真夜中の投稿ですがそんなのお構いなく行っちゃいます!
はい、本編参りましょう。
〈イタリア州パラッツォホテル1Fレストラン-現地時刻7月26日7:30〉
朝食はホテルビュッフェだった。
適当にぐるっとまわり皿にスクランブルエッグやソーセージ、パンやサラダなどを載せてコップにオレンジジュースを注ぐと席に戻る。
やっぱりこういう正式な外交用のホテルだけあって味のクオリティは高いのかしら。かなり美味しいわ。ただお米はどう見ても地雷ね。日本で食べた方が良さげだから手は出さないでおこう。
しばらく和食とはお別れだろうなと思いながら叢雲はフォークに手を伸ばした。
別に洋食に文句があるわけじゃないけどご飯に味噌汁の味っていうのは食べないと変な感じがする。しばらく食べないと思うと少々
パンを一口サイズに千切りモクモクと咀嚼しながら目の前で眠たげに目を擦りながらシーザーサラダにフォークを突き刺す自分の司令官を盗み見て昨夜のことを思い出す。
あいつが嘘はついていないのは感覚的にわかった。それにあいつは私たちに嘘をつく人間じゃない。だから言っていたことは真実なのだろう。じゃあなんではぐらかしたのかしら?
わからない。結局こいつのことを知っているつもりでも実際はほとんど知らないのだ。私が知っているのはまだあいつが海大にいた頃に初めて会った時からだけ。それより前は何も知らない。
そこらの技術士官よりも遥かにに卓越している工学系の知識。
艦娘の中でも右に出る者はほとんどいないと自負していた自分と互角以上に渡り合える体術。
クィックドロウだとは思えないくらい正確無比な射撃術。
相手の腹の内を探り言葉の裏の真意に気づく話術。
あげればキリがないそれらの技術をいったいどこで覚えたのだろう。この前の英語だってそうだ。あんなに流暢に喋れるなんて知らなかった。
知らない。知らない。わからない。
チクリと胸の中が疼く。この痛みは、この気持ちは何?
コトリと目の前に食後のコーヒーが置かれる。カフェインはそういえば意識を覚醒させられるんだっけ。
もやもやとした気持ちまで晴れるかわからないけど試す価値はあるかもね。
まだ湯気の立つ熱いコーヒーをブラックのままで喉に通す。はたして心中は晴れたのだろうか。その答えは彼女自身が一番知りたかった。
〈イタリア州欧州海練イタリア校-現地時刻同日8:50〉
教鞭をとるにあたって一通りの挨拶をしておく必要があるとかで俺は欧州海練イタリア校の講堂にむかった。
常盤は女子担当で俺が男子担当らしい。まあ性別的には適材適所だろう。
「ホナミさん、こちらです」
あいつらと分かれて今回俺が教えることになっている訓練生たちのいる講堂に向かうために付けられた案内役が大きいドアを指し示す。この案内役は普段は担任のような立ち位置にいる人らしいが俺が教壇に立つにあたって助手のようなことをしてくれるらしい。
俺はそう思いながらノブに手を当ててドアを開けようとして手を止めた。
「どうされましたか?」
「すみませんが傘を持ってきていただけますか?」
「はあ………傘、ですか?」
「ええ。必要になりそうなので」
懐疑的な表情を浮かべながらも傘を取りに走って行ってくれた。今日の天気は晴れにも晴れて雲1つない晴天だ。そんな中で傘が欲しいなどといえば変に思われても仕方はないことだろう。
「どうぞ。しかし何に使われるので?」
「ありがとうございます。いえ、すこし面白いことに」
ありふれたビニール傘を受け取り右の口角をつり上げて嗤う。
なかなか面白い奴がこの講堂の中にはいるらしい。これならやりがいもありそうだ。
「すみませんが少し下がっていてください。自分と講堂に入るのはあまりお勧めできないので」
「よくわかりませんが承知いたしました」
これでよし。この人のいい助手役を巻き込むのは気がひける。
勢いよくスライド式のドアを左手で真横に押し開け同時に右手で傘をさす。
そのまま講堂に入ると上からバケツの水が降りかかり、傘を濡らした。傘をさしていたおかげで俺はノーダメージだ。
「えー、本日の講堂の天気は概ね晴れですが所により局地的な豪雨に見舞われるでしょう。傘をお持ちになってお出かけくださいねーっと」
パチン、と傘を畳み、壁に立てかけておく。わざわざ取りに行ってもらってよかった。
にしてもバケツの水トラップとはなんともマンガ的なものを。わざわざ仕掛けた奴にはご愁傷様と笑顔でエールを送ってやろう。
講堂がシーンと静まり返る。多分俺がバケツの水をかぶって濡れ鼠にでもなれば爆笑の嵐だったんだろうが失敗した以上何かしらのお咎めがくるかと戦々恐々なのだろう。
教壇のピンマイクを胸元にセットしてトントンと叩いて音量を調節した。
「あー、俺は別にこのイタズラについて責めるつもりはない。1つ言うなら次はもう少しうまくやれよー」
くそ、まったくウケない。てめえら自分で仕掛けといて素知らぬふりってそりゃないだろ。
というか何か言ってくれないと気まずい。教師とかなにやりゃいいのか知らん。
「えーっと、今日から期間限定で指導役になった帆波峻だ。短い間だがよろしく。今日は授業とかはする予定はない。ちょっとした質問タイムみたいに思ってくれ」
だめか。誰も手を挙げる様子も見せやしねえ。まあ始めだからこんなもんか。個人的な質問でもいいから誰か何か言ってくれ。
「うるせぇ!ジャッポネーゼに教わるようなことなんてないんだよ!」
いきなりガンッ、と机を蹴る乱暴な音がし、視線がそっちに向いた。
蹴ったブロンドヘアの男子は机に足を乗せふてぶてしそうに俺を睨む。
ほほう。結構面白い奴がいるじゃないか。
「君、名前は?」
「名簿を見りゃいい」
「ならそうさせてもらうさ」
事前に渡された名簿をパラパラとめくって該当人物を探す。お、こいつだ。
レオナルド・ラバートン。成績は割と優秀だな。へぇ、イタリア貴族のラバートン家の長男で父親が欧州連邦政府の上院議員か。こりゃえらいお坊ちゃんだねぇ。
「で、ラバートン君。理由を教えてもらってもいいかな?」
「ラッキーで”東方の狼”なんて呼ばれてる奴に教わることはねえって言ったんだよ!」
そのあだ名、個人的にはあんまり気に入ってないんだがなぁ。ただラッキーとはな。俺の実力だ、などと自惚れる気はさらさらないがあいつらの頑張りが無視されたようで少々ムッとくるものがあるな。
「そうか。なら君は何を知っている?どうやってヤツらを倒す?」
「ヤツら?ああ、深海棲艦のことか。んなもんは決まってる。戦艦揃えて主砲をブチ込めばいい。そんなこともわからないのかジャッポネーゼ」
ラバートンが嘲笑う。大口叩くねぇ。なら証明してもらおうか。
「ラバートン君。君は俺の教えを請う気はないということだな?」
「よくわかってんじゃねえか。その通りだよ」
「だが困った。俺は君みたいな面白いのをほっとくのは気がひける。だから演習をしないか?」
「演習、だと?」
俺の提案にラバートンが眉間にしわを寄せた。
「勝ったら言うこと聞けってか?」
いいねぇ。ますます気に入った。話が早い奴は好きだ。
「そこまで言うつもりはないが端的に言えばそうなる。逆に俺が負けたらそうだな、俺が講師を務めるものは全部出席しなくていい」
「……出席しなかったと報告するのはナシだぜ」
「わかった。君は極めて真面目な態度でいたと言っておこう。もし俺が負けたら、だけどな」
ラバートンが凶悪な顔で笑う。まんまと食いついた。まあいい条件ではあるからな。
「ルールは簡単。使用可能な艦娘の上限は6人。艦種は自由。相手艦隊を全て大破判定に追い込んだら勝ち。これでどうだ?」
「………二言はないだろうな?」
「ないさ」
「………その勝負、受けて立つ」
いいぞ。こういう無鉄砲さ。最初覗いた時はロクなのがいないかと思ったがこいつは見所があるな。
「ちなみに俺が出すのは駆逐艦と航空巡洋艦と正規空母の3人だ。そっちは6人フルで使えばいい」
「舐めてんのか!」
「ハンデだ。いち訓練生と現役がやりあうための、な。不足か?」
「………ゼッテー叩き潰す!」
俺がニヤリと右口角をつり上げて嗤うとラバートンが敵意と怒りを宿した目で俺を睨み唸るような声を出すと講堂をドスドスと出て行った。準備しにいくのだろう。
「他の訓練生諸君も大講堂のモニターで見てくれ。それを今日の授業とする。では移動!」
途端に静かだった講堂が一斉に喧しくなる。聞き耳をたてると内容のほとんどがどっちが勝つんだろうといったものばかりだ。
そこはオッズでもつけて賭博を始めるところだろ……
懐かしいなー。海大のころはこういう演習がある度に俺が賭博の元締めやって小銭稼ぎしたっけ。後に教官にバレて賭けた奴らと一緒に営倉にぶち込まれたのはいい思い出だ。
俺もスタンバイしようと廊下を歩いていると後ろから助手くんが駆け寄ってきた。
「ホナミさん、今すぐ撤回してきてください!ラバートン君は強いです!それを半分以下の数で、いえ戦力だけでいくならそれ未満で挑むなんて無謀です!」
「大丈夫ですって。まあ見ててくださいよ」
そう言うと背中越しに手を振る。
しばらく歩いたタイミングでコネクトデバイスを装着し全員にグループ通話モードで通信を飛ばす。
「俺だ。事の顛末は説明するから至急集まってくれ」
〈イタリア州欧州海練イタリア校特別講師控え室-現地時刻同日9:22〉
「あんたは、何を、やってんの、よッ!」
「あーっはっはっはっは!」
「演習か。悪くない」
「この霧島が不覚だったわ……榛名姉さまに聞いていたのに……」
「演習かー。鈴谷の出番だね!」
「ゴーヤはなんで出られないの……」
三者三様のリアクションを目の前に瑞鶴はただポカンとするのみだった。
ドカドカドカグシャー!と峻をしばく叢雲にただひたすら笑い続ける常盤、何に納得しているのか1人で頷く若葉に頭を抱える霧島。演習と聞いてテンションが上がる鈴谷に逆に出番がなくてテンションダダ下がりのゴーヤ。
カオス。この一言に尽きた。
いきなり呼び出されて何かと思えば
「訓練生の1人と演習するとこになったからヨロー」
と提督さんが言い始めたのだった。
「痛い!落ち着けって、叢雲!説明するって!説明するから!」
フーッフーッと荒い息を吐きながら叢雲がようやく手を止め、それを合図にしたかのように全員の視線が峻に集まる。
「はっきり聞くぞ。お前ら担当の訓練生たちと会ってどう思った?」
「……なんか少し反抗的な目線を感じたかな」
なんというか誰もまともに聞く気がないというかどこか拒絶されているような感じがした。
「瑞鶴と同じことを俺も感じた。まあ当然だな。いきなり上が決めて勝手に寄越された異国の教官に教わるなんてプライドが許さないんだろう。それに実力も噂でしか聞いていないという懐疑的な側面もある。そんな連中から学ぶなんて信用なくても仕方ないだろ」
確かにその通りかもしれない。実際どこの誰ともしれない人間がいきなり自分の教官になると勝手に決められたらああいう態度になるのも仕方ないかもしれない。
「ならどうすればいいか。単純だ。力を見せつければいい。こっちの実力を見せて学ぶ価値アリだと思わせればいいんだ」
「あっはっは!帆波クンのそういうとこアタシ最高に好きだわ!」
「てめぇに好かれても1ミリたりとも嬉しくねえ……」
でも言ってることはわかる。実力を演習で見せつけて納得させれば。この人たちからなら教わってもいいと思わせられれば態度はきっと変わる。
「つーわけで格の違いってヤツを見せつけるために3人で圧勝するぞ。瑞鶴と鈴谷と叢雲には頑張ってもらうからな」
「帆波クン、わかってるよね?」
「ああ。叢雲、
あそこまでリアルに動きを再現できるホロはやっぱり難しいんだ。
確かにホロって応用すれば光学迷彩とかに使えそうだし使い方によっては危ないものになりうるかもしれない。
「とにかく機密保持とかの関係で使える兵装が一部に限られる。俺が手を加えてるものはほとんどダメだと思ってくれていい」
「それだと私出られないんだけど?」
そういえば叢雲の艤装は提督さんが手を加えたっていうかもう作ったっていってもいいレベルだったっけ。ソフトはほぼ全部やったらしいしハードの方もかなりいじったとか言ってた。
「大体って言ったろ?それぐらいはいいさ。鈴谷は航巡の艤装の方で出てくれ。瑞鶴、艦載機の編成はお前の好きにしろ」
「ん、了解!」
どんな編成でいこう?確か相手は戦艦だらけで来るんだっけ?なら艦攻や艦爆を多めにして偵察機を数機入れておくのがいいかな。念のため艦戦をある程度は入れておけば制空権を落とすことはないだろうし。
いつも出るときは制空権は加賀に任せっぱなしだったからなあ。たまには自分で頑張らないと。
「ねえ、帆波クン。アタシの出番は?」
「ない」
「ええー!アタシも出たい!」
「そうか。霧島、この変態をコンクリートで固めてアドリア海にでも沈めてきてくれ」
「お気持ちはわかりますがさすがに……」
「むしろWelcome!」
「「うるさい、黙れ」」
霧島さんの目が怖い。でもなんだろう。気持ちがすごくよくわかる。
「とにかく以上3人で出撃だ。他は待機。帆波隊の力を見せてやろうぜ」
「「「了解!」」」
3対6の演習だ。残念ながら提督さんは幻惑としての本気は出せないけどそれでも向こうは生まれたばかりの艦娘で練度は低い。数で押されていても押し返せる。
それにしてもヨーロッパに来て最初の授業が実地演習なんてね。穏やかじゃないなあ。
本当ならのんびりショッピングでもしたいところだけどそうも言っていられないか。
さあさあまたまた新キャラ登場ですよっと。
そしてはーじまーる演習編ッ!ヘイ!(ウル○ラソウル感)
ただでは始まらない欧州編、ようやく前哨戦に突入!
感想、評価などお待ちしております。それでは。