今の所はそこまで長く途切れさせずに書けている奇跡。
いつネタ尽きで悩まされるか戦々恐々です(笑)
それではどうぞお楽しみください。
「あれ…ここ、どこでち?」
目が覚めると視界には真っ白の天井が入った。遅れて自分が点滴を打たれた状態でベットに寝かされていることに気づく。
「病室……かなあ。ナースコール、ナースコール」
枕元を探りナースコールのボタンを押し込む。押すとすぐに小太りの年老いた男がやっていた。
「ボクはここの医務長だ。君、自分の名前はわかるかい?」
「私の名前は……伊58です」
「うんうん。自分のことがちゃんとわかるようでなによりだ」
「すみません、ここはどこですか?」
「ここは千葉県の館山市にある日本海軍所有の館山基地だね」
穏やかな顔で話を続けながら医務長は脈拍数などの数値を記録していく。
「ゴーヤ、大丈夫⁉︎」
「あっ、イムヤ」
ドアを破壊する勢いで開け、イムヤが病室に血相を変えて飛び込んできた。心配そうにベットのそばに駆け寄る。
「よかった…。目が覚めたのね」
「心配なのはわかるが、病室で走るなよ、イムヤ」
その後ろから苦笑しながら軍服を羽織った男が病室にはいってくる。
「えっと…あなたは……」
「あぁ、俺は帆波峻。
「しっ、失礼しました!伊58です!この度は────」
「あー、そんなかしこまらなくていいぞ。もっと楽にしてくれ」
「は、はぁ…」
ピシッとして名乗ってきた基地司令をみる。寝たままで失礼ではないだろうか。そんなことを考えていると、軽い感じの雰囲気だったのが急にガラリと雰囲気が変わり、真剣味を帯びる。
「伊58、君はなんでここに居るか思い出せるか?」
「…………………………」
ゆっくりと記憶の糸を手繰っていく。
命令通りに1人で出撃したあとに深海棲艦の対潜艦隊と会敵したこと。破裂する爆雷と壊れていく艤装。体内の妖精がダメージを逃しきれなくなったのか、傷ついていく体。
そして────
「嫌っ、嫌あああああああああ!」
「おい!落ち着けっ」
「ゴーヤ、しっかりして!」
「っ!2人とも、少し外して欲しい!」
突如悲鳴を上げ始めた伊58に峻とイムヤが落ち着かせにかかろうとしたが、医務長がそれを遮った。
「…わかりました。すみません、お任せします。イムヤ、いったん出るぞ」
「….はい。すみませんでした……」
医務長が伊58を宥めている間に2人で病室の外に出て、廊下の椅子に腰掛けた。
「イムヤ、すまない。俺が下手にあの子を刺激しちまった」
「謝らないでよ。基地司令として聞かない訳にはいかないもん。それにゴーヤも安定してるように見えたから…」
頭を下げた峻をうなだれたままイムヤが止めた。
「それより、ゴーヤが変なのが気になるわ」
「変だったか?」
「うん。前は相手が上官でもあそこまで固い感じじゃなくて、もっとくだけた感じだったの。それに何か怯えてるような感じがした」
「死にかけたんだから怯えるのは当たり前じゃないか?」
当然の疑問に対してイムヤがかぶりを振った。
「違うの。うまく言葉にできないけどそういうのとは違うと思う」
2人で頭を捻っていると医務長が病室から出てきた。
「ようやく落ち着いたよ。もう病室に入っても大丈夫だ。ただ、あまり戦闘のことは触れないようにしてやってくれ。あと、帆波少佐」
「なんでしょう?」
「少しお話が。イムヤ君は病室に入って彼女を励ましてやって欲しい」
「はい。ゴーヤ、私よ。イムヤ。入るわね」
イムヤが病室の引き戸を開けてベットのそばに歩み寄るのが見えてから戸がしまった。
「で、お話とは?」
「伊58、彼女は一種の
「深海棲艦に襲われたからですか」
「確かにそれも原因だと思うけど、それだけとは思えない。もともと彼女は深海棲艦と何度も戦っているみたいだしね。結局は詳しいことはなんともいえないね、彼女が話してくれるまでは」
「今後の生活において気をつけることはありますか?」
ふむ、と医務長が腕を組んで思案顔になる。
「今回のことは彼女自身が話すまでこちらからは聞かないこと。あとは安心できる環境を整えてあげることだね」
「わかりました。彼女と俺が話すのは問題ありませんか?彼女の所属基地に連絡するかどうか決めたいので」
「それは問題ない。でも刺激はしないように注意を払ってあげることだね」
「はい。それでは」
そのまま峻は伊58の病室に入っていった。
「体の傷は治せても……か。ボクもまだまだ未熟者だ」
医務長の呟きだけが廊下を反響した。
「さっきはすまなかったな」
「いえ、こちらこそ急に驚かせてしまい…」
伊58に詫びるとむしろ向こうが大慌てで詫びてくる。
(イムヤの言ってたことはこういうことかねえ)
「大丈夫よ、ゴーヤ。この人はそんなことで怒るような人じゃないから」
「ああ、もっとゆるい態度で構わねえぞ。肩肘張ってちゃ疲れるだろ」
「それでも上官なので。先程は取り乱してしまいすみません。もう大丈夫ですので」
決して敬語を崩そうとはしない様子に峻は内心では弱っていた。
どこまで踏み込んでいいものか、と。
(はぁ……とりあえずこれだけは聞いとかねぇとな)
「伊58」
「はい」
「現状まだ君の所属基地に君を保護したと連絡はしていない」
「それは軍規違反では?」
「俺の判断で連絡をしていない。連絡した方がいいか?」
「それはもちろん連絡をして欲しいと────」
「それは
言いかけた言葉を遮ってまっすぐ伊58を見つめる。彼女の眼には迷いがはっきりと見て取れた。
「いいか、お前は今死んだことになってる」
「えっ……」
「信じられないかもしれんが事実だ。軍のデータバンクでは轟沈扱いになっている」
「ちょっと、提督……」
制止しようとするイムヤを無視して再び問いかける。
「もう一度聞くぞ。所属基地に生存報告をして引き取りに来て欲しいか?イエスなら連絡をして、すぐにでも来てもらう。ノーならうちがこのまま極秘でお前をここに置いておく」
「で、でも────」
「変な心配はしなくていい。秘密に匿うことくらいなら簡単にできる。迷惑かけないかとか思うなよ。自分のために、自分の判断で、自分の意志で、自分の答えを出しな」
病室を沈黙が支配する。イムヤの視線が所在なさげに彷徨い、伊58が俯き、峻は彼女を見つめ、ただ待ち続けた。
「私は……ゴーヤは………」
どのくらい待っただろうか。それでも彼女は自分の答えを出した。出せたのだった。
重くね?←今更かよ
もっと派手な戦闘とか楽しい日常とか書きたい。前回はそういう意味では書いてて楽しかったです。
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