皆さんイベントの進捗状況はどうですか?
とりあえず自分はE-1を甲で突破だけしました。伊26が落ちたのは正直なところかなり嬉しいです!
では本編参りましょう。
〈イタリア州欧州海練学校イタリア校廊下-現地時刻8月9日11:32〉
だいたい俺の講義は午前で終わる。面倒だからわざと午前で片付けているのもあるがそれ以上にそこまで話す内容が無いのだ。
あまりにも深いところまで言ってしまえば日本の機密を教えることになってしまう。かと言って何も言わなければ講師として呼ばれている意味がないだろう。ここにいる訓練生たちは各所から選抜されたトップクラスの成績者であるはずだから基礎を教えたところでそんなものは既に知っているに決まっている。いい塩梅というのは難しい。だが予想通りと言うべきだろう、ラバートンとの演習に圧勝したせいで訓練生からの信頼は得られた。多少の罪悪感はあるが本人も理解した上で乗った以上は文句を言われることはないはずだ。
問題は次だ。つまりは今の現状でもある。
「先生、この場合の陣形選択ですがやはり単縦が……」
「質問なんですけど重巡洋艦の運用において魚雷攻撃のタイミングは……」
「先日の演習で別パターンのシュミレーションを作ったのでご講評をいただきたく……」
「空母に搭載する艦載機についてですが艦爆や艦攻、艦戦のバランスは……」
「艤装の運動プログラムと姿勢制御プログラムを組んだのですがここの調節が上手くいかなくて……」
そう、少々。いや、ほんのちょぴーっと調子に乗りすぎたのだ。演習での無双が終わった翌日に、
「あー、あの娘たちの艤装の駆動系プログラムはほぼ俺が組んでるんだよねー」
とか少し自慢げに話した結果がこうだ。訓練生があれよあれよと押しかけての質問攻め。しかも司令官としての訓練生だけでなく、いつの間にか技術学校の訓練生までが紛れ込んでいる事態である。お前ら一体どこから湧いた。
おっとそろそろ答えてやんねぇと永遠に解放されないかもしれん。
「えー、まず最初の。そこは単縦もありだが複縦もいけるクチだと思うぞ。次の君と空母の質問飛ばしてきた君はぶっちゃけケースバイケースとしか言えん! シュミレーション作ってきた奴とプログラム組んできた奴はあとでチェックするから記憶媒体に焼いて持ってこい。あぁ、世界共通規格にしてくれよ? そうじゃなきゃ見れねえからな。以上だな? それじゃあ解散!」
ざっくりと答えてやれば集まっていた訓練生がわーっと散っていく。いや、ほんとにここまでになるなんてな。まいったまいった。まともに遊ぶ時間もねえ。
「ひとまずはホテルに帰って明日の教材作りだな。その後は渡されるであろうシュミレーションファイルと姿勢制御プログラムの調整を見て何が問題か見にゃならんし……くそっ、マジで忙しすぎだろ。もうちょい遊ばせろ」
教材作りは最悪の場合は叢雲あたりに頭下げて頼めば何とかなる。だがさすがにプログラムのチェックなどは俺しかできないだろう。あー、面倒くせえな。誰かにここらへんの技能仕込むか。あって損する技術じゃないし、何かあったときには応急修理とかに使えるかもしれない。だが教えるとなるとそれはそれでまた面倒だ。まあ結局教えないんだろうな、俺は。なんか直接脳内に情報を送り込める便利なアイテムないかねえ。
アホなことをぼんやり考えていると首のコネクトデバイスが通信を報せた。
『あ、もしもし提督さん? まだホテルに戻れなさそう?』
「瑞鶴か。悪いな。訓練生が記憶媒体に見てほしいプログラム焼き付けてから持ってくるらしいからそれまで待たなきゃいけなくなった。約束は明日でいいか?」
そう。本当なら今日は全員で買い物に行く予定だったのだが俺の方が想定以上に延びてしまっているのだ。しかもこの後に現物を隅々まで確認したうえで問題点を洗い出す必要があるのだ。それが一つや二つならいい。その比ではない量がどっちゃりとくるのが一番の問題だ。少量なら手早く片付けることもできるが数が増えればそうもいかない。集中力は途切れていくため作業効率は落ち、時間は嵩んでいく。
『うーん。まあそういうことなら仕方ないよね……』
明らかにがっかりしたのだろう、声のトーンが落ちている。
「すまねえ。明日は絶対に空けとく。だから、な?」
『絶対だよ!』
「おう!明日こそ全員で行こう。じゃあな」
『うん! じゃあね!』
通信が切れたことを確認してから深いため息をついた。申し訳ないことしたな。遠出するために車借りて4人を乗せたらショッピングやその他諸々するつもりだったんだが明日になっちまうとは。明日にしっかりと埋め合わせしよう。
「忙しそうだねー、帆波クン」
「………お前は楽そうでいいな」
常盤が口笛でも吹くような様子で近づき俺の隣を歩く。その様子にげんなりとした言葉を返した。
「んー? 全然楽チンなんかじゃないよー? でも帆波クンがあの演習やってくれたおかげでこっちもやりやすくなったしね。それに関しては感謝してるって」
「そのおかげで俺の負担がエグいんだが」
「能力だよ、の·う·りょ·く。アタシはほら、凡人だからさあ」
「英語ペラペラ、同期で5本の指に入るエリートサマがミスター平均たる俺を捕まえて何言ってやがる」
「帆波クンだって英語すごい流暢じゃん。それに本当に平均程度ならウェーク島攻略なんてできるわけないよね?」
「あいつらのおかげだ。俺は何もしてない」
常盤の声のトーンが僅かに落ちたように感じたのは気のせいではないはずだ。今まで起動していなかった頭のスイッチが警告音とともに入った。
「ははっ! やっぱり帆波クンはそう言っちゃうんだ。全部あの娘たちがやったことだって」
「事実だろ。俺はただあの場にいただけなんだからな」
「ふうん。まあそれならそれでいいんだけどね。でも帆波クンが動こうとしなければ彼女たちはきっと出撃しなかったよ。絶対にね」
「かもな。でも結果を出したのはあいつらだ」
「なんで君は認めたがらないのかな? うん、まあいいや。別に」
剣呑だった空気が和らぐ。常盤は鞘から抜く素振りをするだけに留めたようだ。
「ん? ごめん帆波クン。通信出ていい?」
「構わねえ。好きにしてくれ」
「ありがとねー。はいはーい。もしもしー。アタシだよー。お、霧島か。どしたー?ほうほう。あ、そういう。ちょうど本人が隣にいるからグループ通信に切り替えようか。いいよね?」
「俺に聞いてるならイエスだ。相手は霧島か?」
「あと瑞鶴だよ」
常盤に送られてきたリンク先に飛びグループ通信に参加。それにしても瑞鶴とは何の用だ? さっき断ったので追加の取り付けか? だとしても霧島との繋がりが見えないんだが……
『あ、もしもし提督さん? 聞こえてる?』
「聞こえてる聞こえてる。どした?」
『私、霧島が説明しますね。先ほどホテルの廊下で肩を落とした瑞鶴さんを見かけまして声をかけたところ買物の予定が延期になってしまったとのことなので近場なら2人でも許可が降りるのではと思って連絡を入れさせていただいた訳です』
「あー、そういう。まあ単独行動じゃないならいいぜ。あと霧島少し堅いな。もうちょい砕けた口調でいいぞ」
『でも私に対しては普通なんだけどねー』
『えっ……と、頑張りますね』
「霧島ー。それ頑張るものじゃないってば」
ケラケラと常盤が愉快そうに笑う。砕けた口調を頑張るって確かになかなか謎だな。榛名の妹は変に真面目らしい。
『提督さん! じゃあちょっと行ってくるね!』
「おう。暗くなる前には帰ってこい。何かあったらすぐに連絡を寄越せよ。すまねえな、ほんとに」
『いいってば。じゃあね!』
『失礼します』
グループ通信が終了したことを知らせる窓が開き、タップしてその表示を消す。仕方ないとはいえ瑞鶴たちとの約束をぶっちぎったのだ。明日は何としても空けておこう。
「で、帆波クンはこれからどうするの?」
「目を通して欲しいって言われたからな。
メモリが来たらそれを全部見て明日に支障がないようにするさ」
「よろしい。瑞鶴ちゃんたちを泣かせちゃダメだよ!」
「お前に言われるまでもなくわかってるっての。じゃあな」
「ねえ、帆波クン」
立ち去ろうとした俺を引き止めるように常盤が声をかける。
「……なんだよ?」
「なんで君は自分を誇らない?」
「…………俺一人でじゃ絶対に成し遂げれないことをまるで自分一人でやったことのように誇るのは見ていて痛々しいだろ。そんだけだ」
「本当に?」
「嘘はついてねえぞ。俺は仲間だと認めている人間には絶対に嘘をつかねえ」
「うん、知ってるよ。帆波クンがアタシたちに嘘をつかないことは」
「ならいいだろ。じゃあな」
そう言い捨てて足早にその場を立ち去ろうとする。一刻も早く消えたかった。
「でもね、帆波クン。嘘を言ってないことと真実を言っていることはイコールじゃないんだよ?」
俺の背中に向けてそんな言葉が発された気がした。
〈イタリア州パラッツォホテル前大通り-現地時刻同日13:46〉
私服でホテルから出た瑞鶴が鼻唄まじりに石畳を鳴らして歩く。その足取りは軽やかで実に楽しそうだ。跳ね上がる度にスカートの端がふわりと揺れる。
「ねえ、霧島はどこに行きたい?」
「そうね。まだ買うわけじゃないんだけど日本に残ってる部隊のみんなへのお土産が見ておきたいかしら」
「あー、わかる。下見くらいはしときたいもんね。
「えーっと、そうね。こっちの方だとサラミとかフルーツ系のリキュールとかが有名だったはずよ。あとチョコレートね」
「へぇー。よく知ってるね」
「下調べはバッチリなので」
クイッと霧島が眼鏡のブリッジを押し上げる。なにこれ賢そう。伊達メガネ買おっかな。でもなんとなく加賀に鼻で笑われる未来が見えなくもない。
「ま、いいや。とにかく近くのスーパーみたいな店に入ってみようよ」
「あ、あそこにありますよ」
「発見早っ! よし、乗り込めー!」
女子にとって買い物とは命である。一種のストレス発散にもなり、艦隊運用において非常に有効な手段であると後続の者達に語られたぐらいに。
その後も店のハシゴである。服屋を覗いたり、カバンや小物アクセサリーの店に入り試しに付けてはしゃいだりと満喫していた。そしてひとしきり見て休憩を挟むことにしたのだろう、2人はカフェに腰を下ろした。
カラン、とグラスの中の氷が崩れる。冷えたアイスコーヒーを瑞鶴はストローで啜った。
「ふー、海外って来たの初めてだけど結構楽しいね」
「そうね。やっぱり日本とは違った文化なのも新鮮で面白い」
そしてやはりイタリアといえばコーヒーである。エスプレッソの街といっても過言ではない。そのため、霧島も瑞鶴も頼んだものはアイスコーヒーなのだ。
「瑞鶴、一つ聞いてもいいかしら?」
「いいよ。私に答えられることなら何でも答えるから」
「…………榛名姉さまは元気?」
視線を伏せがちにして霧島が聞いた。その様子を見て瑞鶴は咥えていたストローから口を離す。
「うん、見てる感じでは元気だよ。私も詳しくは知らないんだけどね」
「そう……ならよかった」
「……ねえ、榛名って何があったの? よければ聞かせてくれない?」
「そうね……同じ部隊だし何かあった時に備えて話しておいた方がいいかもしれない」
「聞かせてって頼んどいてなんだけどいいの?」
「はい。榛名姉さまが前の部隊の司令官に惚れていた話は知ってる?」
「うん。で、私が知ってるのはその前司令官が最後に榛名たちを逃がすために時間稼ぎをして亡くなったってとこまでかな」
「なら大筋は知ってるのね。でも問題はその後だったの。榛名姉さまにその司令官も惚れていた。そして死の間際にそれを告白してしまった」
「うわ……それは…………」
かなり来るものがあったのだろう。心中察すべし、だ。
「榛名姉さまは壊れた。ただのキリングマシーンになってしまったの。出撃しても深海棲艦を潰すことしか考えなくなり、口数は激減。氷のような人間に変わり果ててしまった。私にはあの時の榛名姉さまはどこか深海棲艦と戦って死ぬことを望んでいたようにさえ思えた」
喉を鳴らして唾を飲む。今の明るくて提督さんに向かって時折小さく毒を吐く榛名が昔はそんな悲惨な姿だったことが想像できなかった。
「だからこそ心配だった。でも何を言っても私の言葉は届かなかった。榛名姉さまは能面のような表情で出撃を繰り返す。私は結局なにもできなかった……」
「…………」
「でもその様子だともう大丈夫なようね。本当によかった……」
「うん。もう榛名はダメになんてならない。私たちがそんなことさせない。だから安心して。私ができなくても提督さんなら止められるから」
失意の底にいる榛名を引っ張りあげたのは提督さんだ。私の着任する前だから憶測でしかないけど不思議とそうだって断言できる。提督さんはそういう精神的なところに気づいておいて放置するような人間じゃないから。
「変な空気にしてしまってごめんなさい」
「ううん、気にしないで。姉妹のことだもん。心配になるのは当たり前だよ」
アイスコーヒーもなくなったしそろそろ帰ろっか、と切り出すと会計を用意する。付き合わせちゃったから払いは持とうとしたけど霧島はいつも榛名をよくしてもらってるから、と断った。
明日の予行練習としてはとても楽しい買い物になったと思う。明日は提督さんが車を出してくれるみたいだから遠くまでいけそうだ。どんな店があるんだろう。
期待に胸を膨らませて帰路を歩んだ。
次回もこんな感じでのんびりした回にするつもりです。
せっかくヨーロッパに来たんだから遊ばなくちゃね。
ここでちょこっと宣伝を。
うちの帆波と叢雲がごません先生の『提督はBarにいる』に出していただけました!コラボ回ということで外伝の方にぴょこっと出ています。よろしければそちらもご覧になって下さい。ごません先生の書く帆波と叢雲がいますので。
感想、評価などお待ちしております。それでは。