなきゃいけないのよ! だから────」

『いい加減にしろ』

 

低い脅すような声。そこには峻の激情が色濃く出ている。

 

『性能がガタ落ちしてるくせに出させろ? そもそも使用禁止のシステムを無理やり発動させておいて何を抜かしてんだよ。もし俺が介入して止めなかったらお前の体が吹っ飛んでたかもしれねえんだぞ?』

 

「そんなの関係ない! 私は私の手であれを殺してやりたいの! だから……」

 

『うるせえ。さっさと下がれ。死にたがりはいらねえんだよ』

 

「っ…………」

 

ぐっと叢雲が言葉に詰まる。なにも言い返せない。

 

『殺したい? ふざけんなよ。この戦闘の目的を履き違えるな』

 

これは護衛任務だ。敵の撃破よりも守ることが優先となる。なのに叢雲は敵を倒すことを主目的に据えていた。ただ自らの強さを証明するために戦っていた。自身が怪我することも省みずに。

 

『お前が向かってる先に強さなんてものは無い。ただのキリングマシーンになるだけだ。それにだけは成り下がるな。そうなったらお前はお終いだ』

 

そう叢雲に言いながら峻は天津風に指示を出し、後ろに下がらせた北上に牽制目的で魚雷を撃たせる。そしてゴーヤに決めの一撃として魚雷を撃たせて、船団からレ級を引き離していく。

それは東雲の遣わした救援が到着するまでの時間を稼ぐためだった。それを知っていて叢雲は何もできない。自分で望んで掴んだ力のせいで何も出来ずにただ傍観するだけ。

 

「どうして……どうして私は…………」

 

強くなったはずだった。叢雲はレ級を倒すことができたという結果が出せたのに、何がいけないのか。何がだめだったのか。どうして手が届かないのだろうか。

 

わからない。

 

わからないわからないわからない。

 

リーパーシステムによる急加速のせいで体が痛む。膨大な演算という大きな負荷をかけられた脳が内側から叩くような痛みが走る。

 

考えなんてまとまるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

峻の意識は電子の海を泳いでいた。ゴーヤの視界を借りて戦況を把握し、脳波通信で指揮を執る。必死の抵抗とも取れる足掻きを見せている峻だが、その肉体は輸送船のけやき丸にある医務室で応急処置を受けている。だがそんなことはお構いなしだった。

 

『天津風、自立駆動砲はあと2機だな? 使い惜しみはもうなしでいけ』

 

『了解よ』

 

天津風が残った2機を駆る。小回りが利く自立駆動砲は撹乱にはもってこいだ。

当てる必要はない。ただ少しでも視界を水柱で邪魔することさえできればいい。

 

『ゴーヤ、魚雷。10秒後に。北上、15秒後に5発、チャーリーに向かって叩き込め』

 

『了解でち』

 

『あいあいー』

 

峻が指示した通りに2人が魚雷を放ち、レ級に吸い込まれていく。爆薬が炸裂し、海水がレ級を覆い隠す。だが海水が元に戻った時、そこにはほとんど無傷といっても差し支えない被害状況でニタニタと笑ったままのレ級が立っている。

 

『嘘……あたしは全部当てたよ?』

 

『海中から見てたよ。あの深海棲艦、直前に放っていた艦載機を海中に突っ込ませて盾にしてたでち』

 

つまり直撃する前にゴーヤたちの放った魚雷は炸裂したため、レ級にはダメージがまともに入らなかったのだ。

 

『くそったれ、何でもありかよ!』

 

峻は舌打ちしたい気持ちを抑えた。だがその余裕すら与えてくれないようだ。レ級がお返しとばかりに魚雷を撃つ構えを取り始めた。

 

『やらせるかよ』

 

叢雲の主砲とリンクし、放たれた魚雷に向かって砲撃。いくらリーパーシステムで艤装の機関がガタガタでも火器系統は問題ない。ゴーヤの視界で叢雲の主砲を撃つという盲撃(めくらう)ちにも等しい行為でなんとかレ級の魚雷の信管を誤作動させ、当たる前に爆破処理することに成功する。

 

こんな綱渡りのような曲芸じみた戦闘はそう長くは続かない。それがわかっていながらも峻はそれを選択し続けるしかない。

 

ドォン! と天津風の自立駆動砲が1機、爆ぜて沈んだ。また貴重な戦力が削れてしまった。

 

『ゴーヤ、近づきすぎるな。少し離れ────っ!』

 

金釘をダイレクトに頭の中に打ち込まれたような痛みが連続して走った。内側から侵食してくるような冷たい痛み。

それは峻の体が限界を迎えていることを示していた。

麻酔も打たずに、痛覚神経のブロックなどという荒業で痛みを誤魔化して指揮を執り続けるという無茶をすれば当然の反応だ。

 

だがこんなところで終わるわけにはいかない。

 

『ガンガンガンガンうるせぇんだよ……だまれ』

 

その痛覚すらねじ伏せて意識を集中させる。

 

いまさらこの程度の痛みで音をあげるな。敵から目を離すことなく最後まであがき続けろ。

 

『あなた! レーダーに反応。北東から何かが高速で接近してる!』

 

『新手か?』

 

峻にはこれ以上を捌ききれる自信がない。それでも努めて平静を装って天津風に聞き返す。

 

『いいえ、もっと速い。これは……飛行機?』

 

『飛行機、だと?』

 

ひとつの予感が胸をよぎる。そしてそれを裏付けるように通信が舞い込む。

 

『帆波大佐、聞こえますか? こちら東雲隊旗艦の翔鶴です』

 

『聞こえてるよ。マサキのやつは?』

 

『俺は横須賀にいるよ。シュン、さすがだな。よく持ち堪えてたもんだ』

 

『まあな。あとは頼んでいいか? そろそろ俺が限界だ』

 

脳波通信だからこうしてまともに話せてはいるが、そうでなければ会話をすることも苦しいだろう。そろそろ意識も飛びそうだった。

 

『……よくわからんがあとはやっとく。大丈夫なんだよな?』

 

『ああ』

 

大丈夫とは言い難い。だが強がって(うそぶ)いた。今は東雲には指揮に集中してほしかったため、余計な懸念を抱かせることは避けたかった。

 

『お前にこっちの指揮権も渡しとく。東雲中将に帆波隊の指揮権を譲渡する』

 

『帆波大佐から帆波隊の指揮権の譲渡を確認。さて、久々に暴れるか』

 

『あとは頼んだぜ。じゃあな』

 

通信を切って、潜っていた電子の海から意識を体に戻す。医務室に漂う独特な消毒液の匂いがツンと鼻をついた。

 

怪我はどういう具合か確認しようとする。だが視線を自分の体に落とす前に峻の意識は闇に飲まれた。




ボツ原稿

「ゴーヤ……俺の目になってくれ…………」

「でち!」



……なんかいろいろ台無しになったので止めました。ていうかね、最近マジでゴーヤがヒロイン化しすぎだと思うの。なにこの健気な子。

感想、評価などお待ちしてます。それでは!

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