艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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5/22に改稿。
パラレルの名前を少し弄りましたが大筋は変えておりません。


P.A.R.A.L.L.E.L.

硫黄島についてから私たちは体を休めました。

硫黄島の基地司令の方は温厚な方で手厚くもてなしてくれたのもその手助けになったのでしょう。

 

ええ、そこまでは良かったんです、そこまでは。

 

次の日、出撃まであと半日を切ったであろう夜にあんなことがあろうとは。

 

「提督が消えた!」

 

そう、提督が消えたのです。硫黄島から忽然と。小型艇が一緒に消えていたので海に出たのは確実なのですが、向こうから無線が封鎖されているため、連絡はできず、私たちは混乱しました。

 

そして今、私は自分の部屋にいるわけですが、瑞鶴が部屋に入ってきました。

背後でビクッと怯える気配がしましたが気のせいです、ええきっと。

 

「あのー、加賀さーん?何かあったのかなーって……」

 

何か?ええありましたとも。とんでもない爆弾が残されていたのを発見したということが。

 

私は他人から感情が欠落しているのではないかと言われることがありますが、そんなことはない。

感情が表情に出にくいだけで感情はあります。怒りもします。

 

「瑞鶴、これよ」

 

私の机の上に残された置き手紙を瑞鶴に見せる。

 

「えっと、これは……提督さんからの手紙?」

 

「ええ、そうよ。自分は姿を消すが出撃はするように。ただし攻撃するかの判断は私に任せるとのことよ」

 

そして私は今この身勝手な行動に腹を立てている。

いきなり消えて何を考えてるのかしら。

 

「でも加賀は出撃するんでしょ?」

 

「……ええ、そうね」

 

瑞鶴がニッコリと笑って手紙をゴミ箱に投げ込んだ。

 

「ならこれは必要ないね。だってわざわざ言わなくてもこっちは出る気マンマンだもん!」

 

「……」

 

呆気にとられた。いや、おそらく表情にはまた出ていないのでしょうけど、驚きはしました。この子は単純思考だけど時々それが少し羨ましい。

 

「どうせあの提督さんのことだからまたなんか裏で動いてるだけだって!ほら、最後まで教えてくれなかった固定砲台の破壊方法。あれの破壊のために他の部隊の支援でも頼んでるんじゃない?」

 

確かに提督は固定砲台の破壊方法は一切を告げずにいなくなりました。ならその可能性もなきにしもあらずなのかしら。

だとしても事前に相談くらいしてほしいのだけど。

 

「……提督も大概にしてほしいものね」

 

「あはは!それは同感かな!」

 

屈託なく笑う瑞鶴をみて少し楽になった。どうやら思った以上に気が張っていたようね。

 

「瑞鶴、全員に通達。予定通り、明朝5時に”さらしな”にて出撃。そのつもりで行動せよ、と」

 

「了解!」

 

瑞鶴が連絡を回すためにダッシュで部屋から出て行った。いつもなら普通に通信で回せばいいのだが、硫黄島の人たちに知られるのは良くないのでこういう形をとるしかない。

まったく面倒ごとばかり押し付けられたものね。帰ってきたらどんな目にあわせてやろうかしら。

 

 

作戦開始時刻まであと12時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”さらしな”が波をかき分ける振動が格納庫にも伝わり、時折揺れる。

こんな室内じゃ風には当たれないわ。

 

嫌になっちゃう、と天津風は内心でぼやいた。

早朝5時、気象予報通りに出た霧にまぎれて”さらしな”は硫黄島を出航した。

いくら最新鋭の巡洋艦とはいえ、ウェーク島周囲30km圏内まで隠密しながら行くには最低3時間はかかると加賀がみたからだ。

そして現在時刻はもう7時を過ぎた。室内からでは見れないが、朝霧は晴れて太陽が水平線からとうに顔を出した頃合いだろう。

そしてそろそろウェーク島の深海棲艦の哨戒圏内一歩手前だ。

 

そろそろ出撃になるのかしら。ここまでは来たけど加賀の判断次第では攻撃しないってことだけど……

 

『もしもーし。聞こえるかー?』

 

”さらしな”の通信がはいった。どうやら全員に聞こえさせるためらしい。でもそうじゃなくて、この聞きなれた声は……

 

『提督!あなた今どこに────』

『おっと、矢矧。その話は後でな。そろそろウェーク島の哨戒圏内ギリまで来た頃だと思って無線飛ばしてみたが加賀、今どこだ?』

 

『提督の予想通りよ。今ちょうどウェーク島が視認できます』

 

『おっしゃ、ジャスト!じゃあ全員ちょっと海上をご覧になってもらえるか?』

 

『今は全員格納庫にいるのだけれど……はぁ、仕方ありません。総員、出撃』

 

なんだかもやっとした出撃ね。

 

「よっ、と」

 

カタパルトに足をのせて準備。間もなくブリッジからの通信が流れた。

 

『天津風、発進スタンバイ。リニアカタパルトをマックスボルテージで固定。タイミングを天津風ちゃんに譲渡するね〜』

 

「ありがとう、三間坂中尉。駆逐艦天津風、出るわ!」

 

旧式の火薬式と比べるとはるかに静かで滑らかにカタパルトが動く。慣性力で体が()()りそうなのを堪えて巡洋艦から海に飛び出した。

 

海上で集合し、ざっと陣形を組みその場で待機。

 

『全員出たかー?ウェーク島は見えるなー?』

 

「ええ、バッチリよ!」

 

で、あなたは何を見せてくれるつもり?

何もなしに海上に出ろなんて言わないわよね?

 

『加賀、今から起こることを見てから攻撃開始するかどうか決めてくれよ』

 

「ええ、わかっています」

 

「ねー、提督まだー?早くしないとアタシ帰るよ?」

 

『焦るなよ、北上。ま、オーディエンスも揃ったところで始めるとしようか』

 

オホン!と通信機の向こうで咳払いする音が聞こえた。ねぇ、ホントに早くしてよ。

 

『レディース、アンド、ジェントルメン!本日は帆波峻のお招きに応じていただきありがとうございます!』

 

「ジェントルメンはいませんよ」

 

『榛名、そこは冷静にツッコミ入れるところじゃないんだが……』

 

「茶番はいいからさっさとしてよー!鈴谷はそろそろ退屈なんだけど!」

 

『あー、もう!わかったよ!じゃあ気を取り直してっと』

 

くそっ、少しくらい付き合ってくれてもいいじゃねぇかよ……というつぶやきが通信から漏れ聞こえる。

いや、こんだけ待たせたんだから急いでよ。

 

『では朝日を彩る花火をとくとご覧あれ!3、2、1、It's show time!」

 

その掛け声が終わった瞬間、私は目を疑った。

いや、たぶんここにいるみんなもそうだったと思う。”さらしな”の沖山艦長たちもきっと。

 

あの人のカウントダウンが終わった瞬間、一斉にウェーク島から爆破音が辺り一帯に(とどろ)き、黒煙を噴き上げ始めたから。

 

『これでウェーク島の固定砲台合計13基、一丁上がりだ。加賀、どうする?』

 

全員の視線が加賀へ集中した。

現在の秘書艦は加賀で、提督がその秘書艦に判断を託したなら全ては加賀に委ねられている。

 

「……やるなら最初から言っといてください。帆波隊は今より深海棲艦のウェーク島基地に攻撃を仕掛けます。総員、戦闘態勢!」

 

武装にかかっていたセーフティを一斉に解除し、今まで超えないように気をつけていた30kmのラインを一気に超える。

グングン進んでいくと、間もなく敵艦隊が接近してきた。

 

「敵水雷戦隊が接近!斥候と思われるわ!戦艦陸奥、いくわよ!」

 

『待て!こんなザコに手間取ってるヒマはねぇんだ。天津風、1人でいけるか?』

 

あら、私にご指名かしら。

えっと敵艦隊の編成は軽巡クラス1隻に駆逐クラスが5隻。いずれも通常種ね。

うーん、普通にぶつかり合ったら数的にキツいかしらね。()()()()()、ね。

 

「待って!いくらなんでも一人じゃ無理よ!」

 

陸奥が叫び、私が行こうとするのを止めた。でも大丈夫よ。

 

「あなた、パラレルシステムの使用許可ちょうだい」

 

『パラレルか。オーケーだ。今回の戦闘において、天津風のパラレルシステムの使用を許可する』

 

これさえ使えれば水雷戦隊1つ捻るくらい容易いわ。

 

「パラレルシステム、起動!」

 

叫ぶと目の前にホログラムのウィンドウが開き、機械的な声が耳に流れる。

 

《システムの起動を確認。司令官帆波峻による使用許可を確認しました。ユーザー天津風、システムの使用を許可します》

 

複雑な文字列がひたすらウィンドウを流れていく。これを使うのは随分と久しぶりだ。

 

《P.A.R.A.L.L.E.L.system is ready!》

 

「自律駆動砲、射出!」

 

私が叫ぶと”さらしな”から自律駆動砲が合計6機射出された。

私の艤装にいまくっついている連装砲くんとはデザインが違い、無骨だ。

それら6機が一斉に海上を駆け、深海棲艦に襲いかかる。

 

 

パラレルシステムとは、

Published ARange in A Line for Linker Excute to Lead system ──開放型指揮装置統合並列処理システムのことだ。

私は詳しい仕組みは知らないけど、結果だけでいうと、本来では自律駆動砲はどれだけ頑張っても自前の脳だけでは3機操るのが限界と言われている。

それを拡張し、本人の腕次第でより多くの数が操れるようにしたのがこのシステムだ。

 

私、天津風は島風のいわゆるプロトタイプに過ぎない。それは艦船だった頃と変わらず、今もそう。どれだけ頑張っても私がまともに操れる数は1機だけだった。

それを見て上が私に押した烙印は”出来損ない”。私は必死になって練習した。でもどれだけやっても2機目はピクリとしか動かなかった。

どこに行っても使えないと言われてたらい回し。何度も酷いことを言われて各所を転々とさせられた。

何回異動したかわからない。けどある時、あの人に拾ってもらった。そしてあの人はわざわざ自前で私専用のシステムを組んでくれた。

パラレルシステムは私専用のシステム。私のためだけに作られ、チューニングされているため自分以外に使うことは出来ない。仮に他人の艤装にこのシステムを搭載してもまったく機能しないだろう。

どれだけ苦労して組んでくれたのかはわからない。でも失意の底に落とされていた私を救い上げてくれたのはあの人。

ならこの力を使ってあの人に恩を返したい。だから!

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

天津風が吼えると、6機が見事な連携で深海棲艦の水雷戦隊を取り囲み、一斉に砲撃した。

ちょこまかと動き回る自律駆動砲を混乱した深海棲艦はうまく捉えることができず、なす術なくただひたすら砲撃を叩き込まれる。

 

1号機、右旋回のち砲撃。3号機は1号機をカバー。5号機、左旋回して回避。4号機、敵の砲撃で生まれた隙をついて攻撃。次、全機一斉射。よし、全機散開した後にもう一度攻撃。2号機は敵の間で攻撃しつつ回避。

 

矢継ぎ早に天津風が指示を頭の中で飛ばし、それに従って自律駆動砲が動き回る。

ある時は砲撃で敵の輪をかき乱す。ある時は敵の中に突っ込み同士討ちを狙う。

 

「さあ、逃がさないわよ!」

 

いまだに混乱が解けず、まともに動けていない深海棲艦を取り囲んだ後にひたすら打ち込みまくる。

そして打ち終わった後の海上には何も残っていなかった。

 

「これが天津風の実力よ!」

 

自律駆動砲を回収し、一度補給するために”さらしな”に戻す。今ごろ明石が補給してくれているだろう。

 

「行きましょう。まだまだ敵はいるはずよ」

 

加賀が進撃の指示を出す。

そうね。敵の総数は50は下らないとのことだしこんなところで悠長にしてるヒマはないわね。

 

『おっしゃ!いけ!恐らく次はウェークの先行艦隊だ。こいつも軽くぶっとばしてさっさと本丸を落とすぞ!』

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

 

次の艦隊がこちらに迫ってきている。でもその程度!

 

……そういえばあなたはどこにいるのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、そろそろ動くとするか」

 

とあるところで帆波峻が静かに、だが確かに動き出す。

 

 

 

「さて、そろそろかしらね」

 

また、とあるところで一人動き出していた。




ウェーク島攻略戦スタート!
何話ぶりかの戦闘描写です。
また帆波の謎開発アイテムが登場しましたがこんなもんじゃ済みません。

帆波はどこまでチート化するのやら…

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