艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

61 / 134
こんにちは、プレリュードです!
先日、東京に行ってきたのですが、東京駅広い!迷う!
もう完全に地方人丸出しでおたおたしてました。なんで丸の内線ってあんなにわかりずらいんだ。そして1度切符を改札に入れたら終わりじゃないのか。回収し忘れて駅員さんによくあるんですよー、みたいな目で見られたよ!そして東京ではマナカって使えないのね!

警告
前回にも言いましたがグロ描写を含みます。苦手な方はご注意をば。

それでは、本編参りましょう。


無垢なる少女

〈イタリア州パラッツォホテル1Fホール-現地時刻8月12日13:09〉

 

瑞鶴は真っ先に近づいてきた子供に違和感を覚えた。別に大した理由はない。初めはなんとなく変だな、といった感じだった。

だが、妙にボコボコと角張っているジャケットの下に隠されていた爆弾を見た時、その予感が間違っていないことを確信し、叫んだのだ。

 

「危ないっ!」

 

と。そのまま近づく子供から庇うために峻を覆うようにして押し倒した。庇わなくとも峻ならなんとかしたかもしれない。だが、体が反射的に動いてしまっていた。迫り来るであろう衝撃を堪えようとしてぎゅっと目を強くつぶる。

だがいつまでたっても爆発音は聞こえなかったし、衝撃も来なかった。代わりに聞こえたのは乾いた銃声。

 

「瑞鶴、悪いがちょっと退いてもらっていいか?」

 

「えっ? ああっ! 提督さんごめん!」

 

「いや、謝ることはねえが自分の身も大切にしてくれよ……っと」

 

瑞鶴が慌てて峻の上から退くと、ホコリを叩きながら峻が立ち上がる。さっきまで勢いでとはいえ、押し倒していた事実に瑞鶴は顔が赤くなりそうになりながら誤魔化すように銃声の聞こえた方向を見る。

そして唖然とした。

 

そこには。

額に穴が穿たれ、事切れて白い大理石の床に赤いシミを作る、横たわった子供の体と。

銃口から硝煙が立ち上る9mm拳銃を構えた常盤の姿があった。

この状況を見て、何があったのかわからない者はいないだろう。文字通りに爆弾を抱えた子供が、そのスイッチを押して爆発させる前に常盤が素早く抜いた拳銃で撃ち殺したのだ。

 

「そんな……まだ子供だよ!?」

 

瑞鶴が激昂し叫ぶ。

なぜ? なんでそんなに躊躇いなく子供を殺すことができるの? 理解できないよ!

 

「なんで! なんでそんなことが────」

「うるさい」

 

怒りを滲ませた声で追撃する瑞鶴を常盤の絶対零度にまで冷えきった声が凍りつかせる。

 

「うるさいなあ。殺らなきゃ殺られてた。だから先に撃ったの。守られるだけなら口を出さないでよね」

 

感情の消えた瞳に押されて瑞鶴が半歩下がる。

 

「提督さん! 提督さんも何か言ってよ!」

 

「…………」

 

「全員が生きて帰るためには仕方ない、だよね?」

 

告げなかった言葉を常盤が続け、一瞥もくれずに外へと足を向けようとする。

 

「待ってよ! まだ言いたりない────────」

「瑞鶴ちゃん! 悪いけど今は時間がないんだ」

 

詰め寄る瑞鶴に対してあくまでも冷静に常盤が言い返す。その時、ホテルの正面入り口から武器を構えた一団が銃弾をばら撒いた。

 

「くそっ!」

 

向こうで峻は手近にいたゴーヤと叢雲を体の内側に庇うようにして太い柱の影に隠れる。常盤は若葉と霧島を連れて、瑞鶴と鈴谷を裏口に続く通路に押し込んだ。護衛チームは侵入してきた敵勢力に対してサブマシンガンで応戦を始める。さっきまで自分たちが立っていた床に銃弾がめり込み、大理石の破片を散らす。

 

『おい、常盤! 聞こえてるだろうな!』

 

「はいはいー。まずいね。足止め食らっちゃったよ」

 

『ああ。だから先に行っててくれ。どのみち二手に分かれての護送になるはずだからな。常盤』

 

「どうしたのかにゃーん?」

 

声の調子を変えた峻に比べてあくまでマイペースさを崩さない常盤。

 

『瑞鶴と鈴谷を頼むぞ。絶対に死なせるな』

 

「了解了解。帆波クンの大事な大事な艦娘をやらせやしないって」

 

「提督さん! 私はっ……」

 

『鈴谷と一緒に行くんだ。大丈夫、あとから追いつく』

 

違う。そうじゃない。常盤中佐といることが今は気まずいのだ。こんな平然と子供を殺せる人といたくない。それなのに……

 

「わかった。鈴谷たちは先に行くね。提督、後で。約束だよ」

 

『ああ。後でな』

 

そう言い残して通信は切れた。

 

「鈴谷! なんで……」

 

「瑞鶴、今は落ち着こう。気持ちはわかるから」

 

怒鳴りかけた瑞鶴は鈴谷の目を見てはっとした。鈴谷も納得はしていない。いや、この場にいる若葉も霧島もおそらくは納得できていないのだろう。それでも、もしあの状況で常盤が引き金を引かなければ、三途の川を渡っていたのは自分たちだったかもしれないのだ。

やりきれない思いで瑞鶴は柱の向こう側にいるであろう、峻たちの姿を見ようと試みたが、銃弾により削られた大理石の粉塵のせいで見ることは叶わない。

 

「……」

 

「ほら、行くよ。今は我慢の時だ」

 

裏口に停めてあるバンに乗りながら常盤が瑞鶴も乗り込むように促す。後ろに鈴谷と共に入りながら瑞鶴は胸中でこぼした。

 

ああ。

 

私は、艦娘(わたしたち)は無力だ。

 

バンは護衛の車2台に前後を挟まれながら移動を開始した。まずは船着場へ。そしてその後に船にのって欧州海練学校のあるプローチダ島を目指す。

何もできない艦娘を乗せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈イタリア州パラッツォホテル1Fホール-現地時刻同日13:23〉

 

かろうじて通路の奥へと瑞鶴たちが消えていく姿を視認した峻は一旦、胸をなでおろした。あっちは大丈夫だろう。護衛チームは分断されてしまったが、もともと二手に別れる予定だったのだから問題はない。

 

それよりも今はこっちだ。柱に掃射された銃弾が命中し、コンクリ片を散らすと、ゴーヤが声にならない悲鳴をあげた。

 

「大丈夫。大丈夫だ。護衛の人たちが応戦してくれてるからすぐに終わる」

 

「で、でも……」

 

「なんとかなるさ。ほら」

 

銃撃の間を縫うように護衛のうち一人が走ってきた。全速力で駆け抜けて、前回りの要領で峻たちの隠れている隣の柱に転がり込んだ。

 

「ここは別のチームで食い止めます。皆様はこちらへ。道は私たちが作ります」

 

ポリカーボネートの盾を持ち出したらしい。護衛数名が盾を持ちながら並び、安全地帯を作り上げる。

 

「行くぞ。頭は低くしとけよ」

 

「了解」

 

「わ、わかったでち」

 

先導されながら、姿勢を低くして盾の後ろを駆け抜けると叢雲とゴーヤがあとに続く。

次の柱の影に滑り込むと、また盾を持った護衛たちが移動し、道を作る。できた道を駆け抜けて、また次の物陰に。銃撃の隙間を見ては走ることを繰り返す。

 

「はあ、はあ、はあっ……」

 

「ゴーヤ、大丈夫?」

 

「うん……」

 

息の上がっているゴーヤに叢雲が声をかける。だが、あまりのんびりしている余裕はない以上は、次の物陰に渡るまでに息を整えてもらうしかない。

 

「あと少しだけ頑張ってくれ。車に乗ってしまえば一息つけるはずだ」

 

「頑張る……」

 

「頼むぜ。それ、次だ。走るぞ!」

 

ゴーヤの背中を優しく叩いて、先に送り出してから影から飛び出した。ポリカーボネートの盾に弾が当たる音が生々しく響く中を裏口へと続く通路に向かってひた走る。

 

「ふぅ。ゴーヤ、よく頑張ってくれた。ありがとな」

 

深海棲艦との戦闘とは違った緊張のせいで、通常よりも体力の消耗が激しいのだろう、ゴーヤを労う。そして、さっきまで自分が走ってきた道を見ると、すぐに叢雲も通路に駆け込んできた。

 

「お疲れ。問題ないか?」

 

「ええ。かすり傷ひとつないわ」

 

「そいつは重畳だ」

 

怪我がないに越したことは無い。先に行かせた瑞鶴たちは無傷で行けたはず。そしてこちらも無事に怪我なく裏口まで行けそうだ。

まだホテルのホールでは銃声が響き続けている。銃撃が始まった時、まだホールに人はいた。一体何人が犠牲になったのだろうか。聞こえているはずの悲鳴に聞こえないふりをして走り続ける。

 

「皆様、こちらです。車の手配は既に完了しました」

 

「常盤たちは?」

 

「常盤中佐は先に護送を開始しております。お急ぎ下さい」

 

裏口の戸を潜り抜けると目の前に停まっていた4ドアの後部座席にゴーヤを乗せ、その後に峻、叢雲と続いて乗り込んだ。

 

「出してください!」

 

「わかりました。おい、出せ」

 

「はっ!」

 

シートに体が押し付けられる感覚と共に車が急発進した。前と後ろに一台ずつ車が付き、ホテルから出発した。これでパラッツォホテルも見納めとなるだろう。たった一ヶ月間ほどの滞在だったがなかなか居心地はよかった。こういう形になったのは残念だ。

街路樹のない、赤いレンガの町を三台の車が統率された動きで進み続ける。石畳の段差による揺れがダイレクトに車にくるが、柔らかいシートがその震動を殺す。

赤レンガの町並みが峻の目にはひどく憎らしげに映った。

 

「みんな無事かなあ……」

 

「今のところ瑞鶴たちの方から連絡は来てない。大丈夫だ」

 

「ううん。そうじゃなくって訓練生のみんな。やっぱり心配だよ……」

 

「……彼女たちもおそらくシェルターか何かに避難してるはずだ。きっと大丈夫だから、な?」

 

「うん……」

 

気休めにしかならないことはわかっている。だがゴーヤに下手な心配をかけたくなかった。今は自分の身を守ること以外を考える余裕はないため、そういった思考に囚われてしまうことだけは避けなくてはいけない。

 

「……不気味なくらい静かだな」

 

町が一時的に占領されているせいだろう。占領されてしまったからこそ、戦闘はもう落ち着いているのだ。ついさっきまで友好国の領土だった場所は、もう敵地だった。

 

人っ子一人いない静まり返った町をただ進む。プローチダ島にある欧州海練学校に行くための船着場へ向かって。

 

そしてなんの予備動作もなく、運転手が頭部から脳漿を撒き散らしてハンドルに倒れ込んだ。静かだった町にクラクションの音が喧しく鳴り響く。

 

「ひっ」

 

「頭下げろ!」

 

怯むゴーヤの頭を無理やり押さえつけ、対ショック姿勢を取らせた。運転手が死亡したことにより、車がコントロールを失い、建物に向かっていく。だが、ぶつかる前に車体がガクンと減速を始め、無理やりハンドルが切られて、街角で車は停車した。

助手席に座っていた護衛がサイドブレーキを引き、死んだ運転手の体を退けるとハンドルを切り、衝突を回避したのだ。

 

「狙撃です! 皆様、急いで……」

 

その言葉の続きが紡がれることはなかった。フロントウィンドウに穴が空き、助手席に座っていた護衛の頭から鮮血が噴出する。

 

「車の中にいたら格好の的だ! 車外へ急げ!」

 

ドアを半ば蹴破るように開け、狙撃手から見えないであろう位置取りで車の影に隠れる。追撃するように飛来した弾が車内のシートに穴を開けた。

影に隠れると同時に、峻たちを囲むように護衛の車が停車した。それと同時に連続した銃声。分隊クラスの人数はいるであろう襲撃側が撃ってきたのだ。

 

護衛が襲撃者たちに対して、峻たちを囲むようにしながらサブマシンガンで応戦を始めた。

 

「こちらベータ班! 応援求む。繰り返す、応援求む!」

 

「護衛対象の保護を優先しつつ、敵対勢力を撃滅せよ」

 

鳴り続ける銃声の中で護衛が一人、額に穴が空き、どっと倒れ込んだ。保持していたサブマシンガンが地面に落ちて、くるくると滑ると動きを止めた。

 

そしてまた一人撃たれた。

 

また一人撃たれた。

 

明らかに狙撃されている。彼らは車を盾にして銃撃していた。敵の攻撃は当たりにくいはず。それにも関わらず見事なまでのヘッドショットが連続しているのだ。このままでは……

 

また一人死んだ。また。また。

 

銃撃の合間に小さく、だが確実に聞こえてくる人が倒れる音。

車体に連続して鉛玉が当たり、車体の軋む嫌な振動がダイレクトにもたれた体へ伝わる。

 

「てーとく……」

 

「あんた……」

 

「ああ……わかってるよ……」

 

護衛は全滅していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈イタリア州港湾部施設-現地時刻同日14:45〉

 

先に出発していた鈴谷たちは特に何も起きる事はなく、無事に船着場へと到着していた。

船の準備が完了するまで建物の中で待機しているだけ。そんなに長い時間はかからない。なのに異様なまでに時間の進みが遅く感じる。落ち着かない。

それは隣に座る瑞鶴も同じようで、さっきからそわそわしながら、たまに後ろ髪引かれる様子でチラチラと外を見ている。

 

「やっぱり気になるよね……」

 

「うん。提督さんたち遅いよね」

 

そろそろ着いてもおかしくはないはず。それにも関わらず、峻たちを乗せた車は一向に船着場へ到着する様子はない。

 

「瑞鶴、ちょっと歩かない?」

 

「えっ? でも建物から出たら……」

 

「うん。だからほんとにここら辺を歩くだけ。建物からは出ないってば」

 

「そういうことなら……」

 

落ち着かないことを誤魔化したくて瑞鶴を誘いながら立ち上がる。鈴谷たちの会話を聞いていた常盤は一瞬だけ目線を向けたが、すぐに正面に戻した。鈴谷はそれを許可だと解釈し、部屋の中をぶらぶらと歩き始めた。

 

「とんでもないことになっちゃったなあ……」

 

「館山で提督さんにヨーロッパへ行くぞって言われた時はこうなるなんて思いもしなかったもんね……」

 

特に目的があるわけでもなく、部屋の中をさまよう。どんよりとした雰囲気で歩いても気が晴れるわけがなかった。

ドアの前まで歩いて約一周したことに気づいた。結局モヤモヤとしたものは心の中に留まり続けてしまって消えない。

 

「ね、ねぇ。鈴谷……」

 

「ん? っ! 瑞鶴大丈夫!? 顔真っ青だよ!」

 

「い、今……扉の向こうで……」

 

「ともかく一旦座ろう? 落ち着いてから、ね?」

 

「う、うん……」

 

瑞鶴の手を引き、ふんわりとしたソファに座らせた。何度か深呼吸をすると顔色は幾分か戻っていく。

 

「瑞鶴、何を聞いたの?」

 

「……提督さんたちの護送中に襲われて、護衛チームとの連絡が途絶したって…………」

 

「そんな!」

 

鈴谷は我が耳を疑った。わずかな思考の空白が生じた後にようやく事態を呑み込んだ。この事実が示すことはつまり……

 

「提督たちが危ない!」

 

護衛が全滅しただけで峻が死んだという情報はない。だがこのままいけば時間の問題だ。現在進行形で襲撃されているということはまだあの恐ろしい銃撃に晒されているということだろう。

 

「鈴谷……」

 

「行かなきゃ!」

 

「うん。提督さんたちを助けなくちゃ!」

 

「はいはーい、そこまでにしよっか」

 

助けに行こうとした鈴谷たちを遮るように常盤がドアの前に立った。

 

「常盤中佐! 邪魔しないでよ!」

 

「鈴谷ちゃんこそ何をするつもり?」

 

「提督たちを助けに行くの。このままじゃ死んじゃうよ!」

 

「帆波クンのことかな。確かに大変みたいだね」

 

「大変どころじゃないよ! 提督さんは……提督さんは今、襲われているんだよ!?」

 

「うん、知ってる。さっき護衛の人に耳打ちされたからね。救援を送ってるとこだって教えて貰ったよ」

 

「なんで……じゃあなんでそんなに落ち着いていられるの!?」

 

提督が襲われているのに関係ないっていうこと? それだけじゃなくて提督に勝手に死ねって言いたいの、この人は!

 

自分の提督を蔑ろにされた怒りで鈴谷の頭が沸騰する。 瑞鶴もさっきまでの青い顔はどこかへ、頭から湯気が出そうだ。

だがそんな2人を常盤はどこか冷めた目で見ていた。

 

「逆に聞くけど、()()()2()()()()()()()()()()()?」

 

「それは……」

 

「何も出来やしないよ。それなのに助けに行く? 笑わせないで欲しいね。帆波クンは今、叢雲ちゃんとゴーヤちゃんの命を背負いながら戦ってる。それなのにまだ重荷を背負わせるつもりかな?」

 

常盤の目線が2人を射竦める。それだけで、まるで足から根が生えたように動けない。でも引き下がるわけにはいかない。

 

「常盤中佐、さっき鈴谷たちはあの場で言うことを聞いたよ。今度はこっちの言い分を聞いてくれてもいいんじゃない?」

 

はあ、と大袈裟なため息を常盤が吐いた。

 

「そういう問題じゃない。もうこの事態はそんな次元をとっくのとうに超越してるんだよ。わっかんないかなあ?」

 

じゃあ、と前置きして常盤がゆっくりと口を開く。

 

「はっきり言うよ。君たちが行っても帆波クンの足手纏いにしかならない。何の役にも立たずに死ぬか、死なずに帆波クンに守られて、守るために無茶を続けるしかなくなった彼の生存率をガタ落ちさせるだけだ。それでもどうしても行きたいって言うなら、ほら」

 

鈴谷たちの足元へ常盤が何かを放った。鈴谷が重々しい金属的な音を立てたそれを見ようと視線を落とすと、そこには真っ黒な9mm拳銃が転がっていた。

 

「アタシは君たちが帆波クンを助けに行くことを止める、言うなら君たちの敵だ。()()()()()()()()?」

 

思わず唾を飲み込んだ。目の前にある拳銃から目が離せない。人間を殺すための道具を手に取れと常盤は言う。だがそれを手に取ることは鈴谷たちの誇りを汚すものだ。

 

「取れないんだね? じゃあ行くな。行っても帆波クンの足枷になるだけだ」

 

「でも!」

 

「じゃあここでそれを取ることすら出来ない鈴谷ちゃんが行って何が出来る?」

 

鈴谷が顔を苦しそうに歪める。常盤は鈴谷たち艦娘が今現時点において無力だという事実を真正面から突きつけたのだ。

無言の鈴谷を前に常盤が嗤う。

 

「断言するよ。鈴谷ちゃんたちに彼は救えない。邪魔になるだけだ」

 

「鈴谷は提督さんたちのことを心配してるだけなのにそんな言い方ってないよ!」

 

「こうでもしなくちゃ瑞鶴ちゃんたちは止まらないでしょ? ほら、船の準備が完了したみたいだし行くよ」

 

足元に転がったままの拳銃を常盤が拾い上げると、ホルスターに収めて移動のために用意された船に向かう。

 

「仕方ないよ。私たちにはもう、どうしようもないんだ……」

 

「だけど……見捨てるみたいじゃん…………」

 

「大丈夫。提督さんなら絶対に大丈夫だから。ゴーヤはこういう時、少し頼りないかもだけど、叢雲もいるんだし、ちゃんと無事に来てくれるよ」

 

空元気により、無理やり立ち直った瑞鶴が鈴谷の肩を抱く。瑞鶴だって心配なことに変わりはない。けれど今の鈴谷を目の前にして、少し冷静になっていた。

 

「信じて待とう。絶対に来てくれるから」

 

「…………うん」

 

待つことしかできない。そんな歯痒さを堪えて船へ足を向ける。乗り込むと、そこには常盤が待ち受けていた。

 

「キツい言い方しちゃったね。でも2人はこの件に関して気に病むことはないよ。これは君たちの戦場じゃないんだから」

 

お呼びでないことはわかっていた。自分たちの戦いとは全く異なるものだということも。でも。だからといって仕方ないで切り捨てることが本当に正しいことなんだろうか。

適材適所だからと自分に言い訳して、誰かに押し付けることが正しいと本気で言えるだろうか。

ゆっくりと離れていく陸地を見続けながら、鈴谷は峻たちの無事を祈った。

 

────祈ることしかできなかった。




艦娘は対人戦闘において無力であるというより無力であろうとするのではないかと個人的にはちょこっと思ってたり。ぶっちゃけ艤装つけてたら余裕だと思うんですよ。だって軍艦と歩兵1人じゃどっちが勝つかなんて火を見るより明らかじゃないですか。でもやらないのは人を守るという誇りを汚したくないのかなあ、と。まあ本編とはあまり関係ないお話なんですけど。

感想、評価などお待ちしております。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。