艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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昨日予告した通り、本日に投稿です。

まだオチまでは続きますが、今回はそこそこ動くかと。
それでは参ります。


Comeback!

 

ウェーク島の深海棲艦の泊地は旧アメリカ軍の基地をそのまま再利用された形で存在している。

そこの内部ではある姫が歯噛みしていた。

その姫は人類から自分が泊地棲姫と呼ばれていることを知っていた。さらに言うならば人間のなんでもない通信を傍受し、人間の言葉を理解し、片言ながら発音することもできた。

 

だからこそ自分たちに足りないものを彼女は知っていた。有能な指揮官だ。

残念ながら一時的に取り入っていたヤダとかいう男は有能とは言い難かった。

だか得たものはあった。その時、最後の攻撃対象に選ばれた部隊の駆逐艦の指揮は見事だった。

だから一計を案じて苦労して、多大な代償を払ってまで指揮官を捕らえ、手の内に入れたというのに。

 

「早クナントカ出来ナイノカ!」

 

指揮官として座っている者に向かって怒鳴り散らし噛みついた。今までなんとかしてきたのだから早くしろ!

 

「…………」

 

指揮官はだんまりを決め込んでしまっている。しかしその目は闘う者の目だ。額にシワがより必死に考えている顔だ。

 

これから早く指揮官としての技能を吸収してしまいたい。それさえできればもうこの偉そうに座っている者はお払い箱だ。もちろんそんなことはこれには告げていないが。

この者は騙されてこの席に座らせられているのだ。自分たちに協力するうちは殺さないでおくという条件をつけたらコロリと騙された。

まったく御しやすくて助かる。

 

そう考えているとだんだんと落ち着いてきた。そうだ、このような愚かな人間どもに我々が負けるはずがないのだ。

 

今この部屋にはあれと自分以外は誰もいない。他は全員が出撃している。それだけの戦力を投入し、かつ優秀な指揮官がついているのだ。敗北など万が一つにもありえない。

 

さっきまで歯軋りしていた泊地棲姫の表情に余裕が戻り、徐々にその顔は微笑を(たた)えた。

 

そう、負けるわけが────

ドォン!と、その思考を遮るようにして部屋のドアが爆発し吹き飛んだ。

 

ここは地下のはず。砲撃がすぐに届くわけがない。なら何が……

 

「すいまっせーん!太平洋迷子センターってこちらであってますかねえ!」

 

陽気で快活な男の声と共に粉塵の中にシルエットが浮かぶ。

短い髪。男性にしてはすこし低めの身長。崩れて足元に転がる瓦礫を避けるようにヒョコヒョコと歩く姿。

 

「よお、迎えに来たぜ()()

 

粉塵の中から現れた男、帆波峻は不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なるほど姫級だけか。もっと他の深海棲艦がいるパターンも想定してたがこれはラッキーだったな。

 

「キサマッ!何者ダ!」

 

「どもどもー。現在攻めこませていただいてる部隊の司令官の帆波峻という者でーす。以後よろしく」

 

とりあえず軽く煽っておく。ふーん、あれが泊地棲姫か。なるほどねぇ。

 

「で、わざわざ迎えに来てやったのにだんまりはねえだろ叢雲」

 

すこし高い位置にある椅子から液晶と推定されるもので戦況を見ていた人影が立ち上がりふわりと飛び降りた。

 

「ヤッテシマエ。コノ男ヲ殺セ」

 

泊地棲姫が落ち着き払って言った。カツカツと飛び降りた人影が俺に近づいて来る。

 

「おっそいのよあんたは!」

 

そして俺に向かってズビシィッ!と指を突きつけ言った。

 

「うるせぇ、轟沈偽装なんてめんどくせぇことしといて文句言ってんじゃねえ!」

 

「別にそんなことするつもりはなかったわよ!」

 

「結果が全てなんじゃなかったのか?」

 

「うっさいわね!仕方ないじゃない!」

 

ぎゃあぎゃあと言い合いをお互い始めた。俺だっていろいろ溜まってんだよ。人の言うこと聞かずに勝手に出てったこととかな!

 

「ナゼダ…駆逐艦、キサマハ我々にツイタノデハナカッタノカ!」

 

「あら、私はそっちの指揮を執ることは了承したけどそっちの味方になるとは言わなかったわよ」

 

叢雲がしれっとした顔でいけしゃあしゃあと言い放つ。

 

「お前らどういうやりとりしたんだよ?」

 

「え、別に”アナタ、ワタシタチノ王ニナル気ハナァイ?”って言ってきたから最初は断ろうかと思ったんだけど逃げ場ないじゃない?だから仕方ないから”指揮だけなら執ってあげる”って言っただけよ。一言たりとそっちの味方になってあげるなんて言ってないし」

 

わざわざ泊地棲姫のモノマネまでしてご苦労さん。そんな感じだったのか。そこらへんの事情はよく知らんからな、俺は。

 

「コノ裏切リ者ガ!」

 

「何が裏切り者よ。指揮の技術だけ手に入れたらさっさと捨てる気マンマンだったくせに。騙すならその目ん玉ちゃんと係留しときなさい。泳ぎっぱなしだったわよ」

 

「グッ………」

 

大方そんなこったろうとは思ってたがこのお姫様は叢雲を利用する気がまんまと逆に利用されたらしい。まぁ、素人がいっつも俺と駆け引き系ゲームしてるこいつに勝てるわけないわな。

 

「あんたが私のサインに気づいてくれて助かったわ。ま、もう少し早いのが望ましかったけど」

 

「文句言うな。ちゃんと迎えに来てやったろ?」

 

「それなんだけど、どうやってここまで来たのよ?レーダーには映ってなかったわよ?」

 

「ソウダ!キサマ一体ドウヤッテ!」

 

「えー、説明したほうがいい?長いよ?」

 

「さっさとしなさい!」

 

へいへい。ならご講釈垂れ流させてもらいますよっと。

 

「まず叢雲のサインだがこれに気づくのに少し苦労したな。だがわかれば簡単だ。ちょうど叢雲が沈んだ日の次の日あたりから急に海軍は小競り合いですら負け始めたんだ。これはいいよな?」

 

無言の肯定を叢雲と姫が返す。ま、お前らがやったことだから当たり前っちゃ当たり前だけどな。

 

「その全ての戦闘においてある法則があったんだ。まず負けているのは太平洋側のみで、日本海側はそこまで酷くなかったんだということ。損害は受けているものの、撃沈は全て0だということ。そして今までなかった新しいパターンの深海棲艦の戦術的な動きだ。けどこれだけじゃ、誰もわからない。だがここに一つの条件が入るんだ」

 

「全ての深海棲艦の動きをあんたとやったシュミレーターの戦闘とほぼまったく同じにしたのよね」

 

「そういうこと。あのシュミレーターでやった動きは特殊すぎてなかなか実際の戦闘でやるバカはいない。最初は勝ててもバレちまえばすぐに対策が打たれるからな。そしてあのシュミレーターの動き方を知っているのは俺と叢雲以外いない。俺じゃないってことは叢雲だ。ここで俺は叢雲が生きてる確信を得た」

 

「ナ……ソンナヤリカタデ、ダト……」

 

加賀たちに集めてもらった戦闘記録を見たときの違和感はこれだった。どこか既視感があったのだ。それを日付で分類していくと面白いくらいに叢雲が沈んだ日の翌日からだった。

そして執務室にあるシュミレーターの動きと照合すると高いマッチングレベルが出た。だから生きてるんじゃないかと思ったんだ。

 

こんなもの、普通は気づかない。普通ならもっとまともなヘルプサインを送る。

それでもその僅かな合図にちゃんと気づき応えられるのは2人の絆とでも言うべきものなのだろう。

 

「結構なギャンブルだったからね。なかなか反応が来ないから内心ではヒヤヒヤだったわよ」

 

まあ連絡手段も無く、逃げ出す方法も無ければこれぐらいしか思いつかないのは無理ないが、もう少しうまくやってほしかったね、俺としては。遠回り過ぎるぜ。最初はマジで死んだと信じて疑わなかったからな。

 

「ただ、あんたがここに乗り込んでくるのは正直に言うと想定外よ」

 

「しゃあねえだろ?ここの固定砲台が邪魔で破壊するしかなかったんだからよ」

 

「そこらへん詳しく聞きたいところなんだけど」

 

「ソウダ!ドウヤッテココニ入ッタ!」

 

「こいつを使ってさ」

 

俺はポケットの中から円筒形の物体を取り出した。

 

「何それ?」

 

「まあ細かい仕組みは省くが簡単に言うと水中で半永久的に呼吸が出来る代物だ。これでレーダーに映らないギリギリのラインまでパワーボートで近づいてから泳いできた」

 

「「ハァ!?」」

 

いや、声揃えているとこ悪いけどやろうと思えばできるもんなんだぜ?

水ってのは分解すれば酸素と水素だ。この装置は水を電気分解して息継ぎ無しで呼吸を継続できるようにしてくれる物だ。後はひたすら潜って近づいただけ。

まあ8時間くらいかかったけどな。

 

「そんで着いてから一緒に持ってきた完全防水ケースの中から爆弾取り出して固定砲台やらなんやらにバレないようにコソコソしながら設置するだろ?そんでタイミング見計らって加賀たちに来たかどうか確認するだろ?そしたら起爆して今に至るわけだ」

 

ま、実際やると結構大変なんだけどな。水深50mくらいを泳いでたんだが、真上を哨戒していた深海棲艦が通った時とかは冷や汗が滝のように流れた。

島の中歩き回ってる時も見つかったら一貫の終わりだからスリル満点とか言ってられなかったしな。

4時間近くかけて島の各所に点在する固定砲台に爆弾セットしてついでに基地とかにもセットしておいた。

 

「……そこまでやる?普通」

 

「はっはっは!残念だったな叢雲。この賭けは俺の勝ちだ」

 

「いいえ、私の勝ちよ」

 

「は?」

 

いや、お前の敷いた警戒網を突破して攻め込んでいる時点で俺の勝ちだろ?

 

「私はあんたに私が負けることに賭けたのよ。私がまだあんたに及ばないことにね。そして私は負けた。つまり私の勝ち」

 

「おいおい、どっちみちお前が勝つようにしてあるのは卑怯じゃねえの?」

 

「いいじゃない。ただのギャンブルを絶対負けないギャンブルに書き変えるのはあんたの十八番でしょ?」

 

「まるで俺をイカサマ使いみたいに言うな」

 

「間違ってないじゃない」

 

俺ってそういう風に見られてるのか……

 

「ま、とにかく帰るか」

 

「そうね。あとで白黒はっきりさせましょう」

 

「上等だ」

 

「無事ニ帰レルト思ッテイルノカ!」

 

今まで静かだった泊地棲姫が久々に声を発した。空気がビリビリと震えるようなプレッシャーを放った。だが。

 

「「帰れないとでも?」」

 

俺の左に叢雲が並び2人で泊地棲姫を睨む。そんなもので今更怯むような俺たちじゃねえんだよ。

 

「見ロ!アノ数ニ練度ヲ!ドノミチココデ貴様ラハ死ヌノダ!」

 

確かにいくら”モルガナ”で引きつけても限界はある。所詮はただのホログラムだ。攻撃手段は持ってない。

でもこいつの真骨頂はこれからだ。

 

「いや、死なないね。お前に、お前らに見せてやるよ。”幻惑”の本気ってヤツをよ」

 

覚悟しな、深海棲艦。この程度が”幻惑”の帆波じゃねえんだよ。こっからが本当の勝負だ。

主導権は既に俺の手の中だ。

ならばあとは俺の手のひらで無様に踊れ。

俺たちにケンカ売ったことを後悔して沈みな。





タイトルで察した方もいるかもしれませんが叢雲が帰ってきました。彼女は沈まずに捕まってたわけです。

普通ありえねぇよ!とツッコミながらもお楽しみいただければと思います。

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