艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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前回話が動くとか言っとて全然動いてないことに今更気づく。
今回も動いてるのかなー。動いてないですね。
とにかく投下。





凶変の兆し

「急にミーティングルームに集まれって言われたけど何事?」

 

不信感を隠しきれずに瑞鶴が峻に聞いた。

 

 

ミーティングルームには基地の所属している艦娘、伊168を除いた10名、加賀、瑞鶴、榛名、北上、鈴谷、矢矧、夕張、天津風、明石そして叢雲が揃っていた。

 

 

「さっきイムヤから緊急通信があった。友軍と思われる艦娘が漂流しているのを練度航海中に発見したそうだ」

 

「漂流とは?現在どのような状態かしら」

 

加賀が目を閉じ、眉間にしわを寄せたまま壁に背を預ける。

 

「漂流してる艦娘は意識がないらしい。怪我も酷いとのことだ。それ以外はイムヤが錯乱してるのかうまくわからなかった」

 

「……それヤバくない?」

 

机に顎をつき、ダラけた顔から緊迫した表情に北上がかわる。

 

「あぁ、だいぶヤバい。今から俺は埠頭でイムヤを待つ。矢矧、担架を持って来てくれ。天津風は医務長に連絡して埠頭まで来るように伝言。加賀と瑞鶴は艦載機をすぐに飛ばしてイムヤの周りに直掩を出すんだ。艦娘が酷い怪我ってことは恐らく戦闘後だろう。追撃がいたら厄介だ。その他は万が一の時に備えて艤装を装着して待機。指示は俺か叢雲に聞け」

 

「あのー、私は……」

 

おずおずと手を挙げる明石。

 

「明石は工廠で待機だ。漂流してる艦娘の艤装を治さにゃならん」

 

「他に質問はあるか?」

 

ぐるっと部屋を見渡す。全員が引き締まった顔つきで待っている。

 

「よし、ないな。各自行動開始!」

 

「「「「了解!」」」」

 

全員がそれぞれの指示された持ち場へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

峻は埠頭に辿り着くとすぐに海の向こうからやってくるイムヤの姿が見えた。背中に少女を背負ったままコンクリートの上にあがる。

 

「おい、イムヤ。その子の様子はどうだ?」

 

「わかんない。でも目を開けないの!」

 

横たわらせた少女の隣でイムヤが目を潤ませ、しゃっくりをあげる。

 

「ちょっとどいてくれ」

 

急いで駆け寄り未だ意識なく倒れる少女のピンク色の髪に隠れた首に手を当てる。

 

(脈は…弱いな。呼吸は…浅いか。こりゃだいぶマズイぞ)

 

よく見るとスク水が破れて露わになった肌の各部にに金属の破片が食い込んでいる。

 

(この格好だと潜水艦か。潜水機能はこれだと死んでるな。よくここまで生きて来れたもんだ)

 

 

「提督、担架持ってきたわ!」

 

「医務長を連れてきたわ!」

 

矢矧と天津風が大慌てな様子で駆け寄る。

 

手早く脈を図り、強心剤の点滴などを医務長が施していく。

 

「うん、これはよくないね。担架に移してすぐに緊急治療室に運んで」

 

「わかりました。矢矧、片方持ってくれ」

 

矢矧が足を、峻が肩を持って担架に移し、運び始めた。

 

「帆波少佐、高速修復材の使用許可を頂きたいんだかね」

 

「構いません。申請はこっちでやっときます」

 

担架を小走りで矢矧と運びながら頷く。

 

 

「この子は、ゴーヤは治りますか?」

 

集中治療室へ向かい走りながらイムヤが必死の形相で走る医務長の裾を掴み、引っ張った。

 

医務長がふっと息を吐き穏やかな表情になり足を止めてイムヤの顔を見る。

 

「君たち艦娘の戦いが深海棲艦との戦争ならね、僕の戦いは患者の命を救うことだ」

 

医務長の穏やかだった表情が再び引き締まり、目に闘志が宿った。

 

「大丈夫。必ず救ってみせる」

 

それがボクの仕事であり戦いなのだから。

 

 

彼は彼自身の戦場に赴き彼自身の戦闘を始める。人命を救うという彼の信念に従って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イムヤ、あの子の名前は伊58であってるんだな」

 

泣きじゃくるイムヤをなだめて尋ねた。

 

「うん、前に一緒に出撃したこともあるから間違いないわ」

 

「そうか…イムヤ、お前は伊58をここで待っててやりな」

 

イムヤを軽く押して集中治療室の廊下にある長椅子に座らせた。

 

「提督は?」

 

「俺はちょっと調べ物があるから外すわ。なんかあったらすぐに連絡しな」

 

そう言い残すとと峻は執務室に向けて駆け出していく。

 

走りながら首のコネクトデバイスの電源を入れて軍のデータバンクに接続した。

 

 

 

データバンクには6つのレベルが存在し、レベルが高ければ高いほど機密性の高い情報が存在する。

例えば、レベル6にもなると軍本部の元帥と4人の大将のみが閲覧可能な情報となる。もしも漏れれば国家を揺るがす事態になるだろう。

現状で峻が閲覧できるのは基地司令権限を利用してレベル4までである。

 

 

 

データバンクとの接続を確認すると、艦娘の情報が存在するレベル3のアーカイブに入り伊58の名前を探した。

 

(あった!伊58、潜水艦。所属基地は銚子基地か。特に問題も起こしてないな。…ん?)

 

少し待て。おかしい。なぜ伊58は轟沈扱いになっている。ならここに流れ着いたのはなんだ?

 

(イムヤの勘違いか?いや、ないな。一緒に出撃したこともあるなら間違えることはないだろう)

 

異変を感じて轟沈したことになっている戦闘の記録(ログ)を漁り覗いてみる。

 

(おいおい、潜水艦を偵察でもないのに単艦で突っ込ませるとか何やってんだ。しかも敵艦隊は攻撃の仕方から判断するに対潜艦隊じゃねぇか。なのに支援艦隊も撤退命令も出してない)

 

どれだけ低脳でも撤退くらいはさせるだろう。

どうにもきな臭い。ついでに銚子基地について調べてみた方がいいかもしれない。

 

(千葉県の銚子基地。基地司令は矢田惟寿大佐か。戦果は出してるとこみると指揮官としての腕はそれなりってところだろ。ただあんましいい噂は聞かない人だな)

 

 

他にも調べてみようと思い、ひとまず銚子の所属艦からチェックしていると執務室のドアがノックされた。

 

「どうぞー」

 

「入るわよ」

 

叢雲がいつもの調子で執務室に入ってくる。

 

「報告よ。一応周りの海域を索敵機が見たけど、伊58を襲ったとみられる深海棲艦の艦隊は見つからなかったわ。……って何調べてるの?」

 

「んー、銚子基地ってところを少しな」

 

「へぇ、あんたにしては感心ね。演習相手の下調べなんて」

 

「ああ、まあな………待て、演習相手だと?」

 

生返事しかしてなかったが、叢雲の一言でふと我にかえった。

 

「ええ、一週間後にうちに演習の申し込みいれてきたのは銚子基地の矢田大佐よ」

 

「おい、マジかよ」

 

「大マジよ」

 

一週間後の演習相手である基地に所属している艦娘が轟沈扱いになった後、うちに流れ着いた。どんな偶然だ、これは。

 

「叢雲、基地に箝口令(かんこうれい)を敷く。あいつらにはちょこっと口添えしといてくれ」

 

「……理由を聞いてもいいかしら」

 

器用に片方だけ眉をつり上げて尋ねられる。

 

「正直なところまだ直感の領域を出ねえからなんとも言えん。ただなんとなく嫌な予感がするってレベルだな。なんもないならすぐに解除する」

 

「……わかったわ。みんなには私から言っとく。ただ全て終わったら教えなさいよ。たとえあんたの勘が外れたとしてもね」

 

「了解だ。とにかく頼むぜ秘書艦どの」

 

「任せなさい」

 

ひらひらと手を振って了承の意思を示すとしっかりと回れ右をして、執務室から出て行った。

 

(もうこれで口止めは問題ないな。だが、これ以上探ってなんか出てくるもんかね)

 

次のアーカイブに移ろうとした時、基地内線がなった。場所は医務室からだ。

 

 

『帆波少佐、あの子の手術は無事に終わったよ』

 

「そうですか!お疲れ様です」

 

『まだ意識は回復してないけどすぐに戻ると思うよ』

 

「あの、後遺症などは……」

 

『ないよ。刺さっていた破片も綺麗に取り除いてから高速修復材を使ったから傷跡も残らないだろうね』

 

「ありがとうございます。意識が戻り次第連絡をください」

 

『了解したよ。それじゃ』

 

通信がぷつりと途絶えた。一人の執務室が静まりかえる。

 

(伊58が目覚めるまで詳しいことはなんもわからねえな)

 

 

椅子の背もたれに深くもたれかかり、頭の後ろで手を組んだ。一度目を閉じて数秒そのまま、そしてカッと目を開いた。

やれることだけやっておこう。

 

もう一度銚子基地を詳しく調べるために、峻はデータバンクに再接続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、夕食後すぐで悪いんだけど聞いてもらえるかしら」

 

夕食を艦娘全員が食べ終わったタイミングを計って声をかける。頼まれた件をみんながちょうど集まっているこの時に済ませておこう。

 

「えっと、今日の艦娘が流れ着いた件だけどしばらく他には言わないで欲しいのよ」

 

「それはつまり、箝口令(かんこうれい)を敷くってことですか?」

 

怪訝な様子で榛名が尋ねた。疑問も当然ね。案件だけでいえばその艦娘の所属基地に連絡を一本送るだけで済む問題だし。

 

「その通り。これはあいつの判断よ」

 

「ふーん。まあ口にしっかりチャックしとけばいいんだよね」

 

簡単に言うわね、鈴谷は。ま、あってるけど。

 

「理由は教えてもらえないのかしら?」

 

「残念ながら私も教えてもらってないのよ」

 

矢矧が眉をひそめながら湯のみからお茶をぐいっと飲んだ。

 

「まあ構わないわ。何かあるからそういったんでしょう、提督も」

 

納得してくれたみたいだ。矢矧が飲み終わった湯のみを流しのシンクに置き、食堂のドアに手を掛けた。

 

「とりあえず了解したわ。私はもう部屋に戻るから。お風呂の準備もしなくちゃだし」

 

そう言い残すと矢矧が食堂から出て行く。他の艦娘たちもばらつきはあるものの、順々に食堂から出て行った。

叢雲は食堂でひとり、顎に軽く手を当ててウロウロと歩き回る。

 

 

今回の件において銚子基地が関わっていて、何か問題がありそうだったからあいつかが箝口令を敷いたのは間違いない。銚子の矢田大佐の名前を聞いた瞬間、顔色が急に変わり目に見えて驚いていた。

 

(でもそれと伊58がどう関わってきてるのかわからないのよね)

 

叢雲には軍のデータバンクに接続する権限は普段与えられていない。たまに峻の許可をもらって覗いたりはしているが。

 

「うーん」

 

データバンクを見れない状態ではろくな情報源がない。結局は峻に任せるしかないだろう。

 

当てていた手を下ろし、自分の湯のみを流しに置いてくる。

食堂の電気を落として自室に戻ることにしよう。

 

 

だんだんと夜が更けていく。各部屋の電気が消えていく中で執務室の電気が消えることはなかった。

 

 




はい、動きませんでした。まだかかるかもしれません。
ゆっくりやっていくのでお付き合いいただけたらと思います。
感想などはお気軽にどうぞ。それでは!

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