艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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久しぶりのネタタイトル。某ロボットアニメのガ○ダムのあの方のセリフのパクりとも言う。
イベントようやくE-1だけは甲でいけたけど次大丈夫な気がしないです。航巡が育ってないという初心者っぷり。
とにかく本編参ります。



謀ったな、お前ら⁉︎謀ったな⁉︎

 

基地に戻ってからが大変だった。

私は深海棲艦に何かされてないか調べるために細かい身体検査を受けることになり、ほぼ半日以上を精密検査に費やすことになってしまった。

部隊のみんなはみんなで怪我の治療で入渠風呂に浸かり続けたようだ。

風呂の中で寝ていた娘も結構いたとか。

あいつはあいつで疲労と緊張の糸が切れたのか作戦終了と同時にぶっ倒れて寝てしまっていたらしい。

艤装の整備やらで明石は工廠に篭りきりになっていたようだ。

”さらしな”は壊れたわけではないが直す必要ありとのことで造船所のドッグに入れられて現在修復中と聞いた。しばらく沖山少佐たちは館山に残るらしい。

 

そして1日経って今現在。

私こと叢雲とあいつこと帆波峻は埠頭のコンクリートで正座させられており、周りをみんなに囲まれて、事の顛末を説明させられていた。

 

「……つまり、提督は固定砲台を破壊するために泳いでウェーク島にその身一つで侵入して爆弾を仕掛けて爆破。その後いつ襲われるかわからない海上をパワーボートなどという貧相な舟で渡り、挙句に援軍を頼んでいたのを私たちに秘匿していた、と」

 

「は、はい。そういう感じです、はい」

 

なぜ正座させられているのか。全員が怒髪天を衝くほどのお怒りモードだからだ。冷たくて硬いコンクリートに正座しているからすごく足が痺れる。

 

今問い詰めてきた加賀も丁寧な話し方ではあるがそれが逆に威圧感を与えてくる。

 

「提督の言っていた固定砲台破壊のための秘策とは愚かにもハンドガン一丁という武装とも言えないような武装で単身乗り込むことだったと?」

 

「いや、爆弾も持って……いえ、なんでもないです」

 

ギロリと加賀に睨まれあいつが語尾を濁した。

 

「で、叢雲ちゃん?あなたは命令無視で出撃した末に艤装を破壊されて鹵獲。深海棲艦に連れ去られて仕方なく指揮を執り、ヘルプサインを送り助け出してもらったにも関わらず、その後もまた懲りずに出撃して姫級と交戦したということですね?」

 

「いや、あれは仕方なく────」

「ですね?」

 

「……はい」

 

榛名が怖い。というか全員の後ろに死神が鎌持って立ってる幻覚すら見えそう。

ちなみに横須賀の援軍は来るように仕組んだというよりは来るしかない状況をあいつが作ったのが原因らしい。

タイミングを計って、出撃申請書を提出してジャストで出撃すると同時に東雲中将が気づくようにしたらしい。

出撃した後だから止められず、かといって全滅するかもと思った中将が急いで援軍を出すと読んだがうまくいったと笑っていた。

 

「叢雲ちゃん、旅立ってないで話をちゃんと聞きましょうか?」

 

「痛い痛い痛い!」

 

こめかみをぐりぐりと榛名に押された。結構痛いのよこれ。

 

「提督、言い訳はありますか?」

 

「結果オーライじゃね?……って痛ってぇ!」

 

瑞鶴がスパーンと綺麗にあいつの頭を叩いた。

 

「提督さんといい、その秘書艦といいもう少しまともになってほしいよ……」

 

「「こいつと一緒にするな(しないで)」」

 

「どっちもどっちだと思うわ……」

 

ハモった2人を見て陸奥が頭を抱えるように言った。

 

「お前らばっか危険な戦場に立たせて俺はのうのうと後方で指揮だけ執ってるってのもなんだか無力感とか申し訳なさがあってな………ま、全員無事だし叢雲も帰ってきたからよくね?」

 

「はぁ……よくそんなこと言えますね。叢雲が沈んだと思ってどうなったか自分でもご存知でしょう?」

 

「ちょっと待て!ここでそれ言う気か⁉︎やめろ!」

 

加賀の一言に峻が途端に焦り始めた。

峻はわかっていた。加賀は確かに今現在は無表情と言ってもいいくらいのっぺりとした顔だ。だがその内心では峻が好き勝手したやり返しを図っているのだと。

 

「執務室に篭りきりになって───」

「あーあーあーあーあー!」

 

「提督さんうるさいからちょっと黙ろっか」

 

「んーんー!」

 

加賀の言葉を遮るようにいきなりあいつが叫び始め、瑞鶴が素早く口に猿ぐつわを嵌めて無理やり黙らせた。そのために、意味のわからないうめき声のようなものをあげている。

 

「叢雲ちゃん、とにかくもう二度とこういうことはなしにしてくださいね。中佐は気が狂いかけるし、ワーカーホリックになるし、倒れるしで大変だったんですから」

 

あ、それであんなに抵抗してたのね。

横目で見るとぐったりと俯いている。猿ぐつわは嵌められたままだから何かモゴモゴ言っているけど聞き取れないわね。

それと同時に申し訳なさも感じる。そこまであの行動がこいつを追い詰めてしまっていたんだ。

 

「わかった。次はもうしない。約束するわ」

 

「いいですか、絶対ですよ?」

 

「ええ、絶対に」

 

榛名の念押しにしっかりと応える。

そんなにまずい状況になってたなんて知らなかった。気をつけなくちゃいけないわね。それに正直もうあんな目は二度とごめんよ。

ぷはぁ、という音が聞こえたからおそらくあいつの猿ぐつわは外してもらえたのだと思う。

 

「ともかく叢雲が帰ってきたのは良かったわ。みんな心配してたってのはホントよ?これでこの部隊にもきっといい風吹くわよ」

 

「そうだねー。めでたいねー。」

 

「胴上げしようよ!胴上げ!」

 

「待て、鈴谷!危な……うわっ!やめろって!」

 

「えっ!ちょっと私まで!」

 

わーっしょいわーっしょいとなすがままに胴上げされる。

え、なんでいきなり?そういう空気だったっけ?

 

〔ねぇ、これどういうこと?〕

 

〔俺に聞くな!知るかよ!〕

 

アイコンタクトで聞いてみるが知らないみたいだ。

その間にも不気味な胴上げは続く。

 

「「「わーっしょいわーっ、そいやぁ!」」」

 

ふわっと浮き上がるような感覚と共に受け止められる手がなくなった。

そしてようやく理解した。事前に打ち合わせ済みだったのだと。

 

あ、落ちる。

どこへって?海によ。

 

ドッポーンと水柱が2つ立った。

 

「ぷはぁ!ちょっと!何すんのよ!」

 

埠頭を見上げるが蜘蛛の子を散らすように全員が逃げていた。

 

「あいつらやりやがったな……」

 

ちゃぷんとあいつが隣に顔を出して海水を吐き出した。

すぐに上がりたいところだけど高さがある埠頭の端には手が届きそうにないから上がれるとこまで泳いでがなくちゃいけないわね。

 

ちゃぷちゃぷと水を掻いて泳ぐ。

そういえば言っとかなくちゃいけないことがある。

 

「あ……」

 

「ん?どした?」

 

早く言え。回れ私の舌。

 

「あ、ありが…とう……」

 

叢雲が耳まで真っ赤にして俯きがちにプルプルと震えながら言った。

 

「どういたしましてっと」

 

峻がジャバッと海から上がると振り返り手を差し出す。

 

「ほら、いくぞ」

 

「……っ!ええ!」

 

パシッと勢いよく手を取り海から上がった。2人ともぐしょ濡れで服からは水滴がポタポタと滴り落ちる。体温が下がっているのかブルリと震えた。

 

お風呂入りたいわね。さすがに少し冷えたわ。

 

「叢雲、風呂はいって制服に着替えてこい。2時間後に正門集合な」

 

「いいけど……何かあるの?」

 

「めんどくさい表彰パーティーが今夜あるんだってよ。正門に車で迎えが来るから秘書艦同伴で来いとさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埼玉県南中部、日本海軍本部式典場。

海外からの来賓の歓迎や記念式典などが開かれる会場だが今回は表彰式をするらしい。

一応単独でウェーク島泊地の深海棲艦を殲滅したからってことなんだろうがぶっちゃけめんどくさい。

肩から伸びる飾り紐やらなんやらが邪魔でしょうがないのだ。

だがそれだけじゃない。今回の作戦を深く追求されると非常に困るのだ。

マサキに頼んで一部の戦闘記録は改竄して提出してあるがバレると面倒なことが多いのだ。

まずは出撃申請書。

止められないように届くタイミングを見計らって送ったのだが日付を少し弄っている。つまりちょっとした書類偽装をしているのだ。これはバレるとまずい。

そして俺が泳いでウェーク島に浸入したこと。これは独断先行もいいところだ。

こんなん知られたら確実に叱責どころしゃない。よくて左遷、下手すりゃ軍法会議所に送られてそのまま首チョンパ。

叢雲の消失(ロスト)に関してもかなり無理やりな理屈で取り消しにしたりと、まあ色々とやっているのだ。

 

つまり式典場は赤い絨毯や煌びやかな照明器具に飾られ、俺はさっきから方々のお偉いさんからの妙に上から目線な賞賛に対して無理やり笑顔を作って応答したりしている中で内心冷や汗ダラダラなのだ。

それにしても上のお偉いさんってのはなんでこうああも面倒なことができるのかね。飾り立てた言葉の裏には調子に乗るなとか私の派閥に来いだとか。俺は派閥とかめんどくさいから属さないっての。

 

「おい、シュン。少しは喜べよ。多分勲章とかの授与もあるぜ?」

 

「目立ちたくないんだけどな……。マサキ、翔鶴と叢雲はどこ行ったか知ってんのか?」

 

ここに来ると入り口でマサキと会ったのだがその時に叢雲は翔鶴に引きずられてどこかに連れて行かれた。なんだか翔鶴が喜色満面だったからあえて突っ込まない方がいいだろうと思ってスルーしたがそのせいで叢雲には恨みがましい目でみられた。

 

「ん?もうじき来ると……そら、来たぞ」

 

「ん……んん⁉︎」

 

クイッとマサキが顎をしゃくって示した方を見て驚愕した。

 

翔鶴のふわっとした薄桃色のドレスも驚いた。いつもつけている鉢巻きは無く、花模様のあしらわれた髪留めをつけて上品に歩いている。

 

だがそれより俺はその隣をヒールに慣れていないのだろうか、たどたどしく歩く少女に目を奪われた。

しつこくない紫色のドレスがヒラヒラとはためく。布が脇の下までしか無く、鎖骨まで見え、背中は大きく開いているのが艶かしくも可憐だ。

普段は赤い紐を使って前で結んでいる髪は編み込まれ、心なしかいつもよりツヤツヤと滑らかに見える。

顔に薄く化粧を施してあり、元々から整った顔立ちが綺麗に見えるが顔が真っ赤なのは隠し切れていない。

 

この人誰⁉︎いや、わかるよ!叢雲だろ!叢雲なんだけどさ、この人誰⁉︎

 

「……さいよ」

 

「へ?なんて?」

 

俯いてモゴモゴと言われても聞こえない。顔上げてくれ。

 

「……笑いなさいよ」

 

「?……何を?」

 

「笑いなさいよ!この格好!変でしょ!私がこんなヒラヒラしたの着て髪型変えたりして!」

 

「いや……よく似合ってると思うぞ?綺麗だし」

 

「っーーーー!」

 

「ほら、言ったじゃない。中佐なら褒めてくれるって」

 

口に手を当てて翔鶴が微笑む。このコーデは翔鶴の仕業か。連行されてから叢雲は着せ替え人形のように翔鶴に遊ばれたのだろう。

 

「翔鶴も見目麗しいねぇ」

 

おいマサキ。鼻の下伸ばしてんじゃねえよ。

 

「おーい、ナンパ中将に変態作戦中佐も元気かい?」

 

この声は……

 

「若狭!てめぇ、人を変態作戦とは言ってくれるじゃねえか。襲撃するぞ!」

 

「なにがナンパ中将だ!左遷させるぞゴラァ!」

 

「へぇ、そんなことしたら2人で共謀して書類偽装とか戦闘記録偽装したのバラそっかなー」

 

「「だが今はその機じゃないな。また今度にしとくか」」

 

(バカ)2人が声を揃えた。それを見た若狭とその隣にいた長月がため息をつく。

 

「大丈夫。あれらはうまく偽装されてたよ。プロの中でも超一流が真剣に見ない限り気づくことはないって」

 

声を潜めながら若狭が言った。

ならよかったよ。

すくなくとも俺たちの中でその手の事を専門に動いてる奴が言うならそうそう気づかれはしないだろ。

 

「お前も呼ばれてたのか」

 

「一応これでも本部勤めだよ?まあ階級は2人より低い少佐だけどさ。敬語とか使わなきゃダメかい?」

 

「からかんなよ。公の場でもない限りそんな縛り入れるタイプに俺が見えるか?」

 

「俺は中佐だが中将のお前にタメだもんな」

 

「お前はもう少し敬意とかをだな……」

 

ニヤッと笑う若狭をマサキが軽くあしらい、ふざけた俺を呆れたようにマサキが突っ込んだ。

一方で叢雲たちは各々でガールズトークに花を咲かせている。こっちに気を使ってくれたようだ。

まあ野郎同士の会話に入っても大して面白くはないだろうしな。

 

『それでは帆波中佐、壇上へどうぞ』

 

「ほら行ってきなよ」

 

「さっさと行ってこい」

 

だー、めんどくせぇ!今回の立食パーティーみたいな形式のせいで気づかなかったがいつの間にか式が進行してるじゃねぇか。

そもそも別に表彰して欲しくてウェークを落としたわけじゃないんだがなぁ。

 

仕方なく壇上に上がるといたるところから視線が向けられた。そして俺の後に舞台に上がった老人にさっきの何倍もの視線が向き、全員が一斉に敬礼をした。さすがにこれをスルーするのはまずすぎるので俺も敬礼をしておいた。

まあ表彰って聞いた時点で出てくる気はしていた。

海軍元帥、陸山(くがやま)賢人(けんと)。事実上でも立場上でも日本海軍のトップだ。それなりの年齢のはずだが、背筋はピシッと伸びて歩き方もしっかりとしている。

 

「帆波中佐、今回の活躍については聞かせて貰ったよ。大変な戦果だ。初めて人類が深海棲艦から土地を取り戻したのだからね」

 

「はっ!恐縮です!」

 

元帥の落ち着き払った声がマイクにより拡声され会場に響いた。

 

「ついてはウェーク島の奪還と姫級の撃破を讃えて貴官には戦果勲章二等を贈り、それと共に階級を1つあげ、大佐とする。今後ともに面目躍如たる活躍ぶりを期待する。受け取りたまえ」

 

「はっ!国民を守るために粉骨砕身させていただきます!」

 

左の胸元に金色の桜の意匠をあしらった勲章が元帥自らの手で付けられ、割れんばかりの拍手が耳朶を打った。

 

あいつらは気づいただろうか?

さりげなく付け加えた俺の爆弾に。

あくまで国民のためであって日本海軍のためではない、という俺の意思表示に。

 

カツンカツンと壇上から足音を鳴らして降りるとふらふらと叢雲が駆け寄ってきた。

ヒール慣れてないなら無理しなくていいのに……。

 

「ちょっとあんた!あんなこと言って大丈夫なの⁉︎」

 

「大丈夫。むしろこれで俺たちに軍内部の人間が下手に手を出せば自分たちは国民の安全なんてどうでもいいですって公言してるのと同じだ。すくなくとも矢田みたいに露骨に排除しようとすることは躊躇うはずだ」

 

「へぇ……ちょっとは考えてるのね」

 

「まあな」

 

ふふん、と得意げに鼻を鳴らす。お前らは前線で戦うんだ。それを不安なく戦わせられるように場を整えるのが俺の仕事だ。そのためなら矢面に立つことぐらいはどうってことない。

 

「で、さっきからなんで目を逸らしてるのよ?」

 

「………………気のせいだ」

 

「ダウト」

 

「気のせいだってーの!」

 

あのな!直視できるか!シミ一つない白い肌とかが目の毒なんだよ!

 

『おっと、大佐がパートナーを発見したようです!それでは会場の中央へどうぞ!』

 

「え!すみません、なんのことです?」

 

なんで会場中央に行かなきゃいけないんだよ。さっさと脇に退散しようかと思ってたのに。

 

『あれ?伝達ミスでしょうか?本日はダンスパーティーなので、主役の大佐には中央で初めに踊ってもらう、ということになっており、了承も得たとのことなんですが……』

 

は?どういうことだ?踊れなんて話は聞いてない。それなのに了承なんざ出せるわけが……

 

ちらっとマサキの方を見て確信した。

マサキは腹を捩るように笑い、声を出すのを抑えるのに必死の顔だ。

くそっ!()められた!

 

『とにかく、中央へどうぞ!』

 

「ちょっとあんたどうすんのよ!」

 

「知るか!そもそもこんなこと想定外だっての!」

 

『さあ、どうぞ!』

 

スピーカーからの声に押されて仕方なく中央に押し出される。

どうすんだよこれ。ダンスなんてやり方知らねぇぞ?

 

「おい、叢雲。ダンスの仕方って知ってるか?」

 

「知らないわよ。あんたこそ知らないの?」

 

「知ってたら聞くかよ」

 

こそこそと話している間に楽曲団が演奏を初めてしまい、辺りに華麗な旋律が流れ始め、焦りを一層加速させる。

 

「と、取り敢えず形だけでも取り繕うぞ!」

 

「どうすりゃいいのよ!」

 

うろ覚えの知識を引っ掻き出す。えっと何やりゃいいんだっけ?手をとってもう片手を腰に回すんだっけ?あーもう!こうなりゃヤケだ!

 

「叢雲、右手出せ」

 

「え、ちょっとなにして……ひゃっ!」

 

無理やり叢雲の腰に右手を回し、左手で叢雲の手を取った。今まで気づかなかったが薄いレースの手袋をつけていたらしい。手触りがすごく滑らかだ。

 

「なにすんのよ!」

 

「諦めろ!仕方ないんだよ!ほら右足出して。おし、そしたら次は回るぞ」

 

クルリとターン。お互い運動神経は悪くないから転びこそしないが動きはガッチガチだろう。

マサキの奴め。後で覚えときやがれよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーっはっは!ひーっひっひ!腹痛ぇ!」

 

ゲラゲラと将生が笑う。

あのガチガチの動き!やり返しとしては上等だ!

 

「わざとちゅ……大佐に言いませんでしたね。趣味が悪いですよ、将生さん?」

 

「そう言うなよ、翔鶴。人を騙してアゴで使ったシュンが悪い。真ん中で踊らせるくらいならいいだろ」

 

そもそも館山基地は横須賀鎮守府の支部という扱いだ。ならそこを統括している者がわざと本部からの通知を館山に送ることなく承認してしまえば向こうは知ることなく事を運ぶことができる。

 

別に命取られるわけじゃないし、そこまで真剣に見てる人間もいないから大丈夫だしな。

ま、見ものではある。叢雲ちゃんの顔は真っ赤だし、シュンは余裕のなさにアタフタしっぱなしでそれに気づいちゃいねえ。

ま、これも人に心配かけた罰だと思え。

叢雲が沈んだと聞いた時、ヒヤッとしたんだぜ、俺は。

あの2人はお互いがストッパーの役割を果たしている。つまり一方がいなくなればもう一方は暴走する。

冷静になって考えれば、まともな人間が8時間近く深海棲艦が頭の上を哨戒している海を泳ぐことなんて精神的にも体力的にも不可能だ。

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ありゃストッパーが外れて限界を超えた反動が返ってきたんだ。毎度見てるだけでもハラハラさせられる2人組だよ、まったく。

うし、そろそろ助けてやるか。充分に笑わせてもらったしな。

 

「若狭、お前はどうする?」

 

「僕は引っ込んでるよ。行こうか、長月」

 

「……別に私は若狭と踊るのなら構わないぞ?」

 

「僕が踊れないんだよ。そこに美味しそうな料理があったから少し食べてみたいんだ」

 

「そうか」

 

若狭が長月を伴って人混みに姿を消した。ま、あいつはそういう奴だ。シュンよりも目立つことを嫌うからな。

 

「さて翔鶴、そろそろ助けてやるとしよう」

 

「でもどうするんですか?」

 

未だに一組で踊り続けるシュンと叢雲。この状況を助けてやる方法はただ一つ。

 

「翔鶴」

 

「はい?」

 

すっと片膝をついて左手を差し出して。

 

Shall we dance?(私と踊っていただけますか?)

 

「……キザですよ、将生さん」

 

「シュンの奴のが移ったかな?」

 

ニヤッと笑いながらもそのポーズを維持し続ける。翔鶴がふぅ、と息を吐き、にっこりと笑うと差し出した手を取った。

 

Sure, I'd love to.(はい、よろこんで)

 

翔鶴の手を取ると2人で舞い、中央に飛び込んだ。すぐにあれよあれよと他のペアも乱入して踊り始める。

人間ってのは一度他の人間が始めればそこの輪に自然に入らなきゃいけないような気がする生き物なんだよ。それに曲がりなりにも中将だ。トップクラスが真っ先に行けば下の遠慮も薄れるってもんだ。

 

「おい、マサキ。テメェ覚えてやがれ」

 

「助けてやったんだ。感謝しな」

 

「原因作った奴に言われなくねえわ!」

 

俺がこんなことした原因はお前なんだけどな。にしても踊りながら会話ってなかなか難しいことを。

 

「で、叢雲ちゃんの尻の柔らかさはどうだ?」

 

「よし、お前あとですぐそこの雑木林に来い」

 

「ちょっ……あんた触ってんじゃないでしょうね!」

 

「誤解だ!」

 

うん、この2人はからかうと面白い。顔は赤いままで叢雲にキッと睨まれて慌てて弁解をシュンが始めるのを見て強くそう思う。

 

「将生さん?」

 

すまん、悪かった翔鶴。だから笑顔で人の手を握り潰すのはやめてくれ。何気に痛い。

 

一曲目が終わり、次の演奏まで一旦間が空いた。

 

「翔鶴、どうする?次もいくか?」

 

「誘ったのは将生さんですよ?ご随意に」

 

そうかい。じゃ、二曲目もいこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一曲目が終わると同時に人混みに紛れて俺たちは全力で逃げた。あんなんもう一回とかやってられるか。

それに待ち合わせもあるからな。

 

「ちょっと……。どこ、まで、行くのよ……」

 

「お、悪い。そろそろだ。ここらで歩いても大丈夫だろ」

 

叢雲がヒール履いてたの忘れてた。そりゃ大変だわな。

 

「会場の外の裏手?どうして?」

 

「待ち人アリってな。ほら、いらっしゃったぞ」

 

「待ち合わせはここで良かったはずだね?」

 

影から姿を現したのは岩崎満弥だった。タキシードに身を包んでいるのは式典に出席していたからだろう。艦娘産業のトップ企業の会長だ。呼ばれていないわけがない。

 

「はい。これがお約束していた稼働データを収めた外部記録媒体です」

 

胸ポケットから媒体を取り出し岩崎に手渡す。これを条件に試作機を借りたのだ。おそらくデータは今後の開発に生かされていくのだろう。

 

「うん、確かに。また面白いデータが取れたらよろしく頼むよ。あと今後もその艤装はそちらで使ってくれて構わない」

 

「ありがとうございます」

 

返せと言われても仕方ないと思っていたからこの許可はありがたい。お言葉に甘えてそのまま叢雲に使わせておこう。

 

「私はもう行くよ。また面白い物を作ったらぜひ連絡をいれてほしい」

 

「ええ、そうしましょう」

 

クルリと背を向けて岩崎が立ち去る。その姿が影の中へた完全に消えていった。

 

「あんたこんなことしてあの艤装を手に入れてたのね……」

 

「ん?まあな。第四世代型の試作機の稼働データと引き換えに貸してもらったんだがそのままくれるとはな。太っ腹なこって。ところで」

 

「……なによ?」

 

違う、叢雲。お前じゃない。俺が気にしたのは別。背後にある気配の方だ。

 

「盗み聞きとは趣味が悪いな、若狭!」

 

「……それが仕事だからさ。まあ勘弁してよ」

 

声を荒げて名前を呼ぶと、柱の影から若狭が悪びれることも無く肩をすくめながら姿を現した。

 

「長月、お前も出てこい。そこの茂みにいるのは気づいてるぞ」

 

「……帆波大佐は鋭いな。私はともかく若狭まで見破るとは。どうして気づいたか後学のために教えてもらえないだろうか?」

 

「悪いな、長月。企業秘密だ」

 

ガサガサと木の葉を揺らしながら長月が茂みを超えて若狭の隣に立つ。あの緑の髪なら確かに茂みにはうまく紛れ込みやすいだろう。

 

「何が目的だ?」

 

「帆波がいきなり会場から姿を消したから気になって跡をつけただけだよ」

 

「嘘だな。そんなことでお前まで出張る必要はない。長月1人送るかそれより下の部下を送るだけで事足りる」

 

会場の至る所にいる警備兵に紛れて防諜課の人間がいるのは気づいていた。そこらへんに適当にあとを追わせればカタはつく。

はあ、と若狭が息をつき、やれやれといった調子で顔を上げた。

 

「”シャーマン”。矢田を裏から操ってた可能性の高い人物だ。まだ身元もわかってないから仮称だけどね」

 

「はーん。なるほどね。その”シャーマン”が俺だと疑って跡をつけたわけだ」

 

「待って!こいつはそんなこと────」

「叢雲」

 

「っ!……わかったわよっ」

 

悪いな。ちっと静かにしといてくれ。

 

「帆波が限りなくシロに近いことはわかってる。でも可能性があるなら疑わなくちゃいけない。だから調べてる。それが少佐としての仕事さ」

 

「俺が矢田を身元を知らせずに動きを誘導していたが、暴走し始めた矢田を見て足がつくのを恐れて自らの手で消した。なるほど無い考えじゃないな」

 

「さすが鋭いね。帆波とは大学からの付き合いだからさ。ありえないとは思ってるんだけど。ま、実際に見つけたのは艤装の稼働データの譲渡だ。これなら何の法にも触れていない。ただのテスターを務めただけだからね」

 

はあ、俺はとため息をついた。

 

「今度さっき渡したやつのバックアップやるよ。それで多少は信憑性が出てくるだろ?」

 

めんどくせぇな。最初っからくれって言えばお前ならやるよ。後ろめたい事情もないしな。

 

「すまない。話が早くて助かるよ。長月、もう大丈夫。いこう」

 

「帆波大佐、失礼する」

 

ぺこりと頭を下げて長月が立ち去る若狭を追いかけて行った。

と思ったら不意に若狭が足を止め、その背中にボスッと長月がぶつかる。その時、”フムグッ!”という潰れた声が聞こえたのはスルーしてあげるべきだろう。

 

「帆波、君たちは今回の件で名前も顔もあらゆる場所に知られることになった。気をつけるんだ」

 

さっきまでとは声の調子が違う。それだけ真剣に言ってるってことか。

 

「……ご忠告痛み入るよ。じゃあな」

 

「うん、じゃあ。また会おう」

 

今度こそ若狭と長月の姿が夜の闇に溶けていく。

 

まだパーティーは続く。おそらく12時くらいまでは続くだろう。さすがにそれまでは顔出しとかないとまずいよなぁ。

 

………こっそり帰りてぇ。





華やかなパーティーを書いてみたかったので。
一番頑張ったのはドレスの表現だったりします。想像してるものを書き起こすっていうのは難しいですね。とくに服装は。
あとはぶっちゃけあの英語が使いたかっただけです。
なんとかサマになっていればいいのですが。
最後がシリアスっぽくなってしまいましたが長月の可愛さで相殺です!

感想や評価、ご要望などは軽い気持ちで構いません。
一言でもいいのでいただけたら非常に嬉しいです。

それではまた。

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