艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです!

秋刀魚ください。装備はしっかり付けてるのに全然来ません。集める系は本当にめんどくさいです……

それでは本編参りましょう!


イムヤの憂慮

館山基地の港湾部に見慣れたバルバス·バウをもつ船が接舷している。その他にも貨物船4隻が湾内に停泊中だ。

そう、貨物船ではないその船の名は艦娘輸送艦『さらしな』。ウェーク島攻略戦において帆波隊を運んだ船だ。その時の戦闘による損害箇所を修復するためにドックに入っていたが、その補修も完了し、今回の輸送任務に抜擢されたのだ。

 

執務室では狭いと判断を下した峻によって貨物船団の長とさらしなの搭乗員代表の3人、そして峻が会議室で顔を合わせていた。

 

「この度は船団護衛の依頼を受けていただきありがとうございます。私はこの船団長の長浜(ながはま)達哉(たつや)です」

 

「日本海軍横須賀鎮守府支部、館山基地基地司令の帆波峻大佐です」

 

長浜と峻が握手を交わす。髭の生えた豪快そうな長浜がニッと笑い、峻も合わせるように笑った。

 

「ウェークの奇跡を起こした方に護衛していただけるとは心強い」

 

「自分だけじゃ出来ませんでしたよ。全部あの娘たちの力です。わかっているとは思いますが……」

 

「ええ、わかっていますとも。無傷で辿り着くことなどありえないと」

 

「……すみません」

 

「謝らんといてください。私らもわかっとりますて。全てを守りきってみせることなど出来ないことくらい。それにあなたがたが護衛に付いてくれなきゃこちらは全滅しとるんです。それが避けられるのなら多少の犠牲は仕方ない。でしょう?」

 

「そう言っていただけるとありがたいです。全力で護衛させていただきます。出来るのなら被害など無しになるように」

 

「ありがとうございます。それでは私は船に戻っとります。出港する時間は事前にそちらに連絡が行っとると思いますが……」

 

「来てるので大丈夫ですよ。それではまた」

 

「では」

 

長浜が一礼すると会議室から出ていった。あとに残るのはさらしな乗員の3人のみ。

 

「おひさっす、大佐ぁ」

 

「久しぶりだな野川。沖山もさんげんざかも元気そうでなによりだ」

 

「お久しぶりです、帆波さん」

 

「だぁーかぁーらぁー! 私はさんげんざかじゃありません! 三間坂(みまさか)ですぅ!」

 

沖山が相変わらずの丁寧口調で挨拶をし、またも名前を弄られた三間坂がよく響く甘い声で猛抗議する。

 

「わりぃ、わりぃ。ま、お前らも息災でなによりだ」

 

「大佐も大変だったみたいじゃないっすか。ヨーロッパで」

 

「本当に。よくご無事でしたね……」

 

「大袈裟だな。まあ生きてるから大丈夫だっての」

 

「そうですよぉ。それにだん……大佐がそう簡単にやられるわけないじゃないですかぁ。10人近くをひとりで全部やっちゃうくらいなんですから!」

 

「ああ……そういやあったっすねえ、そんなこと」

 

「なっつかしい話だな……」

 

目を細めて昔を回顧しかけるが、とびかける思考をすぐに頭を振って取り戻す。

 

「沖山少佐、さらしなの状況は?」

 

「燃料弾薬共に余裕を持って補給済みです。現在、明石さんが自律駆動砲とモルガナ、艤装を艦に乗せる作業中だそうです」

 

「終了予定時刻は?」

 

「おそらくは5時間……いえ5時間半後かと」

 

「了解。それまでは出来ることもなし、のんびりするか。とりあえず座れよ」

 

3人に椅子を勧める。仕事の話は終わったため、あとは古い友人としてだ。向こうも心得たもので特に何か言うこともなく、勧められるままに腰を下ろした。誰かが口を開くわけでもなく、沈黙が場を支配する。それを最初に破ったのは峻だった。

 

「さて、輸送任務ってことだが大丈夫か?」

 

「自分たちは大丈夫ですよ。ラバウルまででしたよね」

 

「ずいぶんと遠いとこまで荷物運びっすよね」

 

「でもでもぉ、赤道に近い訳ですしあったかいですよね? これはもう、向こうに着いたらバカンスですよっ!」

 

実は水着も準備してあります! と楽しそうに三間坂が左右に揺れる。確かにラバウルに着けば少しくらいはフリーな時間が出来るだろう。その間に叢雲たちを休息させるのもいいかもしれない。シフト組んで常に待機組を作るなどする必要がある以上、睡眠時間が削られてしまう。ラバウルについたら命令がくるまでゆっくりさせたってバチは当たらないだろう。

 

「そういやさらしなはどこで直してたんだ?」

 

「呉ですね。その後は横須賀へ寄せていました」

 

「横須賀か。まあこっから近いしな。艦娘乗っける船がいるってなった時に一番近くにあったから白羽の矢が立ったってところか」

 

だが慣れた船であるところはありがたい。わざわざモルガナや自律駆動砲の射出装置を新設する必要がない分だけ手間も省ける。

 

「まあそれはいい。三間坂中尉、地図を」

 

「はいっ!」

 

会議室の机に三間坂がホロマップを展開。周りに集まるとその地図を覗き込む。失礼します、と一言断った沖山により、館山からラバウルまで赤色のラインがひかれた。

 

「航路はこのようになっています」

 

「なるほどな。確かこれは本部の言ってきたルートだったよな? なら問題はないだろ」

 

ウェーク島を抑えたからといって太平洋に現れる深海棲艦が減ったというわけではない。まだ太平洋にはミッドウェーもハワイも残っているのだ。

 

「東南アジアか……」

 

「戦況は5分5分だって話っすよね?」

 

「強いのが現れたって噂も聞いたし、苦戦してるみたいですねぇ……」

 

会議室に暗雲とした空気が立ち込める。少ない護衛、噂の強力な敵。なかなか骨の折れる作戦になりそうだった。

 

「ま、なんとかなるさ。モルガナは全力で投入してく。頭数の問題は天津風のパラレルで多少なりと解決できるだろ」

 

「出ましたねっ! 大佐のお得意の謎開発ぅー!」

 

「謎って。全て種も仕掛けもある、れっきとしたプログラムなんだが」

 

「でも普通、あんなもの組めないっすよ」

 

「そいつはどうも。ま、趣味が高じてってやつだ」

 

褒められて悪い気はしない。それが昔なじみに言われたものであればなおさらだ。沖山も野川も三間坂も嫌味まじりでわざとらしく賞賛を口にするようなことはしない。だからこそ素直に受け取れる。

 

「とにかく今回もよろしくな」

 

「もちろんです」

 

「よろっす」

 

「よろしくでーっす!」

 

3人は軽い調子で返答つつも、しっかりと敬礼をした。峻もしっかりと返礼。そして打ち合わせていたかのようにして同時に笑った。

 

本当に勝手を知っている船でよかった。モルガナだのパラレルなどのオリジナルシステムはあまり公にしたくなかったため、知り合いの船ならば黙っててくれるように頼み込むこともできる。

あとは何事もなく作戦完了の報告が出来ることを祈るのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうなれた部屋。居ていいと認められた自分の部屋でゴーヤは荷物を簡単にまとめていた。行儀悪くテーブルに座って足をブラブラさせたイムヤが丸まったゴーヤの背中を羨ましそうに見ていた。

 

「最近ゴーヤは引っ張りだこね。イムヤはヒマでヒマで仕方ないわ」

 

「ホントはゴーヤたちは暇な方がいいんだよ。それにゴーヤはイムヤが羨ましいでち。こんなに忙しいなんて……」

 

「じゃあ変わってあげよっか?」

 

「それはいいの! せっかく……」

 

「せっかく提督の助けになれるんだからって?」

 

「…………むぅ」

 

「あははは! ほら、怒らないでよ」

 

プクッと頬を膨らせるゴーヤをイムヤがからかい半分に宥める。内心では表情豊かになってよかったと胸をなでおろしながら。

 

「ま、私たち潜水艦を輸送作戦に引っ張り出した本部の意図はよくわかんないけど頑張ってきなさい。館山はちゃんと守っとくから」

 

「よろしくでち。それにしても急に忙しくなったよね」

 

「本当にね。ヨーロッパといい……あっ、ごめん…………」

 

「ううん。気にしないで。それにゴーヤはしっかり見たわけじゃないから……」

 

「ねえ。良ければ聞かせてくれない?」

 

ぴょん、とイムヤがテーブルから飛び降りて真剣味の宿った目でゴーヤを見つめた。声には心配の色が強く滲んでいる。背中を丸めていたゴーヤが振り返った。

 

「決定的な瞬間は見てないのは本当だよ。叢雲がゴーヤの頭を抱えて見せないようにしてくれたから」

 

「そうなのね……」

 

「うん。でも怖いものは見たよ」

 

「やっぱり銃を向けられるのは怖いわよね……」

 

「ううん。違う。いや違わないけど、もっと怖かったもの」

 

「もっと怖かったもの?」

 

銃を向けられる以上の恐怖とは何だろう。それ以上きついことをゴーヤはヨーロッパで経験してきたのだろうか。イムヤの頭の中で不安が渦を巻く。

 

「それはね、てーとくだよ」

 

「提督が!?」

 

ガタン! とイムヤが立ち上がる。慌てたようにゴーヤがイムヤの肩を押さえて座らせた。

 

「ゴーヤ放して! 今すぐ行ってとっちめてやるわ!」

 

「イムヤ落ち着くでち! 別にてーとくはゴーヤに何もやってないよ!」

 

「じゃあなにがあったのよ!」

 

「えっと……」

 

口ごもるゴーヤにイムヤの頭に登っていた血が降りて少しだけ冷静になる。すとんと座ると肩を押さえていたゴーヤも元に戻っていく。

 

「てーとくの目が……」

 

「目?」

 

「そう。光がなくなって色んなものが抜け落ちたような目をしてた。そしてその後は……」

 

「でも……こう、あれじゃないの? やっぱり……こ、殺すって決めたらそうなっちゃうみたいな」

 

イムヤは言葉を選ぼうとして最適解が見つからず、仕方なく直接的な物言いをした。けれど仮に言い方を変えたところで事実は変わらない。変わるのは個人の主観による感情だけだ。

 

「そういうのじゃなかった。なんかこう……うまく言葉にできないけど怖かったでち」

 

ぶるりとゴーヤが震えた。現場を見ていないイムヤには想像しようとすることしかできないが、イムヤは峻が矢田に対して怒っていた時の事しか思いつかなかった。でもゴーヤが言っているものとは違うと断言できる。あの時の峻の目には怒りがあった。光がなくなってなといなかった。理性は少しだけ飛んでいたようだが、それでも何かが抜け落ちるといった印象は受けなかった。

 

「一応聞いておくけど銚子基地の時みたいな感じとは違うのよね?」

 

「全然違うよ。もっと冷えきった感じ」

 

「……ごめん、理解しようと頑張ったけどよくわかんない。けどゴーヤにとっては怖かったんだね」

 

「怖かったのもあるけど、見ていて痛々しかったかな」

 

「……ねえ、ゴーヤは提督のこと好き?」

 

「ぶっ! げふっ、ごほっ! き、急に何でち!」

 

イムヤにより、予想外の右ストレートを叩き込まれたゴーヤが噎せた。しばらくゴホゴホやっていたが、ようやく落ち着いたのか頬を紅潮させながらこくりと頷く。

 

「ならゴーヤが出来ることをやってあげて。ゴーヤ自身が納得できる形で」

 

「……ありがと、イムヤ」

 

ゴーヤがイムヤを見つめてから深々とお辞儀をした。むずむずとした感覚がイムヤの体を這い回り、ピンク色の頭を軽くぺしりとたたく。

 

「なーに律儀にお礼なんて言っちゃってるのよ! お礼なら言葉よりブツで返してちょうだい! そうね、高級そうなお菓子で許してあげるわ!」

 

「急すぎるよ、変貌ぶりが!」

 

「何のことかわかんないわー」

 

「イームーヤー!」

 

暗い雰囲気が払拭され、ドタバタと和やかな喧騒がゴーヤの部屋を満たす。

なぜイムヤはこんな話をゴーヤにしたのか。イムヤはついこの間、屋内演習場で的をめった切りにしている叢雲を目撃していた。そして今の叢雲には峻を補佐することなどできないと判断したのだ。峻の懐刀は持ち主をも傷つける妖刀に変わっている、とイムヤは考えていた。

ならば誰かが代わりになる必要がある。だが自分は今回の作戦に参加できない。ならばヨーロッパで起きたことを知っていて、現場を見てきた者にそれとなく伝えておく。それだけで少しはマシになるかもしれないのなら。

もちろん、親友のゴーヤに少し肩入れしたかったことは否定しない。けれどゴーヤの胸に秘めた思いが花咲くことを願うことくらいは許されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府の執務室で翔鶴はふぅ、と息を吐いた。活字を見すぎたせいか、目を閉じても目の前には文字列が踊る。東雲が本部に行っている間、代理として書類の仕分けを担当しているが、膨大な量に忙殺されていた。東雲のいない今は承認判を翔鶴の判断で勝手に打つことはできない。それでも支部の基地へ送る書類を各支部ごとに分けていく仕事がある。簡単そうに思えるがいかんせん量が量なので捌くのが厳しくなっていた。

執務室の重厚な扉がノックされる。伸びをしていた翔鶴は背筋を伸ばすとよく通る声で入室を許可する旨を告げた。

 

「失礼します。郵送する書類を受け取りに来ました」

 

「すみません、小泉中佐。何度もお願いしてしまって」

 

「自分がやりたいと思ってのことです。お気になさらないでください」

 

小泉がこれですね、と確認をとってから一つの山を持ち上げた。ここのところ毎日、小泉は翔鶴の仕分けた書類の山を郵送する手続きを請け負っていた。明らかに気を使わせてしまっていることに申し訳なさを覚えたが、猫の手も借りたいところだったので翔鶴は好意に甘えることにしたのだった。

 

「ではひとまずこちらを送ってきますね。郵送先はこの付箋に書いてあるところで大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「了解です。それでは」

 

小泉が一礼すると執務室から書類の山を抱えて退室していく。

 

「あ……」

 

「どうかされましたか?」

 

「……いえ、大したことじゃないんです。すみません」

 

「いえ。翔鶴さんも休息をとられてください。では」

 

今度こそ小泉が執務室から出ていった。重苦しい音を立てて扉がバタンと閉じる。次の仕分けに取り掛かろうとする翔鶴だが、その元に通信が舞い込んだ。

 

『よう、翔鶴。今は大丈夫か?』

 

「将生さんですか。はい、ちょうど休憩中でした」

 

『過去形ってことは今からまた始めるとこだったか。邪魔だったら切るが……』

 

「いえ。休憩は少しだけ延長することにしました」

 

『はっはっは! 延長か。そりゃいいや! ま、特に用がある訳じゃない。なんとなく心配になってかけてみただけだ。どうだ、そっちは?』

 

「横須賀を維持するだけで手一杯です……すみません…………」

 

しゅん、と翔鶴がうなだれる。いつも1人で横須賀と支部を回しきっている東雲のすごさが身に染みて感じられた。

 

『あー、そんな落ち込まんでくれ。そりゃ1人で回そうとすりゃそうなる。むしろよく横須賀を回してくれると俺は思うぞ』

 

「そうでしょうか……」

 

『ああ。まあ大丈夫そうならよかったよ。最近変わったこととかもないんだな?』

 

「変わったこと……ですか?」

 

『ああ』

 

翔鶴が顎にちょこっと手を当てて思案する。いつもならないこと。珍しいこと。最初に浮かんだのは書類の量が多すぎるような気がしたことだが、これはままあることなのですぐに取り下げる。

 

「そういえば……」

 

『なんかあったか?』

 

「いえ、そんなに大したことでは。ただ数時間前くらいに横須賀へ艦娘輸送艦のさらしなが補給を受けて出港していったようです」

 

『さらしなっていうと……シュンの知り合いが艦長やってる船か。確か沖山少佐だったっけな。館山にでも向かったのか? それだとまたあの野郎が変なこと企んでやがるのか……ま、それならいいか。変わったことと言えば変わったことだが、日常茶飯事とも言えるしな』

 

「それも問題では……とりあえず思い当たるのはこれくらいです」

 

『そうか。いや、翔鶴がうまく横須賀鎮守府を運営してくれてるみたいでよかった。っと、そろそろ時間だな。悪い、もう切る。あと少しだけ頼むな』

 

「わかりました。そちらも頑張ってくださいね」

 

『おう、任しとけ。じゃあな』

 

通信が切れてから弛緩した音が喉を伝って漏れる。疲労はもちろん溜まっている。だがせめて東雲が帰ってくるその時まではここを支え続けようという決意を新たにした。

 

「もうひと頑張りよ」

 

再び書類の山に向き合い、萎えかけた気を奮い立たせる。横須賀鎮守府司令長官の秘書艦として、不在の東雲の代わりとして翔鶴は持てる全ての力を持って横須賀を支える。東雲のように支部まで完璧に回しきることは出来ないかもしれない。だとしてもせめて、せめて横須賀だけでも保たせよう。

とめどなく送られてる紙を相手にまた翔鶴がわき目もふらさずに奮戦を始めた。




ひっさびさに登場したさらしな艦橋三人衆と小泉さんですが、覚えてくれてる人いますかね? まだこれから先にも1度しか出てねえ! みたいなキャラが出てきたりするかもしれませんけど。

それにしてもゴーヤのヒロイン感がやばい。そろそろ危ないですよ、叢雲さんや。

感想、評価などお待ちしております。それでは!

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