唐突に投稿したくなったので深夜の投稿です。
イベントにむけての艦娘の育成は順調ですか?
いや、ホントに泥版は便利だわ。
それでは本編、参りましょう。
〈日本埼玉県さいたま市海軍本部防諜対策部ビル6F-現地時刻8月3日6:52〉
「長月、横須賀はどうだい?」
『こちら長月。東雲中将は現在執務室にて翔鶴を伴って仕事中の模様。昨日一昨日と同じく異常なし』
「相変わらず動きなし……か。まあ友人がシャーマンだったなんて決まるよりはマシか」
早くシャーマンの件は片付けたい。そのために横須賀鎮守府に仕掛けた盗聴器を長月に見張らせているけどあの会議以来、東雲が動く気配は一切ない。
まあ3日で動くわけがないか。気長に待とう。どのみち何もなければそれに越したことはない。
「引き続き見張りを頼むよ」
『了解した。若狭も頑張ってくれ。帆波大佐の依頼』
プツンと通信を切る。本来なら帆波の依頼なんてやらなくてもいい案件だ。だが無視できない理由がある。帆波の出世スピードは明らかに異常だ。たった半年足らずで二階級昇進?普通だったら殉職を疑うところだ。元の能力が高いのは認める。だとしても常識の範囲を逸脱しすぎていないか。
そしてその要因のうち一つに矢田事件がある。裏で糸を引いていたのはシャーマンであるあの事件が。
結論。シャーマンは帆波に執着している。つまり帆波を追えばシャーマンに辿り着く可能性が高い。だから東雲を長月に見張らせている。だから僕自身が帆波の依頼を受けた。それだけだ。
目当ての部屋を見つけた。ドアのプレートには、”防諜対策部対外課第三室室長”と刻まれている。時刻はちょうど7時。約束の時間とちょうど同じだ。トントン、と控え目にノック。
「どうぞ」
「失礼します。若狭陽太少佐です」
「ようこそ。
「本日は時間をとっていただきありがとうございます」
「いや、構わないよ。そこに掛けてくれ。長い話になるんだろう?」
「はい、おそらくは」
「少し待っててくれ。お茶を淹れてくるから」
「いえ、おかまいなく」
「そうもいかないな。客人だからね」
若狭を座らせておいてしばらく経つと小さなお盆をもった相模原がやってきた。
「甘いものは好きかい?時乃鐘最中をこの前頂いてね。是非どうだい?」
「いただきます」
時乃鐘最中は埼玉県の銘菓だ。餡が三種類あるお菓子である。若狭は小豆つぶしあんを選び包装を丁寧に剥がした。
「時の鐘っていうのは江戸時代の川越藩藩主、
相模原が包装紙から出した最中を器用に直立させる。
「はい。確か現在建っているのは五代目だったはずです」
「その通り。四代目は深海棲艦出現時に混乱の中で倒れてしまった。だがそれをまた川越の人たちは大金を掛けて再建したんだ。まさに社会システムと同じだと思わないか?バスティーユ牢獄襲撃しかり、アメリカ独立戦争しかり、明治維新しかり、だよ。長い時間においてシステムを人は倒してはまた作り直す。時の鐘とはぴったりな名前だ」
つん、と最中を突いて倒すと再びバランスを上手くとらせて直立させた。
「おっとすまない。あまり君には興味のない話だったね。いかんな。歳をとるとどうもこういうことばかり言うようになってしまう」
白髪混じりの髪を相模原が手櫛で梳く。もうじき彼は50ぐらいだったはずだ。若狭には彼が歳というにはまだ少し早く感じた。
「で、対内課の君が対外課の私に何の用かな?外のことで聞きたいことがあるのだろう?」
「はい。ヨーロッパについて聞きたいのです」
「ヨーロッパか。確かに私は今の東南アジア対策室である第三室になる前はヨーロッパ、とくに東を担当していた。ある程度は知っているつもりだ。だがそれを聞きたいのは本当に君か?」
やはり只者ではない。いや、そうでなくては世界各所において間諜活動などできないのだろう。
「当ててみせよう。帆波峻大佐だね?」
「はい。やはりわかりますか」
「それは仕方がないだろう。彼は今まさに時の人だ。知るなという方が無理な注文だよ。そして君と帆波大佐が同期であることくらいは調べればすぐわかる」
「そうですね。ついこの間、帆波大佐が自分にヨーロッパの情勢を教えてくれと言ってきました。なので一番詳しいであろう相模原大佐を頼らせていただきました」
「なるほど。ならば通信で彼を呼んだらいい。脳波通信が発達したおかげで地球の裏からも高い機密性を保持したまま話せるのだろう?ちょうどイタリアは今23時頃だ。起きているか確認してみればいい。やはり伝聞よりも直接の方が伝わりやすい」
「……わかりました。少し失礼して連絡を取ってみます」
「ゆっくりで構わないよ。どうせ今日は私はフリーだからね」
ポケットに入れてある伸縮式のコネクトデバイスを伸ばし首に装着すると電源を入れる。ホロウィンドウに表示される連絡先から帆波峻と書かれた場所をタップ。数コール待つとはたして帆波は出た。
『もしもし。こっちはもう夜なんだが急にどうした、若狭』
「いつかの依頼の件さ。対外課の方に話を伺えるんだけど今大丈夫かい?」
『たった今大丈夫になった。姿を見せないのも失礼だな。若狭、ホロでそっちに出る。準備してくれ』
「了解。ちょっと待ってて」
コネクトデバイスに配線を繋ぎ大型のホロ投射装置に接続する。同期認証をオンに。
「準備完了。いけるよ」
『こっちもだ。じゃあいくぜ』
プゥン、とホロ投射装置から帆波の全身のホログラムが青白く透けて現れる。右手を握って解いてを繰り返して動作を確認。レスポンスの方も問題なさそうだ。
『よし。あー、お初にお目にかかります、日本海軍横須賀鎮守府支部館山基地基地司令および帆波隊司令官、帆波峻大佐です』
「日本海軍防諜対策部対外課第三室室長、相模原貴史大佐だ。よろしく」
『私のためにこのような時間をとっていただきありがとうございます』
「構わないよ。若狭少佐から聞いているが欧州連邦の情勢を知りたいとのことだったね?」
『お願いします。とくに』
ホログラムの帆波が言葉を切り、すっと息を吸う。何かを自分のなかで固めたのか、相模原大佐を真っ直ぐに見据えてから口を開いた。
『WARNの活動状況について詳しくお聞かせ願いたいのです』
「なっ!帆波それはもう潰れたはずだ!」
こんな風に取り乱したのはいつ以来だろう。ただ帆波の言った名前は僕をそこまで動揺させるに足るものだった。
Warld Arcadia Reform Nation──世界理想郷変革国。国などと言っているがその実体は国際テロ組織だ。大量の武器を保持し世界各国でテロを立て続けに起こし続けたのだ。アメリカはもちろん、ロシア、旧ヨーロッパ諸国、東南アジア、そしてその魔手は日本にも及んだ。日本は当時、移民受け入れを表明せざるを得ない状況に国際的に追い込まれ、そのせいで難民に紛れて多くのテロリストが入国したのが原因だと言われている。
だが深海棲艦が現れると同時にぱったりと姿を消した。深海棲艦という人類共通の敵を前にWARNはひっそりと歴史の舞台を降りることになったのだ。
そうだとばかり思っていた。今ここでその名を聞くまでは。
「WARNか。ではあれの起源から話そう。そもそもはあの組織が社会主義の側面を持っていることから始まる。ソ連解体で共産党はなくなった。だがそこに属していた人間がいなくなったわけじゃない。政党としては消えても思想は残り続けた。そして約30年前に起きたユーゴスラビア紛争。また社会主義の思想を持った組織が潰れ人間が残った。そして残った人間たちが集まり形成されたのが最初期のWARNとなった。だが当初はどこの国も気にしなかった。所詮は何の力もない寄せ集め集団にすぎないと。その対応が自国の首を絞めるものだとだれも思わなかったし思いもしなかったんだ」
ここで相模原は冷茶の入ったグラスに口をつけた。この部屋もエアコンが効いているとはいえ夏だ。喉が乾くのは仕方がない。
「彼らは不満を煽り仲間を増やした。東ヨーロッパの民族間の諍いや旧イギリスの三枚舌外交と宗教の違いによる対立などで荒れる中東諸国。戦争において一番割を食らう民衆に理想郷を作ろうという甘言をもって水面下で徐々に勢力を拡大していった。そして気付いた時には中東から東ヨーロッパに渡って社会主義の思想は蔓延していた後だったんだ。それらが団結するのにあまり時間はかからなかったんだろう。突如としてWARNは世界各国への同時多発テロという形で建国を宣言した。そこから後は泥沼さ」
その通りだろう。いきなりテロ国家が勝手に樹立を公言した時の混乱は想像に難くない。当時はまだ生まれていない若狭だがその時の記述でどれだけ世界が大騒ぎしたかは知っている。
「石油産地を抑えているせいで金はあるものだから武器には困らない。民衆は味方だから兵士は腐るほどいる。そして武器を売りたくて舌なめずりしている死の商人がそこに食いついた。武器はいくらでも強力なものが手に入り、人員の確保も各地から集まり順調。かの有名な第三次世界大戦へと発展していくのは時間の問題だったんだ」
人と金。そして民衆を納得させ自分たちは正義だと思わせられる大義名分。それさえあれば戦争はできてしまう。そしてWARNにはそれらすべてがそろっていたのだ。
「その後もだらだらと戦争は長引き続けた。もちろん、WARNを侮っていたこともあっただろう。想像以上にしぶとく、正義の名の下に人道的に反することですら躊躇いなく実行してくるWARNは厄介極まりない存在だった。だがそれだけじゃない。各国がパワーゲームに興じながら戦争していたんだ。長引くのは当然のことだね。そしておおよそ10年ほど前、深海棲艦が現れて以来は大規模な活動はしなくなった。もちろん、小さなことならやってるよ。あんまり目立っちゃいないけどね。世界を理想郷に、我ら変革し創造する者なりってさ。だから帆波大佐の問いに答えるならこうだ。彼らはまだいる。今もなお各国に散らばって息を潜めている。そしてヨーロッパにおいてはその思想は生きている、とね」
『………貴重なお話をありがとうございます』
ホログラム帆波が腰を折って礼を述べる。実際にヨーロッパのホテルの一室でそうやっているのだろう。
「いやいや、大したことじゃない。なぜ君こそそんなことを知りたがるか聞いてもいいかい?」
『仲間を守るためです。降りかかる火の粉は払う。火元の規模を確認しておけば火の粉の規模もわかる。もし火元が消えかけているならそれでいい。だがもしも火元は見えないだけで活発ならばそれなりの覚悟が必要になってくるので』
「ふむ、なるほど。すまなかった。つまらないことを聞いたね。そろそろお開きにしよう。そっちはもうかなり遅いだろう」
『わかりました。お心遣いありがとうございます。それでは』
ヴン、とホログラムの像がブレると帆波の姿が消え、脳波通信が終了したことを知らせるウィンドウが若狭の目の前に出現した。ウィンドウを手で弾いて消すと相模原大佐に向き直る。
「このような早朝にありがとうございました」
「大丈夫だとも。どうせ私が朝早く起きるのはクセみたいなものだから」
若狭の謝辞をなんでもないというふうに相模原が手を振る。お土産に、と最中をもらうというよりか押し付けられるといった感じで受け取り、若狭は立ち上がって一礼した後に部屋を出ていった。
これで帆波の依頼は完了だろう。少しばかり時間がかかり過ぎた感は拭えないがそれは会議の件で仕方なかったということで。
「降りかかる火の粉、か…………」
その言い方はまるで降りかかることがわかっているかのようだった。いや、事実そうなることを予想しているのかもしれない。まったく帆波の底は読めないね。
それにしてもこの最中どうしよう。えらくたくさんくれたけどこんなにあってもなあ。
……長月にでもあげようか。頑張って見張りをやっていてくれているわけだし、甘いものでも差し入れてあげれば喜ぶかもしれない。それにそろそろ交代の時間だったはずだしね。疲れているときは甘いものが一番っていうぐらいだ。明日は僕の担当だからゆっくりやすませてやらなくちゃ。
そういえばシャーマンの動きも気になるところだ。矢田の件以来、息を潜めているが何を企んでいるのだろうか。確かに自分は東雲を疑ってはいるが、それに固執しては真実は見抜けない。東雲でなかった場合も想定しておくべきだ。
だが。
もし東雲でなかったとして、シャーマンの狙いはいったい何があり得るのだろう。いや、それを考えることが自分の仕事だ。
ある有名な探偵は言った。
『完全にありえないことを取り除けば、残ったものは、いかにありそうにないことでも、事実に間違いない』
ならば全てを検証し、最後の一つになるまで調べつくしてやろう。それが最終的にはこの組織の安泰に繋がり、国民を守る結果になるのだから。
完全に世界設定の公開ですね、わかります。
これ好きな人限られすぎだろ……
感想、評価などお待ちしております。それでは。