次のイベントは中規模ということですが、皆さん戦力の方はいかがでしょうか?
最初から甲作戦ですべてクリアできるとは思ってない自分は適当にやりつつ、資材がやばくなったら難易度を落とします。ただその前にDMMカード買わなきゃ……母港枠がもう空いてないっ…………
では本編参りましょう!
さいたま市にある防諜部ビルの一室で若狭は、今まで机の上にあった邪魔な書類を横に纏めて置き、大型PCを卓上に設置した後に、ホロウィンドウを大量に展開。あまりに多く展開されたウィンドウは椅子に座る若狭を覆い隠した。
「長月、さらしなのリンクだけ貼って」
「その後はどうすればいい?」
「待機してて。けっこう厳しいと思うから」
「……了解した」
長月はただ見ておくだけだ。だが下手に動くことができないという事実も理解しているため、素直に従った。若狭の鋭い目つきを見ればどれだけこれから先に起こることが厳しいものになるのかを克明に想起させたからだ。
「さあ、やってやるさ」
若狭が髪をかき上げるとワックスによりオールバックで髪型が固まる。視界を確保して空中に浮かぶ無数のホロウィンドウを総覧した。やるべきことは二つ。さらしなの通信にかけられている防壁を突破し、通信系統を取り戻す。それから後の対処は東雲に任せて、今回の事を起こした者を確保する方向に動けばいい。
毅然たる決意を持って若狭はさらしなへのリンクを踏んだ。やはり弾かれる。が、そんなことは想定内だ。弾かれた上で再びアタックをかける。再度展開された防壁を潜り抜けて内部への侵入を試みる。
が、それもまた新たな防壁により阻まれた。
「想像以上に固い……」
キーを目が霞むほどの速度で叩き続け、ひたすらトライ。だかその速度すら嘲笑うからのように張られた防壁は若狭の侵入を拒む。
ならばと方向性を切り替えて防壁を潜り抜けるのではなく、破壊する方針に転換するが、巧妙に組まれているためか思うようにいかない。破れたかと思えば、その先はトラップになっていたり、いつの間にか別の攻撃性が高い領域に入れられてこちらのPCの中枢部に別のウイルスを流し込んだ上で制圧しようとしてくる。
これは半端じゃない。
そう判断した若狭は間を置くために退散し、上着を脱ぎ捨て袖を捲りあげる。
「大丈夫なのか?」
「問題ないよ。ただ並大抵じゃないね」
相手への率直な賛辞に長月は驚いた。だが若狭の爛々と輝く瞳を見て胸を小さくなで下ろす。若狭が敗北を認めたのかと一瞬だけ疑った。けれどそうではない。むしろスイッチを入れたようだ。
若狭が再度アタックを仕掛ける。その手が瞬き、目が忙しなくホロウィンドウを行き来する。
それを見て長月はただただ呆然としていた。いや、見とれていたと言った方が正確かもしれない。
でもそれでいいのか、と囁く声がする。何も出来ずに見ているだけで本当にいいのかと。
違うだろう。自分がやりたいことは若狭の手助けになることだ。
ならば思考を止めるな。出来ることと出来ないことをピックアップして自らの力で最大限に貢献できることを実行しろ。
長月が自分に与えられているパソコンを起動する。だが若狭と共に防壁の突破に挑戦するわけではない。それはまだ出来ないことだ。無理なことをすればむしろ邪魔にしかならない。だからやれることをやるのだ。
それでも出来るのはせいぜい、若狭のアタックを電子的にも物理的にも観察してそのスキルを盗むことだ。今回は何も出来ない。だからこそ次回に繋げる。
大型PCの排熱によるものか、それとも若狭の激しい動きのせいか室温がわずかに上がったように感じる。若狭と長月にじっとりと汗が滲み、濡れたワックスがてかてかと光を照り返す。
これだけかけてもまだ突破できないことに若狭は内心で苛立ちを感じると共に焦っていた。これほどのものを仕掛けてくるとは手が込んでいる。認めたくはないが正直、かなり分が悪い。
「やってくれるよ…………」
若狭が唇を噛んだ。縦横無尽に視線が飛び回り、指がホロキーボードの上で
これを作った人間は相当にやり手だ。少なくともこのジャンルにおいて自分よりも精通している。
そうわかっていても若狭は手を止めない。やれると言ったからには途中で匙を投げることだけはやりたくなかった。
「若狭……」
長月の不安そうな声が耳朶を打ち、それが更に焦りを加速させ、高速で回転する脳が焼け付くような錯覚すら覚える。大型PCが異音を発しはじめ、冷却ファンが耳障りな音を立てて回り始める。
この戦いが始まってどれだけ時間がたっただろう。未だ突破口は闇の中だ。急がなければそれだけ手遅れになる可能性が高くなるにも関わらず、光明は見えてこない。
だが堂々巡りかと思われたその時に突如、変化が起きた。通信防壁を破ろうとする者が現れたのだ。
それは展開される防壁をいとも容易く潜り抜け、またあるいは破壊し、ぐんぐんと最深部へ向かって突き進んでいく。
「いったい誰が……いや、今は置いておこうか」
誰なのか気になるところではある。何のために、そしてなぜさらしなにウイルスが仕掛けられていることを知っているのか。疑問は尽きることがない。
だがそれらの謎を一旦は無視する。
何が目的なのかはわからないが、目指す地点は同じ。ならば利用しない手はない。
内心でわだかまるもやもやとするものを振り払い、若狭は進撃していくなにかの後を追った。既に壊された防壁を抜けて、なおも進み続ける誰かの隣に並ぶ。そして防壁の破壊をアシストし、共に縫うようにして避け、進んでいく。
そして辿り着いた。
さらしなの通信区画中枢部。そしてそこに巣食うウイルスのコアプログラム。
「これか……」
ここまで若狭を導いた者はやれ、と言わんばかりに静止すると、すぐに踵を返して戻っていく。
「っ…………いや、こっちが先!」
優先すべきはウイルスの駆除。コアに取り付くとウイルスバスターソフトを流し込む。雲散霧消していくところを最後まで見ずにリンクを切って消えようとしていく者を追いかける。
「やるだけやって後は逃げるつもりかい? いい格好して名乗らず退散なんて芝居じみすぎじゃないかな?」
聞きたい話が山とあるのだ。そう簡単に見逃すつもりは毛頭ない。リンクを切らせる前に尻尾を掴んでどこの誰が暴いてみせる。だが先にソフトを流し込んでいた分だけ若狭には時間的なハンデを負っている。
「くっ」
若狭は今すぐに展開できるだけの防壁を張って逃走を防ごうとする。だが呆気なく破ってからそれは接続を切り、姿を消した。
「若狭!」
「やられたよ。逃げられた」
普段と変わらない口調で若狭が言い、肩をすくめる。だが長月には若狭がいつもの調子を装っているように感じた。
「でも第一目標はクリアしたし、これで満足しておくよ」
青白いホロウィンドウ全てを一斉に閉じてすっくと立ち上がる。やるべきことはやった。後は流れを繋ぐ者にバトンを渡すだけだ。
若狭は通信を横須賀へと飛ばした。
「東雲、さらしなに通信防壁を展開していたウイルスの除去に成功したよ」
通信系統が制圧されてからさらしなはひたすらラバウルへと向かっていた。艦橋は水を打ったように静まり返り、全員が大型のモニターに視線を向けていた。
もしかしたら通信は回復しないかもしれない。そんな予感が胸をよぎる。回復してくれなければ、いやもう手遅れになってしまっているのかもしれない。諦観にも似た空気が艦橋に満ち始める。だがその時、変化が起きた。
「……! 通信、回復しましたっ!」
「よし!」
峻がガッツポーズを取り、暗かった雰囲気が僅かながらも払拭される。さながら暗中に見えた小さな光といったところか。
「三間坂、急いで横須賀に繋いでくれ」
「いえ、その必要はなさそうです。向こうからかかってきました」
三間坂がホロウィンドウを峻に向かってスライドさせて渡す。なめらかに滑ってくるパネルを受け取ると横須賀からの通信に半分ほど祈る気持ちで出た。
『シュン! ようやく繋がったぜ!』
「よう、マサキ。とりあえずどうなってる? 30秒で説明してくれ」
『さんじっ……ああクソ! 簡単に言うとお前を潰すことが狙いだ、この輸送作戦は! 俺が横須賀にいない隙にやられた!』
「あー、なるほど。そういうシナリオか……どこの野郎だ?」
『おそらく本部の奴が噛んでるが今はそれどころじゃねえ! シュン、急いで今の航路から外れろ! そのルートだとレ級2体の予測行動路とぶつかる可能性が高い!』
東雲の声を聞いても峻はさして驚かなかった。いや、まったく驚かなかったかといえば嘘になる。相手が悪夢と称されるレ級であるという事態を前に多少なりと動揺はした。
レ級。いちおう艦種は戦艦ということになってはいるが航空戦から砲撃戦、果ては雷撃までこなすオールマイティーな深海棲艦だ。なによりその全てが並程度ではなく、下手な深海棲艦よりも秀でていることが厄介なところなのだ。初めて海に現れた時、応戦した艦隊をたった一体で壊滅に追いやったことから悪夢のレ級とも言われている。
ではなぜ峻は驚かなかったのか。答えは簡単。
「マサキ、悪いな。もう遅い」
『は……』
「通信が回復する少し前に船団へ接近するふたつの敵影をレーダーが捉えたんだよ。今もまっすぐこっちに向かってきてる」
事前に深海棲艦が接近してきていることを知っていたからだ。だから驚いたことはその敵が2体ともレ級であるという事実だった。
『逃げるのは?』
「間に合わせてくれると思うか?」
東雲が押し黙る。そんなに甘い敵でないことはわかりきっていた。余裕ぶっているように見えるが、峻の表情にも焦りが見て取れる。
『……シュン、位置情報を送れ。そして2時間だ。2時間、なんとかして持ちこたえろ』
「どうするつもりだ?」
『高速輸送機でお前のとこまで艦娘を運ぶ。そしてうちの持てる限りの戦力を送ってレ級を叩き潰す。だからそれまでもたせろ』
「ラバウルからの救援は?」
『ほぼ無いと思った方がいい。今から出撃じゃ、高速輸送機で飛ばしてくるうちよりも到着は遅いだろう。それにあそこは連戦でかなり疲弊してる。レ級クラスに対応できるとは考え辛い』
「……わかった。やれる限りやってやる。限界まで飛ばしてくれよ?」
『ああ。じゃあ
「そうだな。
位置情報を送った後にまた、の部分を嫌に強調して通信は終わりを告げた。それはちゃんと戻って来いというサインだ。
「接近する多数の機影をレーダーが捉えました! 速度からして深海棲艦の放った艦載機かと!」
「沖山!」
「わかってます! 戦闘用意! 対空警戒を厳に!」
「戦闘よーい! 対空見張りよーい!」
命令を復唱して艦橋にいる者たちが慌ただしく動き始める。
「行くぞ! 全員、出撃だ!」
『了解よ』
峻も黙って事態を見ているわけではない。叢雲たちを出撃させてレ級を足止めする。そして出来る限り輸送船団を守り、かつ2時間を稼ぎ切るのだ。
厳しいどころの騒ぎではない。そんなことはわかりきっている。だがやるしかない。
「天津風! 悪いが無茶してもらうぞ。パラレルを初っ端から使ってくれ」
『了解。任せて頂戴』
たった2体といって侮ることなど出来ない。なにせ相手はレ級なのだ。気を抜くことなどできないし、悠長なことを言っていたらこちらがやられる。
「沖山、長浜船団長に連絡してくれ。戦闘は避けられないってよ」
「わかりました」
こうして準備している間にもレーダーに映る点は船団に接近している。もう間もなく、攻撃隊は有効射程に入るだろう。さらしなの対空砲が仰角をあげて迫り来る艦載機群に狙いをつけ始めた。
リニアカタパルトによって叢雲たちが海上へと飛び出し、ゴーヤが潜航を始める。
『あなた、使用許可を』
「オーケー。パラレルシステム起動許可!」
目の前に浮かんだホロウィンドウにコードを打ち込んで承認。文字列が目にも止まらぬ速さで流れていく。
《P.A.R.A.L.L.E.L.system is ready!》
『出して!』
「おう。自律駆動砲、射出!」
さらしなから天津風専用である自律駆動砲が海へすべり出して、天津風の周りに集結する。
「まだだ! 出し惜しみなんてしてる場合じゃねえ! モルガナ、射出!」
そして奥の手であるモルガナも一斉に飛び出した。その数、12機。それら全てが峻の統制下で動き回る。現状で持てうる限りの最大戦力。全てを結集させて悪夢を迎え撃つのだ。
「いいか、倒せると思うな。回避に専念しつつ、輸送船団から注意を逸らさせろ」
『んー、わかったよー。けどさ、別に撃ってもいいんだよね?』
のんびりしたようでビリビリと闘志の滲む声で北上が問いを投げかける。
「もちろんだ。だが攻撃のために回避を疎かにするなよ」
『あいあいー』
「や、頼むぜほんとに。全員で生きて帰るんだからよ」
『そうだよ! ゴーヤはまたおいしいご飯が食べたいんでち!』
『ゴーヤは食いしん坊ね』
天津風が呆れたように、だが楽しげに言うと固まっていた緊張感が解けて笑い声が溢れた。
ナイスだゴーヤ、と峻は内心でゴーヤに礼を言った。レ級のプレッシャーに凝り固まっていれば、自然と動きも鈍くなる。だがゴーヤは自らをネタにしてそれを解きほぐしたのだ。
まだゴーヤは完全に深海棲艦の恐怖を克服できたわけではないはず。まだ戦闘は苦しいに決まっている。にも関わらず、気を回してこんなことまでしてくれた。頭が上がらない思いだ。
だがこれは本来ならばやるべき人間が別にいる。
「叢雲」
『……なに?』
「いや……大丈夫か?」
『何が?』
「…………なんでもない」
叢雲はさっきから一言たりと発することがなかった。それに強い違和感を峻は感じた。無言というのはずいぶん珍しい。いつもなら出撃前に軽口を叩く峻を諌めたりといろいろ気を回すのだが、今日は常に周りへ気を使い、僚艦の緊張を緩めさせる旗艦の役目すら放棄している。その役目を意図せずゴーヤに譲っている。
「変に気負ってなけりゃいいんだが……」
本当ならば出撃させることを止めたいくらいだ。だが出来ない事情がある。今はどんな戦力でも出し惜しみなどしている場合ではない。
「敵攻撃隊、対空砲の射程に入りました!」
「野川!」
「了解、艦長! 対空射撃、てぇ!」
「天津風!」
『了解。自律駆動砲、対空戦闘はじめ!』
さらしなと天津風の高角砲がレ級の放った攻撃隊へと襲い掛かり、いくつかを撃ち落す。
だが全て落とせるわけではない。数は減っても攻撃はされるだろう。
峻は急いでモルガナの幻影を展開した。それぞれが叢雲や天津風や北上の姿を形取ったホログラムが映し出され、まるで本物のように動き回る。ゴーヤは潜航しているため当たらないが、他はどうしようもない。
「両舷全速とーりかーーじ!」
「両舷全速とーりかーーじ!」
沖山が叫び、操舵手が命令を復唱しつつ、舵輪を左に回す。船首が左を向き、さらしなの機関が全力で回る。
「対空機銃、掃射!」
「了解!」
野川がさらしなの機銃コントロールシステムと自らの脳とをリンク。一斉に鉛弾が敵艦載機群に向かっていく。
だがそれでも全滅させることはできない。
爆音が響き、さらしなが大きく揺れる。船体が不気味に軋んだ。
「被害報告!」
「左舷の第二区画に浸水ありですっ!」
「隔壁落とせ! 同時に右舷注水!」
「はいっ!」
三間坂がコンソールを操作すると、遠くから重い音がした。そして再び似た音が鳴り、船が水平に戻る。
「船団の方はどうだ?」
「幸い被害はほとんどないそうです。さらしなに攻撃の手がかなり向いてました」
沖山が通信を片手に峻の疑問に答えた。そちらは第一波をなんとか凌いだようだ。
「叢雲、被害報告を」
『全員が無傷よ。ただ天津風が自律駆動砲を1機、盾にして直撃を防いだから残り5機に減っただけね』
『ごめんなさい……』
「謝んな。たかが1機だ。それにお前がダウンしたら残りの5機はただの的に成り下がってたぞ? やっすい犠牲だ」
天津風を励ましながら峻はモルガナの確認。だが反応を返してきたのは9機だけだ。1度の攻撃だけで3機も削られた。
強く拳を握りながら時計に目をやる。東雲との通信が終わってからまだ20分しか経っていない。
あとこれの6倍もの時間を耐えなくてはいけない。しかも攻撃隊が常に飛び回り、戦艦クラスの砲撃が撃ち込まれ、あまつさえ魚雷までもが襲い来るのだ。
第一波は攻撃隊のみだった。これから先はさらに激しい交戦となるのだろう。
「急いでくれよ、マサキ……」
呟く音が漏れる。冷たい汗が背中をつたって流れ落ちた。
やっばいオーラは全開に。
パラレルとかモルガナとか覚えていてくれてる方いますかね? いたら嬉しいです。レ級との戦闘が本格化していきそうな次回ですが、どうなることやら。
感想、評価などお待ちしてます。では。