メンテナンス中が暇だからという理由で投稿。とはいえ気づけばもう終わりかけだったり。
ところで皆さん、夏ですよ!夏といえば艦これ夏イベです!資材は充分ですか?艦娘の練度は?
うちはダメだ!勝てねぇ!
はい、本編に参りましょう。
07/18、改稿しました。流れに影響はありません。
〈日本埼玉県さいたま市海軍本部防諜対策部ビル4F-現地時刻7月31日18:29〉
慌ただしい足音がドア越しに聞こえ、自分の仕事部屋の前で音が止まる。直後にノック。
「長月、入っておいで」
「わっ、若狭!今入った情報だ!」
髪を振り乱した長月がドアを蹴破るように開けて部屋に転がり込んできた。
「その様子だと東雲の基地航空隊計画は通ったのかい?」
「その通りだ!岩崎満弥が動いた。そのせいで山崎中将は追求できずにそのまま議案が可決したんだ」
「うん、まあだいたい想定通りだね」
「……本当にか?」
「そうともさ。あの計画はなかなかどうしてよくできてる。反東雲な山崎中将は反対するだろうけど普通なら通す計画だね」
「じゃあなんで若狭はわざわざ山崎中将に
計画が通るのを阻止するために山崎中将へ間接的にあんな写真付きのものを渡したんじゃないのか、と言外に長月が問いかける。
「僕はあの計画はむしろ通るべきだと思ってる。いや、どのみち通ると思っていた、かな」
「ならばなぜ山崎中将に反撃のカードを渡したんだ?あれほど東雲中将への有効なカードはないだろう」
「東雲ならなんとかすると思ったからね。それにもしどうしようもなくなった時のために岩崎満弥に会議の情報を伝えておいたわけだし」
もちろん発信源はバレないように工作してある。岩崎満弥には匿名で情報が届いたように見えているだろう。
「若狭、一体なにがやりたかったんだ?東雲中将の敵のようであったり味方だったり。訳がわからない」
「どっちもさ。でも牽制にはなったかな、シャーマンへの」
カッと長月が目を開き、声を荒げる。
「どういうことだ若狭!なにがやりたいんだお前は!」
「落ち着いて。説明するからさ。立ってると疲れるだろうから座りなよ。お茶だすからさ」
納得がいかない顔で長月が腰掛ける。説明をするために開いていたフォルダを閉じて机の上を整頓し、備え付けの冷蔵庫から冷えた麦茶をグラスに注ぎ長月に差し出す。長月の小さな手がそれを受け取りコクリと喉が動く。
「単刀直入に言おうか。僕は東雲がシャーマンだと疑ってる」
「ぶっ、げほっげほっ!」
そしてむせた。気管支に麦茶が入ったのだろう。これはたぶん僕の落ち度かな?駆け寄って長月の背中を落ち着くまでさする。
「もう大丈夫だ。それにしても本気か?」
「いつか僕はなぜ帆波がシャーマンだという疑いを持たれているか説明したっけ?」
「いや、してない」
「じゃあそこから行こうか。矢田情報漏洩事件で帆波は階級が一つあがってさらに献金までされてる。これは立派な動機になる。これはオーケーかい?」
「ああ。だが大佐は献金に関しては断ったはずだ」
「そうだね。ま、帆波なら断ると思ってたけどそれはいい。問題はその後だよ」
「その後?」
「当時はまだ中佐だった帆波はその後にわずか半年足らずで大佐に昇進している。いくらなんでもテンポが速すぎやしないか。ウェーク島戦の功績ってことなんだろうけど僕はここで帆波がシャーマンだという可能性の一切を捨てた。帆波が叢雲を沈めさせるフリなんて真似をする理由がないんだ。そんな演技をする意味はないし、仮に意味があっても本部には虚偽の報告で沈んだという事実自体がなかったことにされてる。なにか思惑があるなら事実を隠蔽したりはしないだろう?そこで浮上してきたのが東雲だ」
ホロウィンドウを可視化モードにして長月にも見えるようにして東雲の経歴を表示する。
「東雲は現場の叩き上げと実力で中将まで昇ってきた人間だ。軍閥には属してないからコネはないし後ろ盾もない。だけど東雲自身はそういうのを欲した様子は一度もない。ならなにが欲しいんだろう?」
「………有能で手元における人材」
「長月、正解だ」
パチパチと拍手を送り称賛する。相変わらず長月の面白くなさそうな表情は変わらない。でも察したね、その様子だと。
「東雲からしたら最高だよ。同期だからよく知ってる間柄。艦娘からの非常に厚い信頼に加えて素晴らしい戦闘指揮。腹の探り合いもできるし言葉の節々から相手の真意を読み取ることにも長けてる。さらに技術士官としての腕も一級品でそこらの士官じゃ到底できないことを易々とやってのける。固有の兵装やシステムを組むことだって可能だ。もう一回言おう。東雲からしたら最高だよ、帆波峻って男は」
横須賀鎮守府の後釜に据えるもよし、本部に出世したときに右腕として連れて行くもよし、だ。
ただ連れて行くにしても後釜にするにしてもそれなりに階級がなくてはいけない。そう考えると帆波の出世で東雲は将来的に得をすることになる。それはつまり動機があるということ。
帆波は自身の能力をほとんど周りに見せたことがない。少なくともあの基地の艦娘たち以外は、いや彼女たちすら帆波の全力は見たことがないかもしれない。海大の時も指揮訓練を除いて本気でやっている姿を見たことはほぼない。だがそれだけでも能力の一端は垣間見れる。そして東雲は同期であるため、帆波の能力の高さを一番良く知ることができる。
それだけではない。東雲はかつて矢田の出世敵だったらしい。直接的に競ったこともあるという事だから矢田の性格は知り尽くしているだろう。シャーマンとして矢田を誘導することも可能なわけだ。
「若狭が東雲中将をシャーマンだと疑う理由は理解はしないがわかった。だがそれと山崎中将へのリークなどの関係が見えてこないぞ」
理解はしないが、か。僕への当てつけかな。長月も言うようになったね。すこし感慨深いよ。
「言ったじゃないか。あれは牽制さ。”調子に乗るなよ”ってね。疑わしきは罰せず、なんて言えるほどこの世界は甘くない。だから計画は通してあげる。そのための岩崎満弥へのリークだ。だけど山崎中将という障害をチラつかせておく。もし山崎中将が近いうちに失脚すれば東雲がシャーマンである線が更に濃くなる」
山崎中将も岩崎満弥の前では露骨に癒着について言及することは躊躇うだろう。だけど岩崎満弥が来る前ならば遠慮なく言うはずだ。東雲に対してのわかりやすい障害をチラつかせる。それだけで僕の望んだ状況としては十分すぎる。
つまり、帆波にシャーマンの情報を渡したのも東雲が怪しいと思っているから。僕なりの警告とシャーマンを炙り出す餌に使えると考えたがヨーロッパに送られては手が出せないか。まあヨーロッパに一時的にとは言え飛ばされてくれたおかげで東雲は弁明させることができなかったわけだし結果オーライとしよう。
「若狭、山崎中将はおそらく帆波大佐をヨーロッパへ向かわせる根回しをしているぞ。そもそも情報を渡したのがヨーロッパ行きが誰が行くか決まってない段階だったんだ。誰にさせたかはわからないがそうだと思う」
「だろうね。僕も誰がやったかまではわからないけどそうでなくちゃここまで情報を温めておくことはしないだろう」
どの道大きな事態への発展は防がれたみたいだし大丈夫だ。
それに今はそっちじゃない。
「長月、ちょっとお使いを頼んでもいいかい?」
「構わない」
「そっか。じゃあ防諜対策部対外課第三室の室長にアポ取ってきてくれる?」
「わかった」
残った麦茶を長月が飲み干すと、とてとてと部屋を出て行く。
岩崎満弥という最大のジョーカーを切ったおかげか会議は膨れ上がることなく収まるところに収まった。それぐらいに岩崎満弥は力を持っている。なにせ唯一、艦娘を製造することができる会社の頭だ。過去にその技術を盗もうとスパイを送り込んだ某国が艦娘の輸出をストップされてあわや深海棲艦の手に落ちかけるという事件があったぐらいだ。僕から言わせればそんな素人を送り込むなって感じだけどね。
兎にも角にも会議はうまく片付いた。シャーマンらしき東雲への牽制もした。問題は帆波が先日にヨーロッパから通信で頼んできた案件だ。
「今現在ヨーロッパにおいて存在するテロ組織か」
世界は深海棲艦との戦争で忙しい。いつだったか忘れたが、どこかの新聞がテロ組織が沈静化したのは深海棲艦のおかげだという社説を発表していたがあながち間違いではないと思う。実際に幅を利かせていた、最大の組織は大規模なことをしなくなった。いや、する余裕がなくなった。
「僕は結局は対内課だからさ、外のことには限界があるんだよ、帆波」
ポツリと言った言葉は独りの部屋に虚しく響き解けていく。
確かに帆波は今、ヨーロッパにいる。現地の情勢を知りたがるのは当然の話だ。だがなぜよりにもよって求めてくる情報がテロ組織なんだ? 他にもあるであろう、懸念事項を押しのけて最初に出てくるワードがよりにもよってそれか?
「………ますます君のことが僕はわからなくなってきたよ。本当に」
君は何者なんだい?
そんな問いかけもただ一人、部屋で呟くだけでは答えなど返ってくるはずもなかった。
〈日本神奈川県横須賀市横須賀鎮守府執務室-現地時刻同日23:38〉
ぐでー、っという効果音が出ているように夜の執務室で東雲将生は突っ伏していた。
本部での会議が終わってから車に乗り込むと横須賀鎮守府まで来て速攻で執務室のソファにダイブした結果だ。
「こういう時はシュンの言ってることがよくわかるな。もう働きたくねぇ……」
「波乱に満ちた会議でしたね……特に岩崎会長がいらっしゃった後の緊張は並大抵のものではなかったです……」
翔鶴もダイブということはしないもののぐったりとした様子で向かいのソファにしなだれかかっていた。致し方ないことではあるだろう。正直、深海棲艦と戦闘していた方がよっぽど楽だったんじゃないかと思えたほどだ。
「お二人とも帰ってたんですね!あ、そんな風にダラダラしてちゃダメです!横須賀鎮守府のトップとその秘書艦がだらしないようじゃ格好つきませんよ!」
執務室に入ってきた吹雪が二人の惨状を見てお姉ちゃんモードに突入する。
吹雪のお姉ちゃんモードとは手間のかかる妹たちの面倒を見ていた長女のお世話スキルが発動している時である。ちなみに叢雲もちょくちょくお世話になったことがある。たまのオフの日に集まって愚痴を聞いてもらったりするなどだ。
「ほら司令官、ちゃんと座ってください。制服シワになっちゃいますよ!寝るまえにせめて着替えるかシャワーでも浴びてきてください。ほら、翔鶴さんも!」
東雲の上着を寝たままの状態で剥ぎ取り、ハンガーに掛けると翔鶴も一緒に無理やり起き上がらせる。どこかぽやーんとした二人がのろのろとシャワー室へ向かっていく。相当にお疲れのようだ。
「って待ってください!翔鶴さん!司令官と一緒にシャワー浴びてくるつもりですか!」
「はっ!え、えっと、その、あの………ごめんなさい!」
「ぐはっ!」
ぼんやりしていたところを吹雪の一言がクリーンヒットしたのだろう、翔鶴の一撃が東雲の鳩尾に入り、東雲が倒れた。それを見届ける暇もなく翔鶴はパタパタと去って行ってしまう。
「お、おうっ、おうっ………」
オットセイのように呻く司令官の側に駆け寄って背中を撫でる。筋肉質でがっしりとしていて鍛えられているのが服越しでもわかった。そうでなくては今の一撃は耐えられないだろうけど。
「大丈夫ですかー、司令官さん?」
「ふ、吹雪………俺、悪くないよな……?」
「司令官、ドンマイですっ!」
「それ励ましてくれてるの?貶してるの?どっちだよ」
よっこいしょ、と立ち上がりながら服をパンパンと叩いて埃を落とす。
「プレゼン、上手くいきましたか?」
「結果からいえば上手くいった。だがヒヤヒヤもんだったぜ。山崎の横槍入ったときはヤバイと思ったね。ほんとにシュンと岩崎の写真流した奴は誰だよ…」
「まあ終わり良ければ全て良し、ですよ!」
「そうだといいんだがな。邪魔しやがった奴は何を企んでやがる……」
「でも司令官はその妨害をはね退けたんですよ!大丈夫です!」
「ありがとな、吹雪」
大きな手が私の頭をくしゃっと撫でる。ごつごつとしていてだけど優しくってあったかい手。
「って早く寝てください!知ってるんですよ!最近はプレゼン資料作るために睡眠削ってるの!」
「なんか吹雪まで翔鶴に似てきたなあ……」
「いいからちゃんと寝てください!ほら早く部屋に戻って着替えて!司令官が倒れたら横須賀だけじゃなくて支部全ての機能がストップしちゃうんですから!」
「わあってるって。ふぁ……じゃあ寝てくるわ」
「そうしてください。お風呂は明日の朝にでも入ってくださいね!」
背中ごしに東雲が手を振って了解の意を示す。その姿を見送って吹雪のお姉ちゃんモードは終了した。
なお翌日に翔鶴が平謝りしている姿が確認されたとかされてないとか。
吹雪はかわいい(迫真)
なんかお姉ちゃんしてる吹雪とかってよくないですか?深雪を注意して、初雪を布団から引っ張り出して、磯波を励ましてあげて、叢雲の愚痴を聞いてあげて、白雪とカレーを作る。そんな吹雪が見たい。
え、前半?知らないね、そんなのは。
感想、評価などお待ちしております。それでは。