艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちはプレリュードです。
イベントを回そうにも母港枠が限界を迎えて出撃できない今日この頃です。三隈とかシオイとかユーちゃんとかドロップしたのは嬉しいんですけどね。
魔法のカード(DMMカード)を買うべきなんだろうか……
今いる娘たちを解体するのはちょっとあれだしでも金銭面的にもすこし厳しいし……

そんなこんなでヘタレ続けてますが本編参りましょう。


現実逃避のお茶会は

 

「じゃあ、失礼しました」

 

「おう、急に呼び立てて悪かったな」

 

瑞鶴たち3人が執務室から出て行き、峻がそれを見送る。

その最中で叢雲は秘書艦用の椅子に座り、後継ぎの書類の作成に勤しんでいた。

 

「やっぱあいつらは断ったか」

 

んーん、と言いながら椅子に深くもたれて背骨を伸ばし、首をぐるりと回した。

 

「あんた断られるってわかって聞いたでしょ?」

 

「わかってた、とまでは言えねぇな。薄々そんな気がしてたってレベルだ」

 

瑞鶴たちは結局、拳銃の携帯を断った。

理由はいたってシンプル。

”自分たちは人を守るために戦っているのにその人を傷つけるなんてできない”

とても美しくて素晴らしいことだと思う。

 

「で、お前はどうする?持っとくか?」

 

「…………えぇ、もらっておくわ」

 

椅子を引いて立ち上がり、執務室に歩み寄ると机の上に置かれた9mm拳銃を手に取った。

ひんやりとした金属の手触りと艤装と比べるとはるかに軽い、それでも確かなずしりとした重みを感じた。

単純な重量だけではない命を奪う重み。

 

今でも覚えている。

初めて人を撃った瞬間を。

ビリビリとリコイルショックの震動が身体中を這いまわる嫌な感触と呆気なく倒れた人の姿を。

 

 

マガジンを一度抜いて弾が装填されているか確認し、ガシャッと銃に叩き込む。安全装置はちゃんと掛けられているから暴発する心配はない。

 

人を守るために深海棲艦と戦う。立派で気高いことだ。けどそのためには自分の身を守らなければいけない。

だから私は拳銃(これ)を手に取る。撃ったことがないわけじゃない。構え方も撃ち方もわかる。

 

「そっか。お前は持ってくか」

 

「私が持ってくのわかってたくせに。知らないとは言わせないわよ?」

 

「……ああ、確かに知ってるよ」

 

司令官は部隊の艦娘の履歴を見ることができる。ならば知ってるに決まっている。特に艦娘を人として扱うこいつが調べていないわけがない。

そして自身も経験し、そして潜り抜けたあの事件の名前を見つけて覚えていないわけがない。

 

()()()()()()()()()()()()()()。別に人を撃つのは慣れてる」

 

それに人を殺すことも。

 

「………ま、持ってくなら持ってけ。俺の許可なく撃つことは出来ないが何かの時の護身用くらいにはなる。が、あくまで念のためだ。撃たないに越したことはねぇ」

 

「そうね、それを祈るわ」

 

「ほれ、軍支給のホルスターに替えのマガジン。持ってけ」

 

ちなみに峻のショルダーホルスターとマガジンポーチは自前である。軍支給品は俺は使いなれてないからやりづらい、と自分用を使っている。

 

「もらうわ。じゃ、私も荷物のパッキングがあるから」

 

「りょーかい。ほれ行ってこい。細かい引き継ぎ書類は俺がやっとくから」

 

ひらひらと手を振り執務室を出ようとドアに向かい歩く。他人に私物を見られたりするのは嫌だからちゃんと鍵つきのカバンにしとかないと。

それに拳銃盗まれたりしたら大変だし。

 

「じゃ、しっかりやっときなさいよ」

 

「わかってるって。信用ねぇなあ」

 

「人の隙を見て執務室を脱走してた男に信用なんてあるわけないじゃない」

 

ま、最近は大人しいけど。少なくとも3階の窓から飛び降りたり、壁をつたって屋上に逃げたり、隣の建物にワイヤー打ち込んでターザンロープよろしく滑っていったりとアクロバティックなことはしなくなった。

まあついこの間、執務室に別で掛けた南京錠をピッキングで無理やりこじ開けて逃げたけど。またあの演習地獄が到来しかけて逃げ出そうとしたのが理由だ。

結局すべて断って事なきを得たけど。それに私もあれはもうごめんよ。少し記憶が飛んでるし。

 

執務室のドアをパタンと閉めると自室に向かって歩みを速めた。

何を持って行こうかしら?

ていうかそもそも教官ってなにをすればいいの?

 

………とりあえず伊達メガネでもかけとこうかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所は変わって横須賀。

 

「案の定、というかやっぱり帆波大佐は嫌がりましたね」

 

「そうだな。まあシュンの面倒くさがりはいつものことだ」

 

将生さんが顔をしかめながらスラスラと書類を進めていく。

帆波大佐だけに限らずいきなりヨーロッパに行け!なんて言われたら誰だって嫌がるものよね。私も言われたら正直困惑すると思う。

 

「でも受けてくれないと本当に大変なことになるところでした。話を受けてくれた大佐には感謝ですね。提督もお疲れ様でした」

 

「ああ、ありがとよ。実際かなりゴネたが……」

 

「仮病使ってまで逃げようとしてましたよね?」

 

「そうそう。しかも嘘カルテ作るために医師免許まで取ろうかと真剣に考えてたぞ。いやー、あれは笑ったね」

 

「そんな簡単に取れるものじゃないですよね、医師免許って」

 

「あいつなら結構あっさり取ってきそうで怖いな」

 

さすがにそれは………いえ、ありえないとは言い切れないわ。

 

「欧州連邦とはいい関係を築いておかないとマズイからな。ロシアからも来てるとはいえ石油のパイプラインを一つ失うのはな」

 

そもそも日本の埋蔵量だけでは3日と保たない。世界の鉱石標本所といわれるだけあって種類は採れても量は採れないのだった。そのため、日本は世界に艦娘の艤体の方を輸出し、世界から資材を輸入するという関係がなりたっている。現在、日本以外の国で艤装は生産できても妖精が作る艤体の方は作れないからだ。

 

「それにしても大佐は相変わらずの巻き込まれ体質ですね」

 

「今回はあいつの蒔いた種だろ?ウェークで派手にやったしな。人類初の奪還!とか言われてるけど本人からしたら手柄は他人に譲っていいからほっといてくれ!って感じだろうけどな」

 

「たしかに。大佐はそういうお方ですね」

 

翔鶴が口に手を当てて控えめにクスクスと笑った。

実際にそう言っている姿がありありと目に浮かぶ。

 

「そういや、シュンが連れてくメンバーに瑞鶴選んでたぞ」

 

「えっ、ほんとですか?」

 

あの子大丈夫かしら。ちゃんと礼儀正しく静かにしていられる?忘れ物とかないように持っていくべきもののリストを送ってあげたほうがいいかしら。向こうの水道は飲んじゃダメって教えとかないとお腹壊しちゃうし他にも……

 

「ぷっ!翔鶴、心配しすぎだ!」

 

瑞鶴の名前が出た途端にオロオロし始めた翔鶴をみて東雲が笑う。

 

「当たり前ですっ!あの子は大事な妹なんです。心配するに決まってるじゃないですか。将生さんも笑わなくてもいいのに……」

 

大佐が付いていてくれるならそこまでま心配する必要はないとは思うけどそれでも……

ああ忘れ物とかしないといいんだけど大丈夫かしら。

 

「翔鶴、呼び方戻ってるぞー」

 

「あっ……しっ、失礼しました!」

 

「いや、別にそこまでかしこまらなくてもいいけどよ…」

 

私はこの人のことを呼び分けている。仕事中は提督、プライベートの時や非番の時は将生さん。

以前、そんな風にお堅く呼ばれると肩が凝ると言われて以来、妥協点としてさん付けで呼ぶようにしているけどそれを間違えて使ってしまった。

 

将生さんがどこかバツが悪そうにポリポリと頬を掻きながら話題を戻すぞ、と言った。

 

「シュンの奴が付いてるし大丈夫だろ。あいつは仲間を見捨てるような奴じゃない。仲間を騙しはするけどな」

 

「最後の言葉で一気に不安になりましたよ………」

 

将生さんがカラカラと笑う。もう。大佐も大佐だけどこの人も大概だと思うわ。

 

「他の人間も行くから大丈夫だって。向こうでの艤装の警備員も行くし司令官もあいつ一人だけじゃない。別でもう一人行くって聞いてるからそっちを頼ることもできるだろ」

 

「その人は大丈夫なんですか?」

 

「さあ?あれだったら今から見てみるか?」

 

「お願いします」

 

あいよ、と将生さんが首のデバイスからホロウィンドウを開き、軍のデータバンクにアクセスする。

横須賀を管理している中将だけあって6つのレベルの中でレベル5まではアクセスが可能らしい。

調べたい欧州連邦への使節はそこまで重要案件とも思えないからせいぜいがレベル3といったところかしら。

 

翔鶴が東雲が調べ終えるのを待っているとコンコン、とドアがノックされてお盆を持った吹雪が部屋に入ってきた。

 

「失礼します!お茶を持ってきました」

 

「あら、吹雪ちゃん。ありがとう。そこに置いといて」

 

「はい!翔鶴さん、いつもお疲れ様です!」

 

はきはきと喋りながら吹雪がお盆からお茶を机に置く。

 

「翔鶴さん、司令官はなにを調べているんですか?」

 

「欧州連邦への使節のメンバーよ」

 

「あっ!聞きました。たしか叢雲ちゃんも行くんですよね!」

 

「まあ帆波大佐の秘書艦だし行くと思うわ」

 

「いいなー。叢雲ちゃんヨーロッパかあー。楽しいんだろうなー」

 

ニコニコと笑いながら吹雪ちゃんが少しだけ離れた妹を羨む。

叢雲ちゃんが沈んだという報せが来た時、吹雪ちゃんもひどく落ち込み泣き腫らした目をして歩いている姿をよく見かけたけど生きてたと知って本当に嬉しそうだった。

今も元気そうだしよかったわ。

 

 

「お、あったあった。えーっと誰が行くのかなーっと。………げ」

 

ようやく見つけたらしい将生さんの口から嫌な音が聞こえた。

 

「………げ、ってどういうことですか?」

 

まさか鬼畜な司令官なの?もしかして瑞鶴がひどい目に遭わされるんじゃ…

 

「翔鶴さん、ちょっと怖いです……」

 

いけないっ。平常心、平常心。

 

「別に翔鶴が思ってるような暴力的な人間とかじゃないぞ。ただなあ……」

 

「ただなんなんですか?」

 

「うーん、こいつは苦労するぞシュン。ある意味お前より扱いは面倒なタイプだ」

 

「司令官のお知り合いですか?」

 

「そうなんだがそうだと思いたくないというか……」

 

ずいぶんと歯切れが悪い。いったいどんな人なんだろうか。

吹雪ちゃんと目を合わせる。吹雪ちゃんもきょとんとした様子で見つめてくる。

 

「むぅ……まあ少なくとも悪人じゃあないのは保証する」

 

「本当に大丈夫なんですよね?」

 

「私も叢雲ちゃんが心配です……」

 

「一応同期だ。シュンもどういう奴かはわかってる。心配はいらねえって」

 

「勿体つけないで教えてくださいよ!」

 

「そうです。教えてくれないのなら……そうですね、吹雪ちゃん実はね、提督が中将になる前のまだ中佐だった頃にね────」

「待て!ストップストップ!言う、言うって!」

 

あら残念。せっかく吹雪ちゃんに将生さんの昔話をしてあげようかと思ったのに。

吹雪ちゃんに教えればそのまま叢雲ちゃんに伝わって最終的には大佐のところに行くのを危惧したってところね。

 

「翔鶴のそういう腹芸どこで覚えたんだか……ほれ、こっちゃ来い」

 

ちょいちょいと手招きをしてホロウィンドウを示す。それを翔鶴と吹雪が首を伸ばして覗き見た。

そこにはその人物の履歴と所属、そして東雲自身が記入したであろう追加の情報が載っていた。

 

「あっ……これは………」

 

「なんというか……すごく個性的な方なんですね………」

 

「そうだな、美しい日本語のフィルターを5重くらいかければ吹雪の言ったみたいな表現がギリギリ可能かもな」

 

将生さんががここまで毒を吐くことは珍しい。つまりそれだけアクの強い人間なのだろう。

 

瑞鶴、無事を祈るわ。お願いだから変わらないそのままのあなたでいてね…

 

部屋にいる3人が3人とも深いため息をついた。

 

「………吹雪が持ってきてくれた茶でも飲むか」

 

「そうですね。提督、羊羹出しますか?」

 

「ああ。吹雪も自分の分の茶淹れたら羊羹食ってけ。このあと忙しくないよな?」

 

「はい。ありがたくお相伴にあずかります。では吹雪、お茶を淹れてきます」

 

「おー、行ってこい。翔鶴、羊羹あったか?」

 

「はい、バッチリです。3人分に切り分けておきました」

 

「サンキュー」

 

「お茶持ってきました。急須も持ってきたのでおかわりも大丈夫ですよ」

 

「吹雪ちゃん、ありがとうね」

 

「いえ、それほどでもありませんよ!」

 

翔鶴が慈愛の目で吹雪の頭を撫でて東雲が遠くを見るような目でお茶を湯呑みから啜る。

 

ため息をついたあとに3人の選んだ選択は思考放棄(どうとでもなれ)だった。

 





妹大好きそうですよね、翔鶴って。というか艦これにおいて姉妹仲が悪い艦娘っているんですかね?個人的にはいて欲しくないです。
そしてブッキーこと吹雪が初登場です!名前だけなら過去に一回だけ出たことがあるんですが覚えてくれている方いますかね?第一章の最終話の少し前くらいの話で出てるはずです。ほんとにちょろっとだけなんですけどね。

感想や評価などお待ちしております。それではまた。

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