艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちはプレリュードです!

ようやっと艦これにおいて3-4を突破できました!長かった……本当に長かった……
思えば自分は艦これ始めてもう1年なんですよね。なんか感慨深いです。

えー、本編に参りましょう。


狩人のエチュード

〈イタリア州欧州海練イタリア校仮設指揮所-現地時刻7月26日10:48〉

 

よし。演習は俺の狙い通りに進んでいる。

最初にラバートンに出す艦種を教えておいたのは潜水艦は出さないとアピールするためだ。そうすれば水中音波探知装置(ソナー)をわざわざ積むようなことはしないだろう。なら水中に叢雲を待機させていても気づくわけがない。

敵艦隊の編成を確認してから叢雲に対空装備の巡洋艦を落とすように言ってある。

そして流石は姫薙ぎ、見事に2人の巡洋艦を薙ぎ倒してくれた。こうなっれば相手方は対空戦をまともに張ることはできなくなる。そうなってしまえば瑞鶴の独壇場だ。

 

「瑞鶴、攻撃隊発艦!鈴谷、全主砲装填!目標、敵艦隊左翼の戦艦級だ!」

 

『了解!第一次攻撃隊、発艦始め!』

 

『主砲斉射!うりゃぁぁぁ!』

 

散開しばらけ始めた艦娘を叢雲が追撃し接近。まばらに撃たれる弾を易々と避け、近づいたところでむこうの艦娘が振りかぶった拳を突き出すがその腰の入っていない拳を体軸をずらしてかわす。そして叢雲は繰り出された腕を掴み、勢いをそのまま生かしてひっくり返すと、発射管から引き抜いた魚雷を叩きつけるように投げつけてトドメをさす。

また別の艦娘は瑞鶴の操る艦載機による爆雷撃と鈴谷の砲撃を立て続けに受けてペイントまみれになり、大破判定が下り悔しそうに離脱していく。

 

こうなってしまえば統制射撃など向こうには出来るわけがない。さっきまでのひたすら遠距離から撃ち続ける作戦は一気に瓦解した。

 

「ふむ。ホナミ大佐の指揮は独特だが面白いな」

 

峻が忙しく指を動かし、ホロウィンドウを表示させては横にズラし別のをまた手前に持ってきてを繰り返す。その中で戦況を表示しているホロウィンドウをオルターが覗き見て言葉を洩らした。

 

「ヨーロッパでは東方の狼なんて呼ばれ方らしいですけど日本では自分は別の名で通ってるんですよ」

 

「ほう。どんな名で呼ばれているのだ?」

 

興味深げにオルター少将の眉がピクピクと動く。

 

「幻惑の帆波。狼なんて勇ましい戦い方を私はしません。むしろ相手をあの手この手で騙すのが本懐なんですよ」

 

「なるほど。それでこの指揮か。それにしても見事なものだ。欧州連邦海軍に働き口を求めてはどうだ?」

 

パチッとウィンクをして悪戯っぽい声でオルター少将が言う。もっとお堅い感じの人かと思ってたがそういうこともできるのか、この人。

 

「ははは。お上手ですね。日本海軍にリストラされたら考えますよ」

 

「おや、残念無念。むむ、戦況が動いたようだ。すまんな、変な雑談に付き合わせて」

 

「いえいえ。構いませんよ」

 

雑談に付き合う程度の余裕はある。そもそも話しながらでも絶対に大きな変化は見落とさないようにしている。つまり、オルター少将の言うところの戦況の変化もしっかりと確認済みである。

そう、一丁前に叢雲を落とそうとしてやがるのだ。残った2人でなんとか1人だけでもってところか?挟み撃ちを狙うような動き方だ。なるほどな。実際のところこの戦略の主軸となっているのは叢雲の近接戦闘だ。それを落としにかかるのは妥当な手段だと思う。だがそう簡単に叢雲は落とせないし、そもそもその状況を俺が指を咥えて黙って見ているわけがないじゃないか。

 

「鈴谷、瑞雲を出してくれ。コントロールは俺がもらう」

 

『ほいほい!カタパルトに瑞雲をセット。射出!』

 

瑞雲が特徴的なフロートを輝かせながら空へ滑るように飛び出した。

 

『提督に操作権を移譲したよ!』

 

「I have control.さぁ、やるぞ!」

 

速力全開。エンジンを噴かせて叢雲を後ろから狙う艦娘に接近する。背中がお留守ですよーっと。

高高度から急降下。背後を取られたと気づいた艦娘が対空射撃を開始する。

 

はっ。専用の装備なしで防ごうってか。甘い甘い。右旋回、次左旋回。機首を一度あげてムーンサルト。

 

曲芸のようなフライトでばら撒かれる機銃と副砲の網をするすると瑞雲がすり抜けていく。念のためいっておくとムーンサルトはおちょくりを兼ねた趣味だ。あんな曲芸飛行を実戦でやる馬鹿がいるかよ。

 

その後、俺は敢えて瑞雲のコントロールを失敗させて錐揉み落下させる。もう心配ないとタカを括ったのか対空砲火が止んだ。

残念だがまだ終わってないぞ?

海面スレスレでコントロールを取り戻し姿勢を水平にすると機首をあげて再上昇。ペイントの雨霰を降らせた。

戦艦の艦娘がさっきまでやったと思った機体に攻撃され訳がわからないといった表情を見せながら前のめりになる。だが判定は小破にいったかいかないかぐらいの僅かなダメージしか入っていない。

 

だがこれでいい。瑞雲の攻撃程度で戦艦に大打撃を与えられるなんざハナから思っちゃいない。重要なのはバランスを崩させることだ。体勢が取れなければ回避するのはほぼ不可能。なにより当たった直後の受け身やダメージの受け流しが上手くできない。そうなれば当たった砲撃はいくら戦艦とはいえ致命傷と成り得る。

 

「鈴谷、瑞鶴。今だ。やれ」

 

『あいさー!』

 

『艦載機のみんな!やっちゃって!』

 

瑞鶴と鈴谷の攻撃が俺の操る瑞雲によってバランスを崩した艦娘に容赦なく浴びせられる。ここまでの集中砲火と爆撃だ。なす術もなく戦艦の艦娘がペイントに染まっていく。

 

もう一方でもカタがつくな。後ろを気にする必要がなくなった叢雲がめちゃくちゃに撃たれる砲撃の隙間を縫うように接近していく。そこはもうあいつの射程だ。叢雲の魚雷全弾を使った雷撃が襲いかかる。

 

こいつで最後の一手だ。なぜならこれで()()だからな。

今頃モニターにはラバートンの艦隊の全て大破判定のランプが点いているだろう。ほら、来た。手元に演習終了のお知らせだ。

 

「状況終了。帰投してくれ」

 

椅子から立ち上がると教室を後にして大型モニターの設置してある大講堂に移動する。なんだかんだ言いながらもラバートンもそこに来るはずだからな。

オルター少将も無言で俺の後をついてくる。暇なのか?この人。まあ俺たちの翻訳係と案内役らしいからそれでついてこなくてはいけないだけかもしれないが。

 

「いきなりの演習で悪かったな。お疲れ様」

 

『いやいや、これぐらい朝飯前だって。ところで提督、鈴谷はジェラートが食べたいなー?』

 

『あ、提督さん。私も!』

 

こいつらちゃっかりしやがって。やってあげたんだからそれぐらい買ってくれってか?

 

「へいへい。そんぐらいなら奢ったるわ。また後でな」

 

『やりぃ!約束だよ!』

 

「わかりましたよっと。どうせ叢雲も欲しいんだろ?」

 

『……別にそんなこと言ってないじゃない』

 

「言いはしないけど欲しいということですね、わかります」

 

『ぐ…………………』

 

言葉に詰まるってことは認めたと同然。鈴谷みたいに素直に買ってくれって頼めばいいのにな。大して高いモンでもないしこれでも俺は大佐だ。給金は一般のサラリーマンと比べればかなり貰ってるため貯金は結構ある。それに加えてウェークの件で褒賞金もたんまり出ているのだ。なんだって税金泥棒?知るか。

 

大講堂に入ると痛いほどの視線に晒された。あんだけド派手にやれば仕方ないとは思うがな。よしよし、ラバートンも仏頂面下げてちゃんといるじゃないか。

もう一度教壇に登りピンマイクを胸に付けて全体に声が行き渡るようにすると口を開いた。

 

「先の演習で俺たちの実力はわかってもらえたと思うがこれで講師として認めてはもらえるとありがたい」

 

誰も口を開かずシン、と静まり返ったままだ。なにも言わないなら沈黙は肯定と受け取るからな?

 

「で、ラバートン君。さっきのは負けてしまった訳だが全くダメだった訳じゃないぞ。最初の統制射撃は見事なものだったし奇襲されてから素早く散開の指示を出したのはよかった。陣形に拘り続けていたら一瞬で終了していたからな。そしてその後の叢雲への対処だ。さっきの作戦は叢雲が主軸になっているのを見抜いた上で2体1でもいいからと叢雲を攻撃しようとした点は素晴らしいの一言だ」

 

「舐めてんのか!俺は負けたんだ!慰めなんていらねえんだよ!」

 

「俺はそんなことしない。事実を言ったまでだ。あの艦娘たちはまだ実戦経験が皆無の娘たちばかりだろう?なのにも関わらず艦隊運動がしっかりとできていた。それは君自身の指揮能力だよ、ラバートン君」

 

「……うるせえ」

 

そういうとラバートンは椅子にどっかりともたれるとそっぽを向いてしまった。

ま、ラバートンと俺たちでは今までくぐり抜けていた戦場の数が違う。始まる前からこちらに軍配は上がっていた。

むしろあれならば善戦した方だとすら思う。駆逐艦を潜水させるなんて奇天烈な手を食らって易々と対処できる指揮官の方が稀だ。そういう意味では俺は割と本気で褒めていた。正直なところまともな演習になるかどうかすら疑っていたのだから。あれをまともと言うのはいろんな所から抗議が来るかもしれないが、俺としてはラバートンの艦隊は同士討ち(フレンドリファイア)するなり衝突するなりとなにかしらやると思ったがそういうことが一切なかった。叢雲を艦隊のど真ん中に浮上させた時も一発も撃たずに散開したのは舌を巻いた。あのとき艦娘たちは確実に砲撃しようとしたはずだ。だがそれをラバートンは止めた。艤装に介入したのか通信で怒鳴って止めたのかはわからないが激情家に見えて意外と冷静に局面が見えている。だがあくまで演習だ。実戦において常につきまとう死の恐怖と戦いながらの戦闘が出来るかはわからんが肝っ玉はありそうだ。難なくその点はクリアできるだろう。なんだよ。欧州連邦の訓練生、いい株揃ってんじゃん。

 

「今日はここまでにする。提出する課題とかは特に出さないから各自でイメージトレーニングでもしておくように。以上だ」

 

講堂を出ようと教壇を降り、ドアに近づいたところで首のデバイスが鳴り、俺に通信が来たことを知らせた。それと同時にオルター少将のものも鳴った。

 

「俺だ。ん、瑞鶴か。どした、急に?」

 

「私だ。プリンツか。何かあったのか?」

 

「はあ⁉︎」

「なんだと⁉︎」

 

そして俺とオルター少将の声が被った。

そしてお互いが気まずそうに目を合わせる。

 

「たぶん同じことですよね……」

 

「ああ。おそらくな……。すまない、ホナミ大佐」

 

「謝らないでください。俺も謝らなくちゃなんないんで」

 

「お互い大変だな……」

 

「本当にですね……」

 

そういや格納庫には日本の技術士官が数人詰め掛けてたっけ。それを考えれば装備を戻すぐらい余裕だったろう。にしてもまったくあいつは……

今回連れてくるメンバー間違えたかねぇ?もう少しストッパー役になれる奴を引っ張ってくるべきだったか。いや、言ってもどうにかなるわけじゃない。もうなにも言うまい。

はあ、とため息をついて峻は窓から空を仰ぎ見た。いや、そんなことしてる場合じゃないか。

 

だが止めても無駄だということも分かっている。隣のオルター少将もわかっているからこそなにも言わない、いや何も言えないのだろう。お互いに御し辛い仲間を持っちまったもんだ。

 

叢雲よ。いつも俺を制止するのはお前だろ。それが暴走してどうするよ、まったく。だが嘆いている暇はない。即刻手を打たなくては。下手に放置すると本当に機密が明るみに出かねないのだ。

 

一難去ってまた一難。一つ目の難は自ら呼び込んだものだから自業自得とも言えるが二つ目はなぁ……

頼むぜ、叢雲。断雨は使うなよ。絶対にだ。あれは馴れない艦娘が見様見真似で使えばロクな結果を招かない代物だから目につけさせちゃならねぇんだ。

 

「急ぎましょう、オルター少将」

 

「そうだな。こちらとしても放っておける事態ではない。本当に申し訳ない」

 

「言わんでください。それを言うならこっちもです」

 

「だとしてもそちらは客人だ。ホストの管理不届きで起きたことなら謝罪せねばなるまいよ」

 

「そんなこと……いえ、とにかく今はあっちが先決です」

 

「わかった。急ごう」

 

慌ただしく峻とオルターが講堂から飛び出していく。結局のところ、司令官は忙しい生き物だというのはどこの世界も変わらないのかもしれなかった。




ただでは終わらない演習編。
そんなこんなで第二ラウンドに突入フラグを建てたところで今回は終了でした。
欧州編は長くなりそうな予感ですねー。

感想、評価などお待ちしております。それでは!

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